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052:砂漠の国3 【閑話】

 砂を掘っている間に簡易テントを設置する。

日が段々高くなってきているので、暑さ対策にはやっぱり日陰だ。

リュージの作業と他のメンバーの作業は、大抵交互に行うことになる。

みんなが日陰で休憩していると、ぽっかり空いた穴の下で、昔見たTVのCMを思い出した。


「テンテケテンテンテン フフーッフ フッフフ フフフフ樹」

何のCMか忘れたけど、とにかく大きな樹が映っているCMだった。

あれは何の樹だったのだろう? 希望を込めて収納に手を入れると、一つの苗木を手にした。


「リュージ君、さっきも話したけど、それを一本だけここに植えるんだよね。もし順調に育てるなら、いっぱい植えた方が良いんじゃない?」

「はい、ポライトさま。それもありだと思うのですが、この樹は順調に育てば大きくなる予定なんです」

「へぇぇ、何の樹だい?」

「ごめんなさい、名前は思い出せないんです」

「気になる樹だねぇ」

「アイザックさま。気になるようでしたら、後で名前を付けてください」


 魔力が続いている間は、壁が崩れることはない。ただ、上から舞ってくる砂には無力だ。

ゆっくり屈み苗木を地面に置くと、サンドボールの魔法を何個か苗木の近くに落とす。

リュージのサンドボールは地面に落ちると、どさっと容量が増えて栄養分がいっぱい詰まった土に変化する。

攻撃魔法が苦手なリュージは、土や水や植物に特化した、農業魔法のようなものが使えるのだ。


 苗木に土をかぶせ、収納からジョウロで水をやると、成長促進の魔法をかけた。

「テンテケテンテンテン フフーッフ フッフフ フフフフ樹」

「リュージ君、その歌はなんだい?」

「この樹の歌です。あ、結構成長が早そうなので、上に上がりますね」

冒険者二人に手を借り引き上げてもらうと、その樹は途中まで生長していった。

魔力を吸い上げて根を張り、順調に成長している樹は、穴の高さを少し越えた地点で成長を止めてしまった。


「成長が止まったね」

「おかしいなぁ……。今までこんなことはなかったのに」

「やっぱり、この土地は死んでしまったのだろうか?」

樹の周りに砂が徐々に落ちていき、魔力の残滓により少しずつ成長している樹の先は、徐々に枯れ始めていた。


「ごめん、みんな。この作戦は失敗みたいだ」

「リュージ君、気に病むことはないよ。私達はまだ来たばかりだろう」

「そうですね……、他の案も考えましょうか。それにしても、この樹はもったいないなぁ」

「そうだね。でも枯れてしまうのは、何か問題があるんじゃないのかい?」

「ポライトさま。成長はバランス良く促進しているので、一部が枯れ始めるということは植生が良くないのかもしれません」


「このまま放置するのかい?」

「そうですね……、若木なので一部を切ってしまえば残せるとは思うのですが。樹……、枯れ樹……。何かあったような?」

「一部を切ると言っても幹の部分だろう? それではこの樹が死ぬ事にならないのかい?」

「多分接木をすれば……。そうか、あれを使ってみよう」


 掘り下げた場所から地面を越えて枯れ始めた部分を、『バカ旦那』の男性の手を借りて切断する。

するとリュージは一本の、『神樹の枯枝』を取り出した。

これはエルフの集落でお手伝いをして、その後GR農場を見学しに来た時に報酬としてもらった物だ。

エルフ達が神樹と祀る、その土地で一番古い樹から自然と落ちたもので、エルフ達は薪として使わずに大切に保管していた。


 神樹と言っても神話時代にあった恵みの樹の、孫の孫の……といった物であり、エルフ以外には違いが分からないような物だった。右手に『神樹の枯枝』を持ち、左手は若木に触れて精神を集中する。

