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094:反省

 水曜日、ウォルフと一緒に学院へ行くと、保健室へ直行する。

昨日、保健室でぐっすり眠ったウォルフは、ほぼ回復していたようだけど、大事をとって今日の午前はサボると言っていた。

きっと強がりなんだろうけど、そこを指摘するのはウォルフに対して悪いと思う。

シスターアンジェラにウォルフの事をお願いして、午前はコロナと一緒に魔法の講義を受けることにした。


 一限目が終わった休み時間に、待ちきれなかったようにかぶり気味でドアが開かれた。

静かにドアを閉めるタップに、サリアルの視線が突き刺さる。

結果、タップ・コロナ・自分と、サリアルから呼び出しを受けることになった。

明らかに巻き込まれたのは自分のせいではない。自然とタップに冷たい視線が注がれる。

サリアルは事情を把握しているのか、みんなで保健室に向かうことになった。


「あれ? アキラ、早かったな」

「ウォルフ大丈夫なの?」

「ああ、寝すぎて眠れないってのが正直なところかな。それにしても、大人数でどうしたんだ?」


 ウォルフの問いかけにサリアルは、まずは全員丸椅子に腰をかけるように言われる。

アンジェラはお茶の用意で席を外すと、まずは自分とウォルフの行動を叱られた。

コロナのサポートの為、多くのことには目を瞑っていたサリアルだが、危険な事をするとは聞いていない。


 王家から直接セルヴィス宛に謝罪があり、セルヴィスは家族を心配させないように黙ってくれていた。

ただ、担当であるサリアルには知らせる必要があり、一昨日のエルフとの面会について、何故学院の教師に頼らなかったか指摘された。ウォルフには外傷はない、それは水の精霊さまによる癒しの力があったからだ。

後でウォルフと一緒に、学院長へ謝らなければいけないと思った。


 次に標的はタップになった。休み時間とは脳をリセットすると共に、次の講義への準備の時間だ。

物作りに夢中になったタップは我を忘れる時がある。本来の仕事を忘れていないか指摘された。

ここでタイミング良く、アンジェラからお茶が届いた。


「サリアル先生、具合が悪い生徒もおりますので」

「アンジェラ、それもそうね。あなたは良くやってくれているわ」

「いえいえ。タップさんも、協会のお仕事に関わっている作業をしているようなので、大目に見て頂けませんか?」


 アンジェラの呼びかけに、それぞれが情報の共有化を図った。

タップや商業ギルドのグラントと協力して、歩行補助器・松葉杖・手押し車・乳母車を作っている事。

GR農場でエルフの二人に、火の属性魔法のきっかけを作ってもらった事。

その際、ウォルフは水の精霊さまより、魔法を制御するリストバンドをもらった事。

コロナは無事きっかけを作り、相手を攻撃するような魔法は覚えられなかったが、持続時間が長い魔法を覚える事が出来そうな事。アーノルド家として今週末に自領に戻る事を報告した。


 アンジェラからは、コロナが保健室で臥せっていた時に、既に魔法に目覚めていた事を報告してあった。

ベッドでアンジェラがコロナの話を聞いた時、気持ちが高ぶったコロナの体に蒼い光が見えたようだ。

アンジェラが見た時は神聖な炎のようにも思えて、癒しの魔法ではなく魔を滅する方の炎を感じたらしい。


 魔法の強さにもよるが、神聖魔法に目覚めると、協会関係の仕事に就く事が多い。

既に宮廷魔術師団の仕事に就いていても、優秀な人材は何かと適材適所の場所に回されがちだ。

特にアンデット等の攻撃に特化する魔法が使える者は、冒険者になるか協会の裏というか闇部門へ回される事が多い。

特に火の属性は攻撃に特化する者が多いだけに、コロナを獲得する勢力が仕掛けてくるのが心配になった。


 サリアルは学院に在籍している限り、コロナを守る事を約束し、ワァダもメフィーも協力してくれる。

フレアについては現在妹離れの訓練中なので、しかるべき時になったらコロナ本人から報告することになっていた。

フレアは火の属性魔法の先輩として、何かを教えたいとメフィーに懇願していたらしいけど、「何をどう教えるんだ?」と聞いたメフィーに擬音を多用した説明をしたらあっさり却下されたらしい。


