034:祭りの後
人々は女神像の神聖な姿を、当たり前のように感じ祈りを捧げていた。
祈りが終わり宝石に手をやると、水量が増えていき女神像は噴水に隠されていく。
最初に駆けつけてきたのは協会の偉そうな人達で、その後にリュージや農場の御者をしていた二人だった。
「えーっと、何かありましたか?」
「いや、問題ない。場所を次の者に譲るように」
「「はい」」
協会関係者の数が増え、ひそひそ話をしていた。
ミーシャと一緒にセルヴィスの所へ戻ると、リュージがやってきた。
「大きな魔力を感じたんだけど、アキラ君何かやった?」
「いいえ、特別な事はしていません」
「アキラお兄さまは何もしていません」
御者をしていた二人は、少し離れた場所からリュージを呼び出し、そこに協会から一人その輪に入ると何か話していた。
スチュアートが更にその輪に入ると、考え込んでいるように見えた。
「魔力反応って……」
「アキラお兄さまは神聖魔法が使えるのですよね?」
「うん、でも協会の人がこれだけ多いんだから、魔法使える人も多いんじゃないかな?」
「そうですね。お爺さま・お婆さま、今日の収穫祭とても楽しかったです」
「お礼なんかいらないよ。私達も楽しめたからね」
「また一緒に行ってくれる? ミーシャ」
「はい」
イベントで人の多さにあてられたのだろうか? 少しだけミーシャやロロンが疲れているように見えた。
セルヴィス夫妻もそれに気がついたようで、今日は帰ることになった。
収穫祭は明日もあるので、望むなら連れて来てもらえるようだった。
一度家に帰ると、セルヴィスは夜に会合があると言って出掛けて行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ポライト男爵家、名代のルオンとアデリアです」
二人してお辞儀をすると、拍手が巻き起こる。
王都にいる多くの男爵家に案内を送り、半数を超える返事はほぼ参加を希望していた。
普段なら絶対呼ばれないような男爵家も、今日だけは休戦と考えたようだ。
同じ王国内で争う虚しさは、王国民として感じていることだろう。
レンは侍女達を指揮し、ギレン調理長は農場からやってきた調理班と楽しそうに料理を作っていた。
同時刻では裏収穫祭と称して、貴族お抱えの料理人達が腕を競っているので問題はなかった。
レンは最近考えていた。兄は伯爵家としてではなく、男爵家名代の仕事の方が多いのではないかと。
それでも、両方の仕事を卒なくこなす姿を見て、伯爵家当主として兄に任せて良かったと思った。
楽団の準備が整うと、夜会が始まった。
ダンスホール・極上の風呂・極上の食事にワインと、男爵家の普段の生活ではランクが数段上のものが用意されているのだ。
ある者は風呂で語り合い、ある者は食事で盛り上がる。
各上の者はルオンくらいで、レンは貴族家出身だが博士というポジションについている。
このレンが品種改良したジャガイモは、多くの土地で食糧難を救っていた。
「アデリア姉さん、もう大丈夫そうね」
「レン、いつもごめんなさいね」
「こんな兄で良いなら、いつでも使ってあげて」
「レン、ひどい言い草だね。たまには伯爵領の父さん達に子供達を見せに行ってあげなよ」
「兄さん、私達は忙しいの。リュージだって何時まで王都にいられるか分からないんだから」
「リュージ君はいつも忙しそうだよね。彼には感謝してもしきれないからなぁ」
男爵家だけしかいない夜会は、大きな騒ぎを起こすものは少なかった。
ここで追い出されるようでは貴族としての品格を疑われ、上位の者がいない場所では必要以上に自分を大きく見せる必要がなかった。
若干言い合い程度であったのは、貴族としての年数の長さについてだった。
これも、一緒に話しているグループの者に諭されて自然に鎮火していた。
明日も昼頃からお茶会を経て、夜会が開催される。
お茶会に参加するのは、主に若い子女達が中心になっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「農場へようこそ。ご案内はユーシスとナディアが担当致します」
男爵家のダンスパーティーと同時刻、農場では裏収穫祭が開催されていた。
早くからやってきている貴族家お抱えの料理人達が、それぞれ農場で料理を作っていた。
一人一品持ち寄る形のパーティーの大規模版で、後からやってきた仮面をつけた貴族がお抱えの料理人に声をかける。
もう、どこの家のお抱えなのかバレバレなのだが、そこは問わない形でパーティーを楽しんでいた。
今回、農場からも一品だけ用意されていて、調理長であるトルテは作り終わった後は運営側に回っていた。
さりげなく王宮からもコロニッド料理長が参加しており、多くの参加者が驚いていた。
貴族ならば仮面をしていても、上位者なら衣装や姿形を見たら分かってしまう。
どれだけ個人や役職が分かっていても、正体を明かさないのがマナーだった。
裏収穫祭というくらいなので、女神さまへの感謝を示し酒が振舞われる。
必然と酒に合う食事が選ばれて、料理人達はお互いの料理を横目で見ながら調和を図る。
師匠であるトルテが見ているのだ。自分の料理だけが美味しくと、油をきつめにしたり塩を多めにしたりして、単品で完結する料理では、この裏収穫祭を成功裏に収めることは難しい。
