登校風景(1)
「うう……やってしまいました。トロールなんかに気を取られているから」
「まあまあ、もうあきらめて待つしかないすよメタリカさん……」
俺の横のメタリカさんが、ソワソワした様子で腕時計を眺めている。
皇急ミタマ線の、いつまでたっても開かない踏切を前にして、しきりに学校の始業時間を気にしているのだ。
この時間帯は開かずの踏切。
最寄りの歩道橋を使っても、もう完全な遅刻ゾーンに突入している。
にしても意外。メタリカさんこんな顔もするんだ。
何があっても絶対に取り乱さないクールな人っぽく見えたのに……
って言うよりも、それより意外だったのは……
俺はメタリカさんの横顔をのぞき込んで、ついでに晴れた朝の空を見上げた。
ゴオオッ……
ゴオオッ……
ゴオオッ……
踏切に隔てられた線路の、その遥か上の方を、風を切る音と共に、何人も、何人も……
ウチの学校のブレザーを着た生徒たちが……飛行魔法を使った生徒たちが空を飛んで踏切を超えていくのだ。
中には高価な飛行魔器に乗った生徒もいる。
自由な気風の学校とは聞いていたけど……あんなのもアリなのか!?
「あのメタリカさん……飛行魔法とか風魔法とか……苦手なんすか」
「余計な詮索はしないでください! わ……わたしはああいうのはちょっと無理なのです!」
銀色の髪を揺らしたメタリカさんが、少しイライラしたように俺に答えた。
やっぱりメタリカさんは『魔術師』ではないようだ。
指定高校に通うような魔術師が、飛行魔法を使うことができないなんて、考えられないからだ。
でも……ウン?
俺は首をかしげる。
仮にメタリカさんが『魔王族』だとしたら、魔法以前にこんな障害……問題にもならないはずじゃ?
じゃあ、メタリカさんのスペックっていったい……
「あ……」
俺がメタリカさんに何かに言おうとした、その時。
「開いた! 走ります!」
メタリカさんがそう言って、一呼吸すると。
電車が通過してようやく開いた踏切をくぐり抜けて、高校へ通じる小高い坂道を全力で疾走し始めた!
「ちょっと、待ってメタリカさん!」
俺も肩で息をしながら必死にメタリカさんに追いすがる。
メタリカさんの背中のその向こうに見えてきた、小高い丘陵地帯の上に建てられたクリーム色をした大きな建物。
そして広大な敷地をぐるりと囲った鉄柵、正面にはいかめしい鉄の門。
見えてきた。
あれが今日から俺が通う……国立『聖ヶ丘高校』……!