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032:学院とアルバイト

「あなたがアキラ君ですね」

「はい」

「リュージ君の推薦とは珍しいですね。改めてようこそ学院へ、あなたの指導員のサリアルです」

「アーノルド家のアキラです。宜しくお願いします」

「では、サリアル先生。ご指導お願い致します」

「あなたが直接教えたほうが早いんじゃないかしら?」

「いえいえ、育てるという点ではサリアル先生に敵う人はいませんよ」

「お世辞でも嬉しいわ」


 翌週の月曜日になり、早速学院で顔合わせをすることになった。

冒険科がある学園もその傾向が強いが、こちらの学院は私塾が集まって成長したような形だ。

多くの科目をバランス良く、画一的な人材を作る事を目的としていないせいか、何をどれだけ学ぶか自分で選ぶことが出来る。

ただ、多くの可能性があるということは、何をどう選択したら良いか悩んでしまう。そこでサポートしてくれるのが指導員だった。


「私達貴族出身の者とは違い、学院に通う人の多くは仕事をしながら、空いた時間で通っています」

「はい」

「あなたも特別な事情があるようなので、大変だとは思いますが効率的な勉強方法と、特待生として皆のお手本になるようにお願いします」

「はい、頑張ります」


「主に魔法使いの修行と聞きました。まずは、あなたがどんな魔法使いになりたいか? 教えてほしいわ」

「サリアル先生、もう彼は魔法を使えるようです。ちょっと今まで聞いた事ない系統の魔法ですが」

「そうなの? リュージ君。そうなると、ますます教える側のハードルが上がったわね」

「まずは座学からでしょうね。他にも可能性があると思うので、基礎からお願いします」


 リュージはサリアル教授に、「彼の後見役は、自分も担当するので」と言うと、学院の自室に戻っていった。

サリアルの案内で今日は学院の施設をまわり、講義の受け方などを教えてもらった。

講義は午前と午後に3回ずつあるが、フルで受ける者は少ないそうだ。

また学食がない為、希望者には農場の食堂を使えるよう申請が出来るようだった。


 講師によっては早い時間から講義が始まったり、遅い時間から講義が始まったりするので、それは様子を見て受けるように言われる。昔より塾出身の講師の生活が安定したことで、どうしても時間的に受けられないという事も少なくなったらしい。

サリアルの講義は1日に3回以上あり、神学を教えるアンジェラや宮廷魔術師団から出向しているワァダなど、魔法使いの勉強と言っても多くの講師がいた。たまに特別講義があり、その際は別途講師を招くことになる。


 学院の特待生特典は、受講料の免除と昼食の手配だけだった。

生徒以外でも講義を受けることは出来るが、生徒でなければ受けられない講義や、特待生でなければ受けられない講義が存在する。主に外でやっている剣術の稽古なんかは、無料で行っている学院の売りだった。

ここで学院側に実力を認められれば、準特待生や騎士への近道になる場合がある。

ただ、やはりそんな者は少なく、騎士は貴族家から多く輩出されているので、狭き門であることには変わりはなかった。


 今日はこの後、サリアル先生による『魔法の基本』の講義を受ける事になった。

この世界の魔法と言えば、主に属性魔法と神聖魔法の使い手で8割以上を占めるようだ。

その他に学園で講師をしていた王国の英雄、『常春さま』という名前も持っているガレリアという人が使う付与魔法などもある。


 属性魔法とは四大エレメンタルが基本らしい。

さすが、西洋風な世界だけあって、土水火風が世界を構成している。

精霊さまは女神さまの使いだと言われ、その他にも植物の精霊さまや建物の精霊さまもいるらしい。

神聖魔法は女神さまへ祈りを捧げて、神の奇跡を体現するという魔法だった。


 この世界というか、この王国では女神信仰があるらしく、この国では多くの人々に信仰されている。

他の国では別の神さまを祀る地域もあり、一概にはどの神さまが良い悪いという話しではないそうだ。

近くにあるGR農場という場所は、『精霊に愛された場所』と呼ばれているらしい。

農業王国として土と水に目覚める者も多くなり、そんな魔法使いが目指すべき就職場所は、GR農場か宮廷魔術師団と言われている。

後で会えるだろうワァダという人も、元々は学園で魔法を学んだが、適性が見出せない状態で農場に勤め、その職場で魔法に目覚めて宮廷魔術師に入ったという変わった職歴を持っていた。


