表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/369

064:おかえり

 抱き合って泣く子弟を、みんなが暖かく見守っていた。

多くの者達がシリルの為に動き、あれ程大掛かりな儀式があったのだ。

この光景は起こるべくして起こったことであり、それぞれの努力が実を結んだ結果とも言えた。


【魂の時計】の下部にある、時刻表示の時計の短針が2に進んだ。

「ボーン・ボーン」と鳴る音に、アキラは今回のミッションが無事完了したことを感じていた。

「みなさん。シリルさんの後遺症は治ったと思います」

「本当? アキラ君」

「マジか、よく分かったな」


 いつまでも感動のシーンをしていても、他の来賓が困ってしまう。

セルヴィスとガレリアが各所に指示を出して、昼食会の会場へ案内を出していく。

今後の予定も詰まっているようで、代表してマザーとアンジェラが残ってシリルに声を掛けていた。


 いつの間にか近くにやってきたリュージは、みんなに移動を促すと自分にだけ確認してきた。

「アキラ君、やっぱり分かったようだね」

「はい、リュージさん。時計が進んだのは、ミーシャの時と一緒だったので」

「これから検証が必要だと思うけど、今回のことはどう感じたかな?」

「多分ですけど、音と音楽がキーワードだと思うんです。音を楽しむということ……歌が重要ではないでしょうか?」


「音楽か、確か三要素があったような気がする。リズム・メロディー・ハーモニーだっけ? これだけの人数の聖者を揃えないと効果がないなら問題だからね」

「どちらにせよ自分達の役目は終わりです」

「クールだね。時計については後で話を聞かせて貰えるかな? 多分だけど、二回連続で人を助けて、しかも女性限定なんてね。アキラ君のこれからを考えると……、大変だと思うけど頑張ってね」


 二人目の女性を救って時計の針が2になった。

これから後10人か22人救えというのが自分の使命なんだろうか?

もし病気や怪我を癒すのが条件なら、本格的に神聖魔法の修行に切り替えた方が良いと思う。


 何はともあれ、シリルの後遺症は治ったのだ。

昼食会が終われば、王都での用事は年内最後のアルバイトだけになる。

学院はギリギリまで講義があるようだけど、段々講義数も生徒も少なくなる。

働いている子供が通っている学院でもあり、師走と言えば書き入れ時でもあった。


 案の定、案内された場所はGR農場だった。

これだけの大人数に対応できるだけで凄いのに、安心できるレベルの料理が安定して出てくる。

寒い季節なのに、GR農場では程よい暖かさに保たれていた。


 農場では朝からずっと餅つきをしているようだった。

屋外で炊き出し風に調理をしていて、調理班を含め農場をあげて張り切っていた。

今回のメイン料理はお雑煮だった。


 昆布出汁ベースに薄っすら醤油を使い、青菜と鶏肉と餅というあっさりした物だった。

次々と搗きあがる餅に、消費されるお雑煮・からみ餅・きなこ餅・砂糖醤油。

聖者も特待生も、王子も王妃も楽しそうに食べていた。

新しい餅の食べ方に聖者達は感心している。

農場職員も交代で食事を行い、料理に興味ある者はトルテに質問をしていた。


「リュージさんの地方は、このお雑煮なんですね」

「え? アキラ君。これは初めて食べるけど、他にもバリエーションあるの?」

「ええ、サラさん。醤油味や味噌等の味付けに具材も何でも良くて、場所によっては甘いお雑煮もあるんです」

「へぇぇ、アキラはリュージお兄ちゃんと似たような料理知ってるんだな」

「アキラ君はかなり詳しいと思うよ。後でトルテさんを紹介するから、今度は彼の力にもなってあげてくれないかな?」

「はい。あ、後このお雑煮美味しいです」

「そう、それは良かった」

「自分なんか、どうしてもこういう物に頼っちゃうんですよね」


 アキラが出汁の素やおでんの素を取り出すと、リュージがその両腕を掴んだ。

「アキラ君、それってどうしたの? 他にもあるの?」

「え……ええ。お金を出して買ってきて貰ってます」

「後で詳しく教えてよ。出来れば箱買いというか大人買いしたい」


 遠くでは特待生とミューゼ家の輪の中に、泣きながらお雑煮を食べているシリルの姿を見つけた。

別の場所では、マザーとアンジェラが談笑している所に、王子が王妃を連れて挨拶していた。

冒険者チームも集まってお雑煮に舌鼓を打っている。

こうしてシリルを救う冒険は幕を閉じた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 週末、多くの貴族家が自領に帰る時期なのに、ダンスホールには多くの貴族家子女が集まっていた。

ようやくウォルフと一緒に、踊りのパートナーとして出勤出来ると張り切っていたらこの人数だ。

お互いにセルヴィス家から仮面をしながら出勤している。

ダンスホールで挨拶をすると、「キッド君」とか「ボウイ様」とか黄色い声が聞こえてきた。


「アキラはキッドかぁ」

「ウォルフはボウイなんだね」

小声で笑いあうと、早速次から次へとダンスパートナーとしてのお仕事が始まる。

今日は一人一回以上踊らないといけないらしく、明日で年内のレッスンが最後になる予定だった。


「忙しくなるな」

「うん、でもボウイなら大丈夫でしょ」

「ああ、キッドもな」

演奏者のシリルともう一人の特待生も、楽しそうに楽器を奏でていた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「お姉さま」

