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11.嘘

 アレスがユーティス牢獄に迷い込ん…ユリアに会いに来た日から、数日後。

 俺は苛立ったまま見回りをしていた。


「どうしたよレオン君、今日はイライラしてるなぁ?」

 囚人のエドワードが、ニヤニヤと下卑た笑いをこぼしながら俺に話しかけて来た。この牢獄に来たばかりの頃は嫌だ嫌だと喚いていたこいつも、今では慣れたのかたびたび俺や他の看守に話しかけて来るようになっていた。


「うるせぇよ。黙れ」

 俺は奴の独房の柵を蹴り、足早にその場を去る。俺が腹を立てている理由は一つしかない。


 兄貴がまだ見つからない。

 手掛かりすらも、何も。牢獄から政府本部へ向かったはずの道順さえ、一つには絞れない状態だ。


 リナさんに電話をしても、進展は見られない。そればかり。…少し前から彼女に対して不信感を募らせていたが、そろそろ本気で怪しくなって来た気がしていた。


 それをユリアに打ち明けてみると、こいつも同じ考えだったようだ。


「…だが、万が一リナさんが何も隠していなくて…そんな場合はもう、諦めた方が良いのか?…兄貴は…」


 俺がずっと振り払ってきた思いを、とうとうユリアが口に出す。…しばらく何も答えられずにいたが、俯くユリアの頭をわしっと掴んだ。


「!?」

「弱気になるな。「甘えた事を言うな」って、お前前に俺に言っただろ。あの時のお前はどうしたんだよ。兄貴の帰る場所はここしか無いんだぞ!」


 ユリアに言い聞かせているつもりが、自分自身にも響いて来る。ユリアも珍しく俺の手を振り払ったり馬鹿にしたりせず、大人しくそのまま頷いた。


「信じよう、兄貴はお前より強いんだぞ。きっと無事でいる。な?」

「…ああ。そうだな、…信じよう」


 拳を突き出したユリアに、俺も拳を合わせようとする。だがユリアの拳はそのまま俺の、こいつの頭に置いていた手に直撃した。


「ォアッ!」

「いい加減離せ」


 情け無い声を上げながら、文句の呪文を唱えつつこのゴリラから逃げた。



「あーいって…」

 自分のヒリヒリとした手をもう片方の手で撫でたまま歩いていると、どこかから話し声が聞こえて来た。


「…オスカー?」


 数歩先にある、普段あまり使わない物置き部屋からオスカーの声がする。何だか焦っているような、怒っているような…。というか、あんなほこり臭い部屋でなんで話してるんだ…?


 更に部屋に近付いてみると、どうやら電話をしているようだ。そして、聞こえて来たオスカーの声は…俺の頭を真っ白にするには充分すぎた。



「さすがにこれだけの期間、ギルがいないのは無理があります。気付かれたらどうするんですか…!?例えば痺れを切らしたレオンがギルの捜索に加わると、政府に向かったら…今度はレオンを殺すんですか!?」



 …今度は?…俺を?

 …殺す?



「確かに、俺達はあいつらを止められます。ですが確実に怪しまれる。そうしたら…あいつらは終わりでしょう?」



 あいつら?終わり?



「レオンもユリアも馬鹿ではありません。そうなったら誤魔化しなんて効かない。…リナさん、貴女はあいつらを…!!!」




 俺は扉を勢いよく開き、オスカーの胸ぐらを掴み、床に押し倒す。その衝撃でオスカーが持っていた電話の子機は床に落ち、ツーツーと電話が切れた音が鳴った。



「お前!!お前…何を、何を隠してる!?リナさんもグルか!?答えろよ!オス…」



 視界が揺れた。後頭部に衝撃が走る。背後を振り向くと、そこには怯えた顔をしたリックがいた。足を振り上げて俺の頭を蹴ったのか、片足を前に突き出したまま固まっている。



「……っ」


 意識が遠のいて行く。皮肉にも押し倒して床に敷いていたオスカーの腕が、俺の体を支えた。…ような、気がした。

 そんな、裏切り者かもしれない、仲間かもしれない、得体の知れないオスカーの腕の中で…俺は意識を完全に失った。





「……!」


 気が付いた時、俺は椅子に体を縛られて座っていた。ここは、あの物置き部屋…俺は意識を失った後、そのまま縛られたらしい。


「…レオン」


 何故か気まずそうな顔をしたオスカーが近寄って来る。俺は意識を失う前のこいつの裏切りを思い出し、縛られた体をガタガタと揺らしながら叫ぶ。


「どういう事だよ!兄貴は!兄貴は…!殺されたのか!?次は俺か?答えろ!知ってる事全部!!」


 オスカーは「落ち着け」と、表情を変えぬまま言った。俺はますます怒りが湧き、椅子ごと倒れ床に這いつくばりながらも声を上げる。


「リナさんは何だ!お前は、リックは、…何なんだよ!早く話せ!」

「待て。話す。…全て話す。だが、それはユリアも来てからだ」


 ユリア?まさか、こいつらユリアも俺みたいに拘束する気か…!?

 …いや、あり得る。俺もユリアも馬鹿じゃない、とオスカーは電話で言っていた。つまり、俺とユリアが拘束する対象というわけか…!


「ユリアに何する気だよ!?」

「…お前みたいに捕まえる。その上で、お前達には全てを説明する。…来たぞ」


 扉が開かれ、無表情のリックが気絶しているらしきユリアを抱えて入って来た。俺は隙を突かれてしまったが、あのユリアをどう無力化したのか考え始めようとした時…リックの背後から、ヴァイスが着いて来ていた。


「…医者の殺人鬼ほど怖いものは無いって言うけど、本当だな」

「殺して無いわ。気絶してるだけよ」


 リックはユリアを椅子に座らせて縛る。その間俺はユリアに起きるよう必死に語りかけたが、こいつが目を覚ましたのは縛られ終わった後だった。


「…?レオン…」

「ユリア!見ろ、あいつらが俺達二人を拘束した。何か隠してる。兄貴の事や、もう…後は…分かんねぇ…」


 ようやく事態を把握したらしきユリアは、信じられないといった顔でまずヴァイスを見つめた。ヴァイスはそんなユリアから目を逸らす。


「…さて、話そうか」

 オスカーが倒れていた俺を椅子ごと起き上がらせ、ユリアの隣に並べる。ユリアと顔を見合わせた俺はやっと落ち着けて…ひとまず話を聞くように、と目で訴えた。



「…まず、お前達の話だ。シャーロット兄妹。お前達とギルが…シャーロット家が何なのか、説明する。…これだけは先に言っておく。ギルはもう死んでいる」



 …予想はしていたが、俺とユリアは固まった。耳を疑いたい、疑ってしまう。



「だがそれには理由がある。…聞け、もう嘘はつかない」



「もう」嘘はつかない?



 嘘って何だ?どこからだ?



 やがて、オスカーは語り始めた。

 今まで自分達が演じて来た台本の、制作秘話を。

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