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027:目的の為の手段

 レイシアからスチュアートとセルヴィスに話が行き、まずは大人だけの話し合いになった。

ミーシャの年齢に合わせてウォルフを学園に通わせるとなると、年齢的にはアキラも同じタイミングで学園に行くべきだと当然のように話しがあがる。


 ウォルフとミーシャは貴族の学園に通うのは既定路線だ。

ただ、アキラの目的を考えるなら、冒険科があるもう一つの学園という選択もありだった。

この十年で魔法使いが増えたこともあり、教員の質も上がったが、今の学院にはサリアル教授というスペシャリストがいた。

どのような決断でもサポートを約束するとセルヴィスが言うと、スチュアート一家は一旦持ち帰る事にした。


 スチュアート一家が自領へ戻ると、早速スチュアートとレイシアから相談があった。

ソルトの手続きにより、正式に家族になったと言われると、少し気恥ずかしい感じがした。

ウォルフが兄になり、ミーシャが妹・ロロンが弟になった。


「さて、アキラ君に率直に聞きたいんだけど」

「あなた、正式にうちの子になったんだから、呼び捨てにした方がいいんじゃない?」

「その辺は追々で良いんじゃないかな? 急にお父さんとかパパとか呼んでって言っても戸惑うだろうしね」

「ええ、まあ……」

「勿論呼んでくれて構わないよ。さあ……、ってこういうのが溝を作っちゃうんだよ。レイシア」

「そうね、大人になったら接し方も変わるだろうし、しばらく今のままで行きましょう」


「それで、本題なんだけど。アキラ君は学園と学院どちらに行きたい? 学園は二つあるよ」

「はい、まず貴族の学園は考えていません」

「うん、そうだろうね。多分、目的から外れているだろうなと思ったよ」

「二人と一緒に学園に行けたら、楽しいとは思うのですが……」

「望まない勉強は身にならないからね」


「ウォルフが早く強くなりたいっていう思いは分かります。もう一つの学園に行くのは、冒険者としては遅いと思うんです」

「それについては何とも言えないな。ギルドマスターと話したけど、冒険者の死亡率は大分減ったんだってね」

「それはそれで大切だと思います。でも、早く強くなる必要があるとも思っていて、リュージさんの話にあった学院は興味があります」

「そうなると、距離の問題があるね」


 スチュアートはニコニコしながら、何かを待つようにこちらを見ている。

思わず仲間にしますと即答しそうになるが、多分そういうのを待っているんじゃないのは分かっている。

マイクロとの戦闘で一瞬見せたのだ。見る者が見れば、純粋な技術で行った攻撃手段ではないのは丸分かりだった。


 新しく覚えた場所に魔法で移動出来る事を伝えると、どのくらいの数と距離で使えるか質問された。

まだ試してはないけど、家の近くには普通に移動を出来た事を伝え、あの戦闘でもその魔法を使った事を伝えると、スチュアートは考え込んだ。


「どうしたんですか? 何かまずいことでも?」

「うん、まずはその魔法を使える事はみんなに言ってはダメだよ。うちの両親には良いけど」

「そうね。王家を含めて他は言わない方がいいわ」

「はい。リュージさんには?」

「うん、そっちの関係は言っても良いけど、なるべく父を通して欲しいな」

「はい、分かりました」


「で、こっちの方が大事なんだけど」

「はい」

「騎士団の訓練所で覚えちゃったんだよね? 王都で他に覚えた場所は?」

「あ……」


「まあ、その話は後で考えようか。アキラ君の希望は学院という事は分かったよ。あまりあれもダメ、これもダメと言うつもりはないけど、何点か約束をして欲しい」

「はい」

「まず、最低2年は貴族としての教育をここで受ける事。剣術・ダンス・馬術くらいは最低限かな? 読み書き算術はあるにこした事はいないけど、これはある一定のレベルに達したら不問にするよ。空いた時間は好きな事をしてて良いからね」

「空いた時間……」

「兄弟の面倒を見てくれると嬉しいけど、自分の時間もバランス良く取って欲しいな」

「はい、分かりました」


「後は冬の間は出来るだけ外出しない事。家の近くなら良いけど、遠出したら探しようがないからね」

「分かりました。勉強はそこで集中的にやりますね」

「ああ、剣術だけでなく魔法の勉強もあるだろうから、その辺のさじ加減は任せるよ」

「ウォルフと同じ位学ばなくて良いんですか?」

「そこまでは気を使わなくて大丈夫だよ。まず、大前提として私達が家族になるのを望んだのは、君を縛り付ける目的ではないんだ。離れていても家族ならばお互いの事を思いあえるし、君を心配する存在がいれば無茶な事は出来なくなるだろう? 私は父の関係で友と家族は多いんだよ」


