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041:決裂の訳

「セルヴィスさんは反対すると思っていましたが意外でした」

「リュージ君もそう思うかい? アキラ君の姿を見たらスチュアートの事を思い出してね」

「血ではなく精神ですね。立派ですが、まだ10歳ですよ」

「そこもそうなんだが、小さい頃から悪ガキに囲まれてたからなぁ」

「なるほど」


 アキラ達を見送った後、リュージは立ち話をしていた。

アーノルド家の先代であるセルヴィスが認めるなら、外野がとやかく言う問題ではない。

学院長としてセルヴィスが新しい特待生の対応に向かい、シスターアンジェラがそのサポートをしていた。


 ガレリアは少しだけ困り顔をしていて、リュージは冒険科のある学園長へ話かけた。

「先ほどの話ですが、特待生のいざこざの原因って知っていますか?」

「いや、申し訳ない。いざこざというかルーシー君とグレファス君の対立なんだ」

「うーん、この状態は良くないですよね」

「ああ、勿論。ただ、もう結構な時が過ぎてしまったから解決は難しいかもしれないな」


 リュージが空を見上げ、「ブラウン、申し訳ないけどレンとザクス・サラとルーシーを呼んできて貰えるかな」と呟くと、程なくして4人がやってきた。

「リュージ、呼んだ?」

「うん、ザクスとレン。久しぶりに寮母のところへ行かないか? サラとルーシーも一緒に」

「「うん、いいね」」

「「ええぇぇぇ」」

異なったハモリが聞こえてきた。

リュージが馬車を頼むと、学園長と今のメンバーで学園の特待生寮へ向かう事になった。


「まあまあ、久しぶりに大物が見えたわね」

「よしてください、大物は後ろの二人なんですから」

「「リュージ」」

「三人とも、相変わらず仲が良いのね」

「二人は学園時代から、別の意味で仲が良かったけどね」

「「ザァクゥスゥ」」

「あー、こわ」


 学園長以下、みんなで寮母に挨拶を済ますと、サラとルーシーを前面に押し出す。

慌てて挨拶する二人だけど、何か悪いことをしてばつが悪いようなモジモジした感じをしていた。

そんな二人を寮母が抱きしめると、緊張がゆっくりとほどけて行く。

元特待生組はこの優しさに包まれていたんだと、昔を懐かしんだ。


「今年の特待生達に挨拶したいんだけどダメかな?」

「あの子達、今日はまだ出掛けていないわ。ねえ、呼んできてくれる?」

特待生をサポートする侍女が駆け出すと、寮母から「走る必要はありません」と叱られていた。

ここは勝手知ったる他人の家、食堂に通されると特待生達の到着を待った。


 今年の特待生は二人、騎士科のグレファスと冒険科のシーンだった。

準特待生も二人いたようで、休みなのに朝早くからグループ活動をしているようだ。

食堂で対面すると、シーンは社交的に自己紹介をしてから握手を求めてきた。

特待生になると、多くの貴族や商人はたまた王族まで面談にやってくるので、相手が誰だろうが丁寧な対応が必要だった。

リュージはグレファスを見ると、不器用そうな性格の子だなと思いながら握手をした。


「二人とも初めまして、GR農場のリュージです。こちらは嫁のレンで、こっちは悪友のザクスだよ」

「おい、誰が悪友だよ」

「え? もしかしてレン博士にザクス博士ですか?」

「ええ、そう呼ばれているわ。でも、今日はOB・OGとして遊びに来たの」

「まあ、うちらは運が良かっただけだよな」


 出されたお茶をゆっくり楽しむ、ここで出されている料理やお茶などは一級品が多い。

「あなた達は、いつも談話室で語り合っていたわね」

「そうですね、毎日が楽しくて忙しくもありましたから」

「グレファス君とシーンさんは、日頃どんな生活をしているのかな?」

「はい、私は冒険科の実践戦闘グループに所属しています。得意武器は槍です」

「へぇぇ、槍を選ぶとは渋いねぇ」

「ザクスは武器苦手だもんな」

「リュージだって近接戦闘は苦手だろ」

「まあね」


「あの、皆さんは魔法科に農業科と薬学科ですよね。やっぱり武器の訓練は修めたのですか?」

「私達は最低限だよ。リュージは明後日の方に突出してるけどね」

「まあ、その辺はね。グレファス君は?」

「わ、私は騎士科の……聖騎士団というグループで……」


 グレファスが、しきりにサラとルーシーの方をチラチラ見ていた。

「えーっと、二人が気になっていると思うから先に言っておくね。自分がお世話になったのはラース村という所のマザーなんだ。そこで一緒に暮らしていたのがこの子達。だから弟と妹のように思っているんだよね」

「へぇぇ」

「で、今うちら三人は半分公的な立場にもなっていて。ちょっと今年の特待生達に国からの依頼をしたいと思っているんだ」

「え? それは指名依頼ですか?」

「本当ですか?」

「ああ、そのつもりで考えている。でもね、個人的にも今の状態が良くないって聞いているし、学園長も心配してるんだ。今更一緒に住む住まないの話をするつもりはないけど、何があったか知りたいと思ってね」