 ようやく落ち着いたのか、タップは手押し車の話を始めた。午後に試作品二号機が出来るので、感想を欲しいと言っていた。

その際、アンジェラにも同席してもらい、協会の上層部へアポイントメントを取って欲しいとお願いをした。

関係者と言えば、発案者・学院・商業ギルド・協会・先代会で、何所がメインの権利を持つかが問題だった。


「アキラ君はもう、水の属性魔法を覚えた始めたらしいわね」

「はい、少しだけですけど。先生から教わった訓練も続けています」

「そう。でも、焦ることはないわ。水の魔法なら、ワァダ先生によく教わるように」

「はい」


 サリアルは、ウォルフとコロナにも一言ずつアドバイスをすると、早めに農場で昼食を取るように促された。

どうやらタップへの説教がまだあるようで、アンジェラから「早く離れた方が良いわよ」と小声で急かされた。

タップには午後に行く事を告げると、三人は急ぎ足で保健室を後にした。

コロナに「瞑想の時間は間に合いそうだけど」と聞くと、三人で過ごせる時間を長く持ちたいからという理由で昼食に行く事にした。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「タップ、あなたは自覚があるのかしら?」

「サリアル先生、返す言葉もありません」

「リュージ君とヘルツがいない今、あなたが指揮をする立場だと思うのですが」

「一昨日は農場にいれば安全だと思いました。あそこはきちんと警備もいるし、王妃さまの所にいけば危険はないと」

「それで、自分の時間に充てていたのですね」


 この学院はセルヴィスが学院長をやっているが、正直言ってお飾りの部分が大きい。

多くの教室に、私塾として教鞭をとって来た先生が、得意分野の指導をして、それを体系立ててそれぞれに必要な職業へのカリキュラムとしている。

読み書き算術という一般教養的な物から、歴史・音楽・魔法・剣術等、様々な講義が一日を通して行われていた。


 では、実務的な管理は誰がやるのか?

当初は私塾をまとめ、ガレリア基金としてスタートしているので、外部顧問としてGR農場のガレリアが関わっていた。

しかし、ガレリアは多くの事業と相談役としての活動が多く、国からの相談も多いので、段々と様々な役職から一歩引いた立ち位置にシフトしてきている。その穴を埋めるのが、主にサリアルと特区を管理するヴァイスだった。


 サリアルは学院にある盗賊ギルドの存在を知っているし、この学院に多くの資本と多くの口出しがあることを知っている。

少なく見ても、王国・協会・騎士団・宮廷魔術師団・先代会が関わり、その他には各貴族が少ない金で多くの口を出している。

国内外の派遣団なども学院を通して行っているので、二つの学園が持つ特色とかけ離れている特色を持っている。


「レーディスから聞いているわ。一昨日は緊急事態を知らせる為、派遣したネコを無視されたって」

「なっ、レーディスの奴……」

「私やワァダに一言あれば、一昨日の事は止められました。リュージ君や学院長から預かった子供ですよ」

「彼らは強い所と弱い所が極端だから、守りにくいんですよ」

「それなら、もっと考えて行動しなさい。王都にいる間は、あの子達の安全が最優先です」

「そうですね。リュージ君から『自分じゃなく、あの子の方が女神さまからの使命があるかもしれない』って言っていましたからね」

「少なくとも、今週いっぱいはきちんと見守りなさい。いいですね、タップ」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 食事が終わり、微妙な時間があいてしまった。

