表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/369

089:作戦会議

 カエラは夢の中にいた。

何故それに気がついたかというと、自身の姿が黄色いカナリヤになっていたからだ。

周りの檻は、いくら羽ばたいても悪い気分にはならない。

ただ難を言うならば、止まり木から足に長い長い鎖が巻き付いていた。


 檻の外は遮るものがなく、森からは小鳥達の囁きが聞こえてくる。

決まった時間に餌は来る。何故か雨に濡れることもない。

この世界は完成されていて、足りないものは何一つないはずだった。

では、何故こんなに寂しい気持ちになるのだろう?


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「気分はどう?」

「あ、はい。久しぶりにゆっくり眠れた気がします」

「そう、それは良かった。みんなはもうすぐ戻ると思うわ」


 カエラはベッドから起き上がり、腰を掛ける位置に座りなおすと、何故かこのまま歩ける気がした。

一歩進もうとすると、婦長が「まだ早いわよ」と肩を抱きしめるように止めた。

用意されたお茶を飲んでいると、程なくして診察所にいたメンバーが戻ってきた。


「おかえりなさい」

「お、お嬢さま。宜しいのでしょうか?」

「ええ、もう良いわ。アンルートさまが、昔とちっとも変わってないって分かったのですから」

「カエラ、辛い思いをさせてしまったね」


 カエラの本当の傷は、心にあったのかもしれない。

季節は間もなく春を迎える時期だけど、カエラの足が良くなって、本当の意味での雪解けが早く来たら良いなと思った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 アンルートと分かれて診察所を出ると、グラントとタップがディスカッションをしていた。

ウォルフとコロナは、明日のデートについて相談している。

明日は昼からミレイユと街でも歩き、ダンスホールでお喋りして終わる予定だった。

映画館も遊園地も動物園も水族館もない。有名な建物といっても、度々GR農場に行くのは良くない気がした。


「アキラ、気をつけて帰れよ」

「タップさん、用事はもう良いんですか?」

「ああ、これから商業ギルドに寄らないとな。各種、打診もしとくから安心しておけ」

「本当に細工屋として来たんですね……」


 何故か焦っているようにも見えたけれど、コロナもきちんと送る予定だし、ウォルフと二人ならば安全性については問題ない。

喋りながら歩くタップとグラントに、そっちこそ危ないんじゃないかと思った。


「明日は学院で、二限まで受けてから迎えに行くけど、二人はどうする?」

「さっきコロナと話したけど、こっちは瞑想の講義まで受けてから行くよ。街歩きってグリーンフレグランスだろ?」

「よく分かったね」

「それは分かりますよ。あのお店は王都で有名ですし、王家の方も石鹸を使っていると聞いています」


 念の為、はぐれた時にはダンスホールで合流することにした。

ウォルフの付き添いは自分のお願いだし、コロナは自主的参加だ。

「アキラが、わざとはぐれるなら問題ないぞ」と、ウォルフがこっそり囁いた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 少し街を散策してからコロナを送り、夕方近くに戻ると、みんな勢揃いしていた。

今日も何かしらの集まりがあったはずで、この時間にいるのはおかしいはずだった。

ソルトが出迎えてくれたので、何があったか質問をすると、主催者の体調不良により早上がりになったらしい。

少し離れた場所で待機していたソルトは、会場に異変は感じたけれど、確認までは出来なかったようだ。


 ミーシャが駆け寄ってきたので、ウォルフが抱き止めると、ミーシャは何故か不機嫌そうにしていた。

軽く頭をなでて「ご飯にしよう」と言うと、ミーシャが笑顔で大きく頷いた。

ソルトが先頭を歩き、その後をミーシャと一緒に歩き出す。

「はぁ……。もうちょっと考えて動かないと、失恋は早いぞ」、ウォルフの呟きは誰にも届かなかった。


 食事が終わると、お客さんが来たようだ。

ソルトが応接へ案内すると、スチュアートとレイシアが最初に呼ばれていた。

すると、すぐに自分とウォルフが呼ばれた。ミーシャとロロンは、祖父母と仲良く話をしている。


 商業ギルドの物作りがそんなにすぐに出来る訳はないし、学院の事なら学院長であるセルヴィスから連絡があるはずだ。

応接室のドアをノックして入室すると、お客さんとはローラの子供のレイルドとミーアで、付き添いの侍女がいた。

スチュアートが話を促すと、まず侍女が話し出した。


「明日のミレイユさまとのデートの件ですが、先ほど男爵家の侍女頭とミレイユさま付侍女の、二人がいらっしゃいました」

「はい。え? ローラさんの家に?」

「アキラ君。ミレイユさんは、キッド君の家を知らないのよ」

「ああ、なるほど」


 ローラの家に訪れた侍女頭から、明日の件を『正式に断る』と連絡があった。

現当主である男爵から正式にと言われたなら、無理に進める訳にはいかない。

まあ、仕方がないなと思っていると、侍女の話には続きがあった。

ミレイユ付の侍女は、男爵夫人からこっそり相談を受けていた。どうにかして、ミレイユの想いを遂げさせてあげられないかと。


 視線が自分に集まった。

「アキラ君、思うように動いていいよ」

「スチュアートさん。これは、我侭を言うべきところじゃないと思うんです。男爵家として正式にって……」

「アキラ君! 女の子の勇気を踏み躙っちゃダメよ」


 レイシアは真剣な顔で自分をじっとみる。そして、「考えてみて」と仮の話をしだした。

もし貴方に『最愛』の人がいて、明日最後に一度だけしか会えない時、「雨だから会えない」とか「仕事だから会えない」って言う?

