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092:物作り

 土曜と日曜は、通常通りウォルフとアルバイトに行く。

ダンスホールに到着すると、ミレイユが辞めた話が噂になっていた。

貴族家の子女が集まるこの施設は、やはり貴族の噂話にも興味があるみたいだった。


 急に辞めた理由は、タイミング的にパーティーしかありえない。

格上のパーティーに呼ばれて失敗しただとか、今噂のあの家に関わって不幸にあったとか、結構ひどい言われ様だった。

ところがお茶の時間になると、ミレイユからの別れの挨拶ということで、かぼちゃのプリンが全員に配られた。

どうやら男爵家が、こっそりギレン料理長に手配していたようで、ミレイユを褒める声が上がったのは現金だなと思った。


 この二日間で変わった事と言えば、レイルドとミーアがダンスホールに来た事だ。

まだ小さいが踊りの腕は抜群で、年齢の低い生徒達の相手をすると、レイルドもすぐに人気になった。

ミーアは生徒達の輪に溶け込み、ウォルフと自分も踊る機会を持つようになった。

ローラの子供達なので、生徒もきちんと気を使うことが出来るだろう。


 月曜日になると、ウォルフとコロナと一緒に魔法の講義を受ける。

ウォルフはコロナに今週いっぱいまでしか通えないと言うと、コロナはとても残念がっていた。

そして、話題はミレイユの話になった。同年代の女性が素敵な恋をして、きちんとお別れしてから新しい恋に向かう。

そんな事を言いながら、コロナは両手を組んで斜め上の方を見て、ぽやぁっとしていた。


「コロナって、あい……」

「ウォルフ、講義に遅れるよ」

「あ、ああ……。うん」

「コロナも行こう」

「はい」


 今日も平常運転だ。

後でウォルフに、「相手はいないの?」って聞こうとしたでしょと言ったら、「なんで分かったんだ?」と驚かれた。

金曜日を引きずっていないと思っていても、女心が分からないと言われたのはショックだった。

前にも言われたような気がするけれど、上手く思い出す事はできなかった。


 一限目が終わると、休憩時間にタップがやってきた。

先週はお昼に来たのに今度は一限目かと思っていると、どうやら商業ギルドのグラントが部材を持って職人を連れて来たらしい。

学院長の許可を得て前回の場所で作業をしているので、お昼が終わって時間があるようだったら来て欲しいと言っていた。

ウォルフとコロナも付き合ってくれるようだ。サリアル先生からは、無駄だと思う事も全力で取り組みなさいと言われている。


 午後に指定された教室へ行くと、結構な人数がいた。

全体的な手配のグラントにタップ。車軸職人を中心に家具職人・細工職人・木工職人と職人だらけだった。

結構ラフに書いたのに、どうやらあの時のディスカッションで盛り上がったようだ。

まずは一品しかない松葉杖から確認してみる。


「これは、持ち手の所に革が貼ってあって、杖の先端に滑り止め、全体的にヤスリで傷つかないようになっていますね」

「ああ、どうだいアキラ君? これは売れる予感がするだろ?」

「うーん。タップさん、これ売れると思いますか?」

「挑戦的だな、アキラ。俺も、これは売れるとは思わないな。まあ、保証金つけて貸し出すタイプと思ったほうがいい」

「そうですね。補助具としてなら、これは最高に良いと思うので、若い人向けに考えるべきでしょう」


 商品自体は高評価なので、それを褒め称えたら木工職人が喜んでくれた。

曲線の出し方や耐荷重など、木工職人は見えないところにも気を使ってくれたらしい。

価格的価値を出せなくても、スポンサーは先代会なのでグラントには落ち込む理由がない。

ただ価値のある物は、高く売りたいと思うのが商売人の性のようだ。


 続いて、三人の職人の前に並べられた手押し車を見る。

車軸職人が共通して車輪を作ってくれ、木工職人がフォルムを決める。

この二人の職人により、ウィリーしたり車輪が必要以上に回り過ぎたり、回り難かったりという事が調整されている。

その上に乗せられたのは、肘置きがついた椅子タイプ・円筒状の買い物籠タイプ・大きいバスケットで耐荷重を考えた椅子と籠の両方が使えるタイプがあった。各パーツの接続部分や、完成に向けての細かな部分は、タップも関わっているようだ。

