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043:勇者とは

「二人とも、リュージ君に負けたら晩御飯抜きですよ」

「「ええぇぇ」」

「そうなると、うちも同じにしないとね」

「「そんなぁ」」

「じゃあ、こちらは冬休みの課題を二倍にしようかの」

「「「「やめてぇぇぇぇ」」」」


 さりげなく特待生へのハードルを上げている大人達。

リュージは屈伸したり伸びをしたり、ストレッチに余念がない。


「なあ、これってあれだよな。俺達に対する激励で、協力して全力を出せば負けてくれる……」

「甘いなぁ、グレファス。あの楽しそうに準備運動する、リュージを見てみろよ」

「師匠、リュージ兄ちゃんはやる気だ……」

「私、ラース村で聞いた事がある。ずっとずーっと耐えていたお兄ちゃんが、一度だけ怒ったことがあるんだって」

「うん、どんな感じ?」

「ほら、普通怒るとかーっとなるよね。リュージお兄ちゃんはすーっと冷めていくんだって」

「それ怒らしたら、まずいタイプじゃん」

「詳細は分からないけど、敵対した人は畑に頭だけ出して収穫されるところだったんだって」

「サラ、何言ってるかわからねぇよ」


「おーい、ザクス。そろそろ良いかな?」

「まだ会議中。みんなが特待生に頑張って欲しいから、アドバイスだけこっちにつくぞ」

「おおぉ、楽しませてくれよ。後、そっちが勝ったら何が欲しいか考えといてな」

「あの、リュージさん」

「なんだ? シーン」

「それは、みんなで一つですか? それとも一人一つですか?」

「常識の範囲で、一人一つね」


 レンまで特待生の輪に近づくと、「みんな、リュージは色々ヒントを出したんだから、敵わないからといって無様な負け方は出来ないよ」と発破をかけた。リュージは何に怒っているか? 反省とは心に思うだけではなく、言葉に出して態度で示すもの。

そうすれば、自ずと何を考え何を行動するか分かってくるわと、一番大人な態度で特待生に声をかけるのだった。


「よし、みんな。最初は俺の案に乗って欲しい。まずは俺とシーンが前に出て、サラとルーシーが魔法による補助とけん制をする。あの鎌は俺が抑えるから、シーンは何とか一撃を」

「俺が俺がって言わなくなったね、グレファス」

「ああ。その作戦が上手く行きそうになかったら、誰か指示を変わってくれ」

「「「分かった」」」


 特待生組が全員立ち上がると、リュージは鎌をくるっと一回転させた。

乾いた地面に一筋の黒い染みが、コートの端から端まで一直線に同じ太さで残る。

「え? 今何かしたの?」

「シーン、ただの目印だよ。ここからこっちに来なければ、直接の攻撃はしないよ。だからって油断はして欲しくないけどね」


 グレファスはハンデが追加されただけだと思ったが、残りの三人の反応は違っていた。

詠唱しないのは分かっていた事だ、ただ今の行動に集中している要素はあっただろうか?

そもそも魔力を感じることすら出来なかったのではないか? と考えていた。


「はい、集中。じゃあ、ここから本番だよ。リュージ対特待生チームの模擬線、始め!」

ザクスが話し始めると同時にひょいと武器を自然体で構えるリュージ、始めの合図と一緒に特待生に威圧感をぶつけた。

「「リュージ兄ちゃん」」

「うっわー、大人気ない」

「シーン、動けるか?」

「ちょっと……、時間を頂戴。グレファスは?」

「何とか……」


 まだリュージが定めたラインを越えていないので、攻撃が来ることはない。

まだ準備運動が足りないのか、リュージはまっすぐ振り上げてまっすぐ振り下ろす。

振り切った鎌の後から、ブゥゥゥンと空気を震わしている音が聞こえてくる。

次に真横に体をひねり、一気に鎌を振りぬくと又もや空気を振動させていた。


「シーン、次に何かしたら突っ込むぞ」

「うん、頑張ってみる」


 もう一回くらいは大丈夫かなと斜め上に振りかぶって、振り下ろした瞬間にグレファスとシーンが駆け出した。

戦闘の緒激は武器を重ねるものだと、グレファスが木剣を少し高い位置に上げようとすると、「何してるの?」とシーンから叱責が飛ぶ。明らかに振り下ろされたはずのリュージの鎌は、ラインを超えたのを確認すると何故か同じ高さにあった。

