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055:ラストアタック

 潮風でベタベタなグレファスは、顔と手だけを水で拭っていた。

自分の剣と交換したので、潮風にやられた剣はもう使えないかもしれないけど、水で汚れを落とし乾いた布で拭き取り収納する。

やはりダンジョンというか、池だけではなく周囲の警戒もきちんとすべきだというのが総意だった。

それからは元の場所に戻り、アジを生餌として遠投用の竿で釣りを開始すると、すぐにヒットした。


 少し離れた場所から、釣り人のブレスが微笑ましい瞳でみていた。

丁度巨大タコに絡まれ、盾で抑え切れなかったグレファスは墨だらけになっていた。

今回は手足が多いタコをグレファスとタップが片手剣で丁寧に捌き、シーンが重い一撃を与え自分の弓矢が着実にダメージを与えていた。さっきのヤドカリと比べると、かなり弱そうな部類であり、タコの足と書道で使う硯がドロップした。


 反省を生かしグレファスはタワーシールドに切り替えると、それに合わせてシーンはトライデントに変更した。

二人とも取り回しが難しい装備に変えたので、タップが下がり弓を構え始める。

次も遠投用の竿を放ると、またまたすぐにヒットした。釣れたのはセイウチだった……、もはや魚介類でもなんでもない。

グレーと茶色の中間色が斑になっている、2本の長い牙が特徴的な動物だった。


 ある程度まで引っ張ると浮き上がり、魔法を使うのが遠投用の竿で釣った獲物の特徴だった。

大抵、水圧を高めた魔法や霧状の水属性魔法を使うようだけど、この巨大なセイウチは少し違った。

セイウチの目の前に小さい白い塊が現れ高速回転すると、その塊が徐々に大きくなり巨大な氷に変化していった。

その氷に向かい、セイウチが上体を反らし勢いをつけて牙をぶつけると、小さな礫になり広範囲に高速で撃ちだされていった。


 限りなく前に出たグレファスが大部分を受け持ってくれたおかげで、極端に横にいた者はいなかったので氷を受けることはなかった。衝撃を一身に背負ったグレファスは、一瞬声にならない声を出したが我慢出来たようだ。

グレファスとシーンが接敵すると、長い牙を器用に使って振り下ろしてくる。

それをシーンのトライデントが、セイウチの皮膚を貫きながら受け止める。

その隙にグレファスが牙の根元を攻撃すると、何合目かの攻撃で一本を叩き折ったのだ。

このセイウチからは牙と毛皮がドロップした。


 それからはマグロやカツオ等が続き、最後に大物狙いで疑似餌をつけたロープを放り投げた。

この仕掛けは地引網のように引っ張るので、タップとルーシーにも手伝ってもらった。

重い引きにオーエス・オーエスと言いながら引っ張ると、最後に出たのはハンマーヘッドシャークだった。

今まで出たどの水生生物より大きく、顔の前に広がっているT字の頭の色が黒ずんでいた。


 グレファスは防御に集中すると、まずはタップと自分の弓矢の攻撃で、鮫の集中力が散漫になった。

高度を下げた鮫は細かい水飛沫を放つと、グレファスの盾に異常とも思えるような、ガッガッガという音がマシンガンのように連射された。全てをタワーシールドで捌いたグレファスは一安心していた。


「グレファス、いい動きだ。しばらく引き付けてくれ」

「はい、タップさん」


 魔法が不発に終わった鮫は、黒ずんだハンマーの部分をグレファスに打ち付けると、この攻撃もタワーシールドに阻まれてしまった。シーンは胴体にトライデントを深く刺し、抉りながらそれを引き抜いた。

