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030:計画

 今日は朝から全員でダンスの特訓だった。

レイシアの発案により、本日の剣術の訓練は中止になり、音楽と共に今までの成果を披露していった。

スチュアートも「仕方がないなぁ」というような顔をして、レイシアとの踊りを楽しんでいた。

CDラジカセを渡してからそんなに時間が経っていないのに、操作方法どころか「何枚目の何番目が踊りたい」と続けて5曲分通しで流れてきた。


 今日は指導というよりかは、最上の踊りを見る事が目的と割り切った。

5曲を踊り終わった後、ソルトがタオルを持って二人に渡すと、スチュアートから次の曲はミーシャと踊るように言われた。

「アキラ君、今回はターンとリフトに主軸を置いて踊ってごらん」

「まあ、アキラ兄さま。宜しくお願いします」

「こちらこそ宜しく、ミーシャ」


 最初は基本のステップの復習をしながら踊り、中盤から回転を重視してリードを取る。

「アキラ君、随分上手くなったわ」

「そう、そのまま回転を増やしてごらん」

周りからの指示が聞こえてきたので、ミーシャを抱えるようにしてグルグル回る。

微笑むミーシャを見ながら回っていると段々軸がぶれて、これ以上回ったら転びそうになったので、通常のステップに戻していった。


 踊り終わった後二人から評価を貰ったけど、ようやく普通に見られる程度にはなったようだ。

すると、スチュアートが「この回転こそ、空中感覚の特訓に役立つんじゃないかな?」と言ってきた。

レイシアとスチュアートが横に並び、15cmくらいの大きさの円を二人の足元に残していく。

円の中で片足を残し、その場で同じタイミングでグルグル回り始めた。


 ウォルフが回転数を数え始める。

スチュアートは時折ジャンプして、一回転・二回転と混ぜて回転を続けている。

レイシアが16回転をして正面で止まり、同じタイミングでスチュアートと礼をすると全員で大きな拍手をした。

目が回っているようにも見えないし、足の位置も円の中で収まっていた。


 何回回っても目をまわすことはないらしい。

ミーシャもそこそこ出来るようで、自分はその場での回転では2~3回くらいでフラフラしてしまっていた。

指導に熱が入るレイシアに、危機感を抱いた何名かが撤退を始める。

スチュアートは仕事に行く時間のようで、今日はウォルフを連れていくようだ。

ソルトはロロンにゆっくり教えるようで、レイシアの前には自分とミーシャがいて、付きっ切りの特訓となった。


「ねえねえ、ソルト。あれって兄さまにも出来ないよね」

「そうね。ウォルフは努力してちょっと上手くらいだけど、今のミーシャとアキラ君には辛いかもね」

「それが貴族の特訓なの? 僕は自信ないなぁ」

「ロロンはまだ小さいから大丈夫よ。貴族家の子女なら、ダンスは良いアドバンテージになるわ」

「ふーん。でも、応援すればいいんだね」


 ステップから回転・リフトと徐々に難易度が上がっていく。

二人の呼吸が大事と言うけど、ダンスで言えば男性のリードが重要らしい。

ミーシャが休憩に入っている間にも、回転に力を入れ回りきれない時は、リープの魔法で高い跳躍をする事で誤魔化した。

この魔法、マークの場所に行こうとしなければ、跳躍の高さが上がる魔法だった。


 体力がないミーシャでもそこそこ回れるのだ、技術が足りないのは努力が足りていない証拠だ。

努力を示せば、レイシアから一つずつ良い箇所を教えてもらえ課題も貰える。

基礎は教えてくれるけど、技術とは自分で積み重ねるものだという教育方針らしい。

実践と基礎練習、実践と基礎練習。繰り返すごとにミーシャとの踊りが楽しくなっていった。


 ソルトからのお昼の呼びかけに、長時間踊っていた事に気がついた。

さすがにレイシアも初日からやりすぎたと思ったようで、午後はいつものように勉強の時間になった。

今日はウォルフも出掛けているので、二人と一緒に教わることにした。


 勉強が終わると夕食までは自由時間だった。

3人で仲良く遊ぶと、今日は早めにスチュアートとウォルフが帰ってきた。

行きは馬で二人乗りをしていたはずだったのに、帰りはそれぞれ別の馬に乗ってきたのだった。

ダンジョンで得た報酬の使い道は、どうやら新しい馬の購入資金の一部に充てたようだ。


 ロロンも徐々に馬の世話をしながら馬術の訓練をする時期だと言い、自分も最低限馬に乗れるように訓練が必要らしい。

家族として恥をかかす訳にはいかないし、折角の勉強の場なので吸収できることは頑張るつもりだ。

明日からは朝の散歩は馬をひきながら行き、新しい馬は自分がメインで面倒を見ることになった。

これにはロロンも協力的で、自分がいない時は率先して面倒を見ると宣言した。


 王都での刺激がよっぽど効いたのか、兄弟は着実に貴族として積み重ねていた。

スチュアートからは本の解説を頼まれ、たまに街にも一緒に行くようになった。

鏡は女性3名の共有財産になり、多くの本の中に紛れていた一冊の『化粧の仕方』みたいなハウトゥー本から、基礎化粧を中心に説明していくと、レイシアとソルトの魅力に磨きがかかっていった。