 農場と学院はガレリア基金が元になっていて、学院は半分くらい王国の資本が入っているようだ。

ガレリアとリュージ以外だと、ヴァイスという人が管理者のようで、ここは『商業特区』となっているらしい。

なので、時折すれ違う偉そうな人は王国の役人の可能性もあった。


 サリアルの『魔法の基本』の後は、ワァダによる『四大エレメント』とアンジェラによる『瞑想』の講義を薦められた。

今は魔法使い系の講義を貪欲に学び、魔法に慣れる事と親しむ事を重視して欲しいと言われた。

今日みたいに、ほぼ丸一日講義を受けられる日はほとんどないと思う。

まずは、魔法の可能性と相性を試すには学院は良い機会だと思った。


 お昼はリュージと合流して、農場の食堂で一緒に昼食をとることにした。

「どう? ここの食事は」

「ええ、とっても美味しいです。日本で食べるのと遜色ないくらいに」

「これでも結構大変だったんだよ。ここに来た当初は、そういうものかと諦めるくらいにね」

「やっぱり塩ですか?」

「うん、塩もそうなんだけど、元々生きるか死ぬかを考えるなら、美味しさは二の次らしいね」

「食べられるだけ幸せなんですね」


「そういえば、アキラ君はどんな特技があるのかな? 魔法って意味じゃなく、ほら知識も大事でしょう?」

「えーっと、前世は普通の高校を出て漁師になったので、ちょっとした料理と釣りやロープワークくらいかな?」

「そっかぁ、自分は農業系だから少し反映できたけど魚かぁ」

「この世界って海はないんですか?」

「いや、あるよ。海草系の海産物やカツオブシっぽい物もあるからね」

「その言い方だと、遠そうですね」

「うん、他国になるよ」


 学園を卒業してから、旅に出ることが多くなったリュージから聞いた情報によると、海は思いのほか遠いらしい。

商業ギルドが中心になり、各国の商取引を適正なものに努めた結果、王国は比較的マシな取引が続いていた。

これも誠実に国の運営をしていた王家を含む政治と、食料支援や外交を上手く勤め上げた結果だった。

外交で有名なポライト男爵家とリュージによる支援も、直接の解決だけではなく種を蒔くだけではなく自助努力を促していた。


「今の段階だと、国外への旅は難しいだろうね」

「やっぱり決まりがあるんですか?」

「基本的には貴族家の者は国外に出たがらないよ。相手から嫌がられるし、勘ぐられるからね」

「基本以外ってあるんですか?」

「それは冒険者だよ」


 この国は比較的魔物による被害が少ないようで、本格的に英雄になるには他国へ行く方良いとされていた。

リュージは冒険者を志望していたので、世界を見て回りたいと考えていた為、卒業後は積極的に外に出たようだ。

それでも、リュージは15歳でこの世界に来て数年で旅に出たようなので、今の年齢を考えるとアーノルド領だけでも世界は広いと思っている。


「まだ、成人になるまで時間があるし、勉強も必要だと思うよ。お金が欲しいならここでも、ここ以外でも仕事はあるから相談して欲しいな」

「はい、ありがとうございます」

「今は困っているかな?」

「あ、はい。えーっと……、生活するには困ってはないんですが……」

「まあ、色々と必要になるよね。そうだ、こちらでも困ってる事があるんだけど」


 この前親族が一堂に会したダンスホールで、主に貴族家の子女向けにレッスンをしているようで、ダンスパートナーが足りないらしい。元王女のローラとアデリアが管理するこの施設は、主に下位の貴族向けに会員制として開放しており、社交界デビューの為の訓練なので、一緒に踊る相手もそれなりに理解している人でないと難しいようだ。