「明日で良いと言えるのは、明日を生きている人だけよ」と言ったレイシアに、ウォルフは不思議な顔をしていた。

もし、明日彼女に会えるなら……。いや、これは会わないとダメだろう。


「約束は守らないとダメですよね」

「そうだね。そして、どんな決断をしても私達はアキラ君を応援するよ」

「連絡ありがとう。これでローラのシナリオに乗っちゃったから、あのこも同罪ね」


 侍女は「さすが姉妹ですね。ローラさまの言った通りになりました」と言い、先方の侍女には了承の意を告げたらしい。

ようやく自分達の出番が来たと、レイルドとミーアが立ち上がった。

「明日は僕達が同席します」

「アキラさまとウォルフさまと一緒にいれば……」

「レイルド・ミーア、二人とも他人行儀だわ。アキラ君にウォルフ君、若しくはお兄ちゃんって呼んでもいいのよ」

「「え? 本当?」」


 二人は目を輝かせていた。伯爵家の当主候補であるレイルドに、嫁に行くかレイルドに何かあった時の予備になるミーア。

伯爵家とは言っても、王女を嫁に貰うと力関係が少しだけ増していた。

レイシアは『王家の務め』を放棄した為、アーノルド家に直接の影響はないが、この伯爵家では少しだけ違った。

レイルドとミーアは今でも幼いが、更に小さい頃から大人と接する機会が多く、家人からの期待から親に甘える事が少なかった。

お互いに自分の分身とも言える存在なので、自分以外の家族に対する憧れは大きかった。


 それからは作戦会議になった。

「今日は泊まっていく?」と聞いたレイシアに、「「いいの?」」と返事をする二人。

この部屋を使っても良いとセルヴィスに許可をもらい、子供達4人だけで明日の打ち合わせを始める。

侍女にはローラへの返事を伝えてもらう為、一足先に帰ってもらった。


 作戦会議が終わると、ミーシャとロロンも呼んで、カードを使ってゲームを始めた。

収納からおやつを取り出すと、それぞれにチップとして配っていく。

「ウォルフ君とアキラ君がお兄ちゃんなら、ミーシャちゃんとロロン君って呼んでもいい?」

「うん、宜しくね。ミーアお姉ちゃんとレイルドお兄ちゃん」

「「うっわぁ、かわいい」」


 夜遅くまで続いたゲームは、ソルトの見回りによって強制終了となった。

また遊ぶ約束をして、二人には明日のお願いをした。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「おはようございます、レイルドさま・ミーアさま。今日はどのようなご用件で?」

「はい、ミレイユお嬢さまの付き添いとして参りました」

「女性も一緒ならば安心だろうと、私とレイルドの二人で参りました」

「あの……。昨日、ローラさま宛に連絡をしたのですが……」


 ミレイユの父である男爵は困惑していた。朝早くから御車をする侍女と一緒に、伯爵家の双子がやってきたのだ。

折角あのパーティーで縁を繋いでくれたアーノルド家だが、あの噂を聞いてしまったら少し距離を置くのは仕方がない。

ミレイユの相手は結果的に分からなかったが、最悪アーノルド家にいる子供の可能性もあった。


 レイルドの可能性もあったが、今日は付き添いという事で、その線は消えていた。

男爵家の子供と言えば山ほどいるが、『詮索をしない事』と『今回限りと納得する事』を約束するというのが、男爵は引っかかっていた。公爵さまとローラさまからの『たっての希望』ということもあり、最後の密会ということで最初は許可をだしたのだ。


 良い予感はなかなか当たらないのに、嫌な予感は当たってしまうのは何故だろう。

明日には公爵家の縁者と会えるのに、何も今日見ず知らずの少年と会う必要はないと思っていた。

男爵の返答にレイルドは、「母よりきちんと聞いております」と返事をした。

安心してこの件を終えようとした男爵は、『では、何の用事だろう?』といぶかしる。

そして隣のミーアから、「私は公爵家からの名代ですが、連絡は受けておりません」という言葉を聞いてしまった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ミレイユお嬢さま。奥様のご協力は取り付けております」

「ありがとう。お父さまに質問されたら、素直に話すのですよ」

「いえ、奥さまも私も、ミレイユお嬢さまの味方ですから」


 ミレイユは三着の洋服の前で悩んでいた。

白いワンピースに、デニムっぽい色合いの上着を羽織ったスタイル。

アイボリーのブラウスに、デニムっぽい色合いのパンツスタイル。


 悩んだ末に選んだのは、ボーイッシュで動きやすい服に、カーキ色のコートだった。

明日着る服は、気取らないようにしないといけない。多分、キッド君はデートと思っていないはずだから。

だからといって、最初で最後のデートだ。この辺が女心というか、乙女心なんだと思う。


 お父さまから、「明日は外出禁止」と言われている。

屋敷に囚われている私は、『王子さまと離れ離れになってしまった少女』なのかもしれない。

明日で全ての気持ちを昇華して、翌日からは家の為に生きると決めている。

「だから、アキラ君。きっと迎えにきてね」

ミレイユはそっと星空に願うのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