047:情報収集と釣り人
初日のダンジョン探索が終わると、マークとゲートの魔法を駆使してウォルフを家まで送った。
ミーシャとロロンも何かを感付き始めているようで、自分に続きウォルフまで不在期間が多いと騒がれてしまうだろう。
お使いが実質一ヶ月くらいの留守になる予定なので、心配をかけたくないという思いがあった。
二日目になると、今度はダンジョンを5層経由で10層を目指す。
宿は支払いを済ませてあるらしく、頼んでいた盾とトライデントは今日中に確保して貰えるようで、時間的に戻れるかは微妙なところだった。昨日と同じ時間に同じ係員に相談し、ダンジョンへ入ると順調に階層を進んでいった。
「みんな、昨日より大分良くなっているぞ」
「本当ですか?」
「ああ、5層を通過したが昨日の半分くらいの時間だな。このまま10層を目指すが、8層を超える辺りから階層の様子ががらりと変わるから気をつけるように」
「「「「「はい」」」」」
最初は石畳と石壁が多いダンジョンで、出てくる敵もゴブリン等が多かったが、4層辺りから武器の種類が変わり他の二足歩行ベースの敵が増えていった。
それが6層を越える頃には狼が混ざって連携を始め、角のあるウサギや巨大なねずみが出現し始めた。
今回は鳥や水生生物を狙うため、最低限の戦闘回数で済ませ、隠れながら避けながら先を目指した。
「うわぁぁぁ、これは森ですね」
「ああ、8の倍数を目安に一気に景色が変わるのがこのダンジョンの特徴のようだ」
「どうやって空とか再現しているんでしょうか?」
「詳しいことは分からないが、これもダンジョンの意思ってところだな」
「ここをベースに探索ですか?」
「ああ、とりあえず死角が多そうな地形だからな。空にも十分注意しろよ」
見渡す限りの森で、立て札がある入り口に立つと、後ろから4人組みの冒険者がやってきた。
革鎧に剣と盾を持った男に、弓を背負った女性。ハルバードを持つ女性に、ローブを着て杖を持った男性がほぼ同じタイミングで到着したのだ。ローブを着た男性がタップに話しかけた。
「やあ、見ない顔だね。子供達の訓練かい?」
「どうも、まあ引率には変わりないけど、これでもミッション中でね。ここに詳しいようなら少し話を聞かせて貰えないか?」
「ああ、いいよ。ここは冒険者の国だしな。困った時はお互い様だ」
ここから始まる森エリアは、熊やイノシシなども出る野生ゾーンらしい。
他にもシカやヤギなども出るようで、それぞれ専門の地形に出現するらしい。ヤギは岩山がある場所に出て、熊などは縄張り主張のマーキングがあるから、きちんとした知識がある者ならば回避する事も可能なようだ。
他にも洞窟があり夜にはコウモリが出る、巨大な池などもあるそうだ。
生活の為の冒険者ならば、まだまだ先を目指す場所であり、ゴブリンが物足りなくなった冒険者や狩人としての経験を積みたい者、引退して釣りを楽しむ者もいるので訓練目的ならうってつけと言っていた。
釣りという所でパーティーメンバーはあまりピンときていないようだけど、池があるということは水生生物もいるだろう。
久々に釣りをしてみたくなったけど、道具もなければどんなものが釣れるか分からないので今は動けない。
お互いに健闘を称えあってから、そのパーティーと別れ森へ入って行った。
「ここって何か出そうね」
「シーンはこういう場所も詳しいの?」
「ええ、冒険科なのでどんな場所にも行くわ。やっぱり最初は狩りの仕方を習うべきだって、学園に入る前に狩人と一緒に狩りの勉強もしたのよ」
「へぇぇ、うちの村も山は近かったから馴染みがあるなぁ」
「サラはイノシシが取れた時は、家で一番喜んでたよね」
「もー、そんなことないもん」
「なんか楽しそうな家だな。大勢で暮らしてたんだろ?」
「「うん」」
「俺はそういうの経験したことないな。兄とは明らかに区別されてたし」
「何で区別されるの? 家族はみんな仲良いものだと思うけど」
「貴族家ならば普通の事さ。一人目は家督を継ぐし、二人目はそのスペアだ。三人目になるとどうにもな」
早いうちから文官を目指す才覚より、剣の道を選ばざるを得なかったグレファスは、騎士として身を立てようと考えていた。
実家には育てて貰った恩もあるし、決して邪険にされている訳でもない。
ただ、貴族の学園を落ちたグレファスに、周囲の期待が少しだけ下がったのは仕方がない事だった。
特待生寮に入れたのは、そんな空気を感じ取ったグレファスにとっては良い事だったのかもしれない。
