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081:きっかけ

 前日からダンスホールには、年配の見学者が来ていた。

正体を知っている女生徒は少ないけれど、ローラやギレン料理長と和やかに話しているということは、もしかすると上位の貴族家の人か、話し好きの男性なんだろうと女生徒達は噂話をしていた。

あまり無駄話をしていると講師に叱られてしまうので、アップも終わった事だしレッスンに集中することにした。


「そうか、ミレイユ嬢には想い人がいたのか」

「厳密に言うと、恋に恋をしている感じでしょうか。おじさまはどう思いますか?」

「この話を進める分には、別に構わんよ。今現在付き合っている者がいるとして、紹介後も続くなら考え物だがな」

「外にいた者は、関係ありませんからね」

「ああ、分かっておるよ」


 レッスンが始まると、講師の指示によりパートナーが決まっていく。

穏やかな曲だけではなく、情熱的な音楽が流れる時がある。

自分とウォルフはレイシアの特訓で、大体のジャンルが踊れるようになっていた。

レッスンの後半に行くに従って難易度は上がっていくが、それでもワルツが人気なので、大部分はその曲に充てられていた。


「年頃の女性が頑張っている姿は、良いものだの」

「あら。おじさまは、もうそんな事を言う年齢ですか?」

「枯れているかという意味なら、そうでもないぞ。ただ、若者が元気なのは国にとっても良い事だろう」

「そうですわね。それで、あちらで踊っている子が……」

「ほう、確かアキラ君……と言ったかね」


 公爵とローラは少し離れた所で、お茶を飲みながらレッスンを見ている。

今では年配と言われてしまう年齢でも、若い時はダンスで周りを沸かせていた程だ。

そんな公爵は昨日のダンスの癖だけで、マスクの人物を当ててしまっていた。


「適齢期に入ったミレイユが、11歳の少年に釣り合うと思いますか?」

「恋や愛で言うならば、問題ないだろう。ただ、現実問題として、難しいだろうな」

「この話が来ても来なくても、ミレイユには淡い恋を諦めて貰わなければなりません」

「ローラ殿も、一人前のレディーになったのですな」

「あら、レディーと言ってくれるなんて……。もう二児の母ですのに」


 ダンスとダンスの間に、ローラから呼び出しがかかった。

隣には公爵がいて、仲良さそうに笑い合っていた。

先に公爵に丁寧に挨拶をすると、ローラに用件を尋ねた。


「その前にアキラ君」

「はい。あ、いや。キッドです」

「うん、今はいいの。もうバレちゃってるしね。アキラ君はミレイユの事をどう思う?」

「えーっと。素敵な人だと思います」

「じゃあ、メリルは?」

「素敵な人だと思います」

「じゃあ、あの三人娘は?」

「面白い人だと思います」


 ローラは公爵に目配せをすると、公爵は軽く頷いた。

「じゃあ、彼女に特別な感情は?」

「職場恋愛は禁止だと聞いていますし、今は色々あってそういう時間は足りないです」

「アキラ君、それは答えになっていないね。あまり人に話す事ではないと思うが、彼女に縁者を紹介したいので教えて貰えるかな」

「ああぁ、失礼しました。ここで会うだけの、ダンス相手としか見ていません」

「そうかそうか」


 ここからはローラが説明をしてくれた。

彼女は男爵家の一人娘で、将来的に婿養子を望んでいる。

貴族家の次男三男には格好の標的で、特産品がない家や文武に長けていない家には、自分の血筋を高いレベルで残せるのは嬉しい事だろう。そんな他力本願の努力もしない家柄では、やってくる人材も底辺に近かった。

結果、さっきみたいなロクでもない者が群がる結果となる。


 そんなミレイユが、ダンスを通して自分に興味を持ったみたいだった。

管理者であるローラとアデリアが、『協定』と称して抑えてはいるが、出来れば女生徒達全員を応援したいという気持ちがあるらしい。正直、ここにいる男性は料理班を除けばウォルフと二人だし、確率で言えば半々だ。

『女子校の生徒が、男性教諭に惚れる感じなのかな?』と思った。


「それでね。アキラ君には一度、ミレイユとデートして貰えないかなと……」

「デートって、相手は貴族家のお嬢さまですよね」

「うん、だから付き添いも必要なんだけど……」

「皆さんは納得しているのですか?」


 色々聞いてみると、翌週の土曜日頃に公爵はミレイユに紹介をしたいらしい。

そして、明日の月曜は三校合同の魔法の実習を予定している。

問題はキッドとして会うかアキラとして会うかだった。


 とりあえず金曜の昼食頃から会う事にして、こちらの付き添いはウォルフにお願いすることにした。

先方への挨拶は、ローラが段取りを整えてくれるらしい。

本日のレッスンを滞りなく終え、ウォルフには事情を説明して金曜日の予定を空けてもらった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「じゃあ、水属性の班はワァダが引率する」

「火属性の班は、俺様フレアが担当する」

「今日は三校合同だが、お互い尊敬の念を持って接するように。後、既にその属性を見につけた者もいるので、コツとかを聞いてもいいだろう。それでは行くぞ」


 月曜になり三校合同の魔法実習が始まった。

大きく二グループに分かれていて、土と風属性班はサリアルとメフィーが別の場所で講義を行っている。

相反する属性が一緒のグループになったのは、暴走した時の対策の為だった。

主に『誰がフレアを見張るか?』という、貧乏くじをワァダが引いた形になった。


 水属性班は、サラを筆頭に自分の他は6名くらい集まった。

火属性班は、ウォルフとコロナだけで、なんとなく緊張感が漂っている。

なんか講師であるフレアとの距離が少し遠いような……。そういえば、フレアもコロナも同じ太陽に関する用語かなと思った。

それからお互いの班の声が混ざらない位置で、青空教室になった。


 水の属性の特性は、『液体・どのような形にはまる・冷気・雪・氷』などがあり、四属性にそれぞれあると言われている回復魔法で現存しているのは、リュージとサラが使える『ヒールミスト』という魔法だけだった。

