124:顛末2
木曜日はいつも通り学院へ行くと、久しぶりにコロナに会った。
朝の挨拶をして、最近見なかったことを聞くと、どうやらタップ達と冒険に出ていたようだ。
今日の午後にリュージへ報告するので、一緒に来ないかと誘われた。
ここのところ、結構リュージに連れ回されているので、多分一緒に聞くようにと言われるだろう。
「許可が出たら良いよ」と話すと、「本当は今言いたいんだけどね」と微笑んでいた。
今日はコロナと昼食を取ることにした。最近受けた講義で、コロナが興味を引くようなものがあったと話した。
特にエントの講義は特別で、頭が凝り固まることが多い魔法使いには、目から鱗のような話だった。
コロナで言うと火の属性が適正なので、これから魔法の技術を伸ばす為にも、一緒に考えたいと思う。
「そう言えば、コロナって魔法を覚える、覚えないはもう良いの?」
「うん。神聖魔法でも属性魔法でも、女神さまからの贈り物なら、どれも大切だって気付いたんだ」
「そっかぁ。そう思えるようになったって事は、今回魔法で活躍したんだね」
「それはねぇ……、ひみつー」
「おいおい、そこのカップル。少しは周りを見て騒げよ」
「「カップルじゃありません」」
「まあ、仲が良い事はいい事だけどな」
「タップさん、こんにちは」
お盆を持ったタップがやってくる。
そして、別の方に向けて手招きすると、今回コロナと一緒に冒険に出たメンバーがやってきた。
驚いたのはアンジェラも一緒に行っていた事だった。
「食べ終わりましたし、席を外しましょうか?」
「いや、特に問題ないと思うぞ。あ、リュージ。こっちだ」
「タップおかえり。みんなもお疲れさま。報告は応接でいいよね? あ、折角だからアキラ君も参加するといいよ」
「良いんですか?」
「うん、折角だから冒険者として先輩の、タップ先生の武勇伝をみんなで聞こうかと」
「リュージ、茶化すなよ。まあ、あの事件は解決したけどな」
「冒険者ギルドへの報告は、学園と学院側でやっておくし、報酬も取りにいかなくて平気だよ」
リュージは忙しいようで、さっさと行ってしまった。
タップからは最近の王都の様子を聞かれ、グレファスからは剣の稽古をしているか質問されてしまった。
前よりウォルフとすれ違う事が多く、基礎的な訓練は疎かにはしていないけれど、実践から遠ざかっている気がする。
本来は魔法使いなので、自衛の為の剣でも良いのだけれど、人に教える立場上頑張らなければいけなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……という訳だ」
「うーん……」
「どうした? リュージ」
「あ、ごめん。とりあえず、みんなお疲れ様。報酬ははずんでくれるはずだから期待しててね」
ガレリアにリュージ、今回参加したパーティーに自分と、男爵領での傷害事件に関しては解決まで説明された。
ゲッペイは王都まで連行され、タップと国のそこそこの地位の人を連れて、ゲッペイの実家に報告がされた。
ゲッペイの実家からは、匿名で医療費を含めた慰謝料が送られ、示談という形で落ち着いた。
貴族家にとっては幸いな事に、平民の被害者で苦情を言った場合に握りつぶされる事も多いので、双方納得の上の合意だった。
ゲッペイはまだ、参考人として王国側の管理下に置かれている。
『子爵家のクソ爺』を含めて話を聞く必要があり、可能な限りで腕の治療をする予定だった。
今分かっている範囲で、四肢の欠損を直す薬は存在しない。神聖魔法でも、微々たる再生は出来るが薬よりマシといった程度だ。
これには協会の許可を得てから、アンジェラとザクスによる共同実験となる。勿論、ゲッペイに拒否権はなかった。
「リュージは、その宝石を知っているんだな」
「うん……。そう言えば、これ素手で触らなかった?」
「そんなヘマする訳ないだろう。ちゃんと周りにも言い聞かしたに決まっている」
「さすがタップ。冒険者の鏡だね」
リュージの口ぶりは、話を逸らしているようにも見えた。
しかし、タップの真剣な目がそれを許してはくれない。
リュージは諦めるように、この宝石に纏わる話をしてくれた。
それは、約十年以上も前のこと。リュージが関わった事件には、この黒い宝石に纏わるものがあった。
リュージの妻であるレンの兄は、とある魔道具で呪いを受けていた。
その時、その伯爵家で家人による謀反があり、この宝石が絡むことになった。
とある子爵家でもこの宝石が関わった事件があり、【王家の義務】で旅をする王子に立ち塞がった敵も、この宝石が関わっていた。
いずれも協会の影が見え隠れしていて、その後はローランドを中心に、協会内の不正と腐敗を調査して正していった。
ちなみに子爵家当主は現在も失踪中で、家族は全滅し子爵領は男爵領へと各下げされ、今は遠縁の者が管理しているという。
この子爵も熱心な信者で、協会へ多額の寄付をするような者だったらしい。
「それって、まずいんじゃ?」
「ところが、そうでもないんだよね。さて、どうしてでしょう。はい、グレファス」
「俺らみたいな、強い冒険者が増えたから」
「うん、自信は悪くはないよ。過信じゃなければね。はい、シーン」
「動き出すのに、十年以上かかる何かがあったから?」
一通りみんなに意見を出させ、その上で『あくまで仮説』ということでリュージは説明を始めた。
この世界には女神さまをトップとして、その下に四大属性精霊さまがいる。
女神さまを奉る魔法が神聖魔法だが、それを光属性と過程した場合、闇属性魔法は厳密には存在していなかった。
