表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/369

058:聖者の行進

 いつの頃からか、早朝に噴水を清掃する者達が現れた。

協会と王国が協力して国民に下げ渡されたこの噴水の周りには、常時騎士もいれば協会の者もいた。

ただ、この噴水に対する警備は設けないようにしてあった。

噴水を壊す者がいたら止めてはならず、埋め込まれた宝石を盗もうとする者がいたら、ただ見守るだけと指示されていた。


 魔法によって夜間でも薄っすら光り輝く水面が、この噴水の神秘性を醸し出していた。

夜間や極力人の少ない時間にしか参拝できない者もいるのだ。

ある者は早朝にこっそり噴水まで来て参拝し、箒で清掃を行い帰っていく。

その範囲は徐々に広がり、商業区画につながる道までキレイにしていった。

そんな者の為に、何故か作りすぎたと言ってパン屋が差し入れを持っていく。

騎士達はただそれを見ているだけだ。一度だけ後をつけて上司に怒られた騎士もいた。


 そんな習慣を重ねていくと、自然と騎士達と挨拶を交わすようになる。

学院が出来た後は剣の修行に参加する者や、農場で朝の収穫を手伝う者などもいたようだ。

アンジェラは仕事を覚えながら時間を作り、多くの場所や人々とコミュニティーを形成していった。

リュージの力を借りレンからは種芋をもらい、ザクスには薬草学について教えを請う。

人が集まらない場所でも講演を行い、女神さまや精霊さまの奇跡を広く聞かせて歩いた。


 そんな中、ある区画では冒険者を目指す子供が増えていった。

まだ小さくて採取やお手伝いレベルでしか活躍は出来ないが、その区画では慢性的に薬が不足していた。

アンジェラはザクスにお願いして、理解できる範囲で子供達に薬草学を教えて欲しいと頼み、ザクスは快くデート一回で了解した。


 子供が採ってきた物を農場で加工する。

加工は大人が見ている前で行い、処方についても判断出来る者が付き添うのが条件だった。

薬は毒にもなるので、間違う事は出来ない。

アンジェラに付き添い、研究班の医療チームが同行して診察し、必要な薬を処方していく。

時には必要な薬草を例に挙げ、ザクスは子供達に安全に採取するコツや、方角や植生などを教えていた。

茶化して言う、ザクスの『デート一回』が律儀に守られていくと、次第に二人の距離は縮まっていった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 アキラ達が隣国のダンジョンに向かったすぐ後に、リュージ達は自分達に出来る事をしていた。

三学長との面談や最新の学説等を調べ、ヴィンターやヘルツ・王家にも協力を請い様々な情報を集めていた。

その中で、「おっ?」という情報が耳に入った。それは協会に関係する物だった。

ヴィンターを通して協会に打診して貰い、『条件が完全に揃えば』という条件で協会の了承を漕ぎ着けた。


 商業区に繋がる噴水近くには、出店が許可されている。

収穫祭などのイベント時には、きちんと申請をしないといけないが、噴水が出来る前からあった店は今も出店できていた。

この噴水の周りでイベントを行う場合には、王国へ申請をしないといけなく、噴水が出来てからは個人的なイベントが開催されることはなかった。


「なあ、今週末イベントがあるらしいぞ」

「ああ、GR農場で昼って書いてあるな」

「もしかして炊き出しか? あの農場のメシは美味いからな」

「年に一度の収穫祭だけじゃなく、店でも出せばいいのにな」

「それなら俺も通う」

「もちろん俺も行くよ」

「みんなが行ったら俺の分がなくなるだろ」


 騎士が自立式の黒板に主催団体と日時を明示していく。

目聡い人々が噂を広げ、レストランや食事処がダメ元で早い時間に出店の申請をしていく。

協会関係者は上司に報告し、騎士達も何が起こるか興味津々だった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 その日は朝からお祭り状態だった。

