050:砂漠の国1 【閑話】
50話達成記念として閑話を入れました。
今回の閑話は上下構成の予定です。
ご意見ご感想がありましたらお願い致します。
この話まで読んでいただいた皆様に感謝です。
GR農場は、知らないうちに知らない職員が働いている事がある。
この知らぬ間の職員として一番地位が高いのが王妃さまだけど、正式に給料が出たという話は聞いたことがない。
また商業ギルドからの出向で来ているはずの、森エリアにいるドワーフのゴルバや調理班の多くの者などは、正式にその籍を抜けて農場勤務となっていた。ここで働く人々は役職こそ違いがあるけれど、アットホームで身分や立場を抜きに働いていた。
今日もガレリアとリュージは、応接で色々な事を検討していた。
レンとザクスとヴァイスも一緒にいて、来客が途切れたら内々の話をしていた。
「ヴァイス、そういう訳なんだ。問題は綿花の栽培をどこでやるかなんだよね」
「リュージ、いいか? もう結構経つけれど、公爵家からは王家に嫁いで、ローラは伯爵家に嫁いだよな。ここは侯爵家に相談してみるのも手だと思うけど……」
「ヴァイス君はそれで良いのかい? 王子からはそろそろヴァイス君にどこかの領地を考えているようで、特産品があると良いんじゃないか? って話も出ているようだよ」
「ああ、それは良いんです。うちとしては家名が復活して、数代後に努力が認めてもらえれば」
「ヴァイスは騎士として頑張るんだよね。弟君はどうなの?」
「奴は奴で頑張ってるよ。ラース村の代官見習いとして働いているし、間もなく王都に戻って文官として働くことが決まったよ」
「まあ、こき使われているうちが華だよね」
「さすが、経験者は語るねぇ」
「ザクス、茶化すなよ。毎年招待状が来るとか、アフターフォローも結構きついんだから」
「リュージ君、今年も来ているよ。いつまでも断ると、ポライト男爵が苦労するんだが……」
「やっぱり、そろそろ行かないとまずいですよね」
リュージは王国内や近隣諸国を支援団体として訪問していたが、その中で熱烈に歓迎されている場所があった。
そこはアレージアという国で、年々砂漠化が進んでいた場所だった。
当初、招いた国側も子供の遊びのような団体が、アピール目的に冷やかしに来るなと断っていた。
その中で、『藁をも縋りたい』とポライト男爵家に相談していた者が、そのエリアを管理している貴族家だった。
「みんな、年が明けたらまた旅に出るようになると思うけど、後のことはお願いします」
「気にするなよ。ここを守るのが俺の仕事だし、これだけのメンバーが揃っているだろ?」
「そうそ、何時もの事じゃないか。困ったらブラウンに連絡を取ってもらうよ」
「そういえば、今日は来客があったね」
学園を卒業してからのリュージには、色々な出来事があった。
冒険者として各地を回り、様々な土地や多くの人に出会うことが出来た。
この王国内にも亜人の集落があり、貴族領の中の自治区として交易をしている場所もあった。
支援団体として、そういう場所へ行った時に出会ったのが、今日視察に来ているエルフの団体だった。
エルフの青年団の数名と言っていたが、エルフの年齢を確認する術は存在しないと思う。
ノックが聞こえ、ブラウンがエルフ達を案内してきた。
もうすっかり人間形態が板についているブラウニーだが、ユーシスとナディアが全幅の信頼を置いている精霊でもある。
綿花から糸を紡ぎ包帯にまで仕立て上げた、『内職をやらせたら日本一』……もとい、異世界一の職人精霊でもある。
「ガレリアさま、リュージさま。そして、みなさま。毎年とても興味深く勉強させて頂いています。精霊さまにも愛されて、楽園のようですね」
「あまり収穫をされてないと聞いていますが、帰りに馬車で用立てましょうか?」
「いえいえ、私達はこの場所に来れただけで十分です。それより、種や苗をこんなに頂いて宜しいのでしょうか?」
「私達の事業は、精霊さま達の恵みを還元しているつもりです。多少は儲けていますけどね」
