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045:連携

 ダンジョンへ向かう準備が整うと、サラとルーシーと農場で食事を取ることにした。

二人は明日合流する者の話をしていて、片方は「口が悪いけど、根は悪くないから気を悪くしないで」と言っていた。

その後は部屋でマークを使い、一旦家に帰ってこのまま出発する事を義父達に報告した。

魔法の素質はここでも有効で、覚える場所も一箇所増えていたのだ。


 翌朝は1台の馬車が用意されていた。

まずは特待生組で挨拶出来ていないグレファスとシーンに挨拶をすると、案の定「何で子供がここにいるんだ」と、グレファスが口に出して慌てて自分の口を押さえていた。

シーンは「それを全部言い切る前に押さえておきなさい」と言うと、グレファスは早くも反省モードだった。


 見送りで出ていたリュージは、やってきたタップに宜しく頼むと深々と礼をしている。

すると、グレファスが「今度はお……」で止めた。

タップは中肉中背で特徴を言うなら、ネコ科のようなしなやかな歩き方をする感じだ。

腰に下げた革の鞄は、工具が色々と小分けに収納されているらしい。

その他にも自分の荷物は自分で持つタイプで、反対側に挿しているのは片手剣くらいだった。


「あーまあ、おっさん発言はスルーしよう」

「俺は最後まで言っていない」

「それって、そう思ってるって言っているようなものよ」


 シーンのツッコミで笑いが起き、ようやく緊張感が和らぐ。

「まあ、いいさ。それより自己紹介は馬車の中でしよう。今回は有名な【平穏な羊】に現地までの護衛をお願いした。きちんと挨拶するよう」

「「「「「宜しくお願いします」」」」」

「おし、挨拶は基本だからな。それで、今回の中心メンバーはお前達特待生だ。俺の指示がある時以外はシーン、お前に指示を頼みたい」

「はい、皆さん宜しくお願いします」


「アキラの役割は荷物運びだ。子供だからって侮ると痛い目をみるぞ」

「こんな小さい子に荷物運びをやらせるなんて……」

「グレファス、それが侮っているって言うんだ。リュージが何も出来ない子供を呼ぶ訳ないだろ」

「当然だね」

「そんな訳で、荷物はいったん馬車に積んだ後整理する。後、俺の役割は折衝他その他だな。自衛は出来るけど、極力俺を頼るなよ」

「タップは自分の冒険者時代の仲間だよ。学べる事も多いから、メンバーは積極的に相談して欲しい」

「みんな、言っておくぞ。『学園を卒業したら、普通はこの程度を覚えるんだ』ってレベルを勉強しなかった特待生さまからのアドバイスだ。心して覚えるように」

「「「「「はい!」」」」」


 農場から出てきた4人は、ほとんど荷物を持っていない。

大荷物を持っているグレファスとシーンは、馬車に荷物を積み込むとみんなで乗り込んだ。

馬車が走り始めたので、安心してこの大荷物を収納に仕舞うと、グレファスとシーンはかなり驚いていた。

「そうか、収納持ちか……」

「うん、分かっていたけど半信半疑だったわ」

「いいか、だからって無理はさせるなよ。ゴブリンくらいなら何とかなると思うが、極力戦闘はナシの方向だ」

「「「「はい」」」」

「アキラ君もそれでいいな」

「はい、お願いします」

「お爺様にはお世話になっていて、リュージからきちんと聞いている。何かしなくてはいけない場面があったら相談して欲しい」

「分かりました。タップさん、色々教えてください」


 そこからは自己紹介をしながら現地を目指す。

リュージから渡されたふかふかクッションを、御者の人達を含めて皆に配ると、とても喜ばれた。

7日の工程だった旅も【平穏な羊】のドラテクと、タップの迅速な手続きで、5日で到着することが出来た。


 到着したその日は、旅の疲れを取る為、自由行動になった。

早速安全な場所を探し、農場のマークを解除してその場所を覚える。

いったん家にこっそり帰って報告すると、ウォルフが土日でダンスホールに行ってくれることになった。

そのまま一週間くらいは、セルヴィスの家に居ても良いから、安心して頑張るようにと応援して貰った。


「ウォルフ、じゃあゲートを開くよ」

「アキラお願い」

「アデリアさんの所へいけば、全部大丈夫なようになっているよ」

「ああ、そっちも頑張れよ」

「ありがとう」

二人でセルヴィス夫婦にお願いをすると、パーティーの皆の元へ戻った。


 5日も一緒にいれば、そこそこ気心が知れるようになる。真っ先に仲良くなったのがサラとシーンだった。

グレファスは徐々に自重を覚え、タップからは学園時代の特待生や今のリュージ達の話を教えてもらった。

今日の休みは、食料の買出しも課題だった。

リュージは自分の収納に時間停止がついていると分かると、農場のトルテ調理長から10日くらい余裕な程の料理を準備して貰い、どれだけ入るか試すように農場の食材を大量に貰った。