GR農場用に用意された範囲には入れないが、その周りの出店は可能な限り許可されていた。

収穫祭が終わると、もう年を越す準備に入っていく。

近年の王都は大雪に見舞われることもなく、凍死者の数も減り0の年もあったくらいだ。

貴族家による年末の救済活動や、年末年始の炊き出しなども王都での名物となっていた。

多くの者達が、何かと話題を提供する農場の動向を伺っていた。


 定刻になり、ガレリア・リュージ・レン・ザクスが会場に到着する。

見たところ何か料理を始める訳でもなく、いつもいるスタッフも見当たらなかった。

会場整理する騎士達をよそに、王国民は最前列で何が始まるか期待していた。


「GR農場のガレリアだ。今日はみんなに聞いて欲しい事があって、ここに立っている」

「リュージです。時間はそんなにかからないから静かに聞いて欲しい」

二人の言葉は大声でなくとも、自然と周りにいる者達に届いていた。


「レンです。私達の関係者で流行り病の後遺症で苦しんでいる人がいるの」

「ザクスです。俺達はその人を救いたいと思っている」

「既に対策は取っているけど、これは流行り病に罹った人と、これから罹る可能性がある人の為の話なんだ」

三人が順番に説明していくと、ざわざわしていたその場が静まり返る。


「俺は薬を作る。出来るだけ安価でみんなが安心して飲めるように」

「私は滋養に効く食べ物を開発する。病に負けないように」

「ただ、自分達は無力だ。全てに対策できる金も力もない」

空気を読まない男が、「うそつけー、金もってんだろー」と野次を入れ、周りから睨まれていた。

「俺達に何ができる?」、それは別の男から自然と口に出た言葉だった。


「ありがとう。私達が行っている事業は、国の支援もあるし国の仕事もしている。それはここにいる協会にも関わる事だ」

「もちろん、必要なお金は出すしアイデアも出すよ。でも、どうしても足りない人や物も出てくる」

「まずは祈りましょう。そして、この現状を少しでも多くの人に伝えて欲しいの。その人の為に癒し手を多く集めるのではなく、この病に打ち勝てる対策の為に」

「敵を知っても武器がなければ戦えない。それならば俺は武器を作る。今は設計図が必要なんだ」

「「「私達からのお願いです。多くの聖職者に協力を求めます。この状況を広く伝えてください」」」


 四人が揃ってお辞儀をすると、まずは協会関係者が合わせて礼をする。

すぐに一言二言各場所で話をすると、すぐにこの場を去る者が現れ始めた。

騎士もすぐに上司に報告を行い、この話が拡散していく。

こうして身分の垣根を越え、多くの者がこの話を広めていった。

それは身内を流行り病で亡くした者かもしれない。高価な薬が明暗を分けた裕福な者かもしれない。


 食糧事情を改善したレン博士が、グレーナ草の栽培に成功し新たな特効薬を作ったザクス博士が。

王国の英雄ガレリアが、そして三人を繋いでいるリュージが助けを求めたのだ。

生半可な力では邪魔になってしまうだろう。祈る事は出来る、ではそれ以上の事は?

噂の拡散は得てして尾ひれがついて広がるものである。

そして聖職者というキーワードと人が足りないと、リュージが言っていた事が今の状況に繋がった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 各所からの問い合わせに、ダイアナの上司である中間管理職のヴィンターが対応していた。

これには王国から協力要請があり、迎賓館や高価な宿泊施設を用意していた。

また別件でGR農場より、『宿泊場所と食事の提供の用意がある』とヴィンターに話していたので、来客にどちらを選ぶか確認をすると、ほぼ100%の確率でGR農場の宿泊場所を選ぶのだった。

部下を使いゲストを丁重にお招きすると、リュージの望んだ状況と合致した。

それは協会が出した『条件』を余裕で超えていた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 アキラ達が王都に入ると、いつもとは違う異様な熱気を感じていた。

それは空気感というかワクワク感というか、もうすぐ今年も終わるのに珍しい熱気だった。

まずは農場に向かい、冒険の結果を報告する。

各個人の詳細な報告はゆっくり聞く事にして、大まかな報告はアキラが先にしていた通りだった。


「なあ、リュージ。何かイベントでもあるのか?」

「ごめん、タップ。こんなにも集まるとは思ってなくてね。詳しくは学院でヘルツさんに聞いて」

ノックがしてヴィンターがやって来る。その後ろにはダイアナとアンジェラが一緒にいた。

リュージは明日にしましょうとヴィンターに伝えると、ヴィンターは仕事の多さにため息をついていた。

挨拶した三人はすぐに農場のどこかに消えていった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「へぇぇ、この噴水に女神さまが光臨なされたのか」

