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083:想像力

 水の属性魔法で、発生した水が零れるのは仕方がない事だ。

液体が決まった形を維持する為には、それを支える固体が必要になる。

胸の前に組んだ手のひらから、水の魔力を発生させる。

そして、その魔力に冷気を注ぎながら大きくしていくと、氷の玉が完成した。

水の精霊さまの後ろにいる、白い着物を着たユキが、小さくパチパチパチと拍手をしていた。


「何かが違う……」

「アキラ、それ魔力で留めることは出来ないのか?」

「うん、液体だから下に下に行くんだよ」

「じゃあ、その一番下の液体を上に持っていったらどう?」

「ウォルフ、その発想はなかった。本気で凄い」


 誰が一番先にコツを掴むのか、周りの人は上手くいっている見本を探していた。

そして、ウォルフの言葉で一斉に集中をし始めた。

集中力が魔力を引き出し、魔法瞬発力に変わる。集中力が魔力に反応し、魔法攻撃力に変わる。

水を汲み出すということは、鉄棒に足でぶら下がっている状態で、腹筋で水瓶からコップやお猪口を使って掬うという作業に似ているのかもしれない。


 水の属性魔法に目覚めた多くの者が、水の塊を作るのに時間をかけ、下に溜まった水を上に汲み出すという作業を慎重に行う。

慎重に行う作業と速さ重視で行う作業を、きちんと分けられていない為に、水の塊が歪になってしまっているのだ。

元漁師だった自分は、ウォルフのアドバイスでイメージしたのは海流だった。

親潮と黒潮ぶつかる場所は、良い漁場となることを知っている。

また、離岸流など波や潮の持つ力は、想像以上の力を生む事を知っていた。

胸の前で手のひらを重ね集中すると、一瞬のうちにサッカーボール大の水の塊を作った。

周囲からの叫びを集中力で遮断し、二つの流れを作り出すと水の塊は球状に安定した。


「アドバイスから発想できるとは、筋が良いわね」

「水の精霊さま。ありがとうございます」

「でも、まだまだ精進が必要だわ。そのウォーターボール、大きさはそれで良いのかしら? あの黄色いおじいちゃんに向けて、投げてごらんなさい」

「良いのですか?」

「おじいちゃん、行くわよー。カキ氷はもう終わりね」


 黄色い小さい精霊さまが杖を構えている。

手の中にあるウォーターボールは、時間が経つにつれて波紋さえもなくなっていく。

段々、水の魔力と制御の仕方が分かってきて、明らかに動かしているという行動が目に見えなくなっていたのだ。

水の精霊さまの指示通り、黄色い精霊さまにウォーターボールを投げると、突如黄色い精霊の目の前に砂の壁が発生し、パシャっと水ヨーヨーが破裂したような軽さを感じた。


「拍子抜けなのじゃー」

「精霊さま、大丈夫ですか?」

「これではリュージと一緒なのじゃ。手段を得たなら、その先を思索しないと、学んでいないのと一緒なのじゃ」

「すみません」


「もし、傷つけてしまうと恐る恐る使うなら、道具を使うべきではない。時には素早く時には力強く、これから行う自分の行動に責任を持ち、それに見合った威力の魔法を使えるようにするのじゃ」

「リュージが攻撃魔法を使えない理由はここにあるの。それでも、そういう魔法を使わないと決断したならいいの」

「おねいちゃ。初めてにしては凄いと思うの」

「ユキ。今は私達が魔法を覚えた者に言わなきゃいけないものなの。いくら女神さまから、長い目で見なさいって言われてもね」


 そういえば、スチュアートからも似たような話を教わっていた。

それは剣術を学ぶ時と、養子になって貴族として生きていくと決めた時だった。

武器を持つということは自制心を持たないといけない。

武器を持たずに暮らせるにこしたことはないが、誰かを守る場合に手っ取り早く武器を持てば、相手は戦意を喪失するかもしれない。ただ、近距離武器には遠隔武器、更には銃やミサイルなど優位に立とうと思ったらキリがない。