自然と零れるように紡ぎ出す言葉を、女神さまへの祝福の言葉として祈りを込める。

「古き叡智と若き命 それぞれが手を結び 新しき神樹として この土地に根ざし給え」


 先程切断された場所に、再び同じ太さの色違いの幹が生まれる。

リュージの右手には何もなく、若木のその継ぎ目は、徐々に境目が分からないように色が混ざっていった。

再びリュージが成長促進の魔法を唱え、魔法使いがジョウロで水を撒いている。


 水に含まれる魔力・土に含まれる魔力・樹に注いだ魔力が合致した瞬間、バッサと音がして一気に幹と枝が急成長し一斉に葉を茂らせていく。

「みんな、少し離れよう」

「邪魔にならないようにベースキャンプへ。冒険者のみんなは周辺の確認を頼む」

ポライトの指示により、樹の順調な成長を妨げないように下がっていく。


 素早くテントを回収して下がると、樹の四方を囲っていた魔力の壁が割れて砂がなだれ込む。

大地が振動しているような成長が、砂を押しのけて上に上に横に横に伸びているので、砂のあるなしは問題なかった。

どれだけ成長するか分からない。この樹のすぐ下にジョウロを置き、いっぱいの魔力を込めると自動で水が流れるようにした。


「いやぁ、リュージ君。まずはお疲れ様」

「いえいえ、ここからがスタートです」

「そうだぜ。これで終わりだったら、俺達が来た意味がないからな」

「私達も知恵を絞ります」

「じゃあ、これから外は暑くなるから中で作業をしようか。あの樹が生長すれば徐々に日陰も増えて、周りとのバランスも良くなると思う。『バカ旦那』の方は何かこうしたら良いって案はあるかな?」


 通常、街作りと言えば『衣食住』をどうするかだ。

着る物は少し置いておいて、樹があり日陰もあればその下に簡易テントを設置するのは問題ないだろう。

ただ問題は砂であり、資材としても何かを育てるにしても、砂をどう有効活用するかに掛かっていた。

その他にも火をどう使い、確保するかという問題もあった。


「リュージさんって土属性魔法が得意ですよね。さっきみたいに、砂を固める魔法って使えますか?」

「うん、それは覚えているよ。でも、自分がいなくちゃ使えない物は却下でしょ」

「はい、だからそれを魔道具化するんです。寸法はこっちで決めますので」

「へぇぇ、それは良いね。じゃあ、そのブロックは、ある程度軽くした方がいいよね」


 『バカ旦那』の面々は、話しながら黒板に構想を上げていく。

寸法は2対1で厚さも程よいブロックにした方が良い。接合部分やブロックの組み上げ方はカマド方式が良いなど、次々に案があがり、早速積み上げた資材を手元に引き寄せていく。

