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024:階層主

 食事も終わり心の準備が出来ると、武器を抜いたまま扉の前に立つ。

自分達の順番はとっくに来ていて、他のパーティーに先に入ってもらっていた。

もし中のモンスターが複数いた場合は、ボスをサラとルーシーが足止めして、自分とウォルフが雑魚から片付けていくという打ち合わせをしていた。多くても3匹前後なので、先に突入して魔法でボスの気を引くようだ。


「ここで帰ってもいいんだぞ。二人とも、どうする?」

「勿論行きます」

「自分も行きます」

「じゃあ、一回深呼吸したら行くよ。はい、吸ってー」


 若干残った周りのパーティーは、微笑ましいものを見るように見守っていた。

誰しもこの道を通った訳で、ここにいるということは成功しても失敗したとしても、やり直せる緒戦だったようだ。


 扉をくぐると奥の方に別の扉があり、その前に小型の樽が置いてあった。

そこに腰掛けた、やたら宝石をじゃらじゃら体中に巻き付けているゴブリンがいて、その両隣に護衛っぽいゴブリンがいた。

護衛のゴブリンは両方とも、棍棒というよりかは警棒に近いんじゃないかな? という硬さと細長さの武器を持っている。

真ん中の宝石じゃらじゃらゴブリンは、両手持ちのスタッフを持っており、樽から降りると警戒するように奇声を発した。


「こいつは聞いた事ないな」

「ゴブリンの貴族なのかな? それとも宝石商?」

「どっちにしてもゴブリンだろ。もうジュエラーとセキュリティーでいいや」

「じゃあ、作戦通りいくよ。アキラ君は右でウォルフ君は左ね。ルーシーはボスを倒せたら倒しちゃっても良いわよ」

「無理言うなって。じゃあ二人とも行くぞ」


 固まらないように自分は右の端の方に、ウォルフは左の端の方に護衛を引き付けると、早速ジュエラーが無防備になっていた。

あのじゃらじゃらしている宝石が、そのままゲット出来るなら大儲け出来そうだけど、最初のゴブリンの棍棒も消えたくらいだから普通のゴブリン並のドロップだろう。

護衛がいなくなったジュエラーは呼び戻そうと奇声を上げたが、ウォルフは少し強い護衛に今までの特訓の成果を試していた。

自分の前の護衛ゴブリンは不用意に突っ込んでこない。


 ルーシーはゴブリンジュエラーに向けて、小規模な砂塵を発生させる。

サラはその様子を見て大丈夫だと判断すると、自分の目の前にいるゴブリンの両足を拘束した。

次の一歩が踏み出せず、つんのめったゴブリンの首を狙い、骨に達しないように切り裂く。

大抵の動物型モンスターが首を狙う理由は、他の部位に比べて柔らかく、容易に致命傷となりえるからだ。

もし浅くても首を押さえたり、パニックになったりするので、どちらにしても効果的だった。


 落ち着いてトドメを入れると、ルーシーの隣に並ぶ。

「アキラ、まずは雑魚だよ。あっちのフォローを」

「はい、行ってきます」


 ウォルフが実力を試していると、護衛のゴブリンの傷が増えていく。

「どう? 手伝いとかいる?」

「いや、大丈夫だよ。サラさんから魔法の支援も貰ってるし」

「じゃあ、ルーシーさんと合流する為に早く片付けよう」

「分かった。次で仕留めるよ」


 既に護衛のゴブリンは、多くの箇所から血を流していて、息も絶え絶えだ。

ウォルフは、最後の力を振り絞り武器を振り上げたゴブリンの武器を巻き上げると胴を一閃した。

前のめりに倒れたゴブリンと、武器が落下したタイミングが重なった。


 ウォルフの動きに感心していると、中央付近で爆発音が聞こえてきた。

「ルーシー」

「サラちゃん、大丈夫。魔法勝負なら負けないよ」


 ジュエラーを見ると、じゃらじゃらつけている宝石を毟り、下卑た笑いでルーシーを挑発していた。

ルーシーが放った小規模な砂塵は、ダメージを与えるというよりかは、足止めをする魔法だった。

お返しに何かをしかけたゴブリンの攻撃は、ルーシーの近くでモクモクとしていて、爆発音から考えるとそこそこ威力がある火属性魔法か火薬に近い何かだと思った。


 ルーシーの近くへ行くと、敵に対してYの字に近い位置取りをする。

魔法への注意を受けると、ジュエラーは宝石をウォルフに向かって投げた。

小さな宝石がウォルフの胸元へ届くその一瞬で魔力が発動した。

一瞬だけ緑色に薄く発光すると、圧縮した無色透明な魔力の塊がウォルフへ着弾する。

大きく吹き飛んだけど、勢いを逃がすために自分で飛んだか、魔法の威力かは分からなかった。


 ウォルフに駆け寄るか、敵に近付くか刹那の時を考え敵に突進した。

走りながら敵に近付くので体勢は整っていなかったけど、大降りで剣を袈裟切りに振り下ろす。

肩口を浅く切り裂くと、ジュエラーは怒りの表情をこちらに向けた。


「ウォルフ、大丈夫か?」

「ォッフ、ふー……。はい、ルーシーさん」

「少し息を整えとけ。期待はしているけど、無理する所じゃないぞ」

「ルーシー、安全第一ね」

「分かってるよ」


 ルーシーが少し前に出て地面に手をつけると、サンドウェーブと魔法の言葉を発する。