どの職人の目も、ギラギラと光っているように見えた。


「ウォルフ君、職人ってこんなに熱いの?」

「いや……、多分違うと思う。熱すぎて怖いよな」

「ねえ、ウォルフはこれどう思う?」

「あ、アキラ……」


 職人の視線がウォルフに集まる。グラントやタップもだ。

ウォルフは取っ手を握り、前後に動かしてみる。

荷車はあるので、それと比較するしかないウォルフは、「なかなか、良いんじゃないか?」と無難な返事をした。

それを聞いたコロナも、もう一つの手押し車の取っ手を持って動かす。

「これは、使う人に意見を聞いた方がいいんじゃないですか?」と正論で返した。


 タップが庭に目をやると、一匹の黒猫が通りかかった。

そして、「レーディス」と呟くと、ドアからノックが聞こえてきた。

確か、盗賊ギルドにいた若い女性が、レーディスという名前だった。

だけど、ドアが開いてやってきたのは、小柄なお婆ちゃんだった。


 腰の後ろ側に手をやり、ヨタヨタヨタと絶妙なバランス感覚で、腰を曲げてやってくる。

みんな一斉に、『誰だろう? このお婆ちゃんは?』と不思議に思っていた。

タップがお世話になっている近所のお婆ちゃんだと告げると、微妙な感じだけど納得するしかなかった。

そのレーディスお婆ちゃんは、一生懸命三台の手押し車を検分していた。


「どうだレーディス、凄いだろう」

「これはこれは、良い物を作ってくれた。これは、どう使うのか教えてくれんかの」


 最初に家具職人が作った、頑丈な椅子がついたタイプに興味を持ったようだ。

手押し車も頑丈ならば、椅子の出来も問題ない。ところが、その椅子に座った状態でタップに「押してくださらんか?」と頼むと、この手押し車の弱点が判明した。あまりに完璧に作ったせいで、人が乗ったまま押せてしまうのだ。

もちろん、この状態で動くと急ブレーキ時に怪我をしてしまう。車椅子の用途に似ているのも問題だった。


 細工職人が作った円筒状の買い物籠タイプは、明らかに買い物に特化しすぎていた。

これでは最初に買い物に行ってしまった場合、ずっとその荷物を押しながら歩かなければいけない。

あくまで買い物は副次的な目的なので、ボツまではいかないけれど保留になった。

そして木工職人が大きいバスケットで耐荷重を考えた、椅子と籠の両方が使えるタイプが一番有力だった。

レーディスは頷くと、「これは素晴らしいのだけれど、座り心地と触り心地はさっきの二つが良かったの」とショボーンとする。


「レーディス、じゃあ形としてはこれが良いんだな」

「どれも素晴らしい物で、優劣をつけるのも悩んだのじゃ。みんな技術がある、ぷれいぼぉいなのでな」

「私の名前はグラントです。レーディスさん、その手押し車をプレゼントするので、またご意見を聞かせて貰えますか?」

「こんなババにまた会いたいとな。お主が一番のぷれいぼぉいのようじゃの」


 タップがお礼を言うと、レーディスは台車を押しながら消えて行った。

ヨタヨタしながらも、やけにしっかりした足取りなのは気のせいなのだろうか?

