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065:新春の過ごし方

 穏やかに新年を迎えると、日が昇る前にスチュアートに起こされた。

「ウォルフ・アキラ君、準備して」

「お父さま……、もう朝ですか?」

「ふぁー、初詣ですか?」


 ミーシャとロロンは勿論寝ている時間だ。

すぐに運動が出来る服に着替えるように言われると、寝ぼけ眼でモタモタ着替えをしていく。

その上から防寒着を羽織ると、男爵領の本邸へ馬で向かった。


「お父さま、何があるのでしょうか?」

「ああ、言ってなかったね。これから寒稽古を行うのさ。これは毎年やっていることで、ミーシャの体も良くなってきたしウォルフも参加出来る年齢になったからね。アキラ君も領内にいる時は参加して欲しいな」

「分かりました。これがアーノルド領の新年の迎え方なんですね」

「そうだね。今年は引越しを考えているから徐々に整理して、本邸で暮らせるように協力してね」

「「はい!」」


「ウォルフはもっと私の仕事を手伝って貰うよ。本邸では君達をサポートしてくれる人も増えるけど、感謝の気持ちを決して忘れないようにね」

「それって、前に話していた執事やメイドの話?」

「そう……だね。この10年弱で領内の仕事をメインに手伝って貰ってたからなぁ。最初は張り切ると思うけど、そこは我慢してね」

「もしかして家庭教師とかもいるんですか?」

「専属じゃないけど勿論いるよ。基本的にはソルトの仕事を多くの人数でやる感じかな? 彼女だってメイドと言えばメイドなんだ」


 馬で並走しながら進んでいるうちに、アーノルド男爵領の本邸に到着した。

そこにはまだ日も昇っていないのに、多くの少年から青年までいた。

スチュアートが言うには未来の兵士や冒険者候補らしく、とにかく元気がありあまっている者らしい。

時間が空いた時は剣の稽古もつけているようで、スチュアートの到着にみんなが並んで出迎えてくれた。


「みんな、無事新年を迎えられた事を嬉しく思う。ここにいる者だけでなく、自分達の周りの人々まで幸せになる為に協力して欲しい」

「「「はい」」」

「後、今年から参加することになったこの子達を紹介するよ。さあ、自己紹介を」

「アーノルド家長子のウォルフです。若輩者ですが、ご指導の程お願い致します」

「アーノルド家のアキラです。兄同様、頑張りますので宜しくお願いします」


「スチュアートさん、これでこの領は安泰ですね」

「おいおい、ラトリ。今は安泰じゃないって言うのかい?」

「そういう意味じゃないって……。ウォルフ・アキラ、宜しくな。今日の稽古は厳しいと思うが自分のペースで頑張れよ」

「「はい!」」


 馬を本邸の人に預けると、スチュアートがストレッチを始めている。

みんなの格好は木剣を腰に挿し、今か今かと現場に熱気が立ち込めている。

「よーっし、それじゃあ行くぞぉ」

「みんな、無理しないように」


 ラトリの号令で冒険者ギルドまでのダッシュが始まる。

先頭を走る者は松明を片手に持ち、火の勢いを消さないように高速で走っている。

確か新年の年男かなんかの行事で、ダッシュするイベントがどこかにあったのを思い出した。


 さすがアーノルド本邸に集まるような面々はやる気が違う。

結構本気で並んで走っていたウォルフと自分は、徐々に列の後方に行き、ギルドに着く頃にはほぼ最後尾にいた。

冒険者ギルドに着くと、アーノルド本邸にいた人数とほぼ同数の人々がいた。

ここから近くにある大人数が集まっても大丈夫な場所に行き、千本ノックならぬ千本素振りを開始する。


 特に数えながらやるタイプではなく、一振り一振り真剣にゆっくりと構えを確かめる者や、剣道で前後にステップを踏みながら早く数を重ねる者もいた。ウォルフと相対して木剣が届かない程度に距離を取り、二人で一振りずつ確かめるように素振りをした。

「アキラ、随分腕が上がったんじゃないか?」

「まだまだウォルフには敵わないよ」

「そうか。でも、アキラからは自信のような物を感じる。俺も負けないようにするから、アキラも一緒に頑張ろう」

「そうだね。今年も宜しくお願いします」

「ああ、今年も宜しく」


 何本かの素振りをした中で、急にウォルフが鋭い踏み込みで一撃を与えようと迫ってきた。

それを瞬時に察知して、同じ距離をふわりと後ろに飛んでかわす。

一瞬の緊迫した空気に、周囲にいた者達が素振りを止める。

「おいおい、こんな小さくてもアーノルド家だな。スチュアートさん、この子達に後で稽古をつけてもいいですか?」

「ああ、頼むよラトリ。上には上がいる事をきちんと教えてくれ。きちんとだぞ」

「え……、今の言葉を取り消し……」

「ダメだ。みんなも先輩としての威厳を見せてくれ。ウォルフ・アキラ。先輩達には敬意を持って本気を出さないといけないよ」

「「はい!」」

周囲から脇腹を小突かれているラトリに、スチュアートは微笑んでいた。


 稽古が終わると三々五々解散となる。

アーノルド本邸では振る舞い酒や汁物が出るようだけど、また長時間家を空けるとミーシャとロロンが寂しがるので早く戻る事にした。年越しでは遅くまで起きてても怒られないのは、どこの地域でも同じようで、家族揃って暖かい格好をして外で星を眺めた後、暖かい場所で穏やかな時間を過ごした。