「それは人の営みとして当然の事だ。私達も外の世界と関わるようになって、お金の重要さは理解している」
「そうですね。そして、私達の活動が届かない場所へは、積極的に協力したいと思います。さすがにまるっきり同じ商売を近くされたら考えますけどね」
昔読んだ小説で、エルフには傲慢な者が多いとあった。
樹木の生育に夢中なドワーフもいるのだ、謙虚なエルフ達がいるのもおかしくはない。
集落にいるエルフ達が、一口だけでも食べられるくらい育てるのが目標と言っていた。
初年度に案内した、GR農場の秘密の場所である、『精霊の園』を今年も見たのだろう。
夢心地のようにポヤーンとしているエルフの姿は、なかなか見られるものではなかった。
「ああ、そうだ。いつもいつもお世話になってばかりで、長老さまよりお礼がしたいと……」
「申し訳ございません。何分忙しい身ですので、今回の事も友好の証という形で……」
「先に断られてしまいましたか……。本来なら長老の方からご挨拶すべきところでしょうが、あの土地を離れる訳にはいかなくて」
「そうですね、その気持ちはわかります。例年通り、数名なら農業研修という形で受け入れもしますので、長老さまに宜しくお伝えください」
王国は貴族領の集合体とはいえ、小さな集落や管理されていない土地まで数えるとかなりになる。
緊急性や優先順位やその他、助けの声を聞いてしまった等、行くべき場所はたくさんあった。
支援が終わった場所からお礼の招待は多くあったが、次々に助けを求める声が上がるので、なかなか時間が取れないのが現状だった。
リュージは折角の招待に行くことが出来ず謝罪をすると、青年団長が以前に「自由に使って欲しい」と言った、『神樹の枯枝』を数本持ってきてくれた。
「私達の集落にある枯枝です。もう接木による接木のものなので世代を経ていますが、私達がお渡しできる最上の物です」
「本当に良いのでしょうか? あなた達の信仰対象にもなっているはずですが……」
「全ては女神さま、精霊さまの思し召しです」
「ありがとうございます、大切に使わせて頂きますね。みなさまに宜しくお伝えください」
この『神樹の枯枝』によって、アレージアという国は救われた。
毎年の招待には正直困っているけれど、砂漠化が少しでも改善されているなら、一度見ておいたほうが良いかなとも思う。
エルフ達と別れると、ブラウンに招待への返事をお願いした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「今回の依頼はこの3件ですか。ポライトさま、どうしましょうか?」
「そうだな、私も付き合いの長い所から、そうでもない所まであるんだよ。国が解決しないといけない事もあるからね」
「リュージ君はまだ戻ったばかりだから、少し休んでも良いのではないかい?」
「ガレリアさま、こういうのは勢いが大事だと思うんです」
レンと結婚してからすぐに子供に恵まれ、レンの実家である伯爵家にはとてもお世話になっていた。
婚約期間が長くて随分待たせてしまったけれど、周りの助けにより大分時間が取れるようになった。
その分、周囲のちょっかいが増えた事により、せめて年末年始くらいはゆっくりしたいという思いがあった。
国内の仕事は、手を出しすぎてはいけない。
それは基本的に王国が考える事であり、その土地の領主が考える事であるからだ。
一事業主としての枠をはみ出ることはせず、異業種の繋がりから新しい暮らしを創り出し、人々の生活が良くなれば豊かになるだろう。その日は3件の絞込みで終わり、頭の整理をする為に鍬を持って畑に出た。
振りかぶって振り下ろす、振りかぶって振り下ろす。
「みんな困っていて、それでも生きているんだよなぁ」
「とても困ってるのじゃー」
「そうね、どこかに助けてくれる人はいないのかしら?」
独り言に相槌を打つ、水の精霊さまと土の精霊さま。
緑の精霊さまは、多分『精霊の園』でうっとりしているだろう。
最近、百葉箱から出てくる昆虫達の、バリエーションが増えているように感じる。