至近距離で激しく揺れる鮫を、グレファスは盾で打ち付けて少し下がった。

ルーシーの砂塵の魔法で視界を塞ぎ、弓矢の連射で着実にダメージが蓄積される。

一番ダメージを受けたシーンを目標に据えた鮫だが、グレファスが割り込み重い攻撃を受け止める。

タワーシールドの影から再び姿を現したシーンは、顎から上にトライデントを突き上げるとハンマーヘッドシャークは沈黙した。


 戦闘が終わるとブレスが駆け寄り、みんなの無事を確認してきた。

ここで出る鮫系のモンスターは、強さがずば抜けているいるので、あまり狙わないようにと注意をされた。

あの仕掛けでは池の主級を釣ってしまうので、封印したほうが良いみたいだ。

結構な回数の大型魚を釣ったので、別のエリアに移動することにした。


 探索範囲を広げ階層も移動し、洞窟がある場所で休息を取る。

吸血コウモリやフルーツを主食とするコウモリなど、動物達の棲み分けはきちんと出来ているようだった。

大型の吸血コウモリが三匹襲い掛かって来たが、グレファスが2匹引き付けている間に一匹ずつ丁寧に処理をした。

岩場を見つけ少し悪魔っぽい顔の白ヤギを見つけたが、好戦的ではない為逃げるのを見守るしかなかった。

10層のボス層を周回するようになり、二日目が過ぎ多くのモンスターを狩った。


 集中力がきれそうな三日目、最後の周回を終えると15層のボスを見てから帰ることにした。

ギリギリ森エリアのボス層である15層も、ボス部屋は樹のウロが入り口だった。

お昼前に並ぶ事が出来て、ここが終わったら王都に帰ることになる。

帰りの体力を残すのは当たり前だけど、ボスで負けたらシャレにならない。

最悪、休憩はボス部屋を出てからでも大丈夫なので、全力で最後のボスにあたることになった。


「アキラ、お前すごいな。きちんと矢が当たってるし、ダメージも悪くないぞ」

「グレファスさんこそ凄いです。あの鮫の頭を最後に触ったんですが、凄い硬かったですよ」

「ああ、あれは……。それ程じゃないさ」

「ほんとにー? 怪しいな」

「シーン。そこは素直に受けてくれないかな」


 強がりを言っているグレファスにタップは苦笑する。

騎士とはそういうものだ。ただ、それを見抜かれないようにする努力は必要になる。

まだ若いと思うか、伸び代があると思うかは見る人による。

このパーティーの連携がどんどん良くなっているので、リュージ達への報告は良いものになりそうだった。


 戦闘に邪魔にならない程度にお腹を満たすと、それぞれのやる気が充実していく。

順番が回ってきたので、最後の戦闘に突入することにした。ウロを潜り中に入ると、そこは石畳になっていた。

森エリアのボス部屋は屋外がメインのはずで、厳密にいうとある一定の空間から先に出られないようになっている

ところが5層のボス部屋みたいに石壁に囲まれていて、石畳の継ぎ目から申し訳程度の雑草が生えていた。


 中央の奥側には、地面に藁で作られた巣に鎮座するでっかい鶏がいた。

でっぷり太ったやや茶色い羽毛に、凛としたトサカが印象的だ。

大きさ的には8段の跳び箱を、横に二周り大きくした感じだろうか?

チャボのような顔つきに、15層にしては凶悪そうなモンスターには見えなかった。


「この手の鶏なら飛ぶことはないだろう。この大きさの盾じゃなくても良かったな」

「ほら、グレファス。それが油断だって言うのよ。何があるか分からないんだから、集中力を切らさない」

「シーンはいつも大げさなんだよ。ちゃっちゃと倒して戻ろうぜ」

「ねえ、グレファス。あの鶏、目つきが鋭いと思うの」


 サラの指摘に、鶏がこちらを睨んでくる。

巣の中で蹲っているということは、やっぱり卵を温めているようにも見える。

「僕達、卵泥棒に認定されたのかな?」

「うん、あの目つきは何度も見た事がある……」


 サラが強化魔法を唱え、タップが弓を構えると、シーンが合図を出す。

駆け出したグレファスを援護しようとタップが矢を放つと、むくりと起き上がった鶏が羽ばたきで威嚇をした。

そして、だらりと下がった漆黒の尻尾が鎌首を持ち上げた。


「コカトリスだ、グレファス防御に集中を」

「はい」


 コカトリスの羽ばたきには、魔法の効果があったのだろうか?

