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016:家族

 若干の脚色を加えながら、ミーシャの傷は幸いにも深くなく、ポーションと神聖魔法で悪いところも完治したと話すと、キャリーは現状が無事でもとてもハラハラしたようだった。

今の自分はミーシャだけでなく、アーノルド一家とも仲が良い。

公式コメントで命の恩人で家族に迎えたいと養子縁組をして、ミーシャと結婚する意志はないと公表している。


「アキラさま、それで……」

そこまで話すと、壁に掛けられた時計から、90分が過ぎた合図が流れ出した。

「キャリーさま、残念ながらお時間です」

「本当に残念だわ。ミーシャの友達としても、アキラさまには皆が興味を持ってるんですよ」

「では、次回はその辺りのお話でもしましょうか?」

「こちらはなかなか予約が取れなくて困ってますの」

「では、こちらをどうぞ」


 予約をする為の、魔法の名刺を一枚手渡す。

すると、キャリーは喜んで御礼の言葉を口にする。

「この名刺を頂けるかどうかで社交界の一部でも話に上がっているんですよ」

「それは光栄です。私も常時お招きできないので、心苦しいのですが……」

「それでもこのカードは嬉しいのです。またご連絡させて頂きます」


 キャリーを見送ると、入れ違いにロロンが帰ってきた。

「アキラ兄さん、ただいま」

「ロロン、おかえり」

「もう、聞いてよ。教授達は何かとウォルフ兄さんの話ばかりで……」

「愚痴ならゆっくり聞くよ。食事の用意しておくから風呂でも入ってきたら?」

「何時もありがとう」

「その代わり、面白い話期待してるよ」

「うわぁ、プレッシャーだなぁ」


 大きくなったロロンは学園でトップ3に入る程モテている。

主に上級生のお姉さまが多く、弟系キャラかなと思うとスカしたチャラ男のように動いてるようだ。

あれからミーシャも元気になり、ロロンは元気な祖父母に触発されて剣に燃えたこともあった。

それでも、剣で兄を超える事は難しいと早くに悟った為、学力で超えることを目標にしたのだった。


「ロロンも大きくなったなぁ」

キャリーには伝えきれなかった王都行きが、この3兄弟を大きく成長させることになった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 微かなノックが聞こえる。