コロナには少し待ってもらい、ウォルフと二人で学院長室へ向かった。

休憩時間だったからか、セルヴィスは学院長室にいて、ウォルフと二人で入室すると、一昨日の無茶な行動を謝った。

止めるタイミングはいくらでもあったし、嫌な予感もしたからだ。


 多くの大人と精霊さまがいたという安心感が、判断を鈍らせたのだと思う。

魔法に対する習熟度で言えば、ウォルフよりコロナの方が上なのは確実で、その事は十分理解していた。

ウォルフは魔法に対する憧れと、新しい力に対する渇望が勝ってしまった為、止める事は出来なかったと言っていた。

家族を守るために力を得ようとして、家族を悲しませたら本末転倒だ。


「ウォルフ・アキラ、その気持ちを忘れてはいけないぞ。立ち向かうのも勇気ならば、引き下がるのも勇気だ」

「「はい!」」

「王妃の事だから、きっとレイシアにも伝わっているはずだ。お父さんとお母さんにきちんと報告出来るな」

「「はい」」


 セルヴィスはそれ以上何も言わなかった。

責任という意味では、セルヴィス自身の責任は重い。ただ、温室で咲く花もあれば、野で力強く咲く花もある。

こうやって厳しく育てた花を、騎士団のダールスに持っていかれるのは、癪だけどなとセルヴィスは思った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 再びコロナと合流すると、指定された教室へ向かった。

今回は前回にもまして大人数だった。タップに商業ギルドのグラントに職人四名、アンジェラにサリアルまでいた。

今日あった商品は、手押し車1台と乳母車2台だった。

三点とも素晴らしい出来なのは見ただけで分かり、アンジェラとサリアルが興味深く二つの商品を確認していた。

乳母車にはひさしが何段階かに調節出来る機構があり、赤ちゃんが正面を向くタイプと、押す人を見るタイプの二つがあった。触り心地の良い生地は、革職人と裁縫職人の仕事なのかもしれない。


「タップさん、今日はレーディスお婆ちゃん、いないのですか?」

「あ、あぁ。宣伝はしてもらっていると思うが、今日は忙しいらしいな」

「これって全部一点ものですよね? 実際売り出すとしたら、一般の人に手は届きますか?」

「そこは私から説明します。商業ギルドとしては、どこかにバックアップをして貰った方が良いと考えています」


 材料自体はそんなに高価な素材はないが、一点物ならば価値はうなぎ上りになる。

今回の試作品としては、先代会が資金を提供しているので、「その会員の何処かに任せるのが良いのでは?」とグラントが補足する。すると、アンジェラから「ソバット診療所からの依頼では?」という話になった。

四人の職人には商品に合格を出すと、量産体制を組むとして期間と納期を質問した。


「今回は試作品だから職人の壁を越えて出来たが、正直何をどこまでっていう差配をする人がいないと難しいな」

「商業ギルドじゃダメなんですか?」

「いや、ダメじゃないが、営業や発注元がはっきりしないと動きにくい」

「これは、関係者を集めた方が早いですね。でも、まずはソバット診療所に報告しないと」


 みんなも納得してくれたようで、三台の手押し車と乳母車を押して歩くことにした。

カラコロカラコロと小気味良い音を立て、軽快に通りを滑らせていく。

すると、いつの間にか小さい子が自分達の後ろを歩き、お母さま方からは質問を受けた。


 抱っこの状態でこちらを見ていた女性がいて、「子供を乗せてみますか?」と聞くと、そっと乳母車に子供を乗車させる。

運転をお母さまに任せると、両腕をぶんぶん振ってアピールする子供が、しばらくするとぐっすり眠っていた。

そんな団体がソバット診療所に到着した。あまりの騒がしさに婦長が出てくると、急いでソバットを呼んできた。


「おいおい、何の騒ぎ……。おおぉ、これが完成品か」

「ソバット先生、お騒がせして申し訳ありません。自分達じゃ判断できない事もあるので」

「ああ、そうだろうな。ツイスト君、歩行が辛い患者はいるかな?」

「ええ、ラリーニャさん。これで診療所を一周して貰えませんか?」

「先生、無茶を言わないでおくれよ」


 ツイストが指名したのは、最初ここに来た時、色々教えてくれた常連さんだった。

ラリーニャが手押し車の取っ手をしっかり握り、ゆっくり歩き出すと、「あら、あらあらあら」と軽快に進みだした。

その後ろを大勢の人間が追随しながら移動をする。

問題なく一周すると、ラリーニャは「先生、これいくらだい?」とソバットに詰め寄った。


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