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002:アーノルド男爵家

 穏やかな日差しが、「そろそろ起きませんか?」と聞いてくる。

うつ伏せで寝ていて頭の中は霞がかっている。いまいち現状を把握できていない。

とりあえず起きるかと痺れる両手を開放するように顔をあげると、しゃがみこんだ女の子が覗き込んできた。


「えーっと……、おはよう」

「※※※※※……」


 一瞬で異世界に転生したことを思い出した。

とりあえず敵対心を抱かせないように、緩慢な動きで胡坐をかいて考え込んだ。

確か誰かを救う為にこの世界を笑顔にしなければならない。あれ? 神様を笑わせるだっけかな? 条件は忘れてしまったが、誰もが笑える生活を送れば良かったような気がする。

多分、これはフィルターがかかっているんだろうなと思ったけど……異世界転生するならせめて言葉を通じるようにして欲しかった。


 限りある情報から今を推測してみる。顔……は確認できないけど手足が妙に短い。

服装はなんだろう? 着心地はそんなに良くないけど、昔観た良い子向けTVに出ていた中世っぽい服装のような気がする。正面の少女は良い所の子のような服装を着ているし、年齢でいうと数個は下だろう。

とりあえずジェスチャーでどこまでいけるかわからないけど、自分を指差し「アキラ・アキラ」と何回か言ってみた。


「アキラ?」と首を傾げた少女に首を大げさにウンと上下に振ると、少女は自分を指差し「ミーシャ」と言ってくる。動物の名前でそんな名前があったなぁと思って改めて少女を見ると、金髪のポニテで少女ながら細身で美形な顔立ちだった。子供ならもっと『ぷっくり』というか『ぽっちゃり』しててもいいだろうけど、食生活の関係なのかなと勘ぐってみる。

お腹を押さえて少し元気ないジェスチャーをすると、少女は手を目の前に出してどこかに駆けていった。


 立ち上がって全身を確認してみる、周りの風景がやけに大きく感じるのはやっぱり年齢が逆行しているからだと思う。ということは願いが叶う可能性が高いとい……ん? 願いってなんだっけ?

どうも、かなりのフィルターがかかっているように感じる。

家族構成を思い出したけど問題ない、生年月日も言える。

この身長は昔の写真を思い出すと、10歳前後のような感じがする。

学力についてだけど二次関数とかもわかるし、日本史もそこそこ覚えていた。


 さて、どうしようと悩んでいると空にひっかかりを覚えた。

何もない虚空だけど怪しそうなところに人差し指を突き出してスライドすると何か引っかかったようだ。

<<タブレットをアクティブ化しますか?>> <YES/NO>

頭に浮かんだYES/NOはどちらかを選ぶと色が変わる、このままではどうにもならないのでYESを選択した。


 20cm×30cmの画面が現れる、タッチパネル式のようで『異世界エターナルへようこそ』と中央に文字が書かれていてその下にENTERの文字があった。

迷わずENTERを押すと説明部が流れた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


アキラ様へ


 剣と魔法の世界、エターナルへようこそ。

地球の神より相談を受け、本来相互不干渉のところを、特例としてこちらの事象を解決してもらう条件で転生を行いました。このメッセージを読めているということは、無事転生が出来たようですね。


 あなたは特別に、様々なポイントが視覚化されるようになっています。

もしこの世界の一般的な農家の生まれで、普通に恋をして普通に孫を抱いて死ぬと、地球への干渉は一切起こりません。

あなたが何故この世界に来て、何かを為さねばならないか今はわからない事でしょう。

それは今後の頑張り次第で開放される可能性があります。

また確認するもしないもあなた次第でしょう。

まずは成人になるまで、色々な経験をしてこの世界を楽しんでください。


 出来れば「瑞穂」という名前を覚えていてあげてください。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 画面にテキストメッセージとしてアイコン化されていった。

他のアイコンは何個かあって、実行ファイルの『個人情報』・動画ファイルの『R15』『R18』・『装備・道具箱』・『ショッピングサイト』・『ネット銀行』・『ヘルプ』などが表記されている。個人情報を選択する、するとキーボードが現れた。