隣でも同じように、フレアが二人に向かって特性を説明している。

こちらとは違う緊張感が気になって、ワァダの説明があまり頭に入ってこなかった。


 魔法を覚える為には、その魔法を使うしかない。

水属性魔法を覚えるのに、何か水属性魔法を使わなければいけないとは本末転倒である。

魔法科の学園生であったワァダは、在学中最後まで魔法を覚える事はなかった。

その後は普通に就職し、転職の際にGR農場に就職した。


 幸いにして魔道具を使えるくらいには実力があったワァダは、用意された水撒き用の射出型魔道具を担当するようになった。

説明してくれた形状を簡単に言うと、小型のガスボンベを手押し車に乗せているような移動可能なものだった。

何人かで交代で魔道具を使い、そのうち担当が決まっていった。

そして、ある時「この魔道具の役割って、自分の魔力を使って発現出来るんじゃないか?」と思ったのだった。

今日はGR農場の許可を得て、その魔道具を使わせてもらえる事になっているらしい。


 ワァダは移動の時に少し暴露話をしていた。

今回、それぞれが学びやすい特性が分かって、各校の講師達はとても悩んだ。

魔法を覚える下準備を教える事は出来るが、明確な魔法を覚える手段が確立されていないのだ。

神聖魔法では女神さまに祈る、そして想いを届けるという明確な手段が存在していた。

こちらの二班では、前半はGR農場で魔道具を使って魔法を使う感覚を磨き、後半はフレアの企画が実施されるらしい。


 早くに到着したこの団体は、まずガレリアに挨拶してから水撒きを手伝う事にした。

「方角よーし、角度よーし、水撒き開始しまーす」、サラの見本に全員が集中する。

ゆっくり魔道具に魔力を注ぎ射出口に魔力が灯ると、水色の光が表面張力のように膨れ、球状になった水の塊が上空に打ちあがる。水の塊が最高点に達すると、そこで弾けて霧状に降り注いだ。「おおぉ」という歓声と共に拍手が起こる。


 順番に並んで魔道具を操作させて貰う。

やっぱり同じ学校に通う人で固まるのは普通で、自分の隣にはウォルフがいた。

「ねえ、ウォルフとコロナって、フレア先生と何かあった?」

「いや、特に何もないけど……。でも、あの人に教わるのはちょっとなぁ」

「コロナさんは大丈夫?」

「あ、えっと。……はい」


 慣れない生徒には、ワァダとサラがサポートをしている。

魔道具の扱いは問題ないらしいけれど、何人か角度が微妙で樹木エリアに打ち込んで、管理者であるドワーフのゴルバから苦情がやってきた。これも予定調和だったようで、ゴルバはワァダの顔を見ると、「小僧が大きくなったものだ」と言い戻って行った。

自分の順番では同じ場所に打ち込まないように、念入りに方角を確認し、魔道具を発動すると及第点を貰えた。

コロナも順当に発動させると、最後はウォルフの順番になった。


「なあ、アキラ。これってどうやって操作するんだ?」

「イメージとしては、『聖火台』の時と一緒かな? 少し後ろからサポートをするよ」

サラがまだ水撒きしていないエリアを確認すると、ワァダが方角と角度を修正する。

「目を瞑って、魔道具を意識して。返事はしなくていいよ」

ウォルフの背中に手を乗せ、メディテーションの魔法を唱えると、無事みんなと同程度の水球が打ちあがった。


「ウォルフ君は、まだ一週間くらいしか学院に来ていないよね。貴族の学園に入学する事が決まっていなかったらなぁ」

「ワァダ先生。彼の才能は、火の属性にあるのですよ」

「うん、だから頑張ってねフレア」

寒い時期なのに、何故かフレアが冷や汗をかいているように見えた。

この人は熱血過ぎて墓穴を掘る人だなと思った。儀式でも色々な人から怒られていたのを覚えている。


 魔道具を一回撃っただけで、水属性魔法を覚えた者はいなかった。

まあ、魔道具は魔道具なので、魔力を扱える者ならば魔道具職人の技術によるところが大きい。

逆に言うと、ウォルフが魔道具を使えた事の方が驚きだった。

それから、「魔法使いは、体力もつけないといけない」と言い、農場の奥へ奥へと進んでいった。


 ワァダとサラが先頭に立ち、最後尾はフレアが務めている。

段々列が間延びしていくのは、魔法科の学生の弱点とも言える。

自分達が後ろの方に陣取っているのは、前方にいると中盤が間延びしすぎてしまうからだ。

前を歩いているコロナを応援しながら歩いているが、後ろから妙な視線を感じていた。


 不意に振り返って、フレアの顔を見る。

「な、なんだ? 質問でもあるのか?」

「フレア先生って、コロナさんと何かありましたか?」

「いや、何もないぞ。前が空いているから、きちんと歩くように」

「何か視線を感じるんですよね。問題なければ場所変わってもらえませんか?」


 こちらの提案は問題なく通った。

フレアが言うには後ろに俺がいるんだから、後ろから視線を感じるのは当たり前だろうと言っていた。

ウォルフも自分も体力は有り余っている。置いていかれる心配はないので、ゆっくり見学しながら後をついていった。


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