「グレファスとシーンは、一緒に食事を取ってるだろう?」
「はい、タップさん。でも、グレファスは早食いですぐ部屋に篭るか風呂ばかりで……」
「仕方がないだろう、そういう環境ではなかったんだ。俺と二人で話してて楽しいと思うか?」
「それは難しいところね。準特待生の二人はグループ活動で忙しそうだしね」
「なあ、まだ部屋も空いてると聞いてるし、少し考えてみてくれないか?」
グレファスからサラとルーシーに、「特待生寮で一緒に住まないか」と聞くと、二人は「考えさせて欲しい」と返事をした。
タップがそろそろ行くかと歩き始めた。
若干傾斜がある、人が多く歩いている獣道という印象だろうか? 次の階層へ向かう道を歩いて行くと鹿と目があった。
つぶらな瞳でこちらを見た鹿は、ふいと目を逸らし坂の上の方を目指して飛び跳ねながら走って行った。
「獣は近いけど、襲い掛かる奴は少なさそうだな」
「あの、タップさん。もしかして、このエリア用に弓矢や釣り道具も必要なんじゃないですか?」
「そうだな、アキラ。普通のモンスターなら、もっと好戦的だと思っていたが……」
「一度10層のボス部屋を目指しますか? 周回するなら10層の方が目当てのモンスターが出るかもしれませんね」
シーンの提案に全員同意した。そして、そこに行く道で可能な限りマッピングをして行く事にした。
ローブの男性に聞いた池や崖も気になるし、洞窟に出るというコウモリも関係があるかもしれない。
そう言えば、コウモリって鳥の仲間なのだろうか? 森の中をまっすぐ進むと最初に出現したのは池だった。
薄緑の水は、森の色を写しているのかもしれない。
巨大な角を色々な方向に伸ばしている鹿かトナカイが、少し離れた所で水を飲んでいた。
体を大きく見せる為の新化なのだろうか? ダンジョンなのでどんな敵が出てきてもおかしくはないと思う。
鳥の鳴き声も1種だけではないけれど、目に見える範囲で鳥の姿は確認出来なかった。
「おい、あそこで優雅に釣りをしている人がいるぞ」
「グレファス、静かに。あまり騒ぐと迷惑だぞ」
声を発しても、すぐに森に吸収されてしまうような感じだ。
情報が少しでもあると良いので、みんなで釣り人に話を聞きにいく。
「こんにちは、釣れますかぁ?」
「ああ、こんにちは。そこのバケツを見てもらえれば分かるだろう。ただ、ドロップ品ではないから最後にリリースしないとだけどな」
「ここで釣れた物は持ち帰れないんですか?」
「こういう物は階層を越えると、モンスターを倒した時と同じように、いつの間にか消えてしまうんだ。こういうのを知らないとなると、君達はあまりこのダンジョンに慣れてないのかな?」
「ああ、つい最近来たばかりだ。私の名はタップといって、隣の国から耳の治療に良い物を探しに来ているんだ」
「耳って……。ダンジョンに来るくらいだから、魔道具狙いだよな。聞いた事はないけど、この国で魔道具と言えば武器や防具の事だから、店とかには並ばないだろね」
この釣り人、中肉中背で革鎧を来て右にはタモ・左には槍があり、後ろには大きめのバケツが置いてあった。
30代に見えて、茶髪に若干目じりが下がっている容姿は、柔らかい印象を受けた。
アジにイワシにイワナにヤマメ、生息域とか釣り方とか、どうなっているんだろうと思う。
釣り竿も二種類あり、手前の方で小型の魚を釣ってから、奥の方にいるという大型魚などを狙うと言っていた。
大型魚は何が釣れるか聞いてみると、カツオやマグロで大きさはピンからキリまでらしい。
こちらは釣れたら討伐すると、高確率でその魚の腹身がドロップするらしい。
ただ、肉と比べて料理の仕方が難しく、ざっくり切ってステーキにするようで、塩だけで調理するのは味気ないと言っていた。
他にはサメやタコのモンスターも出るようだけど、こちらは強さが数段階あがるようだ。
「私の家は商家でね、兄が急に亡くなったんで家に呼び戻されたんだ。責任者は欲しいけど、現場は上手く言ってるので口を出されたくないって訳で、ここで時間を潰してるんだよ」
「ほぉ、どうりで釣り道具がある訳だな。まだここからは海は遠いだろう」
「そうですね。家を傾けない程度なら趣味に使えるお金はありますので」
「その道具一式は、金さえ出せば手配出来るのかな? 私達もこのダンジョンに水生生物や鳥を目当てにやってきたんだ」
「うちも商家なんで、利益が出るなら良いですよ」
手配に何日かかかるようで、急ぐ旅じゃなかったらゆっくりしていって欲しいと言われた。
