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084:フレアの熱血講義

食事が終わると、コロナとウォルフとサラと訓練をすることになった。

水の適正があるみんなは、ある程度の訓練をしている者達だったが、コロナとウォルフはつい最近魔法の適正が分かったのだ。

信心深いコロナは早くに瞑想のコツを掴んだが、ウォルフはやはり魔法より剣術に向いているように見えた。


「なあ、アキラ。瞑想をする意味を教えてくれないか?」

「今それを言う? 魔法を使うのに必要だって事は分かるよね」

「ああ、それは分かっている。でも、目を瞑るだけじゃないんだろ? 魔力がどこにあって、どう引き出すのか、いまいち分からないんだよ」

「サラさん、説明出来ますか?」

「うーん。私達って気がついた時には魔法が使えていたからね。ルーシーも瞑想が得意なタイプじゃなかったけど、問題なく使えてたよ」


ウォルフには私見という前置きをしてから、魔力がどんなものだか説明をしてみる。

多分魔力とは、体を巡っている物だということを薄々感じていた。

もしかすると血液に似ているのだろうか? 全身を巡るものなんて血液しか知らないから、その喩えを使って説明を始める。


「ウォルフ。魔力を血液として考えてみるよ」

「ああ」

「普段の生活で、血を見る機会ってあるかな?」

「実践形式の訓練をすれば、誰かはそういう場面はあるな」


剣術で有名な家系とはいえ、ウォルフには少し残念だなと思う時がある。

これだけ容姿が整っているのだから、剣術から離れればモテモテなのは間違いない。

現にダンスホールでは、ウォルフの熱狂的なファンが多くいるのだ。話を元に戻して説明を続ける。


「普通の生活をしていると、血って見ないじゃない」

「そうだな」

「でも、見えないからって、血液が止まっている訳じゃないよね」

「ああ、怪我をしたら血が出るからな。ずっと止まってたら、多分固まるだろ?」


固まるかどうかは分からないけど、血液が体中を循環しているということは理解しているようだ。

そんなウォルフに、『血液を感じるには、どうしたら良いか?』と質問をしてみた。勿論、怪我とかは一切なしでという条件付で。

出した答えは、激しい特訓をしたら息がハァハァするし、心臓がドキドキするといった事だった。

いつの間にか、ワァダも話を聞きに合流していた。


「それも一つの方法だよね」

「やっぱり、特訓は大事だよな」

「その話は私も興味があるね。でも、アキラ君には別の答えがあるみたいだけど」

「分かりますか?」


ワァダがニコニコと、こちらの返事を待っている。

魔法に関する様々な仮説を収集して、魔法の知識と技術の向上に繋げるのが、宮廷魔術師団の役割の一つらしい。

国家間の争いが少ない今、軍事力としての魔法より、生活に根ざした魔法の使い方を求められていた。


「静かに息を整えて、脈を診るんだ。手首のこの辺とか、首のこの辺とか」

「自分の脈を感じるのは難しいな」

「そういう時は、誰かの脈を診るのでも良いと思うよ」

「トクン……トクンって言っているな」

「命の鼓動って感じだよね」


人の脈を診る時、診てる人も診られている人も騒ぐ事はしない。

そして、みんなが自分の仮説を静かに見守っている。

ウォルフは脈を診ながら、静かに目を閉じて意識を集中している。

トクン……トクン……。


「なぁ、そこで何やってるんだ?」

「はぁ……、フレア。タイミングが悪いですよ」

何かを掴みかけていたウォルフが冷たい視線でフレアを見て、コロナも同じような目をしていた。

サラは「瞑想の訓練ですよ」とフレアに説明をしていたが、上手く行きそうな空気を壊したのは誰が見ても明らかだった。