「なーに? ロロン」

「アキラ兄さま、いつ戻るのかな?」

「お父さまとお母さまに聞いても教えてくれないの。アキラ君に会いたいなぁ」

「あー、またアキラ君って言ってるー」

「こっそりならいいんですぅ。ロロンもアキラ君に会いたいでしょ」

「うん、また一緒に遊びたい!」


 季節も段々寒くなり、外でのダンスレッスンや剣術の修行が座学に移っていく。

二人も王都へ行って従兄弟達と出会った事で、貴族家の子供としての自覚がでてきていた。

算術や歴史・マナー等、今日は思いの外優秀だったので、長めの自由時間を与えられていた。


「でねでね、僕知ってるんだ」

「え? 何を知ってるの?」

「最近、ウォルフお兄さままでいなくなるでしょ?」

「それは、お父さまのお仕事を覚えているんじゃなくて?」

「それがね、いつの間にか戻ってきてるでしょ?」

「そうね、それがどうしたの?」

「土日に戻ってくる時は、決まってアキラ兄さまの部屋から出てくるんだ」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ダンスフロアーの中心で、背中合わせで二人してハァハァと息を乱していた。

その姿をうっとりした姿で見る貴族家の子女達、何か見せてはいけない光景を見せているような気がする。

朝から夕方まで多少休憩は取りながらも、ほぼノンストップで踊れば誰だってバテてしまう。

最後にリュージ夫妻とアデリア・ローラがやってくると、「来年も宜しく」と多目のバイト代をもらった。


 年末年始は、アーノルド領でゆっくり出来るだろう。

『まどろみの導き手』を含め、多くの聖者達は年末年始をGR農場で過ごすようだった。

GR農場から贈られた報酬の餅は、年末の炊き出しにお雑煮として振舞われるようだ。

アンジェラはスラムへ炊き出しを行うようで、今回はきちんと上に通してあるので問題はない。

この餅は聖光干しの為、何か体に良い特別な効果があるかもしれない。


 リュージとの対決に対する報酬としては、グレファスとシーンが王子との謁見で、サラとルーシーは魔法の習得だった。

冒険の時に購入した弓とタワーシールド・トライデントは、それぞれ報酬として貰っている。

自分への報酬を打診されたけど、「無理を言ってついていっただけなのでいらない」と言うと、釣り道具一式と魔法の硯を貰い、その他には食材一式とアサリを大量に貰った。家に帰ったらみんなでボンゴレでも食べたいと思う。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「アキラ、もう出てもいいか?」

「ウォルフ、静かにね。あ、こっち閉めるからちょっと待っ……」

「ん? ドアが少し重いぞ……」

「バァ……」

「あ、アキラ君」


 ドアのギリギリに背をつけて座っていたロロンは、異変を感じた瞬間すぐにミーシャに合図を出して顔を出した。

ウォルフは固まっている。後ろを振り向こうにも、次から次へと予想外の弟妹の出現に、どう反応したら良いか分からないでいた。

「ミーシャ・ロロン、ただいま」

「「アキラお兄さま」」


 二人の弟妹がウォルフを押しのけ抱きついてきた。

一瞬見られたかな? と不安になったけど、久しぶりの弟妹との再開にほっこりしてしまっていた。

「二人共、ここで騒いでたら今日帰ってきたアキラが疲れるじゃないか」

「「ええぇぇ」」

「ウォルフ、久しぶりなんだから今日はいいじゃない」

「まあ、アキラがそう言うなら。あ、でも報告はしないとな」

「そうだね、お爺さまのお使いの報告を」


 ウォルフが弟妹を確保すると、その足止めの間にスチュアート達に報告に行った。

「いいか、ミーシャ・ロロン。アキラは俺達の兄弟で家族だ。もし秘密があっても聞き出すような事をしちゃいけないぞ。じっと待つんだ。それが家族っていうもんだ」

「……うん、分かった」

「ウォルフお兄さまは何を言ってるの? ロロンは何を分かったの?」

「アキラ兄さまが、僕のお兄ちゃんって事が分かったんだよ」

「もー、二人して何を秘密にしているんですの!」


 スチュアートに報告した事により、今回の冒険が正式に終了した。

ウォルフが手伝ってくれたアルバイトに感謝をすると、「これからも続けていいよ」と二人の許可を得た。

間もなく今年も終わる。ボンゴレスパゲティーに舌鼓をうちつつ、この家族の一員になれて幸せだなと嬉しくなった。


ここまで読んでいただいてありがとうございます。

章管理はしておりませんが、ここまでが第二章扱いになります。

みなさまのご意見ご感想をお待ちしております。


年内のこのお話のアップはここまでと致します。

前作の修正とこのお話の見直し(まとめ作業)等を行う予定ですので、丁度良いタイミングとして一旦お休みを頂きたいと思います。


次回は元日アップを目指して書く予定ですので、引き続きこのお話(と構想中のアップできるか分からない次回短編)を読んで頂けると嬉しいです。


まだまだ続くよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