そこで貴族なら誰でも習う片手剣が主流になり、それなりの礼儀が剣術に付随していた。

この剣術に相当するのが、魔術師や魔法使いにとっての魔法だった。


 料理をする為の包丁も、使い方を間違えれば凶器になる。

切れない包丁で魚を捌けば、味を悪くするし魚の絞め方にも影響する。

道具を大切にしない者は、職人としても失格である。


 先程のワァダとサラのウォーターボールは、見た目がほぼ同じ大きさだった。

多分、自分が作ったものより多くの水量が込められているだろうし、それを投げやすい大きさに圧縮しているだろう。

精霊さまが教えてくれた魔法を、精霊さまが見てくれている前で練習出来るのは滅多にない経験だ。

さっきと同じ魔力量を水の属性に変換する。そして、水の流れを作りながら、徐々に圧縮しながら安定させていく。


「出来たようね。じゃあ、おじいちゃん。もう一球いくわよー」

「どんと来いなのじゃー」

「コントロールは悪くなかったわ。後はあなたの本気度合いを見せる番よ」


 魔法使いっぽい精霊さまであるおじいちゃんは、余裕そうな感じだった。

袖を軽く引くと、杖を片手で持ちこちらに向けている。

これは予告ホームランというよりかは、予告ピッチャー返しのようだった。

細く小さいはずのおじいちゃんのバットが、徐々に大きくなっているように感じる。


「おじいちゃん、杖を強化するなんて大人気ないわ」

「身長差と魔法の大きさを考えるのじゃ。対策をしないと、巻き込まれるだけなのじゃー」

「おじいちゃ。頑張った子には、やさしくして」

「ユキちゃん。直撃は痛いのじゃ」


 精霊さま達が騒ぎだしたので、みんなは一旦手を止めている。

そして、こちらの魔法も思った通りの大きさまで圧縮できた。

おじいちゃんの後ろには、緑色のピー○ーパン風の精霊さまが植物を編みこんでマスクとグローブを作っている。

片膝をつき、こちらの魔法を受け止めてくれるようだ。


 キャッチャーの精霊さまと、視線でサインを確認する。

2アウト2ストライク3ボールで、いつの間にか満塁になっていた。

こういう知識はどこから得てくるのだろうか? 可笑しくなったけど、集中力を途切れさせてはいけない。

水の精霊とユキに、何かをアピールしているおじいちゃん。そして、キャッチャーの後ろにもいる、ウサギの着ぐるみを着た水の精霊。プレイの掛け声と共に、おじいちゃん目掛けて、ウォーターボールを投げ放った。

「ま、まだ心の準備が出来てないのじゃー」


 圧縮されたウォーターボールがホームベースを通過する刹那、おじいちゃんは見事なスイングで杖に魔法を当てていた。

後はスイングの勢いと遠心力で、空高く打ち返すだけだった。しかし、水の塊がおじいちゃんの杖をガリガリと削っていく。

それは一本の投擲槍のごとく、先端が尖り更に回転が加わっていった。


「ウォーターボールと言ったのに、ずるいのじゃぁぁ」

「あら、応用も出来るなんて優秀ね」


 おじいちゃんの杖のスイートスポットから、硬化の魔法が広がっていく。

そして、打ち返すのを諦めたのか、おじいちゃんは杖を中心に石壁を地面に向かって伸ばしていった。

ブーブーと精霊さま達から非難の声があがる。投げ終わった後も、まだ魔法への干渉力は終わっていない。


『回れ! 貫け! 圧縮しろ』と念じると、石壁を貫いて後ろの緑色の精霊さまが、その魔法を水の固まりに戻してミットでキャッチしていた。壁が突破されたおじいちゃんは、力の行き場を失くした杖をふらふらとスイングした。