遅くまで起きていたミーシャとロロンは、戻った頃にはまだ寝ていたようで、普段より少し遅い時間に起きて新年の挨拶をした。


 遅めの朝食の際にはスチュアートから引越しの話が出て、ミーシャとロロンを驚かせていた。

元々はミーシャの身体の事を思ってこの場所に住んだのだが、これからの成長を思えば多くの人々の交流は欠かせない。

これから貴族として民と関わりをもって歩んでいくことになるのだ。

この家は必要な人が現れたら貸すか売却を予定しているので、大きな家具や寝具は置いていっても大丈夫だった。

必要な物は本邸に揃っているし、愛着のある物だけを整理をすれば大丈夫だった。


 食事が終わると、スチュアート立会いのもとウォルフと本気の剣術の試合をすることになった。

木剣と円形の木盾を持ち、相手が負けを認めるまで戦うようだ。

これはウォルフが頼んだ事で、母親であるレイシアにも見せたくないと言っていた。

この勝負の勝ち負けも、この3人以外口外しないことになっている。


 スチュアートの開始の合図に、ウォルフと体を温めるように打ち合った。

それは基本の型をなぞるように、今まで教わった事を確かめるように剣を重ねた。

ウォルフから、「そろそろ行くか」という言葉が出ると、ウォルフは守りの剣の構えをしだした。

これはきっとこちらの今の実力を知りたいのだろうと思い、徐々にギアを上げていった。


「アキラ君は良い経験をしたようだね」

「はい、あの冒険で力がついたようです」

「アキラ、次は負けないぞ。俺は兄としてみんなを守ると同時に壁になるんだ」

「ウォルフ、あれは引き分けだよ。攻撃してこない上に全部受けきられたんだから」

「正直、攻撃しなかったんじゃなくて出来なかったんだ。打ち合ったなら確実に負けていた」

「ウォルフ、それも一つの戦い方だよ。私は近衛騎士だったけど、主を護る為に時間を稼ぐ時もあるんだ。君がどんな剣を目指すのかは興味があるけど、正しいと信じた道を進んでくれると嬉しいよ」


 あの冒険の後、レベルが上がってスキルはそのままだったのは分かっていた。

レベルが上がればステータスも上がる。それは微々たる量かもしれないけれど、その差をレベルでもなくスキルでもなく、技術でカバー出来るウォルフは凄いと思う。多分、ウォルフが習っている剣術は、自分が習っている剣術と質が違うのかもしれない。

スチュアートの笑顔を見れば、今回の試合は満足のいく結果だったのだろう。


 部屋に戻ると、改めて冒険の話をウォルフにせがまれた。

ミーシャとロロンがいない時を狙わないとこの話は出来なく、ダンジョンの話をするとウォルフは冒険に興味があるのが分かった。ゴブリンくらい余裕で倒せる力があるウォルフを、いつかはダンジョンに連れて行っても良いかなと思う。

王都のダンジョンは保護者付きだったし、実力をつける為にはやっぱり実践が一番だ。

ただ、ウォルフは貴族家の長子なので、スチュアートの許可がいるだろう。

そこだけはいくら個人的に頼まれても、一線を引かないとダメだと思う。


 一人の時間が出来たのでタブレットを確認した。

新年になって年齢が一個上がっているって事は、数え年がこの世界ではデフォルトらしい。

レベルとスキルの場所を確認していると、いつものおっさんが画面の中を歩いてきた。


「ふー、おめっとさん」

「新年おめでとうございます。

「無事生き抜いたな。まあ、今年も頑張れや」

「はい、ありがとうございます。ところで、新しい情報とかないですか? リュージさんの話では、これから人助けをした方が良いとしか聞いていませんが」

「そういうのは意識しないでやるもんさ。レベルとスキルポイントに誤差があるのは分かっていると思うが、それはボーナスポイントみたいなもんだ。まだまだここでの人生は始まったばかりだし、神聖魔法を上げまくって協会に勤めるっていう安易な考えだけは持たない方がいいと思うぜ」

「そういうもんですか?」

「ああ、そういうもんだ。スキルなんて育つ時は育つんだから、ポイントを放置するぐらいが良いと思う。少なくともR15とR18のアイコンがあるんだから、後7年は女神さまが見守ってくれるって事さ。とりあえずは生き抜いてみろ」

「ありがたいお言葉、頂いておきます」


 おっさんはタバコを地面に捨てると、足で踏み消した後もう一本口にした。

このおっさんの律儀な所は、最後にきちんと箒とチリトリで掃除をしていくことだ。

適当に欲しい物を頼むと、おっさんは「毎度あり」と言って去っていった。


 学院もアルバイトも、一月の中旬くらいまで休みの予定だった。

それまでは兄弟で勉強と遊びを楽しみたいと思う。

どこの地域も冬に出来ることは少なく、それぞれの土地でそれぞれの過ごし方があった。


 本邸に行けば兄弟も忙しい毎日を過ごすことになるだろう。

それまではベタベタに甘やかすくらいで丁度良いのかもしれない。

こうしてアーノルド一家の新年は幕を明けた。


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