これにはミーシャがすぐに気がついたようだけど、王都からのお土産で大量に購入したラベンダー石鹸で十分と、レイシアからは化粧の情報を得る事は出来なかったようだ。


 この間、午後の半分は街に出て、冒険者ギルドのランクが上がるように小さな依頼をこなしていた。

最初は薬草取りから始め害獣調査や駆除、片道の荷物運び、収穫時期の手伝いや雑用など、王都ではなさそうな依頼まで受けてギルドに貢献していった。

さすがに全部が全部一人で出来る訳もなく、指導員的立場の人からのサポートや、格安で使おうと考える冒険者仲間もいて、満足に報酬を得る事が出来ない時もあった。


 薬草取りなんかは縄張りがある所も多く、孤児院や親族に代々受け継がれる場所があると言われ、少し奥まった場所へ行かなくてはならない時もあった。

後でギルドに聞いてみると、そんなものはないとは言っていたが、そう言われて受け入れてしまっている冒険者が多いのが誤解を招いている実情だった。


 かろうじて次のランクへ届くと、やがて収穫祭の時期がやってくる。

王都での遣り残しがあったと、スチュアートから仕事の一環ということで指示があり、自分が行ってくると家族に話しがあった。

今回の仕事は護衛の冒険者もつくようで、馬車で乗っているだけという安全性に配慮された形だった。

大人達には共有されているが、セルヴィス家の1部屋を借り、そこでマークを使うように言われた事。

また、学院で学べるように改めてセルヴィスに頼み、リュージに伝える事が本当の目的だった。


 自分が王都へ旅立つと、アーノルド家は初めてワインの仕込みに子供達を連れて行った。

ウォルフが力仕事を担当し、ロロンが小さい子でも出来る仕事を手伝う。

真っ白なワンピースに着替えたミーシャが、初めての葡萄踏みを体験した。

これは小さい子から年頃の女の子まで担当するようで、今までは体調不良の為極力表に出せなかったこの夫妻の念願だった。


 男爵領の人々は、この家族の幸せそうな姿に喜びを感じる。

最初の数年は期待もあっただろうが、それは触れてはならない話題だと毎年素直に喜べない時期でもあったのだ。


 王都への旅では、問題なく到着することが出来た。

街に入った時点で護衛の仕事は終わり、裏の依頼である別邸までの護衛をしてもらい別れた。

セルヴィスは仕事で学院へ行っているようで、お婆さまへ挨拶をすると早速歓迎されてしまった。

間もなく始まる収穫祭を、「家族全員で楽しめたら嬉しい……、叶わない夢ね」と語っていた。


 こちらの収穫祭の後は、すぐにアーノルド男爵領の収穫祭となる。

もうセルヴィス夫妻は貴族ではないので、領の運営を引き継ぐとしても先代としてか代官としてになる。

今の代官は長いこと男爵領を支えてくれた、替えのきかない一族だった。

今までの柵もあり、セルヴィス夫妻は王都で骨を埋めようと考えていた。


 セルヴィスが戻ってくると、二人を前に事情を説明した。

学院でお世話になることになり、その間こちらでお世話になるようにスチュアートから言われていた。

リープの魔法の説明をすると、お婆さまから「自由に行き来できるのは羨ましいわ」と言われた。

前回泊まった一部屋を今後自由に使うように言われると、明日はリュージへの挨拶をしにいくことになった。


 夕食を食べていると、こっそりどんな魔法が使えるかセルヴィスから聞かれた。

リープは今どんな魔法かを話したので、後は変わった道具や食べ物を取り寄せることが出来ると話した。

