125:リュージの魔法講座
金曜日はコロナと講義を受けると、午後はリュージから「コロナも一緒にやっていく?」と樽への付与の見学を誘われた。
確か上限二十個のはずだったのに、結構な数を出している。その場にはガレリアとエントもいて、オルトも見学に参加していた。
ガレリアがコロナにエントを紹介すると、「私も講義を受けたかったです」と、冒険の為参加出来なかった事を話した。
「お嬢ちゃん。俺の講義より、ガレリアさまの話を聞けるのは貴重だぞ」
「あ、はい」
「なんてったって、サリアルを教えた先生だからな」
「え? サリアル先生をですか?」
国の英雄とは言われているが、若者には何をどうした人かは、あまり知られていない。
フレアの関係で、宮廷魔術師団で働いていても、その業務内容は事務や雑務がほとんどだ。
それ程魔法に興味があった訳でもないコロナは、学院に通うようになってから魔法に興味を示していた。
「リュージさん、見られていますね」
「アキラ君、緊張しているのかい?」
「いえ……、そういう訳ではないんですが」
「実を言うと、自分はちょっと緊張しているよ」
リュージは正直に暴露する。それは、この世界に足りない物とリュージのチートがマッチしただけのことだと。
英雄と王家の後ろ盾を得て、後は順調にやるべき事をやった結果だと言っていた。
考えてみると、農業王国に農家の子供が技術を持ってやってきたのだ。
謙遜をしていることは分かるけど、需要に対して供給がマッチしたということは分かった。
三つの属性魔法に神聖魔法、付与魔法に鑑定まで使えるというのは、確かにチートだなと思う。
「あっちの講義が気になるかい?」
「そうですね。少し気になります」
「まあ、あちらは最初だから初級講座になるかな? それよりも、エントさんがやった講義で、感じた事はあるかな?」
「そうだ。相談したかったんです」
四大属性精霊には特徴があり、副次的な効果や反属性とも言える特徴を持つ物がある。
火が暖かい・熱いはすぐに分かる。しかし、火属性の回復魔法と考えると難しいだろう。
「時空間魔法の、違った使い方だね」
「はい、レベルが上がると自然と魔法を覚えているみたいで」
「この世界では、そちらの方が珍しいんだよ。レベルはみんなに見えないし、魔法を使える条件が揃っていても、魔力が足りないってこともあるからね。レベルがあがれば、魔法は使いやすくなるのは良くある事だね」
「この魔法は自分だけの物ではないと思うんですが……」
「そうだね。存在も知られているみたいだし、隣国のダンジョンでも転移装置が確認されているからね」
魔法科で多くを学んだはずのリュージが言うくらいなので、昔は普通にあったかもしれない魔法だと思う。
ただ、口伝を含む伝承類が圧倒的に足りないそうだ。
宮廷魔術師団でも、新しく魔法資料を作成しているそうで、自分が覚えた魔法も後々匿名で登録されることになる予定だ。
この世界で魔法を覚えるのに一番重要なのは、「魔法を使える」という自信だった。
「リュージさんは、時空間魔法って言われて何を思い出します?」
「ベタに言うとワープかな?」
「ですよね……」
「逆に質問するけど、アキラ君は『時空間』って言葉をどう捉えてる?」
「それは……、時間と空間でしょうか?」
「うん、そう考えるとアキラ君の魔法って、空間に偏っていないかな?」
質問しておいて何だけど、その考えには及ばなかった。
『マジックバック』は、空間に関係するし時間停止もついている。
マーク・リープ・コネクト・ルーム・ゲート、新しく覚えたものは確認していないけど、ホールとレコードというものだ。
時間に関係あるものと言えばルームだろうか? これもマジックバックと同じ時間停止と時間が経過するとういう二面性があった。
移動系を空間とするならば、時間に関する物が圧倒的に少ない。
「時間魔法って言うと、難しいですね」
「チート級で凄そうな魔法って言うと、『ザ・○ールド』かな?」
「それって、全世界の時間を止めるんですよね?」
「それが出来たら凄いよね。どうやって自分だけ動くかは分からないけど」
話しながらでも作業の手は止めていない。完成した樽をリュージが仕舞い、新たな樽を出している。
その動作があまりに自然だった為、四回くらいその動作をするまで気がつかなかった。
「色々な属性魔法に回復魔法があるらしいので、時空間魔法でも出来ますか?」
「うん、それくらいなら何となく出来そうだね」
「やっぱり、時間を早めたり巻き戻したりする感じでしょうか?」
「ここで重要なのは、出来ると思う事だよ。特に科学という下地があると、魔法の理解を深めることがあったり、逆に固定概念で考えを狭めたりするからね」
火の属性魔法使いが、深い瞑想を必要とせず攻撃魔法が使えるのは、『正義感』や『敵を倒す』という分かりやすい目的があるからだ。それは、火の特性を考えて魔法を使っている訳ではない。
ただ、時間を進めるという事は、どういうことだろうか?
「リュージさんは、時間を進めたり巻き戻したり出来ると思いますか?」
「やっぱり、そこを考えちゃうかぁ。この世界は魔法が使えるってだけで、ファンタジーな世界だよ」
「それは分かるんです。ただ、どうしても時間を動かすって想像できなくて」
「SF的に考えれば、時間は動かせると思うよ。ウラシマ効果ってやつかな?」
確かどこか時間軸の異なる場所に行けば、戻って来る頃には未来に帰ってくるというアレだろう。
自分基準で考えるか、世界基準で考えるかは別にして、時間を進める事は出来なくはないらしい。
では、どうやって過去に行けば良いのだろうか?
