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062:聖者の威厳

「張り切りすぎて、杵を壊しちゃった聖者がいるんですぉ」

「なーに、やっちまったな」

「リュージ君・アキラ君、それは何だい?」


 ガレリアの質問に対し、二人は滑っていることに気がついた。

リュージはすぐに代わりの杵と予備の杵を取り出して作業をお願いした。

第一陣の餅は既に搗きあがっていて、アンジェラは小分けにして味付け班に回す。

アキラ・サラ・ルーシーがそれぞれ仕上げて皿に盛り付けていくと、からみ餅はリュージが一味唐辛子を出して少し辛めに仕上げた。砂糖醤油は甘しょっぱく、きなこ餅は甘々に仕上がっている。


 『寄り添う者』に渡した3種類の餅は、すぐに祭壇に届けられる。

次から次へと完成する餅に、まずは味見と称して女性達が試食を開始した。

「あらあらあら。出来立てのお餅は、弾力があって食べ応えもあるし、美味しいわね」

「ええ、マザー。このきなこ餅が甘くて最高です」

「アンジェラ、こちらの砂糖醤油も美味しいわよ。村のみんなにも食べさせたいわぁ」


 リュージの作業が終わったようで、試食の輪に混ざっていく。

マザーの感想に、後で切り餅の状態にするので、持ち帰る事が出来ると話していた。

砂糖は今でも贅沢品なので、砂糖醤油も人気だけど、きなこ餅の売れ行きは凄まじい。

サラとルーシーもきなこ餅派だった。


 武闘派の聖者達は餅つきに夢中になっていた。

今の返し手はダイアナが担当していて、『健やかなる筋肉』が気合を入れて杵を振り下ろしている。

その次のバッターである『代理神罰』が、ネクストバッターズサークルで……いや、すぐ後ろで素振りをしていた。

次々と搗きあがる餅に、少し落ち着くとリュージが打ち粉をして餅を伸ばしていく。

何箇所かでのし餅と鏡餅を作っていると、武闘派の聖者達も合流してきた。


「ほう、美味そうだな。酒に合いそうなものはあるかな?」

「そうですね。からみ餅のほうが合うかもしれませんね」

「おーい、休憩しようか」

最後の餅は騎士達が交代で搗いていた。

その騎士達もダイアナのOKが出ると、試食の輪に混ざっていった。


 食事の後なので、一人2個も食べれば満足だ。そして、その2個で餅の価値は分かってしまう。

聖者からは食材と材料の入手方法、レシピから賞味期限など質問が飛んでくる。

すると、リュージとガレリアからみんなに質問を返した。


「えー、みなさん。儀式中に申し訳ありませんが、報酬についての相談があります」

「リュージ君、儀式については協会としての公務なので特別な報酬はないのよ」

「そうですね、私達は報酬を受け取る事が出来ないから、協力して頂いている方々にお願い出来るかしら?」

「分かりました。じゃあ、ヴィンターさん・アンジェラさん・ダイアナさんには、現物支給としてGR農場から餅を寄付致します」


「リュージ君、そのように手配をしておこう。そして、騎士の4名には特別報酬と特別休暇を確約しているぞ」

「「「「あ、ありがとうございます」」」」

「そして、宮廷魔術師団については今回の事を詳細に報告することにしよう。儀式については多少秘匿するべき所はあると思うが、ここでの魔道具と効果についてで報酬となるかな?」

「ワァダ・フレア、これ以上ない報酬だと思うがどうだ?」

「ええ」「はい、メフィーさま」


 自分については望むものを別途相談ということになった。

特に欲しい物も必要な物もすぐには出なかったので、サラとルーシーも含めて別途相談という形を取った。

リュージは聖者のみなさんに再度問いかけた。


「今回の儀式は公務としている事は理解しています。ただ、それならば王都の協会と王家だけでやるのが筋です。この儀式は聖者のみなさまが集まらないと出来ないものだと聞きました」

「リュージ君、ここは素直に受けといた方がいいかしら? そのお餅が報酬って訳でもなさそうだけど」

「ええ、マザー。是非受けて貰えると助かります。具体的に言うならば、今住んでいらっしゃる地域への補助や、特産品の相談や農業指導。流通については商業ギルド経由を予定していますし、報酬は王国から出る予定です」

「リュージ君達の負担には?」

「一切なりません。うちも利益が出ますから、そうですよねガレリアさま」

「ああ、その辺は問題ないよ」


 農場で出るパンの作り方を報酬にしたり、餅米と材料一式を報酬にした者もいた。

聖者達は各地に住んでいるので、リュージが直接動かなければいけないものは少し時間がかかることになる。

ただ、農業支援でリュージと周っていた者達が、王国内でリュージ抜きでも動けるようになっていた。

これは国の事業として行っているので、順番が来たら自然と農業支援団体が来ることになるけれど、今回の件でその優先順位は繰り上がることになる。


 聖者の居場所は基本的には公表されてはいないが、王国と協会はきちんと居場所をつかんでいた。

それが聖者達に知らされることはないし、今回は基本的には個人の意思として参加していたのだ。

聖者達は召集されることはないし、聖者と分からずに街に溶け込んでいる場合は、何故急に農業支援団体が来たのだろうと思うことだろう。


 『まどろみの導き手』からは、アーノルド男爵領に滞在したいと相談があった。

これについてはセルヴィスからの紹介状を貰う事と、自分が事前に連絡をすることになった。

それまではGR農場で滞在するようだった。


 食事が終わると、室内の神聖な空気を感じて、『寄り添う者』が配置を指示していく。

祈りを捧げて食事を取り、交代で睡眠につく。騎士達は交代で聖火の番をするようだ。

朝の挨拶をして祈りを捧げ、女神さまや精霊さまの伝説などを数多く聞いた。


 これといった特別なことをすることはない。女神さまへの祈りの回数が多くなっただけで、日常生活を続けるのがこの儀式の変わったところだった。リュージ達が食事を準備していなかった場合には、熱心に祈りを捧げるだけで終わったらしい。

