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099:協力者1 【閑話】

100話記念の閑話として書こうと思ったのですが、99話が進まなかったので前倒ししました。

次の話も先に出来てしまったので、こちらも繰り上げます。

※明日のAM6時に予約予定。


その次は、来週末の土日のどちらかにアップする予定です。

それまでは、少し見直し作業に入ります。

 アキラにおっさんと言われているシュージは、日頃から気苦労が耐えない。

大学時代の先輩についていったアルバイト先の、偶然隣の店でスカウトされたのが夜の店との出会いだった。

時代が良かったと言えばそれまでだろう。高収入に惹かれ、ずるずると続けた結果、そこそこのポジションを任されるようになった。


「シュージさん、掃除終わりました。チェックをお願いします」

「あぁ、キレイにしたんだろ? お前がトップになった時、そのトイレをお客さんに案内出来るなら良いんだぞ」

「そんな事言わずに見てくださいよぉ。ユヅルさん怒らせると怖いんですよ」

「あいつが不機嫌そうにしているのは、お前らにも責任があるんだろ。原因がある事で怒られるなら、見込みがあるってことだ」


 シュージはため息をつくと、店のトイレのチェックをする。

鏡やトイレットペーパーをチェックし、各種一点の曇りがないくらいに磨いてあった。

「良い仕事をしていると思う。でもな、準備だけ完璧でもいけないぞ。新人のうちは謙虚に、これでケチつけられても普通だと思うくらいでなくてはいけないな」

「はい、シュージさん。勉強になります」

「その謙虚さを、ユヅルに見せとけってってことだよ」


 店には引っ切り無しにセールスがやってくる。

副店長のようなポジションで、店を盛り立ててくれと任されているので、店長は滅多なことではやってこない。

いや、そもそも店長はいるのだろうか? あの件から新店長とスタッフを本店に依頼したが、来たのはこいつだけだった。

その分、本部と付き合いのある営業や個人的な営業が、この店宛に多く訪れていた。


「いつも悪いな」

「いえいえ。シュージさん、これはお店の分の伝票です。後、個人宛の商品は寮の部屋まで届けておきました」

「ああ、ありがとう。二度手間だが、その分注文を出すので今後とも宜しく頼む」

「はい、喜んで。プラスアルファで注文くれるなんて、シュージさんだけですよ」

「上客の酒飲みがいるんだよ。シャンパンが好きらしいが、今度は蒸留酒とかでもいいな。定期的にお勧めを持ってきてくれよ」

「はい、毎度あり!」


 たまに営業がバッティングするが、営業同士が曜日で住み分けをするようになってきていている。

二週に一回は設備の営業がやってくるし、系列店では生バンドをやっている店もあった。

そんな営業に、シュージは色々なものを頼んでいた。

納品場所は寮の一室で、あの部屋はうちではタブーと言われている場所だった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ホストの店に長年勤めているが、徐々に裏方に回るようになっていた。