一言で言うと、「我侭でもヘタでも、根気良く付き合ってくれる信用できる相手が欲しい」とのことだ。


「義父と相談してみます」

「うん、良い返事を期待してるよ」

「踊りはそんなに上手くないのですが……」

「それはあまり心配してないよ。あの二人がこの話を聞いたらね」

「あ……、やっぱりレッスンも増えますよね?」

「当然」


 盗賊ギルドのギルマスと聞いて少し心配したけど、リュージの印象を少し修正した。

冒険が好きで周りから慕われている姿を見ると、なんだか子供の感性を持ったまま成長したんだと思う。

それでも多くの仕事が来ているようで、テキパキと処理する姿は日本人だなと思った。

「これだけ長期間の休暇は久しぶり」と王都にいるのが休暇という時点でおかしいけど、そこは深く突っ込まない事にした。


 食事が終わると、お茶が届けられる。

ちなみに今日のランチは日替わりで、ミートソースとサラダとスープとパンのパスタセットだった。

お茶を持ってきたリュージの妻であるレンがそのまま着席した。


「改めてこんにちは、アキラ君。リュージから色々アイデアが出る子かもしれないって聞いたよ」

「え? え?」

「レン、そういうのは直接言わないようにしないと」

「でも、リュージも期待してるんでしょ?」

「まあね。この世界が豊かになるのは良い事だし、争いが減るなら歓迎なんだよ」


「今って平和そうに見えるんですが……」

「平和に見えるって事は、衣食住が充実してるって事だと思うんだ。この状態で次はどんなアクションが起きると思う?」

「難しい質問ですね」

「じゃあ、中世だと考えて歴史的に起きたことと言えば?」

「……産業革命とかですか? 大航海時代とか文化の発展とか」

「いいね。そして、その先には戦争や植民地支配が待ってるんだ」


 平和に見える王国でも、次第に貧富の差が明確になっていた。

それは真面目に領内の運営をしていた貴族と、散財して重税を課していた貴族との差と言ってもいいだろう。

それでも時代の流れに乗り、改善を重ねていた貴族領は真面目な運営をしていた。


 王国内が豊作でも時代を読めない貴族はいる。

金がない貴族は何をするか? ある所から奪えばいいのではないか? という思考に結びついた。

ある一部の男爵家を中心とした貴族が、武門の家系で武闘派の者達を焚きつけて、その数を無視するには少なくない声があがってしまった。

では、何処と戦うというのかと言えば、隣国で十数年前にあったダンジョンの事件を蒸し返すか、宗教の違いで度々ちょっかいをかけられている某国くらいだ。

その他は近隣の小国を吸収合併しようという意見も出ていたが、ポライト男爵他王国との関係が良好な為、戦争を仕掛ける理由が見当たらない状態だった。


「上層部は大丈夫ですか?」

「あはは、上層部は大丈夫だよ。戦争をしかける理由がそもそもないからね」

「ほんっと、私達がどれだけ苦労しているか、あの連中はわかってないのよ」

「レン、否定はしないけど、誰が聞いているか分からないから」

「でも……」

「だから、ダンスホールが息抜きになるんじゃないか」

「そういう意図もあるんですね」


「あのダンスホールは、レッスンとパーティー用なんだけど、会員制なんだ」

「そうそう、問題がある人には許可は下りませんから」

「まあ、ポライト男爵家もダンスホールの管理をしてもらってるからね」

「政治的な意図が強いんですか?」

「そこは気にしないでいいよ。まずは素性がしっかりしてて、根気強く付き合ってくれる人ならば」

「あら、リュージはパートナーの件をお願いしたのね。うーん、ちょっと変装した方がいいかしら?」


 貴族出身の騎士科の生徒や騎士・護衛の人を何回か雇ったけど、男性側の問題行動と女性側の問題行動が結構あったそうだ。

具体的にはファンクラブ結成とかストーカー化とか、ある時は駆け落ち騒ぎにもなったようで苦情も出たらしい。

それ以降はなるべく女性同士でパートナーを組んだけど、女性からの評判は芳しくなかったようだ。

こんな苦情はガレリアやリュージ宛に届けられる。本当に何でも屋みたいな感じだと思った。


「もしOKして貰えるなら、あれつけてもらったらどうかな?」

「ああ、忘れてた。アキラ君、週末の祭りの変装用で渡すから、ダンスホールの件OKなら、それつけてやってくれないかな?」


 仮装パーティーで使う、棒の先に目を隠す仮面を魔道具として貼り付ける形にしたらしい。

ここ最近のダンスパーティーでも使われているので、今度は仮面に凝る人が増えているようだった。

オ○ラ座の○人のようなマスクから、蝶のようなマスクやネコを模したマスクなどもあった。

話している間に持ってきてもらったマスクは緑の蝶のようなタイプだった。

ポチっとおでこ辺りにある小さな宝石に魔力を点すと、くっつくだけの魔道具だった。


 この日スチュアートにダンスホールのアルバイトの話をした。

レイシアにも聞いてもらい、土日で無理のない程度なら自由にして良いと許可をもらった。

ただ、いくらダンスの技術が低くて良いと言われても、二人のダンスに対する気持ちに火をつけたのは間違いなかった。

翌日からダンスの特訓でバリエーションが増え、自然とダンスの技術があがることになっていったのだ。


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