 4人の特待生達は近所の散策をしている。タップは護衛と称して買い物についてきていた。

その場で収納に入れることは出来ないので、一度宿に持ち帰る必要があるからだ。


「アキラ君、何か買うものあるかい?」

「うーん、大丈夫です。いっぱい預かっていて足りないものはないと思いますが、他に買う物とかありますか?」

「大丈夫だと思うぞ。シーンには悪いけど、きちんと必要な物を出して貰えるように教官に連絡が行っているからな」

「じゃあ、教官さんに出して貰ったんですか?」

「いや、きちんとパーティーに必要な物を準備して、教官に確認を取ってもらったようだ」

「この短時間に……、情報通なんですね」

「今誰もいないから大丈夫か。アキラ君も聞いただろう? もう一つのギルドの話。俺も入ってるんだよ」

「なるほど」


 魔道具ショップもあったけれど、超高額品が置いてあり、護衛の人がじっと見てくるような店だった。

商品に目をやったけど、タップ曰くありふれたものだった。

「安い物はないのか?」とタップは聞いたが、高級志向の店らしく置いていないそうだ。

店を出ると一人の物乞いを見つけたようで、タップは路上販売の闇市っぽい場所を聞いていた。


 翌朝は早くからダンジョンへの入り口に並ぼうとすると、タップは皆を集め職員に話を通していた。

高位冒険者や救出班が緊急時に入れる場所があり、そこから横入り出来ることになった。

早朝ということもあり、顔などはあまりバレることはないと思う。

並んでいる人もそう多くないけれど、やっぱりそっちの入り口から入るとザワザワしていた。


 タップからの説明でここは過去モンスターが溢れて、王国になだれ込んだと言っていたダンジョンだった。

その名も『喰らい合う牙』と言い、王国まで到着したモンスターは獣系が多かったようだ。

それから王国との交渉があり、多大な支援と裏での取引により、表面上は良好な国交を結んでいた。

ダンジョンは国からの管理が強化され、少しでもおかしな所があれば、高位冒険者を呼んでモンスターを間引いていた。


 ダンジョンに入ると、ルーシーと同じくらいの年齢のパーティーが狩りをしていた。

この辺の階層はやっぱりゴブリンが中心らしい。

基本的な取り決めとしてタップとシーンが前に立ち、サラとルーシーを真ん中に挟んで、グレファスと自分が最後尾についた。

戦闘時にはタップとグレファスの位置が入れ替わる。

部屋に入る時は指示があるまで全員動いてはいけなく、タップが指示を出すことになる。万が一、宝箱が出た時も同じだった。


 多くの初心者がいる階層を次々と飛ばし、4層まで辿りついた。

ゴブリンも少しずつ武器の痛さがグレードアップしているように感じる。

殴り用棍棒だった武器が、ボロボロの剣になり、その後は普通の剣・斧・槍ときて、ここでは弓使いや魔法使いまで混ざっていた。

「グレファス、あの斧使いを押さえて。弓使いは私がやる、サラとルーシーは魔法使いの行動を止めて」

「「「分かった」」」


 駆け出すグレファスをシーンが止める。

敵のど真ん中に突っ込むのは定石としてはありで、一気に味方の行動の幅は広がるが、そこまでグレファスは慣れていない。

一対一の対人を得意としているグレファスには、徐々に戦闘のバリエーションを広める必要があった。


 斧使いの左右にいるゴブリンに、前衛は魔法を使いやすいように射線を考える。

タップは後ろをさりげなく警戒し、自分は形だけでも剣を抜いた。

サラの強化魔法を前衛二人が受けると、ルーシーが魔法使いに砂塵の魔法を唱える。


 シーンを見て頷いたグレファスは、少しだけ前を出てゴブリン達の興味を引く。

