3.オスカーの謎
「はい……はい、これで提出物は全部ね」
ユーティス牢獄には定期的に、政府から視察に来る人物がいる。
『政府』。
ユーティス牢獄はこの政府の管理下にある。シャリエールというアルセーヌから離れた大都市に本部があるという。
政府と言えどフランスの大統領などはほぼ関与しておらず、ほぼ古い慣習になりつつある牢獄制度を管理している、いわば少し時代遅れの牢獄の「受け皿」の、名ばかりの「政府という組織」なのである。
……なんて、口が裂けても言えないな。
所長である俺、ギル・シャーロットはたまにシャリエールの政府本部に赴き、ユーティス牢獄の経過報告をしている。
それよりは高い頻度で、政府からはリナ・ベルモンドという職員の女性がシャリエールからユーティス牢獄まで、はるばるやって来てくれるのだ。
「最近何か変わった事は?」
赤茶色の長髪を耳に掛けながら、リナさんは俺に問いかけた。
「囚人達には特に問題はありませんが、オスカーが……顔に痛みがあるらしく、辛そうです」
リナさんは考え込んでいるのか黙り込むと、俺を見て口を開く。
「……一度診察しましょうか」
「お願い出来ますか」
「ええ、可哀想だものね」
その後はいくつか事務的なやり取りをし、リナさんは帰って行った。
「……オスカーに会わなくて良いのか」
一人取り残された俺は、ポツリと呟く。
もちろんそう提案はしたが、「貴方から話しておいて頂戴」と言われて終わりだ。
リナさんは少し冷たい気がする。
俺にとって、ユーティス牢獄のみんなは大切な家族も同然だ。
彼らに辛い事があるなら、最大限力になりたいものなのだが。
ガチャッ
医務室で私が椅子に座り待機していると、意外な来客がやって来た。
「オスカー?どうしたの?」
「ヴァイス、頼む……休ませてくれ」
それだけ言うとオスカーはベッドに横になる。顔色が悪い。具合が悪いんだろう。
「診察してあげるわ」
「大丈夫だ」
「大丈夫だったら医務室に来ないでしょ、ほら顔色だって真っ青……」
「触るな!!」
バシッ!と差し出した手を叩かれ、驚いて彼を見つめる。
オスカーは「すまない」と申し訳なさそうに呟くと、そのまま目を閉じた。
「……どうしたのよ」
私はひとまずオスカーにタオルケットを掛け、そっとしておく事にした。
今までオスカーが体調を崩す事なんて無かったのに。
また起きたら詳しく話を聞こう。ただ単に疲れただけかもしれないしね。