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076:慌しい日々

 食事が終わりお茶をしていると、まずはトルテがやってきた。

「こんにちは、アキラ君・ウォルフ君」

「あ、トルテさん。こんにちは」

「こんにちは」

「そちらのお嬢さんも、こんにちは。料理長をしているトルテです」

「こんにちは、トルテさん。この料理とても美味しかったです」

「それは嬉しいね。僕達はその言葉を聴きたくて、やっているようなもんだからね」


 先週のかぼちゃ料理の試作から更に練っているらしく、GR農場も全面的にバックアップしてくれるようだ。

ただ、あまりかぼちゃ料理を推すと重くなりがちなので、バランス感覚が必要だと思う。

一度スチュアートとレイシアに、農場に来て欲しいと言っていたので伝言を預かった。

そして、その後ろから来たのが、厚手の革のエプロンをしたマッチョな男性だった。


「今日はレイクさんから、彼を紹介して欲しいと言われてね」

「お初にお目にかかります。グラントと申します」

自己紹介をすると、グラントの得意分野を教えてくれた。

グラントは資材調達部という部署にいて、多くの職人との繋がりがあるらしい。


 トルテが後を宜しくと戻っていくと、コロナも午後の仕事の為戻るようだった。

残った三人で打ち合わせをすると、概算で予算を組んでもらう。

それほど難しいものではなく、材料と加工費を考えても、スチュアートが渡してくれた支度金で間に合いそうだった。

カルラの為に道具を作成することが分かると、ウォルフも資金的に協力してくれるらしい。


 新しい商品を作る時は、商品の価値に応じて、商業ギルドが買い取りする場合があるらしい。

出来た物に関して、感想をグラントに伝える事を約束すると、作業を進めてもらうことになった。

時々調整の為確認に行く必要はあるが、来週いっぱいまではアーノルド家は王都に滞在する予定だった。


 今週は一日学院に通えるので、午後の講義に出ようとすると、ヘルツに呼び止められた。

これから騎士団の詰め所に行く予定らしく、問答無用で自分とウォルフに「勿論ついてくるよな?」と言ってくる。

特訓でお世話になったし、騎士団に行くと聞いたウォルフが楽しそうにしていたので、大人しくついて行くことにした。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ダールス・マイクロ・ヘルツが囲む中、客観的に見ていたウォルフがデュエルの状況を説明している。

周りで訓練している騎士達は、こちらをチラチラ見ていたけれど、たまにマイクロが発する言葉で訓練に集中する。

時々、「あのアンルートが……」とか「大人気ない」とか茶々を入れるが、「特訓が効いたな」とマイクロが言うとダールスとウォルフがこちらをじっと見てくる。


「アキラは、マイクロさんとヘルツさんに特訓して貰ったのか?」

「あ、あぁ。うん」

「何か歯切れが悪い言い方だね、アキラ君」

「マイクロ、不用意だぞ」

「ヘルツ、悪い……。ダールスさん、分かっているだろ? 口止めされているから、詮索しないで欲しいな」


 団長であるダールスはニヤリと笑う。ライバルともいうべき相手が密かに牙を研いでいた。

では、戦う相手の自分がこのまま衰える訳にはいかない。そう思うと、自然と笑みが浮かぶのも仕方がなかった。

しかも、形で言えば自分の所に所属していた騎士が、ライバルの孫に負けたのだ。

この後、訓練している騎士達は、地獄の訓練週間に突入することをまだ知らなかった。


 アンルートの上位互換であるマイクロと戦い、セルヴィスの鬼気迫る攻撃を逃げ、ヘルツの攻撃を目の当たりにしたのだ。

短期間とはいえ、それだけ上位の戦いを経験したら、実力が上がらない方がおかしい。

しかも、全員アーノルド家の戦い方がベースにあるのだ。さすが、スチュアートを舎弟と言い切るほどである。

後でアンルートが挨拶にくると伝えると、「『弱い騎士が負けた』と言われたまま、辞めさせる訳にはいかないな」と、ダールスはまたニヤリと笑った。巻き込まれないうちに帰ろうとすると、ダールスはウォルフに「素振りしていくか?」と聞いてきた。