薄い砂が波のようにゴブリンへと滑り行く、いつの間にかサラが放った何かの種が送られていった。


 ゴブリンは正面にいる自分に怒りを重ねていた。

体に似合わない殴ることに特化しただろうスタッフを振り上げると、一撃で敵を屠るという勢いで攻撃してきた。

いかにもな攻撃は隙だらけだけど、その醜悪さに思わず大きく回避行動を取った。


 スタッフを持っている以上、魔法が使えるという先入観がある。

この距離は危険だと思った。すると、大声を上げながらウォルフがジュエラーに近付いてくる。

ゴブリンは片手で宝石を毟ると、ポイっとウォルフの来る方向へ宝石を投げた。

「ウォルフ、何かあるよ止まって」

「了解」


 ゴブリンは更に別の宝石を握ると、こちらに投げるポーズをとった。

「「即席魔法、バードジェイル」」

ルーシーの魔法がゴブリンまで到着すると、ゴブリンを囲むように半径2mで高さ2mくらいの8本の砂が鉄筋棒のように発生した。それらが上空でドーム状に結びつくと、その一本一本に蔓直物が巻きついていく。

どうやら鋭い棘がついている植物のようで、その場から脱出しよう植物ごと力で引き千切ろうとしたゴブリンは、掌や腕を傷つけることになった。


 怒りで我を忘れたゴブリンはありったけの宝石を掴むと、忌々しい魔法使いへ最後の報復を考えた。

狭いスペースで狙いをつけようと、振りかぶったその腕に上空から蔦が降りてきて、瞬時に拘束されると宝石が真下に落ちた。

最初に使ったであろう爆発物や、ウォルフへ放った宝石がそこそこの攻撃手段としても、数が重なれば十分な殺傷力となる。

最後は自爆で瀕死となったゴブリンに、鳥籠の外からウォルフと二人でトドメをさした。


「ねえ、ルーシー。やっぱりバードケージの方が良いって」

「サラちゃん、ジェイルの方が怖そうじゃない?」

「それはそうだけど……。ウォルフ君・アキラ君どうだったかな? 初めて聞くゴブリンが出てきて驚かせちゃったね」

「二人とも男の子だもんな。大丈夫だよね」

「「はい、ありがとうございます」」


 ウォルフがあのまま突進してきたら、水溜りに突入してただろう。

あの水溜りがどんな効果なのかは今になっては確認することは出来ない。

ジュエラーが消えた後に、すぐにそれらも消えていた。

ルーシーは、もしかするとあのゴブリンは宝石商ではなく、付与魔術師かもしれないとも思った。


「あら、宝箱が出ているわ。ここでは珍しいわね」

「へぇぇ、お前達持ってるなぁ。こんな場所じゃ罠なんてないと思うけど、念の為三人とも下がっててね」

スタッフでコンコンと宝箱を叩いたルーシーは、カギが開いてたらラッキーと蓋を素直に上げてみた。

「おおぉ、当たりだね。みんな、大丈夫そうだからこっちにー」


 宝箱の中には紫色のキレイな布に包まれた紫水晶が入っていた。

この世界には付与魔術という物があるらしく、主に魔道具というものを作るのに宝石を利用しているようだ。

その宝石の中で、現時点で魔法に対する相性や利便性が一番高いのが紫水晶と言われていた。


「これ高いんですか?」

「ああ、売ったら高いけど希少性で言うならば売らずに確保したいな」

「ねえ、二人とも。これは相場でお金に換算して、二人にはお金で支払うでいいかな? ガレリアさまへのお土産にしたいの」

「俺はお金はいらないよ。今日は修行に来ただけだし」

「自分もお金には頓着してないです」

「二人とも、そういうのがパーティー不和の原因になるんだぞ」

「そうそう、ちゃんと分け前を貰うのも冒険者の務めよ」

「「そして、祝勝会もね」」


 5層をクリアしたので、約束通り今日はここまでにすることになった。

サラとルーシーは、出口で手続きを済ませた後、5層のボスの情報を係員に話した。

冒険者ギルドへの報告は、この係員から上げて貰える事になっている。

簡易鑑定所も近くにあり、4人で紫水晶の鑑定を済ますと、個人の報酬として初期投資分を上回る金額になった。


「二人とも、ラッキーだったね」

「あの、報酬は父さまに渡して欲しいです」

「あ、じゃあ自分も」

「それでいいの?」

「「はい」」


 今回のダンジョンで5レベルまで上がったようだ。

何がどう強くなったか良く分かっていないけど、客観的に見ることが出来るタブレットがある。

後で見るのが楽しみだった。


 サラとルーシーと一緒に冒険者ギルドを経由し、近くの酒場で早めの祝勝会をあげた。

二人がエールを頼んだので、ウォルフはワインを頼もうとしたけれど、「「まだ早い」」と窘められてしまった。

果実水もあったし、お酒に合う食事が出たので料理を楽しむことにした。


 四人で農場へ姿を見せると、セルヴィスとスチュアートに涙ぐまれてしまった。

いくら小さい頃やんちゃをしていたと言っても、自分の子供には思うところがあったかもしれない。

暖かいその腕に包まれると、この人達と家族になれて良かったと思うのであった。


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