どうやらエントの弟子である魔道具職人のこの女性が、『バカ旦那』のリーダー的存在らしい。

少し時間が欲しいと言われたので、職人達のやる気に期待することにした。


 巡回が終わって戻ってくる冒険者達が、先程の樹の報告をしてくる。

順調に成長しているようで、生い茂る枝葉が影を作るが、木漏れ日というか全ての陽の光を独占するような物でもないらしい。

そして出しっぱなしになっているジョウロの水の周りに、コケのような緑色の砂が混ざってきているらしい。

モンスターの気配もなく、外は今のところ安全のようだ。


 午前の作業も終わりが見えてきたので、ベースキャンプで昼食休憩となった。

職人達は白熱しているようで、後で食べられるように準備だけはしている。

この旅に来るにあたって、食事の準備や応援はかなりしてもらっているので、主に収納から取り出すだけになっている。

パンはフカフカのホカホカだし、スープ類は寸胴鍋に数種類、大量にストックしてある。

パスタだけは茹でたてが美味しいような気がするので、リュージは現地で茹でることにしていた。


 暑い地方には、スパイシーな食事がよく似合うと思う。

新鮮なサラダにペペロンチーノ、ミネストローネにパンをバスケットで出し、分厚い謎肉を生姜醤油でソテーしていく。

調理場所にはお盆や食器が大量に置いてあり、料理が落ち着いた先から並び始めた人々が各自で取っていく。

無理やりついて来たアイザック一行は最初辞退していたが、食事は大勢でとった方が楽しくて美味しいものだ。

ポライトが一段落した職人達に声をかけると、昼食へと移っていった。


「美味い! しかもこんな砂漠で新鮮なサラダが食べられるなんて……」

「私はこれが楽しみなんですよ。現地の食事も楽しみですが、王国の彼の農場は別格ですからね」

「この素材も料理法も特別なんだろうな。ん? 何だこのパンの柔らかさは」

「それも王国の一部では人気なんですよ。今度は是非、王国にも遊びに来てください」

「ああ、是非こちらからも頼むよ。この場所が街として発展出来たら、貴方達の訪問も待っている」


 肉はあっという間になくなり、素材とソースを出しておくと、冒険者達が勝手に焼き始めた。

パスタは製麺所から、生麺が1人分ずつになっている状態の木のケースごと買っている。

職人達も足りなかったようで、麺を茹でながら討論をしていて麺をふやかしてしまっていた。

それでも美味しく仕上がるのは、農場の素材とソース類が充実しているせいだった。


 食事が終わると職人は作業に入り、アイザックと部下達は職人の作業を見ていた。

ポライトと自分はお茶の準備をして、一通り方針を伝えると休憩に入る。

暑い時間帯は外での活動を控え、深夜と早朝や午前中に作業を進めることにしているのだ。


 職人の一人は木枠を作り、女性がシトリンという黄色い宝石を、魔力を使って埋め込んでいく。

その宝石に目掛けてブロックの魔法を自分が、重量軽減の効果を女性が付与していく。

試しに違う職人が砂を入れて宝石に魔力を流すと、ゴトっと音がしてブロック状の砂の塊が生まれた。


 夜間にブロックを量産すると、ポライトが収納に仕舞っていく。

主に樹の周りの砂を排除していき、ブロックを使って噴水の場所を確保し、その水を上手く樹と生活用水と農業用水に使えれば良いと思う。どんどんブロックを量産していると、ポライトが「これ、自動化出来るといいよね」と漏らした。

「自動化というならコンベアを回転させて上に持っていって、投入口に落として常動型の魔道具に落とす感じか」

「ちょちょ、リュージさん。多分そこ重要です。どういうものかこの黒板に書いてもらえますか?」


 職人達に説明をして、同時に噴水の構想も伝えていく。

途中、アイザックとポライトに意見を聞き盛り込んでいくと、段々計画が形になっていった。

それからアイザックは一旦街に戻り、ダンジョンから稀に発掘されるというマジックバック等の収納を購入し、作業に向いた部下を少し多めに連れて戻ってきた。


 その数日の間に樹の周りの砂を大量にブロックに変え、噴水の設置場所を確保し大まかに地面に図面を書いていく。

職人や冒険者達がその作業をしている間に、温室の魔法で噴水の近くにトマト畑を作っていた。

この温室は紫水晶という宝石を使って、大気中の魔力を吸収し維持出来るようにしてあるので、この土地で再び作れる農作物1号になる予定だ。


 ブロックを組み、噴水の形を作る。

中央には1.5mくらいの石柱を作り、その上部を凹面にして中心に紫水晶を設置する。

魔道具を発動すると、凹面に徐々に溜まった水が、表面張力に耐え切れなかった所から零れ始める。

ブロックに囲まれた噴水に水が流れ始めると、全員が自然と拍手をしていた。

噴水の周りを囲むブロックは必要に応じて溝が彫れるようになっており、一本は樹に向かって側溝のようなものを作っている。


 最初の勢いこそ激しく成長した神樹とも言える樹だけど、現在の生長はとても穏やかで、来た当初より暑さも控えめになっている感じがした。戻ってきたアイザックの部下達も協力してくれて、ブロックの自動化ラインも完成した。

ここからは砂漠の中からの街作りとなる。荷車を取り出しブロックを積み、計画に沿ってブロックを設置して仮設住宅を作る。

計画的に砂をブロックに変え、街までの道を整えるように砂漠の砂を無くしていく。

途中からは井戸掘りと農業支援にシフトしていき、ある程度の形になったらポライトからアイザックに打診をして、作業の終了となった。


 砂漠化している原因が分かった場合は、冒険者を雇うようにお願いをしてある。

もし何らかの魔法的存在や、動かしてはいけない物などがあった場合は注意が必要だと思う。

魔法や魔道具の研究は日進月歩で進んでおり、王国としても協力要請を受けたら手伝う準備は出来ている。

主に宮廷魔術師団の仕事になるけど、最近の王国は就業場所の垣根を越えて交流があった。


「アイザックさま、復興はこれからです。砂漠化がどうなるかは、今の私達には分かりませんが、素晴らしい街になることを祈っています」

「ポライトさま、リュージ君、そしてみんな。ありがとう、本当にありがとう。正直、ここは放棄するしかないと思っていた。私はここが緑豊かな大地に戻ると信じているよ」

「女神さまと精霊さまも喜ぶでしょうね」

「そうだ、女神さまを祀る場所も必要になるな。どちらにせよ、これからは私達が頑張る番になる。そして、その成果は今日ここに関わったみんなにも伝えたい。また、ここに来てもらえるかな?」

「はい、その時がくれば」

「アイザックさま、リュージ君は忙しい身だから期待しすぎは禁物ですよ」

「ああ、気長に待つよ」


 こうしてアレージアの砂漠の街は、オアシスとして蘇ることになった。

砂漠化は広がりを止め、廃墟になった街の跡地も見つかったと言っていた。

アンデットが出るという話はやはり噂で、冒険者や騎士が探索に入ったと聞いた。

約一ヶ月の出張が終わり、かなりの報酬が支払われたと聞いている。

その報酬以上の満足があったなら幸せだと思った。


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