たまに武闘派の聖者が騎士達と一緒に素振りをしたり、教会から勧誘を受けたりしたけど、今は魔法を中心に勉強をするつもりだった。宮廷魔術師団とサリアル先生から魔法指導があり、属性魔法で相性の良いものがあるかテストも受けた。


 この『聖別の儀』の空間でサラとワァダは、リュージからミストヒールを習っていた。

危なっかしい家族がいるサラはルーシーの事を思うと、その魔法の発動に成功した。

ワァダはギリギリまで頑張ったが、きっかけを掴むことは出来なかった。

ただ、リュージだけが使える魔法ではないという事が分かったので、これは今後見込みがある魔法の一つとしてワァダは心に留めた。


 リュージ・サリアル・メフィーの指導の下、自分とルーシーは魔法の習得について相談していた。

風の精霊さまから直接教えて貰った、風属性の癒しの魔法をみんなの前でルーシーが披露する。

すると、誰も反応はしなかったが、サラと自分にはその魔力が効果を現していた。


「これは、ある一定以下の年齢に効果がある魔法……。音・年齢……」

「リュージさん、これってもしかして」

「ああ、モスキート効果か」


 これがどうして癒しの効果があるかは良く分からなかった。

ただ、ルーシーの魔力の波はある道具に届いていた。それに気がついたのは、風属性魔法使いのメフィーだった。

『ハチドリリーダーのくちばし』に魔力が伝わり、『ハチドリのくちばし×4』へ反射した魔力が伝達していた。

リュージはルーシーと自分に、このアイテムがドロップした時の敵の状況を詳しく質問した。

そして、リーダーが指示を出し、4体がその効果を実行すると結論付けた。


 リュージはエントとヴィンターを呼び、ヴィンターには聖なるベルを借りる事は出来るか確認する。

ヴィンターからは今回の儀式は、GR農場の意志を優先すると指示が出ているようで、4つ借りる事が出来た。

エントにはベルと『ハチドリリーダーのくちばし』『ハチドリのくちばし×4』を加工して、ある魔道具の製作をお願いした。

そして、三日間の儀式が終わった。


 全ての作業を終え片付けまで済ますと、この後は鑑定の時間となる。

リュージは後進の者に道を譲る為、魔法で簡単に出来る行動でも、別のやり方を模索するように指導している。

ダンジョンの戦利品は曖昧な鑑定だったが、今回の儀式で付与された魔道具については、鑑定をするつもりはなかった。

これからは国と協会の話し合いが始まるはずだ。こちらはシリルという女性を救う使命が残っている。


 ダンジョンでのドロップした品々は、基本的にGR農場の物として扱って良いそうだ。

そして、今回の儀式で付与された物で教会の意に沿う効果があったら、奉納という形で寄付される予定だった。

室内の内カギが開けられると、多くの人々に出迎えられた。


 マザーにはリュージとアンジェラがそれぞれのパートナーを紹介し、子供も一緒にいたので自己紹介をさせていた。

自分はセルヴィス夫妻が迎えてくれて、二人の心配を払拭する為笑顔を見せた。

すると、後ろから『まどろみの導き手』が挨拶してくる。

セルヴィス夫妻の年齢で言うと、ここにいる聖者達はみんな有名人らしい。

リュージが近くに来て説明をすると、セルヴィスは紹介状を問題なく書いてくれるようだ。


 そしてガレリアとセルヴィスとリュージが打ち合わせをする。

立ち話で二言三言なので、すぐに終わったが明日の朝に学院でイベントをするようだ。

リュージは聖者達にも呼びかけると、学園以外の施設が出来たことに感心していて、見学に来てくれることになった。


「アキラ、また冒険行こうぜ」

「そうね、アキラ君の魔法に負けないように私達も修行するわ」

「サラさん、ルーシーさん。ありがとうございます。今度は剣の腕も鍛えておきますので」

「ああ、グレファスに負けるなよ」

「あ、でも。彼に教わる時は手加減してあげてね」

二人はきっと仲直り出来たんだろうと思う。


 サラとルーシーは手を振り、セルヴィス達に深々とお辞儀をしている。

リュージの関係者であり、アンジェラもお世話になっている学院長だ。


 ここで起きた内容は秘密ということになっている。

聖者達は神妙な顔をしていて、やってきた騎士と協会職員はそんな姿を見て憧れを抱いている。

中で起きた事の質問は許されていない。ただ、ヴィンターだけはグレオスティの報告の許可を得ていた。

王家は公然の秘密になっているが、この後農場でこっそり報告会があると聞いている。


 こっそり杖と剣と弓を出していたのも秘密だった。

もちろん聖者達にも許可を取っていて、サラとルーシーや宮廷魔術師団の杖、付与魔術師枠で参加した者達も杖を出していた。付与されたかどうかは良く分からないけれど、神聖魔法を使える者として良い経験だった。


 リュージからは明日のイベントに参加して欲しいと言われた。

冒険をしたみんなも参加するようなので、勿論自分も参加を希望した。

明日何が起きるか分からないけど、きっと今までの成果がでることになるだろう。


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