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078:愛の形

 トルテと王妃が同席して家族で昼食を取っていると、大体の聞き込みは完了した。

アーノルド家として何をアピールしたいのか? それに対する気持ちを料理の題材に取り入れると、自然とメニューが決まっていった。午後の予定は、スチュアートとウォルフがセルヴィスとの剣術訓練で、残ったメンバーは農場見学とレンとのお茶を楽しむらしい。自分は社員食堂に残って、トルテとメニューを確定していく。


 サリアルのところに行き、来週の月曜にある各校合同の魔法訓練に申し込むと、ウォルフとコロナも参加するようだった。

来週も挨拶回りが多くあるようで、「好きな時に好きな夜会に参加できるけどどう?」とレイシアに予定を聞かれたけれど、ウォルフと二人で辞退を申し出た。

ウォルフに関しては今社交界に出ても貴族の学園に入学する時期が遅く、自分に関しては貴族の義務より、冒険者としての勉強を優先して欲しいという親心らしい。

今回の主役はミーシャなので、彼女は拒否権なく全てのパーティーに連れて行かれる予定だった。


 夕方にセルヴィス家に着くと、1台の馬車があった。

セルヴィス・スチュアート・ウォルフと自分が応接に集まると、来客はアンルートとカエラだった。

前当主・現当主・次期当主にデュエルの相手という、アーノルド家を代表する者とプラスアルファに面談にきたようだ。

お茶が届くとセルヴィスは、応接に近づかないように指示をだす。カエラ付の侍女も別室で待機していた。


「皆さま、この度は当家と男爵家がご迷惑をおかけしました」

「アンルートさま。その件は終わったことです」

「状況は聞きました。何度も謝罪をされましても、アーノルド家としては困ってしまうだろう」

「それでも、この気持ちが伝わるまで、謝罪を続けなければならないと思っております。私の兄も同じ気持ちで、あの地域を平和に住みやすい土地にする為にも、ここで皆さまに縋るしかないのです」


 車椅子の横に立ち、深々と礼をするアンルートに、セルヴィスは青年の気質を感じた。

真面目すぎるが故に、板ばさみになってしまう。そんな青年を育て見守るのは、年長者としての務めだと思う。

熱気を込めた謝罪をよそに、その横でカエラは能面のような表情を崩さなかった。素の表情を見せたのは自分とウォルフにだけであり、王都に来るまでの間、アンルートにはまだ自分自身をさらす事は出来なかったのだろう。


「スチュアートよ。何か言ってやらぬのか?」

「父さん、ここは任せて貰います。アンルートさん、貴方や貴方達の家を憎むことはありません。私達はある意味、裁かれなければならない立場ですから。それを乗り越えたとしても、トラブルの一つや二つは当然あることでしょう」

「今までの付き合いを全てなしにする訳ではない。後はゆっくり関係を築いていければ良いのではないか?」

「ありがとうございます」


 それからは、少し昔話をすることになった。

セルヴィスは、アンルートの目指すべき存在の、マイクロの暴露話をして笑いを誘い、スチュアートは近衛騎士時代の話を披露する。アンルートは幼い頃から交流があった、カエラとの昔話をすると、カエラの頬に若干赤みが差していた。

他愛もない話をすると少し打ち解けたのか、しばらくは王都にいるようで滞在先を教えてもらった。

セルヴィスはカエラの事を案じ、足の治療について最善を尽くす事をアンルートに約束させた。


 翌日はウォルフとコロナが一日魔法科の講義を受け、主に瞑想や魔力の引き出し方、魔法の概念の説明を受けたようだ。

自分はトルテとギレンの二人と念入りに打ち合わせをして、足りない部分はレイクに発注をお願いした。

この辺の手際はやはり本物で、一つのイベントに向かう勢いというか姿勢はレスポンスが早かった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 その日は朝から、しんしんと雪が降っていた。