そして、デモンストレーションとして大型魚を狙ってくれるらしい。
釣り人は竿を変えバケツからイワシを生餌にすると、遠投の要領で遠くに投げ入れる。
実質5秒くらいだろうか? 「ヒット」という言葉と共に、トローリングのような雰囲気を出してサングラスもかけていた。
「こんなにすぐかかるんですね」
「ああ、モンスターだからね、目の前に急に餌が出たら食らいつくだろ」
「そうですね」
「みんなは下がっていてね。近くまでやってきたら、水属性魔法が来ると思うから」
リール付の竿は一点物らしく、少し離れていても解説しながら釣っているこの人は、しきりにこの竿の素晴らしさを説いていた。
徐々に近づく水しぶきは、左にいったり右にいったりしているが、数時間かかるような近づき方ではなかった。
釣り人と3mくらいの距離に水しぶきが近づくと、釣り人は竿を横に置き槍に持ち替える。
ばしゃーんと一跳ねたかと思うと、糸をぶちりと引き千切り、宙空に浮いたのは1m位の紡錘型の魚だった。
「はぁ、引きが弱かったから期待してなかったけど小物だったか」
顔つきでカツオと分かったその魚は自由に空を泳げるらしく、宙空でピタリと止まると口の辺りに魔力が集まっていく。
一直線にジェット噴射が釣り人へ行くが、楽々避けて釣り道具から少し離れていった。
カツオは鋭い歯はもっているようだけど、ジェット噴射を避けてからは素早いだけのただの魚だった。
解説によると、鳩尾か首を狙って重量を生かした体当たりか、鋭い歯による噛み付きや切り裂きの攻撃なので、釣り人はゆっくり見てエラに向かって槍を一突きすると、ビチビチと串刺しのまま跳ねるしかなく、あっけなく仕留められていた。
「な、簡単だろ?」
「いやいやいや、今の結構早かったぞ。俺には捕らえきれないかもしれない」
「君は何を言っているんだい? それだけ周りに仲間がいるだろう。何でも一人で出来ると思ったら大間違いだよ」
「グレファス、騎士だって何でも一人でやる訳じゃないぞ。犯人捕縛だけでなく、山狩りやモンスター退治だって仕事としているんだ。今は冒険者が多いが、昔はその仕事も担当していたんだぞ」
「タップさんは先生みたいですね」
「うちはしがない細工屋だよ。貴方と同じく家業はあるけど、そんなに求められてもいなくてね」
「良いパーティーに良い先生がついているのか。これならこの遊びも安心して広められるね」
この人は釣りの啓蒙活動もしているようだ。
半分隠居したとはいえ、まだまだ冒険者に復帰出来る程度には鍛えているようだ。
新しい生き方を模索しているようで、釣り道具は気に入った人に渡すようにしているらしい。
ただ、「出来ればドロップ品が、もうちょっと良ければね」と残念がっていた。
今のカツオからドロップしたのは、ハマグリのような二枚貝が2個にカツオの半身だった。
確かこれをステーキにすると言っていたような……。
「これが美味ければね」
「え? 美味しいじゃないですか?」
「アキラはこれを食べた事があるのか?」
「あー、えーっと。調理法と味は知っています。もし良ければ調理しましょうか?」
「へぇぇ、何か楽しみだね。この貝はいつも捨てちゃうからこれもあげよう。半身も提供するからお願いしようかな?」
タップの了解が出たので、調理道具を出していく。
預かった荷物の中にバーベキュー用のコンロもあり、その中には石ころがいっぱい詰まっていた。
「タップさん、これってどう使うか知ってますか?」
「ん? ああ、俺には分からないな。サラかルーシー知らないか?」
「うん、分かるよ。リュージ兄ちゃんから連鎖炎石を預からなかった? 赤い石だよ」
「これですか?」
「そうそう、これに魔力を通してこの石が詰まったバーベキューコンロに投げると、石の魔力が隣の石にその隣の石にと伝達していくんだよ。こっちは僕達が見てるね」
火の管理を任せて、カツオのタタキを作れるように身をカットする。
シーンとサラは興味深く見てきて、竹串を三箇所身に刺してコンロの前に立つ。
熱気がひどいけど強火の遠火と考えながら、丁度良い位置で身を焼いていく。
すると、サラが熱を防ぐ魔法をかけてくれた。
魚の調理法は、先輩から一通り仕込まれている。
本当は生でもいけるかなと思ったけど、初めての食材では危険は冒せない。
農場でさえ、TKGは禁忌とされているみたいだ。
ここで大量に魚が手に入るなら、大量に仕入れて帰るのもありだと思った。