過去に戻れるなら、やりたい事・やり直したい事はある……はずだ。
「今のは時空間って言葉を分解しただけの話だね。他にもやれる事は多いと思うよ」
「どちらかと言うと補助的要素が強いので、攻撃や防御の魔法でしょうか?」
「うんうん、良いね。どんなものを想像した?」
「何かこの魔法は黒い魔力っぽいので、重力みたいなのを操れないかなって」
「重力かぁ、相手を押しつぶしたり、動けなくさせたりできたら良いね。斥力なら回避にも使えるかな?」
「問題は、どうやって練習するかなんです」
リュージは少し手を止めると、一つの植木鉢を出した。
それは年代物のただの植木鉢のように見えて、小さなバケツくらいの大きさだった。
「それは、植木鉢……ですよね?」
「これは見せた事なかったか。魔力鉢って言って、昔魔法の訓練に使っていたんだよ」
「これでどう訓練するんですか?」
「見せた方が早いかな?」
リュージは地面に腰を下ろすと、魔力鉢を地面に置いて両手で包み込むように触れる。
すると、魔力鉢の中央に魔力の塊が発生した。
リュージの説明によるとこれは無属性で、攻撃魔法に対する防御魔法によく使われると言っていた。
その魔力の上に今度は右手を置き、果実を絞るように何もない場所から一滴水を零した。
無属性の魔力が、一瞬のうちに水の属性魔力に変化する。
そのままでは状態を保つ事が難しいので、その魔力は海流を作るように回転していった。
それからは蒸発して雲になったり拡散して霧になったり、魔力鉢の小さな世界で変化を起こす。
この魔力鉢は魔力を通しやすく、術者の意思をある程度汲んでくれるようだ。
「今アドバイスすることは難しいけど、何か考えがあるようだったら、これで練習すると良いよ」
「え? こんな凄い物を借りて良いんですか?」
「うん、色々な報酬ってところかな? 夏休みいっぱいまでは貸しておくよ」
「これって誰かに見せても大丈夫ですか?」
「問題はないけど、誰か使って欲しい相手がいるなら自分が見てあげるよ」
こちらの手が止まったからなのか? 見学チームがやってきた。
ガレリアとエントは魔力鉢の存在を知っているからなのか、別段驚いている様子はなかった。
「そうだ、コロナは冒険で魔法を覚えたんだよね」
「はい、リュージさん」
「それって、見せて貰う事は出来る?」
「はい……でも、あれは多分攻撃魔法ですよ」
リュージは収納からテーブルを出すと魔力鉢を置いた。
コロナにはそれに触れながら、魔力を発動する直前まで同じように準備をするようにと告げる。
リュージの指示通りに魔力鉢を両手で持ち、目を瞑り瞑想状態に持っていく。
攻撃魔法と言いながら目を瞑る時点で、この魔法は準備段階で致命的なミスだと分かった。
リュージみたいに魔力は無属性から始まらず、魔力鉢の中で小さな火種が点った。
弱弱しい火種は青白く一定の大きさになり、その炎には熱さも怖さも感じる事がなかった。
「コロナ。最初にしては良い感じだね」
「ありがとうございます。そう言えば、こんなに早く魔法を使う事が出来ませんでした」
「これは上質な杖と似た道具と思えば良いよ」
「上質な杖は、そんな違いが出るんですか……」
「ええ、オスローさんとオルトさんの杖は、魔法使いにとって最上の物でした」
リュージはコロナに、魔力鉢の中にある炎の火力を上げられるか聞いた。
「分かりません」と正直に答えたコロナに、リュージは「燃料をあげてごらん。薪とか炭とか魔力とかをあげるイメージで」とアドバイスをする。またもや目を瞑ったコロナは再び集中すると、火の大きさが一回り大きくなったような気がした。
「これが魔法の修行の仕方だよ。周りに迷惑かかると問題だから、一人ではやらないこと」
「はい、リュージさん」
「じゃあ、今度はその大きくなった火を圧縮してみようか。ギューっと押しつぶすように」
形のない火を押しつぶすのは難しかったようだ。すると今度は回転させながら、魔力はそのままに小さくするようにと指示をする。
徐々に圧縮という感じが掴めたコロナに、今度は一気に解き放つように指示をした。
それは一気に燃え広がり、柳という種類の花火のように魔力鉢の下方に流れていった。
リュージは魔力コントロールが出来れば、射出速度を速くしたり遅くしたり出来ると助言をする。
「魔法って凄いんですね」
「今は誰でも魔法を使える時代だと言われています。オルトさんも体験してみましょう」
「リュージ君、大丈夫かね?」
「えぇ、何事も経験ですので」
リュージの導きにより、オルトからは無属性で豆粒くらいの魔力が発生した。
魔法を射出出来ない者が、『付与魔法』や『身体強化魔法』の可能性があると言っていたが、そういう意味ではオルトにもその可能性が残っていた。ガレリアとエントは驚いていたが、一番驚いたのは勿論本人だった。
「どうかね? オスローが学んだ事を正式に学んでみては?」
「ガレリアさま。俺も親父がたどり着いた場所へ行ってみたいです」
「そうか。では、これからは厳しくするぞ」
オルトは決意をした目をしていた。そして、「忘れてた」と言うと、少し離れた場所にあった袋を持ってくる。
それは試行錯誤をした結果の数種類のサンプルであり、材質・寸法・注意点が書かれた下駄の設計図だった。