弓使いゴブリンは狙いを定め一射放つと、グレファスは盾を使って軌道を逸らした。

グレファスはルーシーとの戦いの後、シーンから冒険者としての戦い方のレクチャーを受けていたようだ。

さっきは、初めての歯ごたえのありそうな相手に先走ってしまったらしい。


 それからはシーンが弓使いゴブリンの太ももを槍で貫き、苦しんでいる間にのど元へ一撃入れると敵は沈黙した。

グレファスの動きも良く、斧使いゴブリンを最初は抑えながら徐々に攻撃数を増やしていった。

魔法使いゴブリンが砂塵から抜けだすと、前に出たルーシーから杖による殴打で致命傷を負った。

初めてのパーティー戦にしては上手く連携が取れたようで、戦闘時間は短時間で終わった。


 ドロップ品は石ころが数個出たので、回収係の自分が拾った。

今回はドロップ品の価値は関係ない、ドロップした物を全回収するのは必須条件だった。


 順調に先に進むと、5層に到着した。

ここも王都のダンジョンと同様、5層毎にボス・中ボス級のモンスターがいる階層だった。

違いと言えば、6層に行くには二通りのコースがあること。

ボス部屋を通れば問題なく6層に辿りつける、もう一つのコースは若干遠回りになるようだ。

遠回りと言っても低層ではそれほど苦にはならないので、敵が弱い=ドロップ品も期待できないのでスルーされる事が多かった。


 そして、このシステムを利用してボス階層を連戦する者が出てくる。

並んだ順で部屋に入れる権利が発生するので、ボスを倒して6層へ行き5層に戻る手間を考えると連戦も考え物だという意見が多い。それでも、モンスターの強さがそれほどでもなく、狙ったドロップ品を傾向で選ぶなら連戦もありらしい。


 今はボス部屋の手前の休憩スペースにいて、昼食と作戦会議を開いているところだ。

この5層ではゴブリン・オーク・中型と大型の昆虫等が見られるそうだ。

ここで出る蜘蛛のモンスターが、高確率でスパイダーシルクという糸や布をドロップするらしい。

休憩している間に、専門業者が「買い取りますので宜しく」と宣伝してきたのには驚いた。


 人に見られない場所で休憩時間が取れる時は、次の食事の準備を専用のバスケットに入れ、すぐに全員分出せるようにしている。ただ、スープ類はズンドウという深型の3つの鍋に、赤白緑と記されて入っているので、どうしても目立ってしまう。

収納はかなり高価だけど、誰がどんな魔道具を持っているか詮索するのはマナー違反なので、探るような真似をしないのが普通だ。タップはそれを目力だけでけん制し、バーガー類とフライドポテトとサラダとスープだけで済ませた。


「冒険中にサラダや暖かい物を食べるなんて、うちらだけだけどね」

「そうだな、ルーシー。俺も農場が近いから、トルテさんの食事は嬉しいわ」

「お前達、こんな美味い物を毎日食ってるのか?」

「あら、うちの料理長も美味しいと思うわ」

「シーン、それは農場から届いている野菜を料理長が料理しているからだって。リュージ兄ちゃんが言ってたよ」

「へぇぇ、リュージさんって……。そういえば、寮のOBでもあったのね」


 今日の予定はこの5層の往復に決定した。

どんな魔道具がどんな効果をあらわすか分かっていない以上、数で勝負するのもありだと思った。

魔道具以外の素材や宝石類・はたまたポーションなんかも出現するのがダンジョンだ。

低層では金銭的価値が少ないとは言われているけど、検証は大事だとタップが提案する。

体感時間で夕食が終わるか誰かに疲れが出るまで頑張り、一度宿に戻ってから反省会と明日以降の話し合いをすることになった。


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