022:謁見
謁見の間にアーノルド一家が待機していた。
王が座り、その左右には王子と宰相が並ぶ。
他にも近衛が待機するのが通常だと、スチュアートは経験で知っていた。
セルヴィス夫妻と自分は、今回の件では対象外だったので別室で待っていた。
「皆の者、顔を上げよ」
「はっ」とスチュアートが言うと、礼をしたまま顔だけを上げる。
「十年間、自領の運営に尽くしたようだな。本日、今この時をもって約定の解除と致す」
「はっ」
「レイシアよ、久しいな」
「はい、この度は大変ご迷惑をおかけしました」
「そなたが負うべき務めは、王位継承権の剥奪により無効とした。これからも王女を名乗ることは出来ぬが、子供に免じて男爵家の妻として夫を支えるが良い」
「ありがとうございます」
「これにて、この件は終了とする」
王子の宣言により、早々にアーノルド一家は戻って来ることになった。
初めての対面で緊張していた子供達は拍子抜けしていた。
王や王子とは言っても、母親と家族のはずだ。挨拶や礼儀作法も勉強していたのに、披露する機会がなかったのだ。
微妙な空気のまま、親族に会えないなら帰るのかな? という空気が流れた所でノックが聞こえた。
「お姉さま、お久しぶりでございます」
「まあ、ローラ。来てくれたのね」
「もう、来るのが遅くて待ちくたびれましたわ」
ローラが振り向くと、そこには王・王妃・王子と勢揃いしていた。
臣下の礼を取ろうとセルヴィスとスチュアートが動こうとすると、王が手だけで制する。
「ここはプライベートで頼む。レイシア・スチュアート、長い事待たせたな」
「いいえ、お父さま。私達の我侭を真剣に考えてくださり、ありがとうございます」
「私達にも家族が増えました。是非、子供達を見てください」
スチュアートの言葉でスイッチが入ったのか、ウォルフから順番に挨拶を始める。
「初めまして、お爺さま」や「初めまして、お婆さま」と、それぞれが持てる力を出し切って挨拶していた。
ロロンが王妃の前に立つと、少し首を傾げた。
「二度目まして、お婆さま」と言うと、ロロンは王妃に抱きついた。
「まあまあ、可愛いロロンが、あの一瞬で私の事を覚えてくれるなんてね」
王都に来て行った場所と言えば学院と農場しかない。
みんなは何処で会ったのだろうと考えていたが、ロロンだけは得意気に優しいお婆さまをいち早く見つけていたのだった。
母方の祖父母・叔父・叔母との挨拶が終わったので、王都での目標はほぼ達成された。
後は観光して戻るだけだと思っていた。
「お姉さま、このまま帰るなんて言わないわよね?」
「ローラ、あなたも色々経験したようね。言葉に自信が漲っているわ」
「それは、楽しい学園生活と素敵な旦那さまに出会えましたので」
「それはご馳走さま。でも、うちの人も素敵なのよ」
「二人ともみっともない。惚気るのはその辺にするんだ」
「お兄さまだって、セレーネ義姉さまにメロメロでしょう」
「それは……、俺だっ……」
「「はいはい」」
ローランドの言葉をレイシアとローラがハモって遮る。
ローラからの提案で、このメンバーとローランドとローラの家族で集まり、小さな『お帰りなさい会』を開きたいそうだ。
場所はローラも出資しているガレリア基金のダンスホールで、後で迎えに来るらしい。
ラフな感じのパーティーなので、是非出席して欲しいと家族全員が誘われた。
「レイシア、どうかな?」
「もちろん、参加させて頂くわ。ローラが関わっているなんて楽しみね」
「招待状は別邸へ送りますわ。少し準備の時間を頂いて、それまで皆様ごゆっくり王都を楽しんでください」
王と王妃がセルヴィスとスチュアートを呼ぶと、ローランドとローラは退室していった。
ウォルフはまだ時間がありそうだと分かると、早速ダンジョンに行きたいとレイシアに許可を求めた。
昨日はスチュアートからお金を預かり、午前は初心者講習でゴブリン役の同年代の子供を破り、午後はルーシーとサラに冒険に必要な道具を買うのに付き合ってもらった。
レイシアは唇に指を当てロロンを見ると、その話はスチュアートが帰ってからねと話を切り上げた。
アーノルド家はもう王都で堂々と道を歩くことが出来る。
ミーシャとロロンがまだ小さい事もあり、いくら助けてくれる人が多くても、今日を待つ必要があったのだ。
スチュアートが戻ると、騎士団を見学して街を散策して戻ることになった。
静かに騎士団の稽古場所に行くと、アーノルド家一行はすぐに気が付かれた。
多くの者が掛かり稽古をしていて、数人がその都度指導していた。
セルヴィスに気がついた最年長の男がニヤリと笑うと、その次くらいの男が稽古の一時中断を指示する。
「スチュアートよ、懐かしいか?」
「ええ、私も通った道ですから」
レイシアが王族にしか使われない合図をすると、最年長の男が稽古を再開させた。
「スチュアート、遅かったな。お前も一緒にやっていくか?」
「マイクロさん、今日は止めときますよ。子供達に無様な姿は見せたくないので」
「父さま、あの方はそんなに強いのですか?」
「ああ、かなり強いぞ。私が一番強かった時でも届かなかったくらいだからね」