 スチュアートは必要な事を全部伝えると、確認の為レイシアを見た。

内容は概ね良かったみたいで、くれぐれも無茶はしないようにと念を押されてしまった。

ウォルフも敵と認定したら暴走しがちな性格なので、どちらかと言うとストッパー的な立場を求められたようだ。

それもこれも、この領に敵が多すぎるのが問題だった。


「まずはその移動の魔法を見せてくれないかな? 急がないなら次に王都へ行った時に使えるようにしてもいいし、そもそも距離の問題もあるだろう?」

「はい、じゃあ」

「あ、ちょっと待って。その飛べる場所は選べるのかい?」

「ええ、その場所を覚えようと思えば大丈夫です」

「じゃあ、最終的に覚えるのは自分の部屋にしよう。まずは、この部屋で覚えてみてくれ」

「はい、分かりました」


 今いる場所を覚えると、一旦部屋から退出する。

周囲に誰もいないのを確認すると、リープを発動した。


「驚いたね。現れた時のバランス感覚は課題だけどね」

「スチュアート、そんなにひどいかな?」

「まだ体の使い方がなってないって事だよ。その辺も勉強しようか」


 多分、今の自分の顔は赤くなっていたと思う。

王都へのリープはとりあえず様子を見る事にして、改めて自分の部屋を覚えるように言われて話は終わった。

早速自室へ行くと、ドアを閉めてマークの魔法を発動した。


 王都のダンジョンで特訓した甲斐があって、レベルが上がっている。

確認の為タブレットを開くと、何箇所か確認しようと思った。

……新しく覚えているスキルはなかったようだ。


 レベルが1から5に上がった事で取得したスキルのポイントは4で、新しく覚えられそうなスキルは大きく分けて魔法系か戦闘系だった。これからの勉強でスキルになるかはともかく、ダンスや剣術はこれ以上伸ばす必要はないと思っている。

学院に行けるならば魔法の勉強も出来そうなので、今すぐに何かを覚える必要はないと思われる。

じゃあ、この4ポイントは保留にしとけば良いのかと考えると、必ずしもそうではないと思う。


「はぁ、国民的アニメの『通り抜け○―○』とかあればなぁ」

独り言を言ってから無理っぽい考えに、リープで王都へ飛ぶのは断念するべきだと思った。

あの場所へ行くまでに何人もの騎士や衛兵に会って、仮にルートをスチュアートに聞いても人と会わずに外に出るのは無理そうだった。時空間魔法と言っても、狙って魔法を覚える事は出来ないだろう。


 今興味があるスキルは二つだった。

『魔法の素質』の取得か、『時空間魔法』のレベルアップだ。

どちらも3ポイントを使うようで、両方を一遍に取得は出来なかった。


 時空間魔法は、今までの流れで2個の魔法を覚えていた。

魔法の素質は多分、攻撃魔法のダメージが増えたり、範囲が広がったりするんだろう。

もしかすると、『通り抜け○―○』が出るかもしれない。

これが使えるようになったら、学院に今すぐ通っても良いか相談する事にしよう。

期待を込めて『時空間魔法』のレベルを3に上げた。


《New:時空間魔法のレベルが上がりました》

《New:スペル ルームを覚えました》

《New:スペル ゲートを覚えました》


 安定の狙った魔法は……、ん? ゲートって移動魔法だよね?

もしかすると、スチュアートを連れて訓練所まで行けば、何とかなるかもしれないと少し希望が沸いてきた。

一旦ドアを開けて周りを確認した後、ゲートの魔法を唱えてみる。


 自分の目の前にゲートを開こうとする。

魔力の力場が地面に発生し、繋げようとした同じ部屋の少しズレた場所に、もう一つの力場が発生した。

今まで魔法を使う以上に集中する。そして、覚えた以上使えるのは当たり前だと思っていた。

二つの力場を繋げる為に集中しているが、今まで感じていた魔力が段々不安定になってきている事に気がついた。

ふと、タブレットから何かの信号が届くと、ゲートの魔法を解除した。


 タブレットをアクティブ化して、ヘルプであるイルカさんよりよく働いてくれる、おっさんを呼んでみた。

歩きタバコで画面の中を歩いて来たおっさんは、いつもの位置に立つとタバコを足で消し、懐からタバコを出して火をつけた。

「ふぅー、呼んだか?」

「はい、質問があって」

「ん? あぁ、新しい魔法を覚えたんだな」

「そうなんですけど、うまく使えないみたいなんです」


「そのまえにまず言っておくぞ」

「はい」

「お前はこの世界がレベル制だと思うか? スキル制だと思うか?」

「え? 両方あるから両方じゃないんですか?」

「まあ、ある意味正しいな。で、ある意味大間違いだ」

「よく分からないのですが……」


「はっきり言って、お前だけに見られるように可視化しているだけだ。他にも例外はいるけどな。それでだ、大抵偏った振り方をする奴は苦労を背負い込むぞ」

「それは、バランス良く振って、器用貧乏になれと?」

「そうは言ってねぇ。ただな、有利不利だけを考えて突き進むと、世界がその強さに合わせてお前に襲い掛かるぞって事だ。フラグとか○○○○の法則とか聞いたことあるだろう」

「やけにゲーム的な説明ですね。分かることは分かりますが」


 おっさんが無駄なスキルも取って、人生を楽しめと説教してきた。

普通に成長しているスキルがレベル分のポイントを使っているので、仮に10レベルが上限でポイントを使うと55レベルで10レベルの魔法を使える事になる。3レベルの魔法もまともに使えていないのに、この先の魔法取得には本格的な勉強が必要になるだろう。

勉強の前の、技術習得の前の、勉強?

まるで卵が先か鶏が先かの議論になりそうだと思った。


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