午後の講義の為、場所を学院に移すと、こっそりヘルツに手招きされた。

公的には存在しない、盗賊ギルドの副ギルド長だけあって迫力は満点だった。

そんなヘルツが、「夜おやっさん家に行くから、アーノルド領まで送って欲しい」と言ってきたのだ。

公務らしく先にスチュアートの許可を取っており、特に問題はないので了承を告げる。

午後の講義は、フレアが中心になって青空教室となった。


「火の属性魔法の講義を始める。自分の関係ある精霊さまの事だけではなく、幅広い知識と尊敬の念を持って受講するように。それではフレア、お願いします」

「火の属性が司るもの。それはその名の通り火であり熱だ」


序盤のフレアは、前半にワァダの講義を見ていたので、順調な滑り出しだった。

この国では圧倒的に火魔法を使える者が少なく、戦闘レベルまで使えるのは俺しかいないと徐々に熱が入ってきた。

ヒートアップをするとワァダが咳払いをする。そして、落ち着いた後に徐々にヒートアップをする。

所々あった擬音が擬音だらけになり、「なぁ、わかるだろ? この魔法使いたいよな」と、生徒を巻き込むようになってくると、徐々に生徒側が引いているのが感じ取れた。しらけた講義でフレアの伝えたい事が一段落すると、ワァダが「質問があったらフレア先生が受け付けてくれるぞ」と生徒達を煽った。


「はい! フレア先生。宮廷魔術師団で一番魔法が強いのは誰ですか?」

「フレア、生徒からの質問だぞ。お前の思う一番強い者を言ってみろ」

「んー? 俺かな?」


ワァダが苦笑いすると、その生徒に「君が思う、『魔法の強さ』を教えてくれないかな?」と質問をした。

この生徒が思う魔法の強さとは、『広範囲高火力』の攻撃魔法だった。

フレアが同意を示しながら近付こうとしたので、ワァダが引き止めフレアの代わりに生徒に答え合わせをした。

ワァダが言うには、その条件ならフレアは宮廷魔術師団の三本の指に入っているそうだ。


「はい! フレア先生。瞑想を覚えている途中なのですが、コツがあったら教えてもらえませんか?」

ウォルフの質問に笑いが起きる。それくらい出来て当たり前のメンバーが集まっているようで、「それくらい何で出来ないの?」とか「ここに何しに来ているの?」とかいうヒソヒソ声が聞こえてくる。

少し怒っているサラが立ち上がろうとした時、フレアが「俺も上手く出来ないぞ」とウォルフにニカッっと笑った。

生徒達はザワザワしている。すると、ワァダがまたまた補足をしてくれた。


「あー、まずみんなに言っておく。尊敬の念を持って講義を受けるようにと言ったよな。ウォルフ君は魔法の勉強を始めて半月も経っていない」

「え……」

「みんなはその時期に習得していたか? そして瞑想の意味を理解していると言ったが、本当に出来ているのか?」


ワァダはウォルフに語りかけるように伝える。

「まず、火の属性魔法は特別らしい。風土水を含む属性魔法を覚えるには、前段階として瞑想を行い、魔力を感じ・掴み・練る等の操作が必要になってくる」

「はい」

「ところが火の属性魔法は、主に感情に左右されると言われているんだよ」

「あー、そういえば。いっぱい怒られたり、細かく集中力を高めてとか言われると、魔法がうまくいかない時があるな」


説明を放棄したフレアは、ワァダの解説に乗っかって頷いていた。

学生時代は火の属性魔法を誇り、宮廷魔術師団や冒険者として活動した時には、多くの成果を出し同時に多くのお叱りも受けていた。感情がモロに魔法に反映される属性魔法だけあって、フレアのやる気をコントロールする上司の方が、先に胃や頭痛にやられる事が多かった。そんな昔話を聞いた後、最後の質問として「どうすれば火の属性魔法を使えますか?」という質問があがった。