いくら話術が上手くても、お客様はホストの容姿を目当てに来て恋に落ちる。

一般男性が優しいのは当たり前。持って生まれた容姿に磨きをかけ、優しさとテクニックで一夜の恋に落ちる。

そういう相手にお金をかける以上、やはり男性にも旬という時期は存在している。


 この店には三人のキャストが売り上げ面で支えていた。

本部があるハコなので、裏方を含め金銭面ではかなり優遇されていた。

ある一定以上の売り上げがあった時は、もちろん給料に反映される。

基本的にはその本人に支給されるのだが、事前の申告でチームを組んでいる場合、そのチームにも支給されるのだ。


 そして、給料とは別に店側の管理用として、その支給される一部を預かることになっていた。

それは最終的に退職金や店を出す時の支度金で、円満退社の場合は本部から倍額を上乗せして贈られることになっている。

急に人気が出て金遣いを荒くさせない為の措置でもあり、イベントなど個人的にしかける場合に使われることもあった。


 明朗会計をモットーとするこの店は、掛売りは存在しない。

ただでさえ『ホスト』の持つイメージが悪いのに、『ボッタクリ』や『暴力』のイメージをつけるのは問題外だ。

大体、キャバクラは良くてホストがダメな理由を知りたい。世の女性も癒されたいし、男性も勿論癒されたいと思う。


 ナンバー2であるアイツが、店のシステムのギリギリをついているのは知っていた。

二人の部下を連れハイエナのように漁る姿は、ある意味昔ながらのホストの本質を垣間見たのかもしれない。

初回特典は存在しているが、強引な手段でVIP席に連れ込む姿は何度も見た。

しかし、どう客層を見ても、そういうタイプには見えない。

そうなると、身銭を切っているのではないかと、同僚から当時の店長に苦情が出ていた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 店の雰囲気はスタッフに影響される。

ナンバー1は天然なところがあり、ナンバー3は前を走る二人に追いつけない感があった。

自ずとナンバー2の発言力と、トゲトゲしい雰囲気が、店の空気を悪くさせる。


 老兵が矢面に立って出来るのは、新人に生きる術を教える事と、危険な場所にお客を呼ばないことだ。

電話をすれば来る客は数多くいる。ただ、相手の都合も考えずに連絡するのはタブーだ。

この辺は経験しかない。そしてシュージは、その間食い繋ぐ為の努力も忘れない男だった。


 ある時、いかにも田舎者なアンちゃんが裏口にやってきた。

都会に女を捜しに来るなんて、時代錯誤な男だと思った。きちんと繋ぎ止めてないから、ホスト遊びになんかくるんだ。

ホストという仕事を認めていても、まだ小さい娘や大切な人は近付けたくないと思う。

普段は話を聞く価値もないと思うところだが、ふと出た名前に嫌な予感があった。


 こういう店に来る客は、仕事関係や友達とノリで来て、大抵一回限りの場合が多い。

彼氏や好きな人がいる場合は、初回だけでもノリが悪く、罪悪感を覚える事が多いようだ。

根っからの仕事人間という印象を持った、『ミズホ』という女性はしきりに帰りたがっていたのだ。

そしてナンバー2であるアイツの毒牙にかかった。


 店の社訓として、『今この時と、明日の貴女を応援する』という言葉がある。

あまり来ない店長の代わりに、雑務をしながら新人やスタッフに教え込む役目をいつの間にか担っていた。

女性を幸せに出来ないなら、この仕事は勤まらない。そして、ついでに自分も幸せになれたら良いなと思う。


 アンちゃんの熱意に負けて、何かが変わるかもしれないと背中を押した。

だが「逢わない方がいい」は、「連れ帰って幸せにしてやれ」という意味を含んでしまったかもしれない。

ナンバー2の飯の種を潰すことになっても、店の為を思えばいくらでも挽回できると思っていた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 とんでもない事をしでかしてくれた。ナンバー2を中心に犯罪のオンパレードだった。

本部の素早い対応に、ほぼ一人の罪とされた。部下の二人は執行猶予がついたが、自主的に退社していった。

グレーゾーンの薬を使っていたようで、背後関係を詳しく追及されたようだ。


 本部からの通達に、この店に関わる全ての人間が健康診断をして、全て問題ない事が証明できた。

しかし、店側は一切問題ないと思っていたが、店長がナンバー2からバックリベートを貰っていたのだ。

この店長に対する罪は、本部が責任をもって処罰するそうだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「なあ、お宅は花屋かい?」

「ええ、今日の葬儀で使う花を依頼されています」

「ちょっと訳ありなんだが、あの娘に世話になってね。直接顔を出せないから、この線香を届けてもらえないか?」

「ちょっと、困るんですけど……」


 葬儀場に搬入している花屋を捕まえて、線香の箱に熨斗紙をかけたものをシュージは渡す。

どう考えても線香の重さではない。それが二箱もあると、花屋はいぶかしる。

「頼むよ。これで帰りにコーヒーでも飲んでくれ」と一万円をねじ込むと、線香を託してさっさとその場を後にした。

何本飲めるか分からない金額を預かってしまった為、受付に線香を渡すと不審に思った受付が中身を確認する。

帯のついた札束が、それぞれに入っていた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「なあ、これでいいのか?」

