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013:迫り来る死神

 ロロンを探しに下っていくと、ここまでは来ないだろうという場所まで来てしまった。

「ロローン、出ておいでー」

大声で叫んで出て来ないということは、こっちはハズレだったのかと少し考えた。

すると、先の方から3名の男性が歩いてやってきた。


「やあ、そんな場所で叫んで、どうしたんだい?」

「あ、こんにちは。ちょっと人を探してまして」

「ほう、どんな人なのかな?」

「えーっと……、小さな男の子です」

「お前ら見たか?」

「いや、一緒にここまで来たからな。そんな子は見なかったぞ」

「ところで君、そんな木剣を持ってここまで来たのかい?」

「ええ、まあ」


 何やら空の切れ目辺りにある、タブレットに違和感があるように感じた。

意識をすると最大化したようで、電球のアイコンが赤色灯のように定期的にピカッっと赤い光を出していた。

すると、例のおっさんが画面の中をとぼとぼ歩いてやってきた。


「はぁ、いきなり3人か。いいか、俺の言葉に返事するんじゃないぞ。そのまま相手と会話を続けていろ」

「そうですか……。ところで貴方達は何をしにここへ?」

「いきなり核心つくんじゃねぇよ。もっと会話を伸ばすようにするんだ。そいつらは端的に言えば敵だぞ」

「ああ、俺達は登山が好きでな」

「そうそう、この天気の良さに誘われてね」


 おっさんはステータスの上昇をするように助言し、僅かな首の動きで調整していく。

まだ10歳くらいなので筋力を1P下げ、敏捷力・耐久力・知力を1Pずつ上げた。

そしてアクティブ化されたスキルも重要そうな物から言ってもらい、こちらも首の動きで剣術・回避・逃走術・危険感知を1Pずつ取得した。

おっさんは、「まあ、死ぬなよ」と言うと去っていく。


 目配せする回数が増える旅の3人組の男性。

そして、木剣を強く握ると、「ところで、立て札ありませんでした? こちらは立ち入り禁止のはずですが……」

その言葉で男達の殺気が増した。

大降りで木剣を横に一閃すると、その木剣を中央の男に投げつけ、来た道を全力で走り出した。


「今の子がこちらに気がついて来たと思うか?」

「いや、ただの偶然だろ。当主が留守でガキが行方不明かチャンスだな」

「となると、今のガキは使えそうだな」

「久しぶりにマンハントといくか」

一人の男が荷から矢筒を取り出し腰に装着する。

残りの二人は短剣を確認すると、ニヤリと笑いウォームアップを始めた。


 10歳の体力とスピードがどのくらいかは分からない。

ただ、大人のそれも働き盛りの人達に勝てるとは思わなかった。

問題はロロンがいない事、ウォルフが合流できたなら問題ないけど、子供達がいっぱいいるなら分散してはいけない。

まずはミーシャと合流して、ウォルフとロロンと合流して……、屋敷には大人の女性二人しかいない。

スチュアートはどのタイミングで戻るか分からないし、敵を屋敷まで案内するかスチュアートが戻るまで時間稼ぎするか。

人は走りながら考えるということは向いてないという事が分かっただけだった。


 とりあえず、みんなに危険を知らせなければいけない。

木々がまばらにある場所で少し休憩をしていると、足元に矢が飛んできた。

「おい、こっちにいたぞ」

「ああ、俺にも残しておけよ」


 なるべくジグザグに移動するようにしてみたけど、そうすると別の男が最短距離でやってくる。

矢を避ける・男から逃げる、こちらに2名引き付けられている事に安堵はしたが、1名姿が見えない事の方が致命的だった。

このままでは追いつかれてしまいそうだし、どこか遊んでいる風にも感じる。

時間稼ぎしているつもりが、時間を稼がれているのかもしれない。

なるべく屋敷の方へ急ぎつつ、何か対抗手段を獲得しなければいけない。


 走りながら意識だけでタブレットを操作する。

多少周りへの意識が薄くなり速度も落ちて行くけど、残り3Pで逆転出来る何かを考えないといけない。

木剣を投げた事で、剣術に振るのは無駄だと思った。

回避を上げまくって全てを避ける……、どう考えても悪手である。

上げまくると言っても1個レベルが上がれば、次のレベルまで2P足りない。


 大体、異世界に来て早々、そんなにチートが使える訳がないのだ。

召喚魔法と時空間魔法を覚えていて、何個かの魔法はアクティブ化されているけど、召喚魔法は聞いた話だと『あちらの世界から、こちらの世界に何かを持ってくる』魔法でしかない。

