064:おかえり
抱き合って泣く子弟を、みんなが暖かく見守っていた。
多くの者達がシリルの為に動き、あれ程大掛かりな儀式があったのだ。
この光景は起こるべくして起こったことであり、それぞれの努力が実を結んだ結果とも言えた。
【魂の時計】の下部にある、時刻表示の時計の短針が2に進んだ。
「ボーン・ボーン」と鳴る音に、アキラは今回のミッションが無事完了したことを感じていた。
「みなさん。シリルさんの後遺症は治ったと思います」
「本当? アキラ君」
「マジか、よく分かったな」
いつまでも感動のシーンをしていても、他の来賓が困ってしまう。
セルヴィスとガレリアが各所に指示を出して、昼食会の会場へ案内を出していく。
今後の予定も詰まっているようで、代表してマザーとアンジェラが残ってシリルに声を掛けていた。
いつの間にか近くにやってきたリュージは、みんなに移動を促すと自分にだけ確認してきた。
「アキラ君、やっぱり分かったようだね」
「はい、リュージさん。時計が進んだのは、ミーシャの時と一緒だったので」
「これから検証が必要だと思うけど、今回のことはどう感じたかな?」
「多分ですけど、音と音楽がキーワードだと思うんです。音を楽しむということ……歌が重要ではないでしょうか?」
「音楽か、確か三要素があったような気がする。リズム・メロディー・ハーモニーだっけ? これだけの人数の聖者を揃えないと効果がないなら問題だからね」
「どちらにせよ自分達の役目は終わりです」
「クールだね。時計については後で話を聞かせて貰えるかな? 多分だけど、二回連続で人を助けて、しかも女性限定なんてね。アキラ君のこれからを考えると……、大変だと思うけど頑張ってね」
二人目の女性を救って時計の針が2になった。
これから後10人か22人救えというのが自分の使命なんだろうか?
もし病気や怪我を癒すのが条件なら、本格的に神聖魔法の修行に切り替えた方が良いと思う。
何はともあれ、シリルの後遺症は治ったのだ。
昼食会が終われば、王都での用事は年内最後のアルバイトだけになる。
学院はギリギリまで講義があるようだけど、段々講義数も生徒も少なくなる。
働いている子供が通っている学院でもあり、師走と言えば書き入れ時でもあった。
案の定、案内された場所はGR農場だった。
これだけの大人数に対応できるだけで凄いのに、安心できるレベルの料理が安定して出てくる。
寒い季節なのに、GR農場では程よい暖かさに保たれていた。
農場では朝からずっと餅つきをしているようだった。
屋外で炊き出し風に調理をしていて、調理班を含め農場をあげて張り切っていた。
今回のメイン料理はお雑煮だった。
昆布出汁ベースに薄っすら醤油を使い、青菜と鶏肉と餅というあっさりした物だった。
次々と搗きあがる餅に、消費されるお雑煮・からみ餅・きなこ餅・砂糖醤油。
聖者も特待生も、王子も王妃も楽しそうに食べていた。
新しい餅の食べ方に聖者達は感心している。
農場職員も交代で食事を行い、料理に興味ある者はトルテに質問をしていた。
「リュージさんの地方は、このお雑煮なんですね」
「え? アキラ君。これは初めて食べるけど、他にもバリエーションあるの?」
「ええ、サラさん。醤油味や味噌等の味付けに具材も何でも良くて、場所によっては甘いお雑煮もあるんです」
「へぇぇ、アキラはリュージお兄ちゃんと似たような料理知ってるんだな」
「アキラ君はかなり詳しいと思うよ。後でトルテさんを紹介するから、今度は彼の力にもなってあげてくれないかな?」
「はい。あ、後このお雑煮美味しいです」
「そう、それは良かった」
「自分なんか、どうしてもこういう物に頼っちゃうんですよね」
アキラが出汁の素やおでんの素を取り出すと、リュージがその両腕を掴んだ。
「アキラ君、それってどうしたの? 他にもあるの?」
「え……ええ。お金を出して買ってきて貰ってます」
「後で詳しく教えてよ。出来れば箱買いというか大人買いしたい」
遠くでは特待生とミューゼ家の輪の中に、泣きながらお雑煮を食べているシリルの姿を見つけた。
別の場所では、マザーとアンジェラが談笑している所に、王子が王妃を連れて挨拶していた。
冒険者チームも集まってお雑煮に舌鼓を打っている。
こうしてシリルを救う冒険は幕を閉じた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
週末、多くの貴族家が自領に帰る時期なのに、ダンスホールには多くの貴族家子女が集まっていた。
ようやくウォルフと一緒に、踊りのパートナーとして出勤出来ると張り切っていたらこの人数だ。
お互いにセルヴィス家から仮面をしながら出勤している。
ダンスホールで挨拶をすると、「キッド君」とか「ボウイ様」とか黄色い声が聞こえてきた。
「アキラはキッドかぁ」
「ウォルフはボウイなんだね」
小声で笑いあうと、早速次から次へとダンスパートナーとしてのお仕事が始まる。
今日は一人一回以上踊らないといけないらしく、明日で年内のレッスンが最後になる予定だった。
「忙しくなるな」
「うん、でもボウイなら大丈夫でしょ」
「ああ、キッドもな」