タップを見ると明後日の方向を見ていた。


「みんな、今日はとても良い意見を聞けたと思わないか?」

「ああ、もう完成したようなもんだな」

「あまり完璧に作ってはいけないもんだと、初めて知ったよ」

「俺達が協力すれば、作れない物はないな」

「そういえば、乳母車もこんな感じでいけるかな?」

「「「「「アキラ君、その話詳しく!!」」」」」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「アキラ、最後の一言がなければ、もっと早く終わったぞ」

「ごめんごめん。コロナもごめんね」

「私は、みんなと楽しそうにいられるだけで十分です」

「また修正したら持ってくるらしいね」

「その時はアキラだけで大丈夫だと思う」

「二人は仲が良いですね」


 あの後、簡単に説明をした後、質問ラッシュとなった。

それが終わって、みんなでぐったりしていると、「たまには農場で、お茶でもすれば良いんじゃないか?」とタップに言われる。

そういえば、王妃も「気楽に遊びにきてね」と言っていた。決して「お婆さま」と呼んではいけないらしい。

三人で農場に到着すると、王妃がいる場所をブラウンさんに教えてもらった。


 間もなく休憩時間が近いだろう。GR農場には【魂の時計】という振り子時計があるので、時間には結構正確だ。

休憩時間は鐘の音で知らされるので、仕事に対するメリハリはどこよりもしっかりしている。

この農場はとても広いので、休憩場所に戻れない場合は、森エリアで休憩する者も多い。

聞いていた場所である精霊の園エリアに行くと、王妃は二人のエルフの男女と一緒にいた。

近付くと小さな声で、エルフの男性から誰何の言葉が聞こえてきた。


「あら、ウォルフ君にアキラ君。後、そちらのかわいらしいお嬢さん、こんにちは」

「驚かせて、すみません」

「いや、こちらこそ悪かった。ここは特別な場所なので、気が張っていたんだ」

「そうね、今のはランディールが悪かったわ。ごめんなさいね。私の名前はソフルレーヌ、こちらがランディールと一緒に農場で研修させて頂いているわ」


 二人とも金髪・独特なエルフ耳で神秘的な程美形なのに、作業用のエプロンをつけている姿は違和感しかなかった。

王妃は外で作業している時は、学園の農業科で使用されている作業着を着ているようで、不思議な程似合うのは何故だろうと思った。三人一緒に自己紹介をすると、二人のエルフは王妃とこの農場の保護について話をしていたようだ。

このエルフは、王国内のとある貴族領にある自治区で、集落を作って暮らしているらしい。

そして、その領主との商売上の取引の際に、世間話として国内外の情報が届くようだ。


「農業王国なのに、この農場の素晴らしさを分からない貴族が多すぎるのよね」

「豊かになったから戦争だ? バカか? 何故、平和の素晴らしさが分からない」

「あなた達二人の意見はもっともよ。この国の王とローランドも、開戦派の暴走を止めようと必死になっているわ」

「では、何故。そのような話が末端まで届くのだ? 聞けば、この農場の主まで国外で外交紛いの事をしていると聞いているぞ」

「噂を全面的に信じている訳ではないでしょう。貴方達の長も状況を理解してくれていると思うわ」


 どうやら、王妃は農場の職員としてだけではなく、きちんと政務活動もここでしているらしい。

収穫したものは、最初買い取っていたと聞いてるし、農場内のあれこれも積極的に手伝っているらしい。

ここでの収穫物は、マザーやレイシアにも送られていたと聞いている。

そして王妃がここで収穫したものを、何件かの貴族家が前面に立ち、炊き出しなどをしていると聞いている。

農場は思いの外、機密性が高く、ここからの指示でも多くの人が動いているようだった。


「それで三人は、ここに何をしに?」

「タップさんから、たまには遊びに行ったらどうだって言われました」

「まあまあ、来てくれて嬉しいわ」

「アキラはこの間、ここで水の精霊さまに会ったんです。俺とコロナは火の適正があるらしいけど……」


 ウォルフの報告に、二人のエルフは感心をする。

この世界のエルフも魔法に精通していて、特に緑の精霊さまに愛されているらしい。

また、どの属性の精霊さまも、この世界を運営するのに切っても切り離せない関係にあった。

男性のエルフ、ランディールが「魔法の事なら相談に乗るぞ」と言うと、ウォルフとコロナは目を輝かせた。


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