パーティー当日とはいえ、ダンスホールのアルバイトは今日も予定をしていた。

午後のレッスンが90分位で終わるので、その後から本格的なパーティーの準備になる。


 自分は前日にリュージ家に呼ばれ、備品の移動の手伝いをしていた。

とは言っても、収納を持っている事を知っている上での手伝いであり、全部収納に仕舞ってアルバイトの後に出すだけである。

このダンスホールを含め、GR農場がらみのイベントがある時は、リュージ家所属の侍女が借り出される事になっている。

リュージ家の実際の居住場所はそれ程大きくはないが、倉があったり樹があったりアパートっぽいものがあったりと、なんだかんだ言っても大きな土地を所有していた。


 普通に暮らす上で「貴族ではないので、侍女はいらない」と言ったリュージだが、GR農場だけで吸収できない求人を何とか出来ないかと依頼を受け、試行錯誤した結果のようだった。

レンは元貴族の伯爵令嬢で侍女の扱いは慣れているし、上手く仕事を割り振って各所のサポート要員として活躍している。

他にも商業ギルド・冒険者ギルド・国の仕事での依頼用に、お願いできる団体を作り、そこも順調に活動しているようだ。


 レンとザクスは博士という役職を得て、それぞれ研究チームをGR農場に持っているし、国の機関とも交流を行っている。

元商業ギルド職員だったドワーフのゴルバも、GR農場に欠かす事の出来ない森エリアの管理者だが、国と商業ギルドの植樹活動に協力をしているし弟子も取っている。

まだ学院が出来る前に、セルヴィスが家の庭で教えていた剣士達は、多くの者が騎士にスカウトされたが、冒険者になった者も少なからずいた。またGR農場には時たま魔法に目覚める者もいて、セルヴィスの弟子達と一緒に冒険に出る事もあった。


 話を戻そう。

朝から多くの侍女と料理班が待機し、本日夕方からやってくるゲスト対応に備えていた。

主に下級貴族向けに開かれたダンスホールであるが、実際に今日初めて来るゲストも多くいた。

アデリア・ローラ・レンが貴族向けの対応を予定しているが、この施設はホールの他にもお風呂が売りだった。


 到着時間を連絡し、その時間限定で貸切風呂にする者や、大勢の男爵家子女が集まるダンスレッスンを興味深そうに見る者など、この日は予定時間前なのに多くの上位貴族が見学に来ていた。

貴族家当主が来れば、当然次期当主も同席するのがパーティーの常である。

既に社交界デビューをした子女達も、やはり年頃の高位貴族が見学に来るとやる気が違ってくる。


 この国の貴族は一夫一妻制ではないので、正室にはならなくても二番目・三番目のポジションを狙えなくはなかった。

公爵家では、ブルーローズという店から側室を迎えた実績もある。

この店は貴族家が運営していたが、働いている者は必ずしも貴族とは限らなかった。

何人かが若い男性と一緒に踊ることになり、講師の許可を得て優雅な踊りを披露していた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 夕方近くになり、ゲストを迎え入れる準備が整うと、順次案内を開始する。

今回は十家が参加することになり、その中で一番家格が低い家がアーノルド家と、男爵の令嬢ミレイユがいる家だった。

後は上から数えた方が早く、公爵・侯爵・伯爵はレイシアが婚約してた家で、王家という立場では参加は出来なかったがローラとローランドの妻セレーネが出席している。レンの兄であるルオンと妻アデリアは、もてなす方ともてなされる方は半々で、その他にも王家寄りのゲストが集まっていた。


