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023:ダンジョン

 急なお願いにも関わらず、サラとルーシーはダンジョンに付き合ってくれた。

列に並んで冒険者カードを差し出すと、受付の者はカードを受け取る前に訝しげな顔をした。

そのすぐ後ろで二人が笑うと、「その子達は、社会科見学なんです」とルーシーがカードを差し出した。

四人分の登録が終わると、ダンジョンの一階に下りていく。


「よーし、まずは二人の武器を見せてくれ」

サラが片手で持てるワンドを取り出すと、ウォルフと自分が剣を抜く。

「ほぅ、二人とも良い剣だな」

「あら、ルーシーに分かるの?」

「ほら……、いかにも切れそうだろ?」

「あの、二人には昨日見てもらいましたよね」

「一度言ってみたかったんだよ。これで緊張もほぐれたろ?」


 誤魔化すようにルーシーが両手持ちのスタッフを構えると、器用にグルグル回し始めた。

いつまで経っても止まらないスタッフ捌きに、サラはツーンとしてウォルフと自分を下がらせる。


「あの、サラちゃん?」

「何かしら? ルーシー」

「そろそろ止めてくれると嬉しいんだけど」

「今からウォルフ君とアキラ君に説明するから、そのまま続けてていいわ」

素直に続けているルーシーを余所目にサラが説明を開始した。


 この層にいるのは主に狼とゴブリンらしい。

両方とも群れでいたり単独行動したりと様々だけど、決して油断しないようにと注意を受ける。

ウォルフが背負い袋から丸盾を取り出すと、ルーシーが「良い盾だな」と動きを止めるきっかけにくいついた。


 少し息を整えるように、ルーシーはサラが話した内容の続きを話す。

まず、前衛二人をウォルフと自分に任せてくれるようだ。

セルヴィスからこのレベルの戦いまでは余裕だとお墨付きを貰ったので、二人はその決断が出来たらしい。

サラとルーシーは魔法使いだけど近接戦闘も出来るので、指示があったら戦う・逃げるの判断に従うことを徹底された。


 この階層は石壁で、迷路のようになっていた。

迷う心配はなく、出入り口の方に行けば脱出出来るし、奥に行けば次の階層に行ける程度の迷路でしかない。

まずは案内ということでルーシーが前を歩き、壁の途絶える場所で止まり、ヘタな尾行っぽくチラッとその先を見る。

その後ろからサラがドンっとルーシーを押すと、無防備な姿が奥にいたゴブリン2体を前に曝された。


「油断するとこうなるから注意するようにね」

「サァラァ……」

「さぁ、冒険者さん出番ですよ。頑張ってね」

「ウォルフ、行こう」

「アキラは右な」


 ルーシーを追い越して、二人はゴブリンと対峙する。

ゴブリンは二体とも片手に棍棒を持っていた。

ルーシーからは事前に、初激だけはどんな無様でもまともに受けるなと言われていた。

油断や慢心を言い訳に出来るのは、相手より相当な実力差がある場合で、この世界はリセットが出来るゲームではない。


 ゴブリンからしてみたら、油断している魔法使いが一人で出てきて、増援が来ても子供だったようで勝ったと思ったのだろう。

醜悪なその顔は出会う者全てを憎むのだろうか? 低層でモンスターをいくら狩ってもお金には結びつかないので、本来ならば早めに通り過ぎるのが得策なモンスターだった。

今は冒険者としての修行の糧になってもらう為、弱いと言われていても油断は禁物だった。


 右側のゴブリンに集中すると、棍棒をダラリと下げて顔を突き出して何か言っている。

きっと挑発の言葉なんだろうけど、意味が分からないので怒る気にもならない。

これでもかというくらい大きく振りかぶった棍棒をじっくり見て、その持ち手の肘から先に向かって剣を振りぬいた。


 隣ではもう一匹のゴブリンの首から剣が生えていた。

ゴブリンがゴフリと口から血を吐くと、ウォルフが数歩下がり、ゴブリンは前のめりに倒れた。

自分の前のゴブリンは、振り下ろした腕の先がなくなっていた。


「アキラ、まだ終わってないぞ」

「ウォルフ君も油断しちゃダメだよ」

「「はい」」


 ウォルフは棍棒を蹴り飛ばすと、背中に剣を突き立てる。

正面の片手を失ったゴブリンは、飛びかかって噛み付こうとしたけど、すれ違うように胴へ剣を薙いだ。

「うん、合格だな」、ルーシーが満足気に言うと、サラも同意の頷きをした。

少しすると倒れたゴブリン二匹は霧散し、小さな砂利が数個その場所に発現した。


《New:レベルが上がりました》


「これは?」