「案外普通だな。王国きっての技師と協会が協力して作ったと聞いたが……」

「だからお前はいつまで経っても半人前だっていうんだよ。気がつかないのか?」

「まあまあ、ここらへん一帯が浄化されていますからね。悪いものも寄ってこないでしょう」


 午前はヴィンターを中心としたチームで噴水の案内をしていた。

離れた地でも女神さまの情報や奇跡などの話が届き、ここにいるメンバーの大多数はその時に立ち会えないで、ひどく残念がっていた。早朝でも人通りがそこそこあり、熱心に祈っている年配の人が多かった。

祈り終わった年配の人々は、大勢で観光している団体を見てギョッとする。


「まさか、まさかまさかまさか……」

「ありがたや、ありがたや」


 お昼になると、再びGR農場からのイベントが同じ場所で行われることになった。

今回は事前予告なく始めたが、王国と協会にはきちんと許可を取っていた。

前回と同じ四名で謝辞を伝えると、司会を協会のヴィンターに任せた。

さっきまで陽気に喋っていた協会関係者達は、ローブにフードを深くかぶり一角を占めていた。


「GR農場より依頼を受けたヴィンターです。今回は国と協会と農場の共同事業です。今日、この場に集まって頂いたみなさまに、遠方よりこの日の為に来て頂いたみなさまの御名前を紹介させて頂きたいと思います」

アンジェラとダイアナがヴィンターと一緒に礼をする。


「『健やかなる筋肉』さま、『寄り添う者』さま、『まどろみの導き手』さま、『拳の説法師』さま」

「『輝きの道標』さま、『不浄を払う者』さま、『代理神罰』さま」

「『東の聖者』さま、『北の賢人』さま、『西の聖女』さま、『南の聖人』さま」

「協会の冒険者パーティより、『闇を切り裂く者』と『安寧なる眠り』のみなさま」

「『聖母』さま、『聖母の秘蔵っ子』さま、そして『在野の信徒』のみなさま」


 何名かはフードを下ろし挨拶をする者もいる。

基本的に名前を出すのは良しとせず、二つ名を持ちながら村や街に溶け込むように生活している者ばかりだ。

今の若者には知らない名前も多く、ヴィンターでも追いきれなかった為、アンジェラがマザーに紹介してもらい、交替で二つ名を紹介していった。


 次々読み上げられた名前に、集まった人々は声を上げて周りの者と喜びを称えあう。

年配の人々は昔を懐かしみ、今の人々は新しい聖者に声援を送る。

いつの間にか協会の上層部や執行部が一同に介し、隠遁したり放浪の旅に出たりしていた聖者達に深く頭を下げていた。

これから起こる事を国民は何も知らない。

現在トップであるグレオスティは、深々と下げた頭を上げられないでいた。


「随分待たせたわね」

「はっ、申し訳……」

「協会のトップに謝罪させるほど私は意地悪じゃないわ。アンジェラの件は正直どうかと思ったけどね」

「はっ、あれから大きな改革を行い、今では正常な運営を……」


「おいおい、そんなんで協会トップが務まるのか? 本来なら、この招集もお前の仕事だろう」

「全て私の責任です。この責めは私の首にてどうか」

「俺達はアンデット専門でな。化けて出るようなら改めて狩ってやるよ」

「では……」

「GR農場と国とみなさまの為に働きましょう。私達には知恵がある、それを次の世代に繋げるのです」


 『聖母』の発言に泣いている国民がいた。

王家は基本的に、協会に積極的な干渉は出来ないが、王家の女性は救済の心が度々協会の理念と一致していた。

『聖母』から配給や炊き出しを受けた者は一人や二人ではない。

自身の幸せの為に旅立った『聖母』が、また自分達を救うためにやってきたのだ。

これから何が起きるかは分からない。ただこれだけの聖人・聖女が集まったのだ。


 この場面を見学していたアキラは、自分達がこの大事件の渦中にいることを改めて痛感していた。

何か腹案はあるとは思っていたが、こんな大規模なイベントを起こすとは思っていなかった。

これだけのメンバーを集めることが出来ると、自然とシリルの病気が完治するのが当たり前のように思えてきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