 ルーシーとグレファスは、お互いに目を合わせないようにしている。

「二人の事は兄弟のように思っているけど、片方を贔屓するつもりはないよ。特待生は等しく国の宝だからね」

「グレファス、私も詳しい話を聞いていないんだけど。一方的に一緒に住めないとだけは……」

「リュージ兄ちゃん、きっと分かり合えないよ」

「俺は悪くない。最初に礼は尽くしたし、こんな大勢を連れてきて今更何をしようとしてるんだ」

「もういいよ、依頼は私達がきちんと努めるから」

「サラちゃん、これは4人に来た依頼でしょ。私も行く権利はあるわ」

「それを言うなら俺にもあるだろ。そっちの方が人数多いからって、国の依頼を受けるのは卑怯だ」


「まあまあ、みんな落ち着いて。ここはザクス兄さんにお任せなさい」

「師匠?」

「任せるってどうするんだよ」

「よっし、ここではみんなが見ているから言い辛いよな。三人で話そうか、ちょっと部屋借りますねー」


 ザクスが二人を連れて行ってしまった。

「ねえ、サラとシーンは仲悪くないの?」

「私はみんなに対して悪い感情はないわ。サラとルーシーがいつも一緒にいるから話し掛け辛いけど」

「私もシーンには特別な感情はないの。ただ、いつもグレファスといるから」

「あいつは悪い奴じゃないって何となく分かるから、フォローしているだけだよ。後、ちょっとだけみんなから聞いたんだけど、初対面であいつ、あなた達の出自を馬鹿にしたんだって」

「うん、まずルーシーの事を女みたいな名前だって言って、その後自己紹介で貴族じゃないのかとか孤児とか……」

「うん、そこまでは聞いた。ちょっと感じが悪いなって思ったけど、それでも数日はここで過ごせたじゃん」

「多分、まだ何かあったと思うんだ。ルーシーはその事を教えてくれないの」


 学園長と寮母は驚き、リュージとレンは仕方がないなと思った。

貴族家子息にとって、生まれを誇るのは当たり前の事だ。

場合によっては、相手を貶めることで自分が優位に立ち回れる。

それが貴族家としてのスタンダードな戦い方でもあった。


 ラース村も知らない者には果てしない田舎で、昔のイメージしかない者には『最果ての流刑地』という悪名まであった。

今は温泉もあり開拓も順調で、成長率としては上位に食い込む勢いを見せている。

愛する田舎と村全体が家族のような生活をしていたサラとルーシーには、耐えられるものではなかっただろう。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「さてと。ルーシーとグレファス、どちらから話す? 相手が話している時は黙っていろよ」

「「はい」」

「両方に聞くんだからどっちからでも良いぞ」


 グレファスがぽつりぽつりと話し始めた。

子爵家三男のグレファスは、貴族家が通う学園に行く事を目標として勉強していた。

ところが試験の日、ひどい風邪で受験どころではなかったのだ。

家の者が急いでもう片方の学園に申し込み、そちらは実力を発揮できて特待生となった。


 この学園は貴族としての繋がりは求められなかったが、多くの偉人を輩出していた。

最近の出世頭と言えばトップはマイクロで、次点はヴァイスという男だ。

学園にいる間は家名を背負っているので、兄達に迷惑をかける訳にはいかない。

大抵の貴族家子息は騎士か文官になり、ゆくゆくは新しい家を興すのを夢みることになる。


 今年の特待生は4名と聞いている。主導権を握り十年前の黄金世代と呼ばれる人達に追い付きたいと思っていた。

寮の特待生としてやってきたのはグレファスが一番で、次にやってきたのがサラとルーシーだった。

4名しかいなくて、その内の2名が既に大の仲良しだったのだ。

もう、この時点で構想が崩れていた。


 二人に握手をして、実家の名前を出し挨拶をした。

名前を聞き、ルーシーの名前に思わず反応してしまった。

そして二人の出身地を聞き、「聞いたことがない」までは良かったが、孤児院出身と聞き嫌悪感を出してしまった。

だが、まだ取り戻せると思った。


 サラとルーシーはいったんその状況を飲み込み、その後シーンがやってきて全員揃った。

学園が始まると、グレファスはルーシーにある賭けを持ちかけた。

それはこの学園生活が円滑に行くように、リーダーを決めようと。

生活の中で上下関係があるのはグレファスには当たり前で、ルーシーには理解できない事だった。


 やる意味が分からないと断ると、「名前だけじゃなく、性格まで女なんだな」とルーシーを挑発した。

亡くなった父と母がつけてくれた、由来もなにも分からないけど、たった一つの自分が自分である証明をばかにされたのだ。

そして、何故か魔法禁止の近接戦闘のみという条件で二人は勝負することになった。

それがグレファスにとって正々堂々であり、魔法とは卑怯な手段だという台詞にルーシーの怒りは限界だった。


 案の定グレファスが勝ち、ルーシーは負けた。

グレファスはやっとわだかまりが解けて、楽しい学園生活が始まると思っていた。

そして、一週間もしないうちにサラとルーシーが寮母に願い出て、ガレリア経由で農場に住むことになった。


 ルーシーはある意味叩かれる事に慣れていた。

それはひどい圧政の中、村中が何をやってもダメと無気力だった時代を知っているからだ。

貴族とはそういう物だ、ただ同じ特待生として負けたままでは納得出来ない。

それから杖術を習い、再戦の時を待った。


 グレファスとルーシーは何気なく目は合うが逸らす日が続いていた。

そして、その機会が訪れた時、グレファスは戦う意味がないと再戦を断ったのだ。

この理不尽さに二人は本格的に決裂したのだった。

ザクスが二人から話を聞き、まとめるとこんな感じだった。


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