大抵はロロンが食事の時間だと起こしにくるけど、今日はいつもと雰囲気が違うようだった。

声をかけるとやってきたのはソルトだった。


「アキラ君、ちょっと時間良いですか?」

「はい、大丈夫です」


 部屋に入ってきたソルトは、今朝のミーシャが今までよりも元気になっている事にお礼を言ってきた。

途中で倒れてしまった為、「ヒールを続けて」の指示変更で大丈夫そうと分かっていても、ミーシャが無事という報告は嬉しいものだった。

王都行きは一旦保留にして、ミーシャの経過を見た後、改めて王都へ行く事になった。


「今回、ザクスは……あの薬を持っていた男性です。あの者は正直諦めていました」

「はい」

「アキラ君、あなたを悪い意味では疑っていません。ただ、……本当に女神さまの使途なのですか?」

「……」


 その言葉をソルトが発すると、ノックが聞こえてくる。

スチュアートとレイシアだった。

「アキラ君おはよう。昨日はミーシャを助けてくれてありがとう」

「アキラ君、ちょっと聞いてくれるかな?」


 アーノルド家と王家の密約はこうだった。

二人の逃走劇が終われば、自然と領内から祝福を受け、順調なら子供が生まれるだろう。

そんな王家の血筋を引く家系は、すぐに王都で騒ぎになってしまう。

問題はないと思うが、王位継承権にも発展する可能性があるとするならば由々しき問題だった。


 スチュアートはレイシアという女性を好きになったのだ。

お互いに付随する立場やしがらみはあったけど、それらを無視して出会い結びついたのだ。

出来れば子供達が成人するまで保護をしたいと両家は思ったが、それでは子供達の為にはならない。

学園に入る準備期間も入れると、自然と10年という年月がリミットだと感じた。


 ところが、ミーシャの体に欠陥があると分かったのだ。

ウォルフとロロンについては順調に成長しているし、次期当主と予備という形だが、貴族としての資質も問題ないように思える。

ただ、ミーシャの体の事を思うと、どうしても今日の一日を無事に楽しく家族に包まれて……と大人達は思っていた。


 ミーシャは、10歳まで生きられないかもしれない。

どこかでその先を考える事を放棄していたのだ。

ザクスやソルトが一旦は諦めてしまったのも、そういう理由があったのかもしれない。


 今朝はとびっきりに体の調子が良いと、走り出しそうなミーシャをウォルフが止め、今日と明日は安静にするように話した。

ミーシャは落胆したけど、その経過次第ですぐに王都へ行くと両親が伝えると、荷作りをし始めたのだった。


「アキラ君、唐突だけど僕達の素直な気持ちなんだ。今はまだ早いけど、ミーシャとの結婚を考えないか?」

「そう、私達の家族になって欲しいの」

「え? ……」

「もし、ミーシャの体が完治していたとしたら、王都へ行けばすぐに色々な噂が広がるわ」

「実はね。ミーシャが生まれた時、公式にはレイシアの存在は知らないものとしているのに、いくつもの婚約依頼が来たんだ」

「そうなんですか?」

「まだ生まれたばかりの子供だし、小さい子は体が弱いからね。せめて数年待って欲しいと、申し込んだ先には同じ返事をしていたんだよ」

「でも、ミーシャの心臓の事を聞いて、各方面に体が弱いので正式に全ての依頼を断ったの。貴族としての依頼ならば、血筋を残す事がミーシャに架せられた使命になるから」


「僕達はこれからみんなで王都へ行く。それは公式な約定の解除と、子供達と両親の顔合わせが目的なんだけど、これからの子供達が世界に羽ばたく準備なんだ」

「私達は、まだ子供だけどミーシャが今一番好きな人と結ばれて欲しいと思っているの。アキラ君の気持ちを無視している訳ではなくて、ずっと家族として一緒にいられる為にどうすれば良いか考えた結果なの」

「アキラ君は、この先何か予定があるのかな?」


「スチュアートさん・レイシアさん、ごめんなさい」

その一言で、大人達は表情を変えずに次の言葉を待った。

「女神さまから使命があった訳ではありません。一回だけお話はしましたし、あの薬も一回限りです」

「うん、僕達はずっとミーシャを守って欲しい訳ではないよ」

「それでもです。もし、ミーシャにこの先の未来が繋がったなら、今ここで自分が縛り付ける事は出来ません。これからもっと多くの仲間や、好きな人にも出会えるでしょう」

「そうだね、それは僕達も望んでいる」

「自分は、この先冒険者になろうと考えています。まだ漠然としてだけど、危険がある仕事だと思うし、婚約したら冒険者を選ぶ事は出来なくなると思います」


「アキラ君は冒険者がどういうものか分かっているんだね」

「はい、多分ですが……」

「でも、それには剣や魔法。もしくは特別な技術が必要になってくるよ。もし良かったらでいいけど、それまでうちで修行しないかい? いや、もういっそ本当の家族にならないかい?」

「あなた、今アキラ君は……」

「レイシア、婚約者じゃなくても養子って事にすれば良いんだよ」

「なるほど、それも良いわね」

「アキラ君は僕達と家族になるのは嫌かい?」

「いえ、そんな事はないです」

「じゃあ、決まりだ。ソルトは申し訳ないけど、ここに残ってその作業を進めておいてくれないか? 道中は迎えが来てるから大丈夫だよ」

「はい、かしこまりました」


 ソルトは留守番と家庭菜園の世話や雑務の為に残り、二日間ミーシャの経過を見た後王都へ旅立った。

御者をしているのはヴァイスと女性で、ザクスともう一人は馬でついてきている。

子供達は自領から出るのは初めてで、最初は景色などを見てはしゃいでいたけど、すぐに乗り物酔いと戦うことになった。


 道中の危険はなくあっさり王都へ着くと、王都から特別な査察官が現れるとスチュアートから説明を受けた。

これは罪によって王都へ入れなくなった者が、無事刑期を終えて正式に入場する為に必要な措置だった。

みんなで馬車から降り、自分とアーノルド一家で通された部屋に入ると、後ろ向きで待機していた男性が肩を震わせていた。

「遅かったな、スチュアート。レイシアはお帰りかな?」

「王子、遅くなって申し訳ございません」

「ただいま、お兄さま」

「ああ、それより子供達を紹介してくれないかな? ウォルフは会ったことはあるが……数が合わないな」


「ウォルフから自己紹介しなさい。アキラ君は最後でね」

「アーノルド家長子ウォルフです。将来は王国の為、騎士になりたいです」

「ウォルフ、大きくなったな。その気持ちを大切にするんだぞ」

「はい」


「アーノルド家のミーシャです。初めまして叔父さま」

「小さい頃のレイシアに似ているな。ということはお転婆なのかな?」

「いえ……」

あまり長い事話すとボロが出そうなので、ハニカミながらスカートを軽くつまんで礼をした。


「アーノルド家ロロンです、初めまして」

「うんうん、その年齢でそれだけ言えたら大したもんだ」

「お兄さま、あまり過大評価しないでください」

「そうか? うちの子もこんな感じだぞ」


 最後にこちらに王子の目が向く。

「アキラ君はこれから手続きをして私達の家族に迎える事にしました」

「何やら事件でもあったみたいだな。アキラ、アーノルド家の家族になったという事は、俺達の家族も同然だ。宜しくな」

「いえ、こちらこそ宜しくお願いします」


「少しゆっくりしていけるんだろ?」

「ええ、正式に手続きをして頂くまでは王都見学でもと」

「ああ、そのうち登城を命じるだろう。それまではゆっくりしてくれ」

「はっ、ありがたきお言葉」

「プライベートでは堅苦しい事はなしだ。王都も大分変わったぞ」

「それは楽しみです」


 無事に王都へ入る手続きが終わったので、まずはスチュアートの両親が住む別邸へ向かうらしい。

護衛と共に馬車は軽快に走り出した。


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