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095:謝罪

 ソバット診療所で分かれた自分達は、早々とセルヴィス家に帰宅した。

コロナは今日タップが送ると言い、明日か明後日に手押し車について、関係者を集めたいと言っていた。

週末には自領に戻る為、多くの人が気を使ってくれたようだ。

ソルトの話ではスチュアートは戻っているので、農場の件できちんと謝る必要があると思った。


 アーノルド家にはルールがある。

それは、謝る時は一人で家長のもとに行き、何について反省しているかきちんと話すこと。

基本的に体罰と言えるようなものはないが、それを上回る無茶振りをされることがある。

だから、子供達には極力良い子でいようと共通認識があった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ウォルフが先に、スチュアートのいる部屋に入って行った。

「父さま、報告があります」

「なんだい? ウォルフ」


 ウォルフは、一昨日農場で王妃とエルフに会った状況を説明した。

今までは剣術を熱心に修行して、家族を守る事を第一に考えていたけれど、ミーシャの体も良くなり、多くの協力者が助けてくれるようになった。一見すると肩の荷が下りたと思うが、ウォルフはあの時の無力さを忘れてはいなかった。

アキラの存在がなければミーシャの病は治っていない、そして最悪の事態になったかもしれないのだ。


 もっと力があれば、アキラにあった魔法を俺も持っていれば……。

そんな中、驚くことに自分にも魔法の適正があると言うではないか。

アキラが勉強している姿を見たかったという思いがあった。アキラに負けたくないという思いがあった。

だから、安易に力を欲した。コロナより魔法に対する努力もせずに、コロナより魔法に対する習熟度もないのに


「父さま、俺は焦っていた。だから、無理をしてはいけないという約束を忘れて、限界まで頑張ったんだ」

「その時は本気だったんだね」

「うん、本気だった。でも、それは努力した末の本気じゃなく、目の前に差し出された、力を欲しかっただけなんだ」

「そうか。貴族家の次期当主候補としての責任も、家族が悲しむかもしれない事も全て忘れていたんだね」

「はい、ごめんなさい」


 水の精霊さまも王妃もエルフの二人も、安全には最善の注意をしてくれていた。

あの時、何かを願って魔力を使ったのなら、魔法を覚えられたのかもしれない。

ところが、あの時は魔力を押さえ込むのに必死で、何かを望む事はなかった。

結局何も信じることが出来ず、多くの人に心配をかけるだけの結果になってしまった。


「いいかい、ウォルフ。まず、アキラ君は、君の一番の味方になってくれるはずだ」

「はい、父さま」

「彼にもこの先、困る事があるだろうし、その時ウォルフが近くにいたらきっと助けるよね」

「うん、アキラは家族だから」

「お互いに足りない所があって当たり前だし、この先君達が出会う仲間を信じる事にも繋がるんだよ」

「はい」

「君は次期当主候補だけど、今は輪を大切にして欲しい。それは家族でも仲間でも友達でも何でも良いんだ。困った時には近くにいる大人に頼っても、嫌だと逃げても良い。だから、今回感じた事はきちんと覚えておくんだよ」

「父さま、ごめんなさい」

「分かれば良いんだよ」


 それからウォルフは、思いの丈をぶつける。

それは大人になるのにやりたい事や、子供らしい純真な願いでもあった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ウォルフと入れ替わりに、スチュアートのいる部屋に入って行った。

「緊張しているようだね、アキラ君」

「スチュアートさん、ウォルフを叱らないでください。あの時は、自分が悪かったんです」


 一昨日あった農場での出来事を報告する。

あの時タップからは、「農場で王妃さまと、お茶でもしてきたらどうだ」としか言われていなかった。

ウォルフが魔法に対して興味があったのは知っていたけれど、まだまだ身に着ける前にやるべき事があった。

限られた時間でウォルフが出来る事と言ったら、一人でも出来る勉強のやり方を覚える事であり、決して魔法のきっかけを作って覚えることではなかった。

魔法には暴走する可能性もあり、安全な訓練の場所で出来た事でも、実践で大きな失敗をする可能性もあった。


 あの時自分には嫌な予感もしたし、ウォルフにはまだその段階に来ていないと感じていた。

ただ、ウォルフの気持ちも分かっていたし、危険がないようにするという言葉を鵜呑みにしてしまった。

結果、ウォルフは魔力の暴走が起こり、コロナが危うく傷つくところだった。

水の精霊さまと二人のエルフによるフォローは、結果論でしかなかった。


「アキラ君には、事前に嫌な予感がしていたんだね」

「はい、あの時自分は止めるべきでした」

「そうか。アキラ君は冒険者志望だったよね」

「はい」

「その直感は大事だよ。もし、君がパーティーのリーダーだとして、君だけが気がついた違和感があったら、それを冷静に分析して判断する事が重要なんだ。前に進むのも勇気ならば、後ろに下がるのも勇気だよ」


 ウォルフの責任感の強さが仇になるなら、それをサポートするのが家族の役目だ。

「アキラ君だけのせいではない」というスチュアートだったが、判断を間違ったと思ったなら、それは反省しないといけない。

特に冒険者を目指すなら、危険に敏感でなければならない。

そして、待っている家族がいる。一緒に帰る仲間がいることを考えて行動して欲しいとお願いをされた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ウォルフとアキラがいなくなった部屋に、スチュアートはレイシアとソルトを呼んだ。

