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028:検証

「話を戻すか。で、どっちが使えなかったんだ?」

「え? どっちって二つとも分かるんですか?」

「ああ、まだアイコンが出来てないって事はゲートか」

「アイコン?」

「ついでだから、先にルームを唱えとけ」


 ルームの魔法を唱えても、何も変化は起きなかった。

すると、おっさんがさっき言った場所を指差していた。そこにはルームのアイコンが出来ていた。

そこを選択しようとすると、おっさんが先に『ショッピングサイト』を開くように言ってきた。


「まず、お前はゲートの魔法で何が出てくると思った?」

「何って、ゲートなんだから出るのは門ですよね?」

「ほう。で、そのゲートの大きさは?」

「王都で見た人が出入りする大きな門ですよ」

「さっきの力場の大きさは確認したか? それで、その門は小さく作ったのか?」

「あ……」


「ゲートの魔法は門に限ったものじゃねぇ。ドアだろうが障子だろうが襖でもいいんだ。要は、人が出入り出来そうなイメージが重要になる。そこで、これだ」

「このショッピングサイトにあるドアを買えと言うんですね。でも、お高いんでしょう?」

「ああ、10万円だな。そして、お前は30万近く持っているな」

「マジで高いじゃないですか! 結構あくどい商売をしていますね」

「水商売は不景気だからな。副業には丁度いいのさ」


「買ってもいいんだけど悩むなぁ」

「そのドアは、ルームにも繋げる事が出来るぞ」

「へぇぇ、ルームって快適な部屋なんですか?」

「まぁ、それは。家具とか買っていけば快適なんじゃねぇの?」

「……」


 このおっさんは、中間マージンをどのくらい取るのだろうか?