この場所は広い土地で、周りを気にしなくても大丈夫な場所だった。

「では、軽くデモンストレーションを行う」と言ったフレアは、高らかに火の精霊さまと正義を謳いながら、真上に向かってファイヤーボールを打ち上げた。花火が上がるより遅い速度で真上に飛んだファイヤーボールは、かなりの高さの地点でドゴーンという音を立てて、地面を揺らしたように思えた。教室にいる生徒達は一斉にこちらを確認し、教師達が現状確認にやってきた。

上空の煙は風に流されて消えたが、教師達はフレアを見ると、何故かワァダに冷たい視線を浴びせて帰っていった。


ワァダがフレアの後頭部を平手打ちすると、後ろから頭を鷲掴みして、やってきた教師達に頭を下げさせている。

半数の生徒が高火力な魔法に感動しているが、ウォルフはあっけに取られていて、コロナは静かな怒りに耐えていた。

予想外に盛り上がった講義に気を良くしたのか、フレアは精霊さまに教わったとっておきの呪文を教えてくれることになった。

フレアはウォルフと何故か自分を指名し、前に出てきて同じポーズに同じ呪文を唱えるように言われた。


『煉獄に燻る青き炎よ』

右手をグーにして左肩の位置に置き、どこかの敬礼のポーズをする。

『我が魔力を喰らい』

両手をグーにして両肘を引き、応援団のオスのポーズをする。

『敵を滅ぼせ』

空高く右手のグーを突き上げて左肘を引く。

『ファイヤーボール』

振り上げた右手を真っ直ぐ下ろし、銃を撃つポーズをする。


説明を聞きながら同じ台詞を喋るだけでも恥ずかしいのに、よく意味が分からないポーズまでつけるのは正直きつかった。

座って聞いているみんなもクスクス笑っているし、ワァダなんて軽く噴出している。

「これは罠なんじゃないか?」と思っていると、フレアがじゃあ合わせてやってみようと言い出した。

ヒソヒソ声とクスクス笑いが段々大きくなり、ワァダも「みんな、講義中だぞ」とやんわりとしか抑えていない。

講義がカオスになっていると、コロナが「お兄ちゃん、もう止めて!」と立ち上がり、自分の発言に呆然としていた。


「お兄ちゃん……」

「それでか」

ウォルフと自分は、フレアとコロナの関係を知らなかった。

駆け出したコロナをフレアが追いかける。そして、講義を引き継いだワァダが「フレア先生は抜けている所もあるが、宮廷魔術師団の仲間であり、軽く見て良い相手ではないよ」と生徒達に釘を指した。

魔法使いのエリートしか入れない宮廷魔術師団にいる以上、腐っても鯛ということなのだろうか?

ぐだぐだになった合同講義は、ワァダの締めの言葉で一先ず収まった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「おやっさーん、邪魔するよー」

「ヘルツ、静かに入ってこれんのか」


リュックにそこそこの荷物が詰まっているようで、腰には短剣を挿して、それを上着で見えないようにしている。

ヘルツは何かの任務を受けているようで、スチュアートから協力してあげて欲しいと言われていた。

普段は自分の魔法を利用するのは良しとしないスチュアートが、こういう依頼をするのは珍しい。

ヘルツがお金を皮袋に入れて出してきたので、スチュアートに受け取れませんと言うと、今後も極一部にだけどこういう依頼が来るかもしれないからと受け取るように言われた。

スチュアートの頼みならば、やっぱりお金を受け取るのは良くないと思うのはいけない事だろうか?


ここで時間をかけて押し問答をしても仕方がないので、いつもの部屋に行きゲートを開いてアーノルド男爵領へつなげた。

家人の一部は魔法の事を承知しているので、屋敷から出る事も用事が終わった後の滞在も問題がなかった。

『現当主の面倒を見ている』と、家人に豪語出来る心臓の強さは見習いたいけれど、盗賊ギルドとしてのヘルツは素直に言うと関わりあいたいとは思えない。そんな彼がアーノルド領で何をするかは、気にしないことにした。


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