食材は農場側で全て用意されていて、不足分は商業ギルドのレイクを通して仕入れていた。
料理人達は二つに分かれていた。一方では素材の味を大事にして、一方では新しい調理法を模索していく。
オープンな調理場所で行っているが、料理法について質問するのはマナー違反だった。
調理場所のところへ行くと、説明しながら料理するのは、農場の調理長であるトルテくらいだろう。
これもリュージの教えだと言うのだから、懐が深いというかなんというか。
この日、優勝をさらったのはコロニッドだった。
面目躍如というか、大人気ないとみんなに言われ、王子がマスクをとって「今日はデキレースのようだ。明日の皆の活躍を楽しみにしている」と言うと、観衆の大きな拍手と笑いを誘った
この影に隠れて、畑ではバーベキュー大会が開かれていたのを貴族達は知らない。
こっそり抜け出した王妃とローラが、早くに裏収穫祭からこちらにシフトして、肉やソーセージ・新鮮な野菜や焼きそばなどを楽しんでいた。ガレリアやリュージも裏収穫祭の挨拶だけして、こちらで休憩していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
日曜日に敬虔な信者は、女神さまへ祈りを捧げる為協会へ向かう。
収穫祭の土日は若干少なくなるが、それでも祈りを捧げる人々は多い。
レイシアとソルトが案内し、子供達は協会まで祈りを捧げにいく。
今日も一日、仮面をすることは忘れない。
お昼は特別営業しているワインバーへ連れて行ってもらった。
ピザ釜があるようで、夜の本格営業を前にこっそりと知人を招き営業しているらしい。
みんなピザに大興奮で、剣だけでなく人望や優しさなど、セルヴィスに対する人気が一段も二段も上がった。
ピザを食べてると、ウォルフが「こんな楽しい事は初めてだ」と言ってきた。
「学園に通えば、同年代の友達もいっぱい出来るよ」と言うと、「でもなぁ、ミーシャが……」と少し暗い声で言う。
ミーシャと一緒に学園に通うのは問題ないらしい。
ただ、貴族家の長子として貴族同士の付き合いをする必要があるし、新しい出会いを求める場所に妹連れでは格好つかない。
ウォルフは意を決したかのように、スチュアートにお願いをしていた。
みんな、はしゃぎ疲れたのか、ぐっすりと眠っているようだ。
夜になると、予定通りゲートの魔法で帰宅することになった。
週末にはセルヴィス夫妻を招き、男爵領での収穫祭を予定している。
頻繁に行き来するのは問題があるようなので、実質これが最後の男爵領での収穫祭になるだろう。
男爵領の収穫祭は、地元のおばさま達が料理で腕を揮う。
アーノルド男爵領の人々は、収穫と共にその年のワインの出来に感謝しながら味わった。
バカ騒ぎというよりかは、豊漁を感謝して浜鍋を囲むようなアットホームな収穫祭だった。
今年の収穫祭では、薄めないワインをウォルフと自分が味わい、咽ている姿をみんなが暖かい目をしながら見ていた。
ウォルフは小さい頃から薄めたワインを飲んでいる為、飲みきると「おおぉぉ」という歓声と拍手が起きた。
特別ゲストとしてセルヴィス夫妻が現れると、領民は涙を流しながら喜んだ。
そんな穏やかな収穫祭も終わり、アーノルド一家は屋敷に泊まった。
ここで発表されたのは、冬を越したらこっちに引っ越す計画を立てているようだ。
本来はセルヴィス夫妻の終の棲家になる予定だったが、柵の問題で王都を拠点としたまま暮らす事を決意したらしい。
「なぁ、アキラ」
「うん、なに? ウォルフ」
「そろそろ話す事あるだろ?」
「もしかして、お爺さまが言っていた高名な魔法使いのこと?」
「それ、本気で信じてるのか?」
夜はウォルフと二人で話していた。
こっちに引っ越してきたら一人一部屋準備出来るようだけど、ロロンが一人は寂しいと言い今日だけは色々考えた結果、年長組と年少組で分かれたのだ。
「ウォルフは今回の収穫祭どうだった?」
「勿論、面白かったよ。うちは特殊な家だからね」
「この先も、もっと楽しいことを考えるからさ。今はお爺さまの言う事を信じてみない?」
「うーん、アキラが来てから良い事ばかりだからなぁ……。でも、その時が来たらちゃんと教えろよ」
「うん、分かった。なるべく協力するよ」
収穫祭が終わると、あっという間に冬が訪れる。
冬の準備で薪を割り、剣の修行がひと段落すると木槍で訓練をする。
ミーシャと一緒に踊りの訓練をすると、乗馬を楽しんだりもした。
冬に向けて色々な商品を頼むと、食料を中心に溜め込んだ。
この時、希望を出して計算ドリルと文房具も大量に仕入れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「そうですか、それでは私達王都でニアミスしていたのですね」
「ええ、諸事情で正体を明かすわけにはいかなかったのです」
「うちは家庭教師が来て、踊りのレッスンを受けていたので……。その時のアキラさまに会いたかったなぁ」
「その頃は生意気な子供ですよ」
向かい合って二人でシャンパンを楽しんでいた。
子供の頃の話と言っても、まだ十代なので必然と更に小さい頃の話になる。
貴族の学園に通っていない子息もいるが、ウォルフとミーシャの話を知っている人達は不思議に思う。
女性が生意気な過去の事を聞きたがると、初めてのダンスホールでの出来事を語り始めた。