 早いうちから集まっていたゲストは、夕方にはマッタリモードだった。

風呂に入ってワインを飲み、若者のダンスをツマミに過去を懐かしむ。

そして、夕方のパーティーに間に合わせる為、シャワーを浴びてシャキっとする。


 夕方近くに来たゲストは、冷え切った体を室内で温める。

今回、ルオンは自領から特産である、生姜をいっぱい持ってきてくれていた。

それをGR農場丸秘の蜂蜜で、ハニージンジャーティーとしてウェルカムドリンクをお出しする。

また、一種類では寂しいかもしれないので、これまたGR農場で生産されている特製梅酒をホットで用意していた。

程よい暖かさが、これからのパーティーを期待させていた。


「皆さま、本日は姉の為に集まって頂き、ありがとうございます。王国を騒がせた二人が戻ってきたので、精一杯いじってあげてください」

「こら、ローラ」

「では、義兄さん。皆さまにご挨拶を」


 ほぼみんなに笑われながら、スチュアートは照れ隠しに爽やかな笑顔をしていた。

そんな中、スチュアートとレイシアを真剣な表情で見守る目があった。

スチュアートが若い頃にとてもお世話になった、軍閥で名を馳せたハバナ子爵だった。


「本日は私共の為にお集まりくださいまして、ありがとうございます。貴族家当主としてまだ若輩者ですが、皆さまの治める領地を目指し、良い当主となりたいと思います」

「レイシアです。私達は口下手ですので、この踊りで挨拶に代えさせて頂きます」

ローラが合図を出すと、演奏者達が構えを取る。

音楽家のランドールが指揮棒で楽曲を指示すると、スチュアートとレイシアが踊る時の定番の曲が流れ出した。


 たった数分のダンスなのに、会場では全員うっとりするような空気で、時間が止まったようにも感じていた。

その間にレンが侍女達に、乾杯のワインを配るように手配をしている。

音楽の余韻と二人のお辞儀まで、まるでその空間を支配しているようだった。

スチュアートとレイシアにもワインが届くと、ローラの旦那である伯爵が乾杯の音頭をとった。


 今日は休憩場所のスペースを移動して、フロアと密接して食事が取れるようになっている。

それはディナーショーのような配置であり、特番でもあるF○S歌謡祭っぽい感じでもあった。

会話の邪魔にならないように、静かにゆったりとした音楽がさりげなく演奏される。

料理が配膳される間、公爵家から質問がスチュアートに投げかけられた。

二人の出会いから今まで何があったのか? それは貴族家として当然知っている情報だった。


「私達の出会いと言えば、やはり近衛騎士と王女としてでしょうか?」

「もっと前から出会ってはいました。ただ、それは王家と貴族家としての出会いであり、スチュアートを個人として認識したものではありませんでした」

「これは秘密でお願いしたいのですが、二人で相談してきましたので聞いてください」


 近衛騎士としての任務で大きなミスがあり、ペナルティーによる当主交代で自領に戻ると、程なくしてレイシアがお忍びの巡礼としてアーノルド家に到着した。領民と共に働き、お互いに長い時間一緒にいた事で、意識するようになったという設定らしい。

二人は見詰め合って、おかしくなって笑った。

出会いなど、どうでも良かった。ただ、「レイシアじゃなきゃダメだ」「スチュアートじゃなきゃダメなの」そう思っただけだった。


 ローラからの合図でウォルフを先頭に4人が、スチュアートとレイシアの隣に立ちお辞儀をする。

「私達は家族に恵まれ、幸せな日々を送っております」

「多くの人に迷惑をかけた以上、不幸になるのではなく幸せでいようと思いました」

「ミーシャの体も良くなったので、子供達には多くの人と出会い、それぞれ運命の相手を見つけて欲しいと思います」

アーノルド家全員でお辞儀をすると、大きな拍手が巻き起こった。


 料理はカップに入れたスープから始まり、サラダが並んでいた。

この季節に新鮮なサラダが出るのは、GR農場の功績が大きい。

地味な白菜の漬物や大根のタクアン等もあり、パンは二種類バスケットに盛ってある。

ここから出る料理は、三段重ねの本格的ティーパーティーに出るような、手軽に食べられて好きな物を好きなだけ取り分けてもらえる物だった。


 食パンの真ん中だけを使ったタマゴサンドに、ロールパンなどにハムを挟んだサンドイッチ。

小ぶりの煮込みハンバーグや、付け合せの人参のグラッセに揚げたじゃがいも。

ミートパイやキノコのシチューが入ったパイ。ロゼ色に焼き上げた肉や、飴色たまねぎのオムレツなどが好評だった。


 途中、ローラから前に出るように言われ、ウォルフからロロンまで自己紹介をすることになった。

ローラの子供である双子の、レイルドとミーアも一緒に挨拶をした。

すると、今度はリクエストにより子供達のダンスが見たいという話になった。

ロロンはまだ小さいのでレイシアの元に戻ると、レイルドとミーアが慣れているのかカップルになる。


「アキラお兄さま、お願いします」

ミーシャが自分を指名すると、ウォルフが一人あいてしまう。

すると、ローラはミレイユをステージに呼んだ。


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