「飛べぇぇぇぇ」

ルーシーの叫びに、グレファスがドタドタとしながらもジャンプして転がっていた。

浅く引っ掛けた鎌は振り下ろす事無く、剣でいう正眼の位置でシーンの木槍をけん制していた。


「グレファス、不用意すぎ。ゆっくり間合いを詰めるよ」

「分かった、シーン」


 グレファスが立ち上がるまで、シーンとリュージは動くことはなかった。

「リュージさん、魔法科の特待生だったんですよね」

「そうだよ。農業科にも誘われたけどね」

「冒険科の間違いじゃないんですか?」

「あそこはグループ活動が大変だから、自分には無理だったよ」


 油断して構えを解いたリュージに、シーンは攻撃をする気にならなかった。

グレファスが立ち上がるのを待つと、シーンはリュージに「少しだけ打ち合わせです」と背を向けてスタスタ下がっていった。

グレファスはその後を追いかけるようについていく。


「ちょっとグレファス、さっきのは何?」

「あ、ごめん。模擬戦だと思って……」

「模擬戦は模擬戦でも、4対1の時点でどう考えてもハンデ戦じゃん。あの鎌見たんでしょ。ズルでもしないと勝てないよ」

「じゃあ、もう一度さっきの作戦を。今度は近づく時に魔法のサポートをお願い」

「分かった」

「ごめんね、二人とも。強化魔法を忘れてた」


「勇者諸君、こっちを注目」

「師匠、何かアドバイスくれるの??」

「ああ、みんなはあの魔王さまに勝てないと思っているんだろう?」

「あんなの無理です」

「「「無理だよなぁ」」」

「俺達の特待生仲間は、リュージの事を『戦闘が苦手だから、やりようによっては勝つことは出来る』って言ってたぞ」

「「「「本当に??」」」」


「ザクス、巻きでお願い」

「おう。みんな、準備はいいか?」

「「「「はい!」」」」


 ザクスが再開の合図をすると、今度も威圧から始まった。

先にサラが強化魔法をかけたせいか、さっきより早い時間で立ち直った。

ルーシーは前衛二人の邪魔にならないように射線を確保すると、小規模な砂塵を発生させた。

自転車が走るくらいの速度でまっすぐリュージに魔法が向かう。


 この魔法は敵に当たると、風と砂が爆発的に膨れ上がり、相手の動きを止める事が出来る。

ダメージを与える目的ではなく、砂と風を払う為身動きが取れないと言った方が正確だ。

グレファスとシーンは、魔法の着弾にタイミングを合わせてラインを越えてくる。


 リュージは鎌を薙ぐと砂塵は霧散し、シーンが立ち止まり、グレファスが勢いを止めようと身体を盾に寄せて耐えた。

動きが止まった二人に、シーンが再びダッシュをしようとして、何かに躓いていた。

「何でこんなところにブロックが……」

「油断大敵だよ」

軽く鎌を引いたリュージは、鎌の背でグレファスの腹をトンっと突くと、グレファスも転んだ。


 その二人を助けようと片方からサンドボールが、片方からウォーターボールがリュージに向かって飛んでいく。

リュージはその二つの魔法を、中間地点で鎌を振り撃ち落す。

「物理攻撃だけじゃないのか?」

グレファスがそう叫んだ瞬間、シーンはうつ伏せの状態からブレイクダンスのような動きで上下に180度・左右に180度回転すると、リュージの両脚をカニバサミした。


「あっ……」

「リュージさん、もらった」

シーンがぐるっと半身を翻すと、リュージは素直に転がった。

慌てて立ったグレファスは、木剣を探すと次にシーンの木槍を拾おうとする。

またもや判断を間違ったグレファスに文句を言っていると、リュージに逃げられてしまう。

「サラ・ルーシー強力な奴を」

「分かった、サラちゃんあれやるよ」

「うん、ルーシー」


 ルーシーは中間地点にある砂を利用しサンドウェーブという魔法を発生させる。

その波にサラは水で包んだ種を打ち込むと、二人は呼吸を合わせて魔法名を叫んだ。

「「即席魔法、バードジェイル」」

少しだけ距離をとっているグレファスは、木槍をシーンに差し出し、掴んだ瞬間に救い上げるように振り上げた。

イテテとゆっくり立ち上がるリュージの周りに、半径2mで高さ2mくらいの8本の砂が鉄筋棒のように発生した。

それらが上空でドーム状に結びつくと、その一本一本に蔓直物が巻きついていく。

鋭い棘がついている植物なので、引き千切ろうとすると手は怪我をしてしまうだろう。


 リュージは足元にある鎌を拾い上げる。

「リュージー、囲まれちゃったけど降参するー?」

「やられちゃったな、ザクス」


 悠然とグレファスが近寄ってきて、シーンは油断しないように木槍を構えている。

サラとルーシーが仲良さそうに、二人で駆け寄ってきた。

ザクスは軽くおでこに手をやると、シーンは何かに気づき、サラとルーシーを止めようと後ろを振り返った。

声を掛けようとした瞬間、ラインを越えた二人を見てしまった。

そして、再びシーンはリュージの方を見た。


 リュージは身体を捻り、檻の鉄筋棒と鉄筋棒の間に鎌を入れバキバキバキとなぎ払った。

「ま、魔王……」

盾を上げる事も忘れたグレファスは、一瞬たじろいだ。

そこにレンが歩いて近づくと、コツンとリュージのおでこを叩き、「やりすぎ」とじっとリュージの目を見た。

「ごめんなさい、参りました」

「うん、素直に謝るなら許そう」

「勝者、特待生チーム」


 ザクスの宣言に、何が起きたか分からない特待生チーム。

寮母と学園長も拍手をしているので、この判定は問題ないようだった。

「まあ、将来に期待かな?」

「そうね。シーン、しばらくあなたがリーダーシップをとりなさい」

「はい。でも、本当に私達の勝利でいいのですか?」

「模擬戦の本質は勝ち負けじゃないの、そこで何を学ぶかよ。リュージからも何か言ったら?」

「うん、みんなお疲れ様。君達には足りないものがある。それは自分達が若かった頃もあったし、仲間に助けてもらってなんとかなったものだよ。改めて例の件お願いしたいんだけど、大丈夫かな?」

「「「「はい」」」」

「声がちいさーい!」

「「「「はい!!」」」」

「はい、よく出来ました。多分、後二名同行をお願いすると思うけど仲良くやってね」


 リュージは月曜の朝に農場集合で、それまでは準備をしっかりするように伝えた。

土曜にも関わらず、学園から備品を借りる為にシーンはグレファスを拉致して走り、ザクスとレンは同じ属性であるそれぞれの弟子の頭を撫でていた。

「サラちゃんにルーシー君、ここもあなた達の家なのよ。何時でも遊びに来なさいね」

寮母の言葉にサラとルーシーは、それぞれの師匠の後ろに行き、その優しさを噛み締めていた。


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