午前で眠った後に食事をしたので、ウォルフは体がなまっていると思ったようだ。

「お願いします」と大きな声で返事をすると、何故か自分にも木剣をもって来た。


 ヘルツはダールスに見えない位置で、両方の掌を合わせて謝罪を表現している。

マイクロが何名かずつ呼んで、自分とウォルフに模擬戦をするように言ってきた。

午後の用件はすぐに済むはずだったのに、夕方近くまで模擬戦は続いた。

学院に戻るとウォルフはとても嬉しそうにしていて、セルヴィスと帰りが一緒になったので今日の事を報告すると、ヘルツを冷たい目で見つめていた。


「まあ、仕方ないな。それにしても、マイクロによく言っとおけ。この二人はまだ子供だ。指導するにしても、考えてやるようにと」

「おやっさんが、それを言う?」


 セルヴィスは更に冷たい目でヘルツを見る。

射殺す位の視線にヘルツが固まっていると、セルヴィスが肩にポンと手をやる。

「おやっさん、分かりました。ダールスさんにもきちんと伝えます」

「ああ、奴には今度ワインバーに招待して、きっちり話をつけとくよ」


 このセルヴィスの行動で怖いところは、その視線や醸し出す空気感の対象を限定出来る事だ。

緊張するヘルツの姿は自分とウォルフは確認できたけど、動けなくなるほどの視線をしているのに、自分達に感じさせないのは凄い事だ。おそらく、ウォルフはお爺さまが怖い人だという事を気付いていない。

ウォルフには、明日魔法の講義が合わないようなら、セルヴィスが直々に指導することを約束していた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 翌日も同じようにコロナとウォルフを案内して、魔法科の講義を受けた。

今日はワァダが講師で出ており、この三人組をきちんと認識したのか、講義が終わると話しかけてきた。

今日・明日・明後日で貴族の学園・冒険者の学園・学院と、講師とこれはと思う生徒を宮廷魔術師団の『聖火台』を管理している場所に招くらしい。コロナから聞いていた、四属性の魔法の素質を測れる『聖火台』を試すようだ。