忘れていたお土産のシャンパンを2本渡すと、セルヴィスは奥さんと一本ずつ分けた。


「さっきお婆さまと話したのですが」

「何をだい?」

「みんなと一緒に収穫祭を楽しみたいと」

「ふむ、それはみんなで王都の収穫祭を楽しめたら良いな」

「そうね」

「自分も最近覚えた魔法があるのですが……」

「それで、どんな魔法なの?」

「まだ起きていると思うので、ちょっと行ってきます」


 既に部屋ではマークの魔法を唱えて覚えているので、男爵領の自分の部屋に跳ぶことにした。

この時間なら大人達はまだ起きているはずだ。

子供部屋をなるべく足音を立てずに歩いていくと、ソルトが立って待っていてスチュアート達は「おかえり」と言ってきた。

無事にミッションをクリアしたことを話し、王都の収穫祭をみんなで楽しむ事をセルヴィス達が望んでいることを伝えた。


「うーん、アキラ君。この時期は仕事が立て込んでいて、なかなか時間が取れないんだ」

「そうね、子供達には男爵領の収穫祭も体験して欲しいわ」

「えーっと、1日だけでも何とかなりませんか? 新しい魔法を覚えたので」

「ほう。今、その魔法を見ることは出来るかい?」

「はい」


 全員で自分の部屋に行くと、ゲートの魔法を唱えた。

リビングで唱えても良かったけど、万が一子供達に伝える前に見つかったら、ややこしい事になると思ったからだ。

競りあがるドアが完全に出るまで待ってもらい、小さな声でゲートオープンと言うと、鍵がかちゃりと開いた気がした。

自分が先頭に立ち、ドアを開けてそのまま通過した。


「じゃあ、次は私が行くね。レイシアはその後に。ソルトは悪いけどドアを見張っててくれないか?」

「はい、分かりました」


 スチュアートとレイシアがドアを通ると、ドアが自然と閉まっていった。

ドアの先で二人を待っていたアキラは、これで全員だと確認するとそっとドアを閉めた。

二人はすぐに別邸だと気がつき、セルヴィス達の元へ行く。


「こんな便利な魔法、これは益々秘密にしないといけないな」

「スチュアート・レイシア、こんなすぐに会えるとは思わなかったぞ」

「それは私もだよ。お母さま、そう度々来ると問題ですが、子供達は変装をすれば今年の収穫祭は良いですよ」

「まあ、本当? 二人も来られるのかしら?」

「スチュアート、どうしましょう? さすがに私達は見つかるとまずいかな?」

「レイシア、ここに来るくらいなら良いと思うよ」


 ゆっくり別邸のリビングへ行くと、セルヴィスがどんな魔法か聞いてきた。

特にこのメンバーなら隠す必要もないので、借りた部屋のど真ん中にあるドアを指差した。

全員がドアを潜ると、ソルトが少し驚いた表情を浮かべる。

セルヴィス夫妻は見慣れない家に、もうそろそろ屋敷に戻っても平気ではないか? とスチュアートにアドバイスをした。

この魔法を使えば、セルヴィス夫妻も男爵領の収穫祭に参加出来るようになる。


 問題は子供達にどう話して、どうやって移動させるかだった。

子供達に緘口令を敷いてもかなり危険だ。

お婆さまはどんな変装をするかレイシアと相談しているので、いっそハロウィンっぽくやっても面白いと思う。

スチュアートとセルヴィスは、誰まで話して大丈夫な魔法なのか、念入りに打ち合わせをしていた。


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