『申し訳ありません。私には干渉する術はないのです』

「それはいいさ。これであの夢を見せるのは止めてくれよ」

『私の方で封印しましたので大丈夫でしょう。その代わりに、この子のサポートをして頂けませんか?』


 ミズホが住んでいたアパートで、シュージは天井に向かって話していた。

彼女が亡くなったあの日から、シュージは断片的にこの部屋で起きていた事を夢で見ていた。

たった一錠の薬で彼女が壊れる、断片的に繋がる正常と異常に彼女の心が磨り減っていく。

ナンバー2に……、とにかくその映像は今手にしているタブレットに、画像として封印されている。

封印前の画像は18禁として、封印後の画像は15禁としてだ。


「なあ、女神さんよ。本当に成功すると思っているのか?」

『この程度の不幸、どこにでもあると思っているのですね。でも、それは違います』

「あいつがいくら特別でも、死んだ彼女は戻らないだろ」

『あの子は、この星を二つに裂いても願いを叶えるでしょう。ならば、あの子を消すか、この星が消えるか二つに一つ』

「つまり、叶わなくても……」

『可能性は残したので、後は星の巡り合わせ次第です。数多くの選択を間違わなければあるいは……』


 タブレットの操作方法は、チュートリアルにより問題なく熟知できた。

アキラの成長度合いはキャラクターシートとして表示が出るし、魔法についてはヘルプを読み上げるだけでアドバイスが出来る。

自分の分身をアバターとして送り込み、モーションキャプチャーのように宙に浮いた画面の中で、自分のアバターが同じような動きをトレースする。


 基本的にミズホの部屋にある物は、あちらの世界に送る事が出来るそうだ。

女神の話では、魔力的なリンクがどうたらこうたらと言っていた。

このタブレットが扉として作用するようで、電気・ガス・水道の契約はミズホの部屋で問題ないらしい。

中世のファンタジーの世界なので、あまり無理な注文なら突っぱねても問題はなく、しがらみがないなら楽しいのかもしれない。

ただ、アキラの記憶の一部を封印しているらしいので、ミズホの事を忘れたらそれまでのようだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 アキラへの迷惑料として、10万円をタブレットに入れさせた。やはりあの世界での暮らしは厳しいようだ。

何回かのやり取りの後、注文書をタブレットに落とせば、テキストファイルになることを伝えた。

こちらにお任せも多く、「無人島に何か一つ持っていくなら?」という、よくある質問の答えのように商品を選んだ。

カタログを入れれば、商品リストになる。何度も選んだものはソートされて、選択しやすくなっている。


 驚くことに、あちらのお金をタブレットに入れると、あちらが思っている価値の十倍の金額が使える点だった。

手数料・迷惑料など様々な名目で、上手く調整させてもらっている。

継続的にかかる費用のガス・電気・水道も、かなり先まで契約出来ている。


 さすがにピアノを頼んできた時は驚いた。

本部の営業が設備のセールスに来るが、まさかピアノが売れるとは思わなかったそうだ。

仕方がないのでアパートの外に置いてもらい、二階からタブレットを掲げて吸い込んだ。

かなり大掛かりな人払いをしたので、今後はこういうことは対応出来ないと伝えよう。


 何だかんだと理由はつけているが、アキラの事は応援している。

たった一人の女性を幸せに出来ないで『何が男だ!』、たった一人の女性の為に命を絶ち旅に出た男。

そんなバカの為に、協力者が一人くらいいても良いだろう。

ついでに店の売り上げにも貢献させて貰うけどな。


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