貴族の学園は専門の科がないので、自薦がメインになると聞いた。

昼食を取るとコロナとは別れ、ウォルフと一緒にセルヴィスに稽古をつけて貰った。


 水曜日も同じように午前は魔法科の講義を受けると、講義の合間に講師から伝言を受けた。

どうやら部材が揃ったらしく、グラントが一度確認して欲しいと言っているのだ。

この学院では使っていない教室が多くあるので、そこを借りて部材を置き、職人が来てくれるそうだ。

タップも興味があるので、一緒に同席させて欲しいと連絡を受けている。昼食を終えると、ウォルフとその教室へ向かった。


「久しぶりだな、アキラ。今日は兄貴も一緒なんだな」

「お久しぶりです、タップさん」

「ウォルフです。今日は見学に来ました」

「ああ、宜しくな。今日は俺も同席させてくれと頼んだんだよ」


 グラントと職人にも挨拶すると、まずは部材を確認する。

掌に馴染むように、念入りに磨かれた手すりを長く連結させていく。

それを二本並べただけの、リハビリ用の歩行補助の設備だった。

今回は仮組みするようで、組み上げたとしてもバラして、各種調整をして納めてくれるようだ。


「なあ、アキラ。これで本当に彼女の足は治るのか?」

「ウォルフ、それは無理だよ」

「じゃあ、これは何の為に使うんだよ」

「うーん、ウォルフは雪深い時に、剣術の訓練を休んでたよね」

「ああ、無理して訓練しても、怪我をするかもしれないからな」

「久しぶりに訓練する時、いきなり全力を出せた?」


 ウォルフは自信を持って、体をほぐし入念にアップしてから、徐々に本気を出していくと教えてくれた。

そして、これは凝り固まった筋肉をほぐし、足だけでは心配なので腕で支える設備なのだ。

骨の問題はとりあえず置いといて、その後はカエラの努力が必要になってくるだろう。

協会にはアンジェラ経由で骨折の治療について調べて貰っているので、もしアンルートとカエラに王都で会えたら教えてあげようと思っている。


 組み立てていくと、まずは手触りをそれぞれ確認していく。

そして連結部分についてタップが指摘すると、修正箇所を職人がチェックしていく。

倒れないように、両方のバーが水平になっていることを確認すると、週末までには修正が終わるようだった。

身長的に職人が一番カエラに近いので、デモンストレーションとして、バーに力をあまりかけずに手を置きながら歩いていく。


「これは歩ける者には、有用性が分かり難いな」

「専門的な設備ですからね。病気なら治ったら終わりな事も、怪我だとその後のリハビリがいりますからね」

「アキラ、そういえば『聖別の儀』で聖者さま達が、昔リハビリに力を入れていたって言ってなかったか?」

「ウォルフ、それだ。どこかに専門機関とか残ってないかな?」

「それなら俺の方で調べといてやるよ。まだ残っている聖者もいるし、協会は意外と記録を残しているからな」


 そういう機関があれば、怪我を治すための滞在も出来るかもしれない。

ナーゲル男爵家の動向は気になるけれど、今回は家族が同行している訳ではないので、アンルートがどれだけカエラの事を考えているかが重要になる。アーノルド家として出来ることは少ないので、せめて対立せずに出来る準備をしようと思う。

修正箇所の部材は、タップの家からも協力が行くらしい。

最終的な予算はグラントに多めに預けてあるので、そこから出してもらうことになっている。


 確認が終わると、セルヴィスから剣術の稽古をつけてもらう。

どうも、セルヴィスが直接稽古をつける事は珍しいようで、自宅でやらず学院でやっている点が評価され、ウォルフは魔法科の講義よりも剣術の方で人気が出ていた。

見る者が見ればその才能は分かるようで、こちらは魔法科の特待生だけど見せられる魔法が少ないので、学院の中の人気で言えばウォルフには勝てないようだ。


 今日もセルヴィスと一緒に帰宅すると、スチュアート達が既に到着していた。

お婆さまはまたまた料理を張り切っていて、ミーシャとロロンは自分達の方が早く着いている事に驚いていた。

ソルトとレイシアがお婆さまの料理を手伝っているので、ナーゲル男爵家の事をウォルフと一緒にスチュアートに報告をする。

セルヴィスも同席してくれたので、客観的にだけではなく、希望的観測も交えて報告した。


「ウォルフ・アキラ君。それで良いと思うよ。アンルート君も分かっているからこそ、王都での用事を作ったんだ」

「スチュアートよ、緊急時の保護は問題ないと思うぞ」

「はい、その辺は心得ております」


 ノックが聞こえると、ミーシャとロロンがやってきた。どうやら食事の時間になったらしい。

二人とも少し疲れた顔をしているので、歩きながら聞いてみると、どうやら途中の貴族家で結構な歓待を受けたらしい。

大人としては普通の歓待も、子供としては嬉しくはない。

そして気に入られる毎に、嫁だの婿だの養子だの。まだ10歳にも満たない子供相手にする話ではなかった。

スチュアートとレイシアは、二人が成人を迎えた段階で、しかるべき相手がいない場合は考えますと即答した。


 貴族家としては、生まれた時から婚約者がいる者も珍しくはない。

ただ二人は、四人の子供達が持つ、無限の可能性を信じていた。

家族が揃うと食事が始まる。それだけで何もなくても楽しいものだ。

スチュアートとレイシアにトルテの伝言を話すと、二人は明日あたりに行くらしい。


 ウォルフと自分は、明日は宮廷魔術師団の、『聖火台』の管理場所に行く予定だった。

サリアルとワァダが引率し、10名くらい参加すると聞いている。

新しい魔法の可能性の話は聞いているし、ウォルフも楽しみにしている。

一緒に勉強する人が増えれば、楽しさも何倍にもなるだろう。土曜日にはパーティーもあるので、予定は目白押しだった。


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