ルームに合わせてガス・水道・電気も契約出来ると言っていた。

合算で月額1万円らしく、個別では4千円のようだ。

これから始まるダンスの特訓の為のラジカセとCDセットを頼み、スチュアート希望のシャンパンに関する本と酒をお願いした。

ドアと合わせて20万円の出費は大きく、余った分はお勧めを送ると言っていた。


 ドアだけはすぐに取り寄せる事が出来るようで、具現化した瞬間地面に沈んでいった。

「商品が揃ったら呼ぶから待っとけよ。ああ、後言い忘れていたが、普通のドアにも繋げる事が出来るから覚えておけよ」

「え? ……今なんて」

ドアから視線を戻すと、おっさんが映っているタブレットは、最小化して消えて行ってしまった。

10万円の出費が泡と消えた瞬間だった。


 気持ちを切り替えて検証をすることにしよう。

まず、レベルがあがったことにより、マークで覚えられる場所が一箇所増えたようだった。

部屋と王都のマークを残したまま、とりあえず外に出てみる。

検証1:どれだけの距離が跳べるのか? を試してみよう。


 今日は家族全員家でゆっくりする日のようだ。

スチュアートに許可を取り、ソルトから簡単なお弁当を用意して貰うと、下山しながらひたすら街まで歩く事にした。

何かあったらすぐに戻る事と、知らない人に会って冒険者カードを見せてきたら、とりあえずは信用出来ると教えて貰った。

焦らず道なりに歩いていく。看板がある場所の境目で、一人の女性が休憩していた。


「こんにちはー、今日も暑いですね」

「あ……、ええ、そうね。って言うか、あなたこんな所で何してるの?」

「え? 散歩ですが、やっぱり自分の事を知っていますか?」

「ええ、私は冒険者なの。ここによく不埒な真似をする人がいるから、正面だけは何時でも対応出来るようにいるわ」


 女性冒険者が不自然なほど大きな声でこちらに話してきた。

冒険者カードを見せてきて、Cランクだったので結構凄腕な部類に入ると思っている。

自分も見せようとごそごそやると、「あなたの事は知っているから大丈夫よ」と言われてしまった。


「それで、どこに行くのかな? ここからだと、どこに行くのもそこそこの距離なんだけど」

「はい、とりあえず街に行って見学と、冒険者ギルドにでも行きたいなっと」

「うーん、案内するのは簡単なんだけど、こう言ってはなんだけど、私の事も信用しない方がいいわよ」

「え? 何でですか?」

「なかなかの危機感ね。お姉さんちょっと心配だわ」


 小声で女性に「誰の護衛なんですか?」と聞くと、「それは言えないけど、見るのが仕事だわ」と返答された。

「義父にも許可を得ているので、行ける所まで行ってみます」

「そう、じゃあ気をつけてね。守られてばかりの環境だと成長しないしね」

「家族の事、お願いします」

「お姉さん達に任せなさい」


 さりげなく複数で見守っている事を教えてもらうと、道の真ん中をずんずん歩いていく。

なるべく危険感知のスキルを使いながら、周囲に目を配っていく。

冒険用の武器と防具は収納に仕舞ってあるので、今手に持っているのは木剣だ。

きちんと警戒しているぞというアピールをしていれば、そうそう襲われるもんじゃないと思う。


 道の真ん中を進む、休憩しながら進む、時間を気にせず進む。

程よい距離を歩いたので、途中トイレに行くふりをして、茂みに入り場所を覚えて姿を消した。

部屋に戻るとノックが聞こえてくる。ミーシャとロロンが探していたようだ。


 子供が全員集まってカードゲームを楽しんでいると、レイシアがやってきた。

どうやら、主にミーシャの具合を見に来たようで、王都へ行く時も滞在中も帰ってくる時も、ミーシャの体に異常はなかった。

明日は協会から医者を連れてくるようで、それまでは遠出禁止のようだ。


「ミーシャ、明日の検査で問題なかったら、明後日から今までの分を取り戻すわよ」

「はい、母さま。でも、体を動かしても良いのですか?」

「それは明日次第でね。少し厳しくするわよ」


 ウォルフとロロンは驚いた顔でレイシアを見上げていた。

あれだけ甘やかしていた両親達が決意したのだ。

結構ハードな特訓をする、とばっちりが来るんじゃないかと二人は思っていた。


 翌日は朝にスチュアートが馬で出た。

全員でお見送りをした後、リープで先回りをして途中で合流して、ここまでの距離は問題なく跳べた事を報告した。

すると、馬に二人乗りして冒険者ギルドへ案内して貰った。

スチュアートから本宅である屋敷の場所を説明して貰うと、跳べなかった場合はここへ向かうように言われた。


 普段は別荘のように山の方で住んでいるが、本当はここで暮らすのが一番だと言っていた。

街に近い場所ならば、同年代の友達や生活も楽になるだろう。

この十年で屋敷はスチュアートの仕事関係で使う場所になっていた。


 スチュアートと別れて冒険者ギルドへ入る。

依頼のコーナーへ行くと、主に低ランク向けの依頼や害獣・害鳥駆除などの依頼もあった。

受付へ行くと、冒険者カードを出して薬草採取の出来る場所や、その周辺のモンスター情報を確認する。

常時依頼の物なら、出来高次第なので、採りつくさない程度に依頼を受けた。

観光がてら街を歩き、人通りがほとんどない場所で安全そうな場所を探し、場所を覚えて帰宅した。


 スチュアートが戻るのにはまだ時間がありそうだった。

ウォルフとロロンは家の中でミーシャを監視しているようで、少し外を見てくると言うと素直に送り出してくれた。

今までのお友達の距離から家族の距離を測っているのだろうか? 二人から何か話があったに違いない。


 まずは家から死角になる位置で、近距離にマークを2箇所唱えた。

王都のマークはギリギリまで残して、部屋の分は戻った時に覚えなおせば良いという算段だ。


 まずは近距離移動だけどリープを唱える。

リープの魔法は到着地点を思い浮かべて飛び跳ねる都合上、その覚えた場所と高さの差異により、若干の酔いというか三半規管のブレというか、空中感覚の不安定さが発生している事が分かった。

因みに魔力の消費量は、マークでもリープでもそんなに減ったようには感じていない。

いちいちタブレットを見るのも面倒だったので、体感での実験でも良いと思う。


 何回か跳んでいるうちに、リープで同じ場所に連続で跳べない事が分かった。

別の場所一箇所挟めば跳べるので問題はないのだけど、魔力の消費実験ではめんどくさいと思った。

何気なく一個目の目的地にリープする、そして着地前に空中で次の目的地にリープする。


 二箇所目の出現地点を出た瞬間、かなりの射出速度で撃ち出され、まるで電車が止まった後よろける現象の激しいバージョンが体を襲い、とっさに体を丸くして結構な距離をゴロゴロ転がった。

「な、何があったんだ……」

うつ伏せになりながら、体を動かさず異常がないか確かめていく。

そして、ゆっくりヒールを唱えるて土埃を叩きながら立ち上がると、電車の件は『慣性の法則』だと思い出した。


「時空間魔法は訳分からない……」

どうして突然の射出になったか分からない。

ただ、こういう現象が起こるなら、魔法の重ねがけのような行動は危険だなと思った。


 それからは、元の位置に戻りゲートの魔法を唱えてみる。

問題なく10万円したドアが出てきて、少し離れた場所にも10万円のドアが出ていた。

ドアを開けると、コントのように少しだけ腕を突っ込んだり顔を出したりしてみた。

結果は、全部が通り過ぎないと見えないようで、ドアを開けた景色も今までと変わらないものだった。


 

 最後の検証はマークを限りなく近くにして、ゲートで永遠と異空間を彷徨わないかという実験だった。

結果で言うと、マーク自体は問題ないけどゲートでは力場の範囲があって、その範囲に重なるとドア自体が発生しないらしい。

一応は安全に気を使っている仕様にはなっていた。


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