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雨の中で濡れずに帰る方法ーー植田視点

 雨は止むどころか激しさを増し、暗雲の空からは雷鳴が轟いていた。

 私はスマホで雨がいつ止むのかを調べ、げぇと苦笑した。 


 「一晩ずっとこの調子って。どうしよう.... 」


 走って帰れば間違いなくぐしょ濡れになるし、体は冷える。

 両親に迎えに来てもらおうか。電話帳を開きはたと手を止めた。


 「駄目だ呼べないよ」


 私一人だけなら問題はない。しかし、今ここで雨宿りしているのは私だけではないのだ。

 そうここには、横たわり鼾をかいている男性をチラリと見る。思わず溜め息がでた。


 「お兄さんもいるもんな.... 」


 何処かで飲んでいたのか、お兄さんの体からはキツイ酒の匂いがする。

 私はスマホの画面をタップしながら、いまだ晴れない空を見た。

 父さんはまだ帰ってないから、迎えに来てくれるのは母さんだろう。

 しかし、母さんは酔っぱらいには鬼の様に厳しい。それにお兄さんの事は知らないから絶対に送ろうとはしないだろう。


 「かといって見捨てるのはダメだよね」


 寝ているお兄さんのほっぺをつついてみる。うーんと唸るが起きる気配を全く見せない。

 さてどうしよう?


 二つ案がある。一つはタクシーを呼ぶことだ。

 公園からお兄さんのアパートまでの距離はそれほど遠くない。安く済むだろう。

 それに電話一本で呼べる。


 「私って頭いい!」


 早速、タクシーと検索.... 待てよ。


 「呼んだとしてこの状況どう説明するの?」


 たまたま雨宿りしたら、このお兄さんと会いましたなんて説明が通るだろうか。

 いや、間違いなく不審に思われる。下手したら通報されかねない!

 そして翌日の新聞に大きく載るのだ。会社のサラリーマン、女子高生と.... かと!

 それは駄目。絶対に駄目!

 残念な事にこれは却下しかないか。


 「だったら最後の手段....  お兄さんごめん!」


 両手を合わせ謝ったのち、私はお兄さんのスーツをまさぐる。お兄さんは抵抗するどころか、無反応だ。

 これで起きてくれたら助かったのだが仕方ない。スーツを漁っていると固い感触が手にかえる。

 これだ。私はお兄さんのスーツからスマホを取りだし、ロックがかかっていないことを祈る。

 私の最後の手段とはお兄さんのスマホを使い、お兄さんと親しい人に連絡して迎えに来てもらう事だ。

 多少は不審に思われるだろうが、親しい人ならお兄さんがそんな変態な事をしないと知っている筈。


 「よかったスライドだ」


 画面をスライドし、電話帳を開く。私は唖然とした。


 「連絡先少な過ぎ.... たったの四人って」


 両親に、男友達らしき二人、そして、


 「佐藤真子さんって誰?」


 え、いやまさかね。そんなことないよ。妹さんかお姉さんだって。あれ? でもお姉さんや妹さんにさんなんてつけないか。それに親さんは両親で登録してるから、妹さんやお姉さんも名前で登録しない筈。え? じゃあこれって。

 いや、考えすぎだ。一旦落ち着こう。


 私は一つ深呼吸し、スマホを見る。

 もし、もしもだ。いや、あり得ないけど、もしもだ。仮定の話だ。佐藤真子さんが彼女さんの場合、佐藤真子さんで登録するだろうか?

 そこは親しく呼び捨てか、もしくは彼女で登録する筈。

 以上のことより佐藤真子さんは彼女ではない! 証明終了。


 「なんか時間を無駄にした気がする.... 」


 私はスマホを画面を上下させながら唸る。

 さて、誰に連絡しようか? 

 ここはオーソドックスに両親か。しかし、両親にお兄さんの情けない姿を見せるのはどこか忍びない。

 なら、男友達か。タケシとアユムどちらがより親しいのだろう?

 顎に手をあて考えていると、お兄さんのスマホが震えた。


 電話相手は.... 佐藤真子さんだ!

 どうしよう。でていいのかな? お兄さんをチラリと見る。駄目だやっぱり寝ている。


 「よし! 決めた」


 説明なら同性のほうがしやすいだろう。応答をタップし、耳にあてる。

 スピーカーから鈴を転がしたような可愛らしい声が、


 『夜遅くにごめんね。結花から聞いたよ夕方のこと。結花が色々としたみたいで.... ごめんね。けど、恨まないであげて。あの娘頭はいいんだけど思いを伝えるのは、その.... とても不器用なの。きっと鈴木君を殴ったのも、あの娘なりの伝え方で.... うんうん違うか。どんな理由でも殴るのはよくないもんね。それでね、結花にはきつく注意しといたから』


 殴られた? どいうこと? お兄さん悪い事でもしたの?

 チラリと見る。お兄さんはいまだに眠り続けている。


 『それとね.... それと、今日はごめんなさい! いきなりぶっちゃって! 痛かったよね。本当にごめん!』


 え? お兄さんこの人にもぶたれたの? 本当に何したの。

 『それでね、私....  ねぇ鈴木君聞いてる?』


 その指摘で私は我にかえった。聞くことに集中してる場合じゃなかった。

 唇をなめ、頭に浮かんでくる言葉を一つ一つ声に出していく。


 「すみません、私は鈴木じゃありません。言い出すのが遅くなりました。私は植田と言います。今、お兄さ.... じゃなかった。鈴木さんと訳あって一緒にいます。お願いです。迎えに来てもらえませんか?」

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