レベルを上げて新しい魔法を覚えても、「契約相手を連れてきてください」って言われたらショックが図りきれなかった。

消去法で仕方がないけど、時空間魔法のレベルを1個だけ上げることにした。



《New:時空間魔法のレベルが上がりました》

《New:スペル リープを覚えました》

《New:スペル コネクトを覚えました》


「……終わった」

周囲の警戒から一瞬意識を手放した瞬間、左肩をかすめるように矢が飛んできた。

痛みというより熱さというべきだろうか? 諦めた瞬間殺されるか、アーノルド家に対する人質にされるかもしれない。

そんな不安が過ぎった瞬間、脚は自然と前に出ていた。


「ほら、脚が動いているうちに逃げな」

「逃げられなくなったら、俺かあいつか選ばしてやるよ」

狩りで遊ばれているのは明白だった。

しかもターゲットは自分で、いつでも狩れる自信があるから言える台詞だと思った。


 新しい魔法のリープは、多分跳躍とかいう意味だろう。

某小説のタイムリープとかだったら、あの時に戻って助け……ん? 誰をだ? また思い出せない。

とりあえず、この状況を打開出来るだろうと思う。

でも、ただのリープっていわゆるジャンプだと言うことは、不意をついて相手に突進するか、崖を飛び越えるくらいしか用途はなかった。


 もう一個のコネクトは更に意味不明で、接続って意味だと思う。

マークといいコネクトといい、謎魔法というか使えなさそうな魔法のオンパレードでは、この先何をどう取得すれば良いかわからなくなってしまう。ただ、今は何とか走ってこの事態を何とかしなければ、先の事を考えるなど無意味になる。

とりあえずは、致命傷を避けながら早く合流し、みんなに危険を知らせなければいけなかった。


 短剣を持った男が弓を持った男に「そろそろだぞ」と話すと、「あぁ、そろそろ仕留めるか」と返事をした。

「子供一人に時間をかけすぎたな。目標は長女か次男で、一人で良いって話だ。無駄な欲はかくなよ」

「ああ、戻れば俺達は大金持ちだ。後は冒険者として他国に紛れ込めば安泰だな」


 屋敷が見えた、そう思った瞬間、またまた矢が飛んできた。

敵の姿をなるべく早く発見する為、この辺はもう遮蔽物が少なかった。

太ももを掠めるように放たれた矢は、『まだ狩っている途中だぞ』という意思表示かもしれない。

今まで走ってこれた事を考えると、毒が塗ってある可能性は少なかった。


 ここで、相手の姿を確認しようと振り向いたのがいけなかった。

足音を殺しながら悠然と走ってくる短剣の男が、命を狩りに来る死神のように感じた。

死にたくない・アーノルド家に迷惑をかけたくない・友達を危険に曝したくない・理不尽な暴力に屈したくない。

様々な感情が入り乱れてるが、その死神は刻一刻と迫ってきている。


 小さな体でも勢いをつけてカウンター気味に突っ込めばなんとかなるかな? そう思うと、気が動転していて一個ずつ時空間魔法を思い浮かべながら、相手が止まる直前で死神目掛けて【リープ】を使った。

「おい、そいつ何か企んでいるぞ」


 弓を持った男が叫んだが、短剣の男はそんなのは百も承知だ。

たとえ脆弱なウサギでも、決して油断はしない。ましてやこれは仕事だった。

役割分担がされているとはいえ、獲物に逃げられる時は一瞬だ。

走りながらでも、短剣でいつでも迎撃出来る技は持っている。

そして、素手の子供が出来る手段など、体当たりくらいしかないと踏んでいた。


 男とアキラが互いに勢いをつけてぶつかると思われた。

すると、二人が交差する瞬間、アキラの姿が掻き消えたのだった。

男は思わず短剣を離して、飛び込み前転のように受身を取った。


「おい、ガキはどこに行った?」

「いや、こっちから見ていたが、いきなり消えたぞ」

「あのガキは魔法使いか、しくじったな」

「まあ、そう言うな。あの傷じゃそう遠くへいけないさ。屋敷はすぐそこだ、さっさと仕事をしよう」

「ああ、ただ厄介だな。今度会ったら遊ぶなよ」


 短剣を回収した男と弓を持った男は、焦ることなく屋敷へ歩いていく。

死神が魂を刈り取るように、その危険は確実に近づいていた。


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