名前:木戸晃きどあきら→アキラ

年齢:10歳

性別:男

筋 力:3

敏捷力:3

器 用:3

耐久力:3

知 力:3

幸 運:1

生命力:10

魔 力:10


 ステータスボーナスポイントが右上に10Pと表示されている。

3のところに上下の三角があり成人男性は3が平均値らしい。また数値を下げるとPが増え数値を上げるとPが減る。必要Pは3から4に上げるのに4P使い、3から2に下げると3P得る。

生命力と魔力は変更が出来なく、Pを下げるのは初回のみらしい、必要に迫られるまで変更は保留にしておいた。


 違うページにはスキルが羅列されていた。何ページもあり、ほぼ灰色状態になっている。

スキルボーナスポイントが右上に10Pと表示されていて、エターナル共通語はアクティブ化されていた。

迷わず1P振って確定を押すと<<自動更新をアクティブ化しますか?>> <YES/NO>とメッセージが流れてくる。YESを選択すると、向こうから袋に長いパンを入れた女の子が戻ってきた。

慌てて大抵右上にあるだろう閉じるボタンか最小化ボタンか探して、アイコンを何個か押すとタブレットが消えた。


「食堂からもらってきたの。あ、お話通じないんだった」と少女はパンを取り出し、千切ろうと一生懸命捻っていた。

「ありがとう。お腹がすいてたから助かったよ」と話しかけると、少女は驚いた顔をしていた。

「あれ? お話できるの? ねえ、あなたどこからきたの?」

考え込む……、下を向いて考え込むと、不意に肩に強い痛みを感じた。


「曲者め、ミーシャから離れろ」、左肩を木剣で殴られたようで痛みに蹲る。

少女は男の子に文句を言っているけど、それどころではなかった。

異世界に来た早々、こんな仕打ちに誰か笑ってくれるのだろうか? この世界でお笑いを目指す訳ではないので、せめて生き延びようと誓ってすぐに……意識を手放した。

目が覚めると天井が見えた。……確か同じ事を重ねるのがテンドンという技法だったと思う。

でも、滑るのがわかっているから絶対言わない。


「ああ、目覚めたようだね。うちのウォルフがすまないことをした」

「いえ……、すみません。不審者に間違われても仕方ないですよね」

「どうしてそう思うんだい?」

「自分が何故ここにいるかわからないからです」


 目の前の男性は金髪で超がつくくらいの美男子だった。……美男子というには年がいっているだろうか? 40歳には届いていないが、甘いマスクに引かれる女性は多いだろう。

名前はスチュアートと言い、こちらもアキラと自己紹介した。

ある日神様の啓示を受け、気が付いたらさっきあそこに立っていた。こんなことを初対面の人に話しても自分でも信じる事ができないとスチュアートに言うと、「最初、どこかからのスパイかと思ったよ」と笑っていた。


「君の啓示を証明することは出来ないと思うし、神様からの言葉が本物なら私達は罰せられてしまうだろうね。もし君に行くところがないなら、しばらくこの屋敷で養生ということで滞在していかないかい?」

「でも、悪いですし……」

「この屋敷は村より少し離れていてね。あの子達は同年代の子供と遊ぶ手段がないんだ」

「では、お世話になります。出来ることがあったら、どんなことでもしますので」とスチュアートの提案に乗ると「まずは怪我を治してくれ。ウォルフもミーシャも、とても心配していてね」とドアに隠れた二人を呼び出す。


 スチュアートは「ごめんなさいをしなさい」と、ウォルフの目を見つめて言った。

ミーシャもお兄ちゃんと睨むと、観念したか「ごめんなさい」と頭を下げるウォルフ。

「しばらくお世話になります。仲良くしてね」と手を出すとウォルフが握りミーシャも手を置く。

するともう一人ドアに隠れていた小さい子が、「お兄ちゃんたち、ずるーい」とジャンプして手に触れようとしていた。


 更に後ろには年配の女性と、きれいな女性がこちらを伺っている。

これがアーノルド男爵家との出会いだった。


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