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014:足掻き

 勢いをつけて前のめりで突っ込んだのに、気がつくと足から着地して少しよろけてしまった。

「ここは……、マークの魔法で覚えた景色だ」

屋敷はすぐ近くにあったが、時間が大分過ぎていて一人敵を見失っていた。

レイシアとソルトに伝える前に、ミーシャの安全確保が大事だと思い、前に進もうとして膝から崩れた。


 太ももが浅く傷ついていて、腕にも痛みが走る。

満身創痍で助けに行っても、救出する確率を下げるだけだ。

タブレットをアクティブ化して、最後の1Pで回復魔法を探していくと、神聖魔法が取得出来るようになっていた。

他にそれらしい魔法もないし、今現在道具を必要とするスキルは取得しても無駄だった。

迷わず最後のポイントで魔法を取得する。


《New:神聖魔法を取得しました》

《New:スペル メディテーションを覚えました》

《New:スペル ヒールを覚えました》


 良し! っと思わずガッツポーズを取ると、すぐに自分自身にヒールを唱えた。

後々、どれだけ魔法が使えるか分からないので、応急処置出来れば問題なかった。

少しだけ元気が戻ると、さっきまで訓練した場所へ急いだ。


「ハァハァ……、ヒュー……」

「お嬢ちゃん、運動不足が過ぎるぜ」

「あなた……なんか……には、……負けない」


 ミーシャが木剣を構えると、ウォルフが習っていた剣術を見よう見まねで繰り出す。

簡単に避けられるはずの男は、わざと後一歩で届く距離で攻撃を受けていた。

「ほら、時間を稼げれば兄貴が来るかもな。それとも父親でも待つか」

「賊なんかに、私は……」

木剣を杖代わりに盛大に咳き込んだ所で、ミーシャが具合を悪そうにするその姿を目にしてしまった。


「ミーシャ」

「アキラ君」

「恋人到着か……、ん? さっきの坊主だな、二人はどうした?」


 男は片手に短剣を持って、もてあそんでいる。

ゆっくり相手の警戒がまだ優位だと悟らせるペースで、ミーシャの隣まで行くと「遅くなってごめんね」と声を掛けた。

「アキラ君、まるで王子さまみたい」

「まだピンチなんだけどね」


「まあ、いいや。坊主、その子をこっちに渡したら、お前の命は助けてやるよ」

「あれだけ武器を持って追いかけられたら信用ならないよ」

「そうか、それでそいつらはどうした?」

「さあね」


 ミーシャを心配する振りをして、こっそり神聖魔法のヒールをミーシャに唱えた。

少しだけ呼吸が落ち着いたようで、普通に歩く分には問題なかった。

普段持ち歩かない木剣も、今日は父親がいないので雰囲気だけでもと持っていたのだろう。

ミーシャにはゆっくり歩いて、家に戻って事情を説明するように伝え、木剣を借り受けた。


「アキラ君、怖いよ」

「ごめん、時間が経つとこいつらの仲間が増えそうなんだ。もし、誰か見かけたら大声で助けを呼んで」

「うん、頑張ってみる」

「こいつに手出しはさせないよ」


「はぁ、いいだろう。お前を素早く倒せば、その子はこっちのものね。分かりやすくていいや」

「ミーシャ、お願いね」

「分かった」


 木剣を構えると、すぐに相手の腕付近に打ち込みを始める。

短剣を相手にするならば、リーチを生かすべきだろう。

ただ、そうすると微妙な距離が生まれてしまう。

それは投てきも出来る短剣にとって、ミーシャを攻撃出来てしまう距離になる可能性がある。

だから、短剣を恐れずに超ショートレンジで戦わなければならなかった。


 今まで見たスチュアートとウォルフの訓練が、ステータスを上げた事とスキルを取得した事で一つの線として繋がった。

子供だと油断しているのと、こっちに移動したら危険・こっちの攻撃をしたら積むという直感的な事が危険感知で分かってくる。

今度は大人二人に、うまくいけばウォルフ達も加勢してくれるかもしれない。