演奏者のシリルともう一人の特待生も、楽しそうに楽器を奏でていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お姉さま」
「なーに? ロロン」
「アキラ兄さま、いつ戻るのかな?」
「お父さまとお母さまに聞いても教えてくれないの。アキラ君に会いたいなぁ」
「あー、またアキラ君って言ってるー」
「こっそりならいいんですぅ。ロロンもアキラ君に会いたいでしょ」
「うん、また一緒に遊びたい!」
季節も段々寒くなり、外でのダンスレッスンや剣術の修行が座学に移っていく。
二人も王都へ行って従兄弟達と出会った事で、貴族家の子供としての自覚がでてきていた。
算術や歴史・マナー等、今日は思いの外優秀だったので、長めの自由時間を与えられていた。
「でねでね、僕知ってるんだ」
「え? 何を知ってるの?」
「最近、ウォルフお兄さままでいなくなるでしょ?」
「それは、お父さまのお仕事を覚えているんじゃなくて?」
「それがね、いつの間にか戻ってきてるでしょ?」
「そうね、それがどうしたの?」
「土日に戻ってくる時は、決まってアキラ兄さまの部屋から出てくるんだ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ダンスフロアーの中心で、背中合わせで二人してハァハァと息を乱していた。
その姿をうっとりした姿で見る貴族家の子女達、何か見せてはいけない光景を見せているような気がする。
朝から夕方まで多少休憩は取りながらも、ほぼノンストップで踊れば誰だってバテてしまう。
最後にリュージ夫妻とアデリア・ローラがやってくると、「来年も宜しく」と多目のバイト代をもらった。
年末年始は、アーノルド領でゆっくり出来るだろう。
『まどろみの導き手』を含め、多くの聖者達は年末年始をGR農場で過ごすようだった。
GR農場から贈られた報酬の餅は、年末の炊き出しにお雑煮として振舞われるようだ。
アンジェラはスラムへ炊き出しを行うようで、今回はきちんと上に通してあるので問題はない。
この餅は聖光干しの為、何か体に良い特別な効果があるかもしれない。
リュージとの対決に対する報酬としては、グレファスとシーンが王子との謁見で、サラとルーシーは魔法の習得だった。
冒険の時に購入した弓とタワーシールド・トライデントは、それぞれ報酬として貰っている。
自分への報酬を打診されたけど、「無理を言ってついていっただけなのでいらない」と言うと、釣り道具一式と魔法の硯を貰い、その他には食材一式とアサリを大量に貰った。家に帰ったらみんなでボンゴレでも食べたいと思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アキラ、もう出てもいいか?」
「ウォルフ、静かにね。あ、こっち閉めるからちょっと待っ……」
「ん? ドアが少し重いぞ……」
「バァ……」
「あ、アキラ君」
ドアのギリギリに背をつけて座っていたロロンは、異変を感じた瞬間すぐにミーシャに合図を出して顔を出した。
ウォルフは固まっている。後ろを振り向こうにも、次から次へと予想外の弟妹の出現に、どう反応したら良いか分からないでいた。
「ミーシャ・ロロン、ただいま」
「「アキラお兄さま」」
二人の弟妹がウォルフを押しのけ抱きついてきた。
一瞬見られたかな? と不安になったけど、久しぶりの弟妹との再開にほっこりしてしまっていた。
「二人共、ここで騒いでたら今日帰ってきたアキラが疲れるじゃないか」
「「ええぇぇ」」
「ウォルフ、久しぶりなんだから今日はいいじゃない」
「まあ、アキラがそう言うなら。あ、でも報告はしないとな」
「そうだね、お爺さまのお使いの報告を」
ウォルフが弟妹を確保すると、その足止めの間にスチュアート達に報告に行った。
「いいか、ミーシャ・ロロン。アキラは俺達の兄弟で家族だ。もし秘密があっても聞き出すような事をしちゃいけないぞ。じっと待つんだ。それが家族っていうもんだ」
「……うん、分かった」
「ウォルフお兄さまは何を言ってるの? ロロンは何を分かったの?」
「アキラ兄さまが、僕のお兄ちゃんって事が分かったんだよ」
「もー、二人して何を秘密にしているんですの!」
スチュアートに報告した事により、今回の冒険が正式に終了した。
ウォルフが手伝ってくれたアルバイトに感謝をすると、「これからも続けていいよ」と二人の許可を得た。
間もなく今年も終わる。ボンゴレスパゲティーに舌鼓をうちつつ、この家族の一員になれて幸せだなと嬉しくなった。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
章管理はしておりませんが、ここまでが第二章扱いになります。
みなさまのご意見ご感想をお待ちしております。
年内のこのお話のアップはここまでと致します。
前作の修正とこのお話の見直し(まとめ作業)等を行う予定ですので、丁度良いタイミングとして一旦お休みを頂きたいと思います。
次回は元日アップを目指して書く予定ですので、引き続きこのお話(と構想中のアップできるか分からない次回短編)を読んで頂けると嬉しいです。
まだまだ続くよ!




