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005:貴女に花束を

 今日は朝から三人で、テーラーに仮縫いした衣装を合わせにいった。

ウォルフと自分は男なので、衣装を調えるのに然程時間はかからなかった。

このテーラーには女性にゆっくり見てもらえるように喫茶コーナーが設けてあった。

早速ゆっくりお茶をして待つことになった。一応今日はミーシャの護衛を兼ねているので、自分達が終わったからといって帰る訳にはいかない。

ミーシャが出てくるのを待っていると、店員から「お美しいですわ」と賞賛の声が聞こえてきた。

奥から登場を待つとミーシャは淡い緑のドレスを着て、クルリと一回転しフレア部分をつまみんで礼をした。


「ミーシャかわいいよ」と声を掛けると、慌ててウォルフも「うん、とってもいいね」と追随する。

「ウォルフ兄さま、減点です。アキラ兄さま、そこはかわいいではなく……」尻すぼみになった声はかすれていった。

「まあ、何はともあれ、これでダンスパーティーに間に合ったね」

「ミーシャの分は別邸まで届けていただけますか? 自分達の分は後で私が取りにきますので」


 店員にそう告げるとサインをする。支払いは別邸のお爺様が既に処理しているようだった。

カランコロン、入店の合図があったので思わずそちらを見ると、ステイシアがお供を連れて入ってきた。

一番に気がついたので、失礼を承知で近づきお供の方へ声を掛ける。

「初めまして、アーノルド家のアキラと申します。この後お伺いする予定でしたが……」と続けようとした所ステイシアが期待をこめて前に出てきた。


「アキラさん、昨日はありがとうございました」

「いえ、お役に立てたなら幸いです」

「それで、その手紙はもしかして……」

「はい、えーっと。ウォルフちょっといい?」

「え? ウォルフさまもいらっしゃるんですか?」

「アキラ呼んだか?」

「こちらが昨日の」

「ああ、これは失礼しました。私アーノルド家のウォルフと申します。この度は申請ありがとうございました。返事はこちらに認めましたが、折角こうして会えたので直接返事をさせて頂きます。」

「……はい」ごくりとつばを飲み込む音が聞こえた気がした。


「今回のダンスパーティーのカップル、こちらこそお願い致します。妹のお守りもありますのでずっとと言うわけには参りませんが」

「あ……ありがとうございます」

「まあお兄様、お守りとはひどいですわ。それと私にも紹介頂きたいと思います」

ミーシャが登場を伺いながら前に出てきた。


 ステイシアは三人揃った姿に緊張しているようだった。

そして「この後時間がありますか?」と聞かれたので、皆に確認し近くの店でお茶を飲むことになった。まずミーシャがステイシアの唇に注目する、そしてこちらを軽く睨んだ。


「アキラ兄さま、あれをお渡ししたのですね」

「うん、まあこのくらいはね」

「ステイシアさま、その唇とてもかわいいですわね」

「あ、これはその。昨日アキラさんに用立てて頂きましたの」

「とても似合ってますわ。ねえウォルフお兄さま」

「ん、そうだね。彼女の魅力が更に引き立てられているように感じるよ」

「まあ、魅力だなんて……」


 しばらく二人の会話を見て大丈夫だと判断すると、ミーシャに目配せをする。

「そうですわ、この後予定がありましたの」ミーシャがステイシアに断りを入れて退出することを告げると、自分も送るためと理由をつけて二人っきりにさせてあげた。

急に二人っきりにされたステイシアは慌てていたけど、きちんとお供の人が控えていた。


 帰り道で最近の学園の様子をミーシャに聞いてみると、仲の良い友人が増えたそうだ。

そして『ウォルフ親衛隊』の人数が又増えた事を教えてくれた。

ちなみに『ミーシャを見守る会』がある事をミーシャは知らない。

二人はお互いに多くの人に見守られているが、お互い見守られている事に気がついていなかった。


 特に貴族の長男長女としてこの学園に来ているものは、親からきつく言い含められていた。

アーノルド家は王国から見放されたのだ、へたに関わって不興を買う訳にはいかない。

こうして政治的付き合いの関係ない子息子女は、同性の相手と友人になり、密かに憧れる者は親衛隊や見守る会に入っていくのだった。


 休みがあけて学園が始まる、その日は前日リクエストがあった真っ白い花束を用意していた。

「ウォルフ、見にいっちゃダメかい?」

「アキラ、さすがに恥ずかしいんだけど・・・」

「後でミーシャに聞く事で納得するよ、噂が広がるのは早いだろうからね」

「そこは覚悟しとくよ」


 ウォルフが花束を持って学園に行くと、密かに騒ぎになっていた。

「ねえ、もしかして」「クスクス」「え? なになに」「わたしかも?」「え? それはないわぁ」等など。

ウォルフは居た堪れなくなり一限目が終わり、休み時間になるとある教室へ向かった。


 教室の入り口に立つと出入り口にいた女性に声を掛ける。そしてステイシアを呼び出してもらった。

「あらウォルフさん、今日は……」

立膝をつき後ろに隠していた白い花束を差し出す。

「ステイシアさま、今回のダンスパーティー是非ご一緒させてください」

周りから黄色い悲鳴が沸きあがる。

「わ……私で宜しければ……お願いします」花束を受け取り一本引き抜いて返す。


 これは家として、正式に交わされたカップル申請の手続きが終わった後の、様式美のような儀式だった。

ただ、やる方は相当恥ずかしく、形骸化されたものだったのでやる者は少なかった。

ステイシアは耳元にこっそり「ありがとうございます」とお礼を言い、ウォルフはそそくさと退出した。

すると周りの女性はステイシアに殺到し、ステイシアは質問攻めにあうのだった。


 ミーシャに関してはさりげなく噂が広まっている。

昨年と同様に兄弟がパートナーをする事が決まっていて、問題はその合間に誰がダンスを申し込めるかにかかっていた。

事前の申し込みは見守る会を説得する必要があり、余程高位の爵位でなくては難しい。

爵位だけで何とかなるかどうかは人格によるが、学園時代はさりげなく家を主張するのがスマートだった。

パートナーが決まっている以上、第二第三候補でいいと申し込むのは非常識だった。


「やあ、ウォルフお帰り。どうだった?」

「はぁ、マジ緊張したわ」

「ステイシア嬢の慌てる姿が目に浮かんだよ」

「ん、すごいガチガチだった」

「詳細は……」

「ミーシャにでも聞いてくれ」

絶対尾ひれ背びれがついている情報でいいのか? と思いつつ後の楽しみにした。


 週末にはダンスパーティーが迫っている。

ウォルフの行動によりダメで元々とアタック&アピールするものが激増していった。

次第に盛り上がっていく学園内の空気に皆があてられて行く。

迫り来る影はなりを潜めていた。


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