ギリギリまで近づこうとするグレファスを風圧で押し戻し、タップの矢は軌道を逸れて明後日の方向に飛んでいく。

シーンは冷静に迂回しながら横に回りこもうとすると、鎌首を持ち上げた蛇の部分がシーンを睨み付けた。

蛇の牙から滴る紫色の液体が、ニードル系の魔法のように形を変えてシーンを襲う。


 二滴の雫が二本の針に変わり、一本がシーンの頬を掠めた。

「シーン、大丈夫か?」

「はい、タップさん。このく……、ぁ……かはっ」

「アキラ、毒消しの準備だ。……あの苦しさは呼吸器系か」


 タップが弓を捨て、剣を構えて前に出る。

コカトリスが正面を向いている状態なら、蛇の姿はこちらには見えない。

思いの他でっぷりしているので、丁度良い具合だった。

サラとルーシーが序盤からバードジェイルの魔法を使い、時間を稼いでくれたおかげで、タップがルーシーを引きずって自分の近くに連れてきてくれた。


 のどを掻き毟るシーンは、上手く息を吸えていないようだ。

ポーションを用意したけど、この状態では飲む事は出来ないだろう。

覚えたばかりの『解毒』の魔法を唱えるとシーンは数回咳をして、その後は顔に赤みがさしてきた。

シーンの代わりにタップが前衛を務めてくれている。

こういう時は、ゆっくり態勢を整えるようにと事前に打ち合わせ済みなので、シーンはゆっくり深呼吸を始めた。

収納から出した槍をシーンに渡すと、「ありがとう、今のは本当に怖かったよ」とシーンはおどけて見せた。


 大暴れをしてバードジェイルの檻を壊すと、コカトリスは逃げられた獲物の次の標的を狙う。

グレファスが真正面で相手の攻撃を受け持ち、嘴による啄ばむ攻撃をタワーシールドで防いだ。

一撃一撃が重いが防御に特化した盾で、扱い方もきちんと勉強しているし、グレファスは仮にも騎士科の特待生だ。

十分な時間を稼いだグレファスに、タップが少しずつ攻撃を与えていく。

シーンは再び迂回しながら、トライデントが落ちている地点を目指した。


 室内は程よく暖かく、まもなく今年も終わるというのに、春のような日差しになっていた。

10層のボス部屋では鳥の鳴き声等もあったけど、この部屋は時折ピシッっという音が……。

「まずい、何か嫌な感じがする」

「そちらは私に任せてください」


 回り込んだ事により、またもや蛇の部位と目を合わせてしまうシーン。

素早くトライデントを拾うと、先ほどの二本の針がシーンを狙って放たれた。

今度はその勢いのまま回転して一回離脱し、大きく振りかぶりトライデントを巣の場所へ投げた。

パリーンと言うかガシャーンと言うか、微妙に甲高い音と勢い良く割れた音が相まって、巣にトライデントが斜めに刺さっている姿が見えた。


 一瞬振り向くコカトリスに、グレファスが盾から身を乗り出すと、蛇の部位がこんにちはと顔を出す。

再び顔を隠して攻撃に備えるグレファス、そんな蛇にタップは一刀両断とばかりに剣を振り下ろした。

痛覚は共有しているようで、コカトリスの鶏部分が怒りの形相で正面の盾を崩しにかかる。

ガッガッガッガッと連続で嘴を打ち付けるが、完全な防御姿勢で受けるグレファスには多少余裕があった。


 シーンは槍で蛇の部位を警戒すると、鶏部位の胴体目掛けて槍を放つ。

もう蛇の部位は鎌首を持ち上げるのも困難のようで、後はただのでっかい鶏だった。

風属性の魔法であろう羽ばたきの攻撃も、少し距離を稼ぐものでしかなく、少しずつ傷を増やしながら最後には床に伏した。

タップとシーンが慎重に巣の所へ確認に行くと、徐々に消えていくところだけど、数個の卵をトライデントの三つの先端が器用に貫いていた。


 今にして思えば、コカトリスやバジリスクなんかは、石化の能力があるモンスターだと気がつく。

この固体がそういう能力があるかないかはさて置いて、シーンが一回毒を受けただけで済んだのは良かったと思う。

徐々にモンスターの姿が薄れていき、代わりに宝箱が発生した。


「ほう、最終日の最後でようやく当たりか」

「タップさん、これは期待してもいいのか?」

「ああ、悪くないものだと思いたいな」


 通常ボスを倒すと、その後ろに扉が発生する。

そう言えば、入ってきた所も一定時間を経過したのに開かなかったのを思い出した。

「タップさん、それ罠か……」

既に色々と道具を用意したタップが宝箱に触れると、ガコっという音がした。

石畳の二箇所が一直線上に凹み、レールのような形に変形した。


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