「ダンジョンでモンスターを倒すと、そのモンスターに見合った報酬を出すことがある。強いモンスターなら宝石なんかも出るな。ボス的存在なら宝箱も出ることがあるぞ」

「ダンジョン以外では、素材や討伐証明の部位を切り取る必要があるの。薬になったり食用として使えたりする部位もあるわ。とりあえず、ここではその砂利が報酬に当たるわ」

「へぇぇ。アキラ、じゃあ拾おうぜ」

「一応入る前にも言ったと思うけど、今回のダンジョンでは報酬は山分けな。その砂利に価値があればだけど」

「じゃあ、見るまでもなくゴミなんですね」

「そうね、今日の利益は割り切って諦めた方がいいわ」


 ウォルフが砂利を拾う。

念の為自分も拾ってみたけれど、砂利は小さく少なくて、仮に有用な鉱石が混ざったとしても取り出すのに大変だと思う。結論として砂利は砂利だった。


 それからは五層を目指して近道も遠回りもせず、ゴブリンと狼を中心に倒していく。

最初の狼を相手にした時は、後ろから魔法が飛んできて、足止めをしてもらうと楽に倒すことが出来た。


「その植物で相手を拘束する魔法凄いですね」

「でしょー、この辺のモンスターなら効果は絶大よ」

「サラは昔から魔法の実力が凄かったからね」

「ルーシーだって自覚してないだけで、結構凄いんだよ」


 ウォルフが二人を尊敬の眼差しでみていた。

魔法使いのイメージといえば、ヨボヨボのお爺ちゃんが長ったらしい詠唱の後、信じられない規模の魔法を使うイメージだ。

二人とも十代だけあって、近接戦闘だけを見ても動きは悪くなかった。

じっくり危険のないように進んだおかげで、五層のボス前の大きな部屋にたどり着いた。


「はい、じゃあ約束通り、この層のボスを倒したら終わりだよ」

「「はい」」

「二人とも、その前にきちんと休憩しようね。ゆっくりご飯にしましょう」


 汚しても良い毛布を広げると、その上にお弁当を広げた。

周りからは「頑張れよ」だとか、「油断するなよ」と声援が聞こえてくる。

ここで止まるような冒険者は、お金稼ぎよりも戦い方の勉強という意味合いが強かったからだ。


「じゃあ、食べながらでいいから聞いてね。その扉をくぐるとモンスターがいるわ。主にゴブリンがよく出て、たまーに狼が出るわ」

「個体差があるのは当たり前だが、数も1匹から数匹出ると思う」

「ゴブリンは魔法使いや弓使いなんかも出るの。狼はそんなにバリエーションがあるとは聞いてないから、大きいだとか色が違うとかその程度かな」

「そんなに身構えなくても大丈夫さ。初心者でも鼻歌を歌いながら通り過ぎる階層だからね」


「何か注意点はありますか?」

「うーん、そうだな。まず一箇所に固まらない、そして一直線に位置取らない」

「前の人が避けて、後ろの人が当たったら危ないもんね」

「後はパーティーの時は、一人に無理に頑張ってもらうの禁止ね」

「「はい」」


 食事と説明の間にも、次々とパーティーが扉をくぐっていく。

パーティー全員が入ると、一度カギがかちゃりとしまるらしい。

そして、ある一定時間が経過すると、そのカギが解除されるのだ。

その階層をクリアすると、扉がちょっとだけ開くらしい。


 もし勝てない相手に出会ってしまったと感じたなら、なるべく動かないで扉が開くまで時間を稼ぐのが正解らしい。

モンスターは基本的にその部屋からは出てこないようだ。

逃げてきた冒険者はペナルティーとして、その日はその先に進めないように出来ていた。

弱いモンスターが出るまで、出て入ってを繰り返す事は出来ないらしい。


 食事は任せてと言われたので、保存食は背負い袋に入れているように見せて、こっそり収納に入れている。

朝は普通に食べたので、お昼は農場で作ってもらったサンドイッチ弁当だった。

ウォルフはパンの柔らかさに感動していたようで、自分はお金持ちの家ではこういうパンなんだというような感想だった。


 これから階層のボスを倒しにいく。さっきも狼やゴブリンを修行の名目で倒していっていた。

この世界では、当たり前だけどモンスターを倒す事に忌避を抱いている人は少ない。

それは基本的にモンスターが人々の暮らしを邪魔するものだからだ。


 徐々に実力をつけていけば、王国で出来る事も増えていくので、まずは強くなる事を考えよう。

きっとアーノルド家を盛り立てていくのは、この世界に来た理由とは少しズレる事になるだろう。

リュージという人に会えば、何か分かるかもしれない。

でも、その前に、出来る範囲で色々学ぶ必要があると思った。


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