その割には一定数しか出てこないので、交代で出てきているのかもしれない。
「どうかされました?」
「あ、おじいちゃん。優しい旅人がいたわよ」
「持病のしゃくなのじゃー。こほこほ」
「時代劇くらいでしか聞いた事ない台詞を……。良く知っていますね」
「女神さまから聞いたのじゃー」
どうやら二人の精霊さまは、さっきの支援場所の話を聞いていたようだった。
3箇所のうちアレージアという所で、精霊力というか魔力というか、極端にバランスが崩れている場所があると説明があった。
水の力が強い場所は雨季が長く、土の力が強い場所は豊作になることが多い。
人が住む場所は極端にこの力のバランスが崩れる事は少ないようで、水と土の力が衰え火と風の力が極端に強くなってしまった場所がアレージアという場所だった。
この国には徐々にその傾向はあり、どんな国かと聞いた所、遊牧民みたいな生活をしている姿が一番しっくりくるらしい。
ラクダや羊を飼っていて、草があるところを転々とするイメージだ。
ゲルやパオといった、居住用設備なんかもあるかもしれない。
解決出来ないまでも砂漠化を食い止められるように、アイデアを出して欲しいと精霊さま達に頼まれてしまったのだ。
直接精霊さまが問題を解決することは出来なく、人を介しないとどんな反動が生まれてしまうか分からないそうだ。
それからは留守を頼み、ポライトと一緒に使節団を少人数にしてアレージアに旅立つ事にした。
この使節団は国の事業でもあり、多くの職種と幅広い年齢層の者達が集まってくる。
固定メンバーだと思考にも偏りが出てしまうので、毎回各団体から選抜メンバーがやってくる。
ポライト男爵と自分は確定で、今回は商会と商業ギルドの一部若者達で結成された、『バカ旦那の会』から4名参加することになった。これは今の会長職をするような年配の、『先代会』に対抗して作ったと言われている。
考え方が幼かったり、口より先に手が出るまたは手が動くような若者の集まりで、酒を飲む口実になっている団体だ。
それでも、どうしょうもない奴は会合なんかには出席しない。
アイデアはあるけど、『守破離』の守でじっくり経験を積む時期の若者達は、実力を認めてもらいたい時期でもあった。
そして冒険者ギルドからは、護衛という形で4名の新人冒険者達が参加することになった。
新人と言っても学園の卒業者等もいて、昔に比べたら格段に新人のレベルも上がっているという。
前衛二人に魔法使い一人、協会からの修行で癒し手が同行するバランスの良いパーティーだった。
事前準備をしっかりして、かなり遠い道のりを走り始めた。
アレージアには、到着早々歓迎会を開いてもらった。
そこで多くの貴族から挨拶を受けたが、どこか余所余所しい感じがしていた。
ポライトはこういう反応も慣れたもので、敵と味方を慎重に見極めている。
そこに一人の自分と同年代の男性がやってきた。
「ポライトさま。遠路はるばる、ようこそおいで下さいました。私はアイザックと申します」
「おお、あなたがアイザックさまでいらっしゃいますか。確か名門の出で、領地が危機だとか」
「いやいや、お恥ずかしい。以前より砂漠化については国の問題として考えておりました。ただ、事態に直面していない者達とかなりの温度差があるようで、私が婿養子として立候補したのです」
「国を思う心は大切ですね」
「あなたがリュージさんですね。是非被害拡大を防ぐお知恵を拝借できれば」
「何が出来るか分かりませんが、お手伝い出来ればと思います」
歓迎会と言っても、「うちは他所に援助して貰わなくても大丈夫」というアピールを兼ねていた。
当たり障りのない会話、おべっか・自慢など、国を憂う発言をしたのはアイザックだけだった。
地球では温暖化により異常気象や天変地異が起きている。
原因究明をするか対処療法をするかは、現地を見なければどうにもならない。
自分一人ではなく、みんなの力を借りて成果を上げなければと、リュージは心に誓った。