スチュアートは二人に、息子達の判断と謝罪を伝えると、独白するように二人に気持ちを吐き出した。


「ウォルフには感謝している。あの子には大きな負担をかけているし、彼の責任感に頼っていたところもある」

「ミーシャのことを考えると、あの子は私たちに甘えられなかったのでしょうね」

「ああ、だから子供らしく、今を大切にして欲しいと思っていたんだ」


 レイシアからは、王妃が「あの子達に責任はありません」と言われており、罰を与えないで欲しいと言われていた。

また同僚のエルフも判断を誤ったようで、もっと早く止めるべきだったので、ウォルフにもアキラにも責任はないという。

セルヴィスが帰宅すると、この部屋に合流して学院長として謝罪をした。

こうなると、子供達を叱る理由がなくなってしまう。それから夕食まで大人達の会議が白熱した。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 みんなで夕食を食べると、子供達は大抵同じ部屋に集まる。

ところが、今日はスチュアートから「みんなに聞いて欲しいことがある」と、引き止めていた。


「一昨日、ウォルフとアキラ君が約束したことを破ったんだ。二人は反省して謝ったんだけど、きちんと罰を受ける必要がある」

「「はい」」

「みんな。悪い事をしたと思ったなら早く謝る事。隠したらその分言い難くなるし、後になればなる程、気持ちも良くないよね」

「「「「はい」」」」


 スチュアートは、危険を承知で行ったなら、それなりの責任を取る必要があると自分達を見た。

少なくとも、多くの大人に心配をかけ、これだけ騒ぎになったのだ。

スチュアートは今回の反省の意味も含めて、自領への帰宅の際に連れていかないという選択をすることにした。


 二人は歩いてアーノルド領に帰るようにと宣言すると、お婆さまがスチュアートの名前を呼ぶ。

「母さん、これはアーノルド家としての判断です。家にいる時の手助けはお願いしたいですが、この判断を変える気はありません」

「ふむ。そう言われては、私達からは何も言えないな」

「二人とも、僕達はきちんと歩いたかどうかを知る術はない。けど、これは君達がこの世界をしっかり見る、良い機会だとも思っているんだよ」

「「はい」」

「何も準備もしないで放り出す事はしないよ。お金も必要な分は渡すし、きちんと準備はして欲しい。そして、無事戻ってきなさい」


 ミーシャとロロンは、レイシアに懇願していた。

何故この世界に冒険者がいるのか? それはこの世界が危険に溢れているからだった。

だけど、スチュアートがした判断をレイシアが覆すことはない。


 アーノルド家は土曜の早朝に出立する予定だったが、ウォルフと自分は居残りになった。

何ヶ月かかっても良いから、きちんと自分の足で戻らなければいけない。

ソルトがミーシャとロロンを部屋に連れて行くと、残った者達で少しだけお話があった。


「まず、二人には気をつけて帰ってきて欲しい。このまま一緒に帰ることも考えていたけど、アキラ君は学院もあるし二人にはまだやるべき事があるんだろう?」

「そうね。でも、ウォルフの魔法の勉強は金曜まで。日々の訓練までは止めないけど、優先順位を考えるようにね」

「「はい」」

「暗くなったら、帰ってくるのですよ」


 お婆さまの最後の言葉に、スチュアートとレイシアは苦笑する。

ウォルフは不思議そうな顔をしていたけれど、自分は何となく気がついたいた。

でも、二人から直接言われていないので、それは反則技だと思っていたのだ。


 レイシアからは、王家の変わった習わしについて説明があった。

それぞれの貴族家にも家に伝わる習慣があるが、王家には数々の『~の儀』というものが存在する。

その中で特に変わったものは、個人として旅をするというものだ。

要人として色々な場所に訪れることはあるが、個人として動くと様々なアクシデントが起こる。


 過去には暗殺者を送り込まれたり、時には化け物をけしかけられた事もあったらしい。

少ない護衛でもきちんと現場を見て、民の心に寄り添うということを忘れない為。

また、少々の困難も吹き飛ばすくらいの度量を、国内外に知らしめるのが目的であった。

ウォルフの血筋は王家に近くても、王位継承権は発生しないらしい。

だから、今回の件は儀式ではい。馬車ではなく、人の歩く速度で多くの見聞を広めるのが目的のようだった。


 土日のアルバイトは二人とも許可をされているし、何かあった場合は一時帰宅も許されている。

スチュアートは両親に、「二人の事をお願いします」と言うと、自分達の頭をなでた。お金は前回預かったものがまだまだある。

「外に泊まる時は、きちんと帰る連絡をするのですよ」とお婆さまが言うと、「ただのピクニックみたいだな」とセルヴィスがこぼした。


 全員がいる前で、再び『無理をしない事』を約束した。

ウォルフは知らないうちに右手首の銀製のリストバンドをさすると、スチュアートに向かって大きな決意の返事をした。

同じ熱量で自分も応えると、レイシアに二人まとめて抱きしめられる。

愛されていると分かっているから、ウォルフは限界を超えてまで応えようとした。

それならば自分の役割は、ウォルフが限界を超えなくていいようにすることだった。


 明日はサリアルに、しばらく講義に出られない事を伝えなければならない。

王妃やエルフの二人にも、ウォルフの無事を伝えなければならないし、タップにも……まあ、それはいっか。

そういえば、ヘルツはアーノルド領に何をしに行ったのだろうか?

最近、あれ程あったパーティーも少なくなったし、アーノルド家に何かあるのか少し心配になった。


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