一部には死霊魔法を初め、闇に属する魔法はあるが、系統立てての闇属性はないとされている。
協会の職員を属性に当てはめるとしたら、光の属性がよく似合う。
ただ、協会の暗部には葬儀を司る部門や、助からない者を見守る部署・アンデットと化した者を討伐する部署などがある。
強い光には、強い影が生まれてしまう。多くは定期的に部署を移動することで対応できていたが、いつの間にか闇が膨れがっていた時期だったそうだ。
この宝石には、純度というか光の強さがあるようだ。
瞬時に効果を求める事件もあれば、ルオンの時のように十年を超える計画もあった。
負の感情を蓄積させて、孵化を待つ卵のように、最初は弱い宝石を与えることもあれば、対象の体を心配することなく与える場合もある。そして後者の場合は、大抵拒否反応により死者を量産することになった。
死体が動く場合もあり、本体を切り離して体の一部が化け物になる場合もあるらしい。
今回のゲッペイはまだラッキーな部類で、切り離しに成功した化け物は、大抵本体を真っ先に食らう。
今進んでいる計画が分からない以上、へたに考えるより起こる事件を対処療法的に潰して行く方が良い。
それはマザーからの助言も含まれていた。
『星が動き出し、この世界を光で包む。光がこの世に必要なように、闇もまた存在を赦される』
昔に比べて豊かになった王国。小さな諍いはあっても、大きな争いは少ない。
聖者も動くとお互いが輝きだし、近くの星も照らし始めている。光が強い時期は、闇の動きが鈍くなるようだ。
「この先は国の仕事かな?」
「そうだな、少なくとも大人の仕事だ。冒険者は一個一個の仕事を引きずる必要はないぞ」
「タップさん、それでいいんですか?」
「あぁ、シーン。まあ、ほっといても大人になる年齢だ。今は大人を存分に頼ってくれ」
「では、私も出来る範囲で頑張りましょう」
「ザクスに心配かけない程度にね」
今回のアンジェラはコロナの保護者という立場だった。
火の属性は、攻撃一つを取っても四大属性では最強の部類だ。
実際には四大属性はそれぞれ役目や住み分けがされているので、どれが強い弱いとは一概に言えない。
それでも、火の属性を扱える魔法使いは、何かと優遇されるし出世しやすかった。
今回の報告で、コロナには『聖火』のような魔法が使える事が判明した。
人や物に作用しない、対魔物用の攻撃魔法。それが、どこまでの魔物に効くかは判明されていない。
ただ、この黒い宝石を宿した魔物には有効で、残された魔物部分の腕を焼ききり、消滅させたのはコロナの力だ。
所属としては宮廷魔術師団にはなるが、協会も目をつけることになるだろう。
その時にアンジェラが後ろ盾として、どこまで持つか難しいところだ。
「さてさて、暗い話はここまでにしよう。みんな来週には学園や学院が休みになるけど、夏休みの計画はあるかな?」
「グレファス、あれはもう間に合わないでしょ?」
「あぁ、まだ一年あるし、来年集中的に訓練場所へ通う予定だよ」
「お、もしかして騎士団への予備校みたいな訓練かな?」
リュージが懐かしそうに、「昔、ヴァイスもスイカを持って何箇所か訓練に参加していた」と言っていた。
徐々に学生レベルから実践レベルの訓練をしないといけないらしく、夏場は申し込み制で騎士団の一部が開催している訓練に参加出来るようだ。中には元騎士団でドロップアウトした人や、騎士にはならなかったけど、剣術の腕前が凄い人に教えて貰える教室も存在している。
グレファスに参加出来ない理由を確認したリュージは、「冒険に出る予定」と言ったシーンと一緒に公爵領への訓練に誘った。
「訓練かぁ……。でも、何で公爵領なんですか?」
「それは今言えないけど、レベルが高い事は確かだよ」
「レベルが高いなら行ってみたいな。シーンはどうする?」
「私は少しお金を貯めたいからなぁ……」
「もし、参加してくれるなら護衛として雇うつもり。アキラ君も参加予定だけど、コロナもどうかな?」
「え? 私もいいんですか?」
「うん。まあ、家族の許可は必要だけど、保護者はいっぱいいるからね」
みんなに「考えといて」と言ったリュージだったが、サラとルーシーも誘うつもりだと言ったら、あっさりシーンが同意した。
コロナも参加を前向きに検討するようで、兄の許可を得てから正式に回答するそうだ。
タップとアンジェラはいろいろ忙しくなるそうで、参加を見送るようだ。
「学生の時にしか遊べない事もあるし何事も経験だよ。旅先での手配は、こちらに任せてもらって大丈夫」
「ウォルフも行く予定なので、皆さん宜しくお願いします」
「お、じゃあ一緒に修行をしようぜ」
「グレファス。稽古をつけられないようにね」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「リュージ、ご苦労だった。ヘルツ、引き続き調査を頼んだぞ」
「「はっ」」
「それにしても、あの子爵。何で十年も行方をくらましてたんだか」
「それよりも、あの子爵に宝石を与えた人物も分かっていないからね」
「開戦派の騒ぎが収まったタイミングでか……。多分、ゲッペイとやらは露払いだろうな」
ローランドの私室で、リュージとヘルツが報告をしていた。
今回の冒険者への報酬は、公爵家より支払われることになっている。
そして、この王国で保有している黒い宝石は、全てリュージが保管することになった。
誰が味方で誰が敵かは分からない。
ただ、今回は死者をださなかった冒険者に、最大級の賛辞を贈るべきだとローランドは思った。