「では、セルヴィスよ。孫に良いところを見せないか?」
「ダールス、よしてくれ。最前線で働く貴殿らには敵わぬよ」
「お爺さまでも敵わないのですか? 王都の騎士は相当強いのですね」
「ウォルフ、興味があるか?」
「はい、ただ一人で敵わないなら……、アキラ一緒に挑戦しないか?」
スチュアートを見上げると、「全力でやってみてごらん」と微笑まれてしまった。
本当にこの笑顔はズルイと思う、全てが包まれてしまい反論を許さないからだ。
「ウォルフ、ダンジョンの確約を取るために頑張ろう」
「おう、行くぞ」
「孫達が胸を借りたいようだ、適当に頼む」
「マイクロさん、将来の部下なので無理をさせないようにお願いします」
「任せとけ。お前達、敵襲だ。未来の英雄二人を迎え撃て」
騎士達は少人数を囲む陣形を取ると、ウォルフと自分は木剣が挿してある籠へ走りこむ。
お互いに木剣の握りを確かめると、ウォルフが「中央突破だ」とマイクロ目掛けて走り出した
「お前達分かっているだろうな。その子らはスチュアートの子だぞ」
「「「「「はい」」」」」
ウォルフが正面の男に撃ちかかると、あっさりと受けられてしまう。
そのすぐ背後からスリップストリームのように抜け出ると、その男に向かって斜めに体当たりをする。
バランスを多少崩したというような印象だけど、子供の体重では勢いをつけても騎士には効かなかったようだ。
「ゼノス、油断しすぎだ。後で訓練増加」
「は、はい」
その一人への攻撃だけで、すかさず周りを囲まれ、逃げ道を塞がれてしまう。
ゼノスと呼ばれる男が、少しだけ包囲への隙間を空けると、マイクロと呼ばれた男が木剣と木盾をもって現れた。
ボスの登場にウォルフの名前を呼ぶ。すると、少し落ち着いたのか横に並ぶまで待ってくれた。
「一回攻撃を当てるのを目標にしよう」
「そうだな。アキラ、手数で勝負だ」
ウォルフが今までのどっしり地面に根を張ったような戦い方から、ステップを踏む戦い方にシフトチェンジした。
それを見ると、拙いながらもスチュアートの軽快なステップが頭に浮かぶ。
同じようにステップを踏んで徐々に正面のマイクロから角度をつけていくと、同じタイミングでフェイントを混ぜながら突撃する。
「小さいスチュアートが二人か、小癪だな」
一言息を吐くように告げたマイクロは、バックステップをしながら片方の武器に向かってシールドアタックを行った。
ウォルフの剣が宙を斬ると、自分の剣がすっぽ抜ける。
「大人気ないぞ」
「全部受けてやってください」
「今のはやられてやるべきだろう」
マイクロは、ダールスと言われる味方からまで野次られていた。
時間を稼ぐため緩急をつけて連激を繰り出すウォルフに、木剣を取ろうと周りを警戒すると、どこかから木剣がふわりと飛んできた。
「まだいけるんだろ? 頑張れよ」、囲まれた騎士達からかけられた言葉は温かく見守るものだった。
急いでウォルフの足りない部分を埋めようと攻撃を再開した。
受けさせる目的の攻撃を素直に盾で受けられても、相手を征する攻撃が盾で受けられても、同じように吸収されるようにその盾に納まってしまう。フェイントを多く混ぜても、脚裁きでバリエーションをつけても、その剣にいなされてしまう。
マイクロからの攻撃はどれも受ける方には致命的で、その攻撃は全て寸止めで1秒以上静止し、心を折る事が目的だとすぐに気がついた。
ウォルフは息を止めて攻撃を繰り返しているように見える。
所々でブレスはいれているけど、二人での攻撃は手を抜いているマイクロの八割にも届いていない状態だ。
一撃入れるという目的には、何か飛び道具的な行動が必要だと思った。
マークという魔法について、初めて覚えてから今まで考えていた事がある。
レベル1では覚えられた風景はあの一箇所で、新しく覚えようとしたらあの風景は忘れそうになっていた。
この魔法がどう使えるか分からなかったので、慌てて新しく上書きする前に止めたのだった。
ミーシャの事件の後、男爵領を出る時に自然とマークを使いそうになったけど、どうやらもう一箇所の風景を覚えられそうだった。
自分の使う魔法は詠唱を必要としていない。
出掛けるときには結局覚えなかった風景を、一番マイクロに接近したこの場で焼き付ける。
チャンスはきっと一回きりだ。
ウォルフがいったん引くと、マイクロは次の攻撃を待ってくれる。
「ウォルフ、一瞬だけ隙を作るから後をお願い」
「アキラ、無理するなよ」
「一歩遅れてついてきて」
二人で真正面からダッシュすると、一足先にマイクロの剣のエリアに入る。
最後の足がその剣のエリアに入る直前で、アクセスからリープを行うと、マイクロの真横にショートジャンプした形になった。
一瞬虚をつかれたマイクロが、無意識に強めのシールドアタックを虚空に向けて放つと、そこに丁度跳んで浮いた体が激しく弾き飛ばされる。
「あ、やべ」
強めのシールドアタックが加減を間違ったと、一瞬意識が離れたマイクロに一歩遅れてウォルフが激しい一撃を振り下ろす。
振り下ろしたはずのウォルフの木剣がカランカラーンと音を立てると、ダールスが「それまでだ」と終了の合図をした。