ミーシャの歩みだけが頼りだった。


「ガキが、いやに戦いに慣れてるな」

「それはどうも」

「ミーシャー、何かあったのかー?」

「お兄さま、アキラ君が……たすけて」


 少し離れた場所で、大人二人といるウォルフを見つけたミーシャは、迷わず助けを呼んだ。

「Z、頼んだぞ」

「もう、その暗号止めないか?」

「ロロンをお願いします」


 ウォルフはZにそう告げると、Vと一緒に駆け出した。

「ミーシャ、そこを動くな」

「はい、おに……」


 ミーシャの足元に矢が突き刺さる。

「そうそう、ミーシャちゃん。動いたら矢に当たるからねぇ」

いつの間にか、さっきの二人組みが追いついてきた。

「そのガキは引き付けとけ。魔法らしきものを使うから油断するなよ」


 目の前の短剣使いは、もう勝利を確信したのか自分を侮らずフェイントをしながら攻撃する振りをしている。

ちょっとでも目を逸らそうとしたら、たちまち短剣の餌食になるだろう。

駆け出したウォルフがミーシャの隣には行けたが、大人は剣をぶらさげたまま、後数歩の位置までしか近づけなかった。


「お前さん方は同業か?」

「ああ、そうだ。こっちが先に目をつけたんで、引いて貰えないか?」

「そうか、こっちにはこっちの事情があるからな。運が悪かったと思って死んどけよ」

その言葉と共に弓が連射され、Vの足元に次々と刺さっていく。


「じゃあ、俺の相手は次期当主か。死ぬなよ」

「ふざけるな、賊が。そんな短剣ごとき俺が打ち据えてやる」


 それぞれの場所で戦いが始まっている。

そのうち二箇所は子供対大人だ。一箇所の均衡が崩れれば他の戦いにも大きく影響が出てしまう。

Zはロロンの頬を軽くムニムニと引っ張ると、起こそうとする。


「ふぁぁぁ、良く寝た」

「ロロン、起きたか」

「わぁ、魔法使いのスパイだ」

「もう、少しくらい話を聞け。お前の兄貴がピンチなんだぞ」

「え? ……お兄ちゃんとお姉ちゃん」


「なあ、ロロン。俺はお前達のおじいちゃんから、王都まで護衛する任務を受けているんだ」

「あいつらは?」

「あれは正真正銘の賊だよ。今俺達が動くのは危険なんだ。救援を呼びたいんだけど、ソルトさんを呼んでこれるかな?」

「……うん、出来るよ」

「敵の数は見た感じ3人だ。出来ればレイシアさんの安全も確保したい」

「分かった。こっそりビューンっと助けを呼べばいいんだね」

「そうだ。俺はミーシャを何とか助けられるように頑張ってみる」

「お願いだよ」


 三人のそれぞれの戦いは目の前に夢中で、自分とウォルフは段々劣勢になってきていた。

Vは弓の敵に対峙しながら、時折ウォルフや自分の近くに来て短剣の男をけん制している。

Zはだるまさんが転んだのように、大きくは動けないけど少しずつミーシャに近づいていた。


 Vがウォルフの近くにいる男の利き腕を切り上げると、もう片方の手にある短剣をウォルフが木剣で跳ね上げる。

すかさずVが男の鳩尾に剣の柄で強打すると男は蹲った。

自分と対峙している男が一瞬意識を逸らしたので、胴めがけて一閃するとこちらも前のめりに倒れこんだ。

弓矢を持っている男はその場で弓を落として両手を上げると、ようやくZがゆっくりミーシャへたどり着こうとしていた。


 連絡が出来たのか、ソルトが急いでやってきて、状況を確認していると「ピィィィィィ」鋭く短い指笛が男から聞こえた。

「ザクス、ミーシャを守って」

ソルトの叫びに、何を言っているか分からないザクスは、後一歩で届くその距離で胸にナイフが刺さっているミーシャを見た。

「え? ……なんで」


 ニヤリと笑う弓使いが、いつの間にか持っていたナイフで自害していた。

ザクスは倒れこむミーシャをかろうじて抱き止めると、ゆっくり後ろに寝かした。

全ての時間が止まったようだった。


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