マスクを投げ、感動した緑色の精霊がこちらに飛んでくる。

ランナーである水の精霊は砂を集めているし、ここはお約束通り緑色の精霊さまと熱い抱擁を交わした。


「アキラ、何をしているんだ?」

「ああ、ごめん。ちょっと、盛り上がっちゃったみたいで」

「水の属性魔法を覚えたようだな。俺も火の属性魔法使いたいなぁ」

「水の適正がある、みんなが覚えられたのは大きいわね。ウォルフ君も頑張ってね」

「はい。サラさん」


 みんながウォーターボールの魔法を工夫している間に、精霊さま達が自己紹介をしてくれた。

水の精霊さまは、まずユキを紹介してくれて、ユキは雪や氷を司る水の精霊さまらしい。

ただ、魔法の特性としては『固体・堆積』など土の属性魔法に近く、季節限定で活動する為、出会えるのはレアらしい。

どの精霊さまにも当てはまるが、自然現象と密接に関係があり、天災の引き金になることもある。


 今回、魔法の的になったのは、土属性の精霊さまだった。

頻繁に出歩くので遭遇率が高く、気に入った子には積極的に魔法を教えてくれるらしい。

美味しいものに目がなく、女神さまからこの地の管理の、大部分を任されているようだ。


 キャッチャーを務めてくれたのは緑の精霊さまで、植物属性の精霊さまだった。

ここは植物属性の『精霊の園』であり、眷属である昆虫の為に、リュージにお願いをしたそうだ。

眷属の長ともいうべき者も現れたので、この農場内で新種の植物にうっとりする毎日だった。


 この農場自体、精霊さま達にとって魔力が濃く、住みやすい土地となっている。

しかし、風の精霊さまは放浪癖があり、火の精霊さまは戦いのある場所によく行くという。

今回は水の精霊さま達が多く集まったが、こんなことは稀だった。

水の精霊さまはワァダを呼ぶと、今後は農場で魔法の訓練をする場合は、事前にブラウンに報告するように注意した。


「サラさん。ブラウンさんに報告すると、精霊さまに伝わるんですか?」

「うん、その方も精霊さまだからね。建物の精霊さまで、ブラウニーのブラウンさんだよ」

「精霊さまって、いっぱいいるんですね」

「そうなの。でも、あまりこちらから話しかけちゃいけないんだ」

「サラさん。火の精霊さまはいないんですか?」

「いない訳じゃないわ。でも、あの属性だけは、才能って言われているの」


 今回はある一定の成果を得たと判断し、みんなは帰り支度を始めている。

全員で精霊さまにお礼を言うと、農場の食堂を目指す事にした。

その帰路でサラが、さっきの続きをコロナとウォルフを交えて話してくれた。


 この世界の人々には、魔法を使える素質があるらしい。ところが、長い期間「魔法は特別だ」という意識が染み付いてしまった結果、魔法を使える者が極少数しかいなく、それが魔法使いの増加にブレーキをかけていた。

その時代では魔法と言えば攻撃魔法であり、一般人どころか為政者達にまで危険視されていた。

そんな魔法や魔法使いも時代の流れで安全だと分かり、人々は魔法の恩恵を受けながらその存在を受け入れていった。


 人々が属性魔法を覚える際、やはり四大属性魔法が中心となる。

地方によって多少差はあるが、概ね土と水属性が多く、その後に風ときて、最後に火属性というような順になる。

それはそれぞれの精霊さまに愛されやすい者が覚えやすく、特にその特徴が顕著なのは火属性魔法らしい。

火花や熱といった初期の魔法を覚えても、その先の攻撃魔法まで昇華出来たのはフレアだけだった。


 お調子者で感情にムラがある。繊細な作業は苦手で、感情で魔力を引き出す珍しい集中の仕方らしい。

これと決めた事には真っ直ぐ進み、自分と敵対する者には真正面からぶつかる。勝てるか勝てないかは関係ないのだ。

一言で言えば『熱血』であり、『正義』が大好きらしい。

そんなある意味扱い易い者などいるだろうか? フレアを見た後コロナとウォルフを見た。


 ウォルフはちょっと、当てはまってるかもしれないな。そう思っても口に出しては言えない。

食堂に到着すると、午後には火属性魔法の特訓をすると聞き、それぞれ食事に向かった。


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