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012:来訪者

 ウォルフとロロンと午前に稽古をしていると、自然とミーシャの時間はあいてしまう。

激しい運動は出来なくても、ダンスのステップの確認やリードを受ける技術は、やる気になれば覚えられるものだった。

家族に負担を強いているのは理解しているし、一緒に暮らす初めての他人はミーシャをもやる気にさせていた。

因みにソルトは産まれた時から、ずっと一緒に暮らしていたので普通に家族である。


「昨日のゲーム楽しかったなぁ」

ソルトとレイシアから礼儀作法と歴史や算術を学び、徐々に洗練されたお嬢様の資質を蓄積させていく。

ポテンシャルは高いのだけれど、手に届くご褒美がないと頑張れない。

今は王都へ行って祖父母に会えるという点と、ソルトと一緒にお留守番はしたくないという思いがあった。


 当初、アーノルド家はもっと街の近くに居を構えていた。

王都から逃げるようにこの地に帰って来た時に、既にウォルフを身篭ったレイシアを多くの人が手助けして守った。

10年は王国へ来るなと言っていたローランドも1年もしないうちに来て、「来るなとは言ったが、俺が来ないとは言ってない」と屁理屈をこねていた。

自領とはいえ街で人ごみに紛れれば、悪意のある者から家族を守るのには何かと手がかかった。


 ミーシャが産まれロロンが産まれ、安心出来る代官と連絡を取っていればこの領は安泰だった。

それは突然にやってきた。子供は病気になりやすい。

よく風邪をひくし、それでも腕白にかけっこしたりもする。

ミーシャはよく咳をするようになって、2歳年下のロロンにも体力で負け疲れやすいように思えた。

女の子の成長は、幼少期なら男の子以上だと言われているというのに。

おしとやかにしているなら、それはそれでありだと思っていた両親の前で突然ミーシャの咳が止まらなくなったのだ。


 急いで協会へ駆け込み、協会付の医師に見てもらうと、心臓に欠陥があると宣告をされてしまった。

この土地が田舎とは言え、街中では人も多くごみごみしている。

ローランドは一念発起し、子供達には可哀想だが山間部に近い土地で暮らすことを決めた。

これは見晴らしが良くて、襲撃に対して行動しやすいという点も考慮に入っていた。


 入れ替わり立ち代り、多くの友人と多くの刺客がこの家を訪れて、歓迎されたり歓迎されなかったりしていた。

ミーシャの事はレイシアとソルトが蝶よ花よと甘やかし、それ以上にスチュアートが甘やかしたのだ。

ウォルフはシスコン気味になり、ロロンがさりげなく見守るという逆転現象が見られたのも面白いところだ。


 両方の祖父母に会うため、必要な勉強を積み重ねていく。

それぞれの貴族教育に便乗するように、みんなで様々な事を学習していくと、スチュアートは一定の成果が出たと判断した。

問題はミーシャの体力面だけだった。


 スチュアートはある日、健康診断の為、医者を自宅に連れて来ると言うと町へ出た。

ソルトとレイシアは王都への旅仕度をしていて、子供達4人は外で剣術の稽古をしていた。

ミーシャは木陰で見学していて、たまにロロンが様子を見に姉の近くへ行っていた。


 型の稽古なら、ある程度ウォルフの相手を務められるようになった。

10歳なら体も出来上がっていないし、やはり才能に努力で勝つには圧倒的な差がありすぎた。

そんな型の稽古を続けていると、見慣れた者には飽きてしまうのだろうか。


 ロロンはガサリといった、茂みに違和感を覚えた。

違和感というよりかは興味だろうか? 時々ここにはウサギがやってくるようだ。

ゆっくり木剣を持つと、みんなが稽古に夢中になっている間にこっそり抜け出していった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「あぁ、何で別行動するかな」

「仕方ないだろZ。こっちは見てるからあっち行って来いよ」

「言っとくけど、あの子は素早いんだぞ。出来ればVに頼みたいんだけどな」

「仕方ないだろ、そこは長男・長女のいる方優先なんだよ」

「わかったよ、んじゃ行ってくる」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ふー、ここまでにしとくか」

「ウォルフ、ロロンもいるんだから、もうちょっと手加減しようよ」

「そんなことしてたら稽古にならないだろ? お爺さまにも見せるんだから」

「そんなもんかなぁ」

「今日はミーシャも大人しくしてるし……ん? ロロンがいない」

「ミーシャ、ロロンはどこに行ったの?」

「え? あれ?」


 ミーシャは先ほどまで近くにいたロロンを探したけど、いつのまにか剣術を熱心に見ていて見失っていた。

3人で大きな声でロロンを呼ぶと、探しに行こうとウォルフが提案してくる。

「ミーシャはここで待ってて、ロロンが戻ってきたら確保しておいて」

「アキラ君、私も探しに行きますわ」

「ミーシャ、折角父さまが王都まで行けるように動いてくれてるのに、また調子を崩したらどうするんだ」

「だって、ロロンは私の可愛い弟ですし」

「俺にとっても弟だよ。ミーシャ待ってるんだ」

「はぁーい」


 少し沈んだ声で返事をすると、木陰でミーシャは待つ事にした。

幸い、最近特に物騒なスパイっぽい人物も一部を除き見なかったウォルフは、自分と二手に分かれてさっさと探そうと提案してきた。ロロンの足ならそう遠くは行けないし、ロロンは年齢よりずっと頭の良い子供だった。

すぐに見つけて、王都へ挨拶にいけるように手伝わないといけない。

ウォルフは普段遊びで行ってはいけない方に、自分はその逆側へ向かう事にした。


「あれ? なーんだ、ウサギじゃなかったのかぁ」

極力忍足で移動していたロロンは、そう遠くへは行っていなかった。

小さく自分を呼ぶ声が聞こえてきたので、自分がいなくなってしまったことがバレてしまったのかもしれない。

これが原因で王都へ行くのがダメになってしまっては、両親がきっと悲しむだろうと思うと急いで戻ることにした。

すると、またガサリという音が聞こえてきた。


 今度は揺れが小動物のそれではないとロロンは思った。

自分を呼ぶ声の方向は分かるし、家まで行けばソルトがいた。

ソルトが戦っている姿を見たことはないけれど、両親はスチュアートと同じくらい強いと言っていた。


 地の利はこちらにあった。

その茂みを避けるように迂回したロロンは、十分距離を取ったところでおもむろに駆け出した。

「ひーとーさーらーいー、助けてー」

Zは一瞬だけ頭を下げると、すぐにもうバレても良いかなと隠れるのを止めてロロンを追うことにした。


「おにーちゃーん、たーすーけーてー」

「待て、ロロン。俺はスチュアートさんを助けに」

「こーろーさーれーるー」


 走り出したロロンは、微妙に子供だけにしか通れない道を通って戻っていく。

もう、このまま放っておいても兄弟の元へ戻れるなら、追う必要はないんじゃないかなとZは思っていた。

ただ、姿を見せた以上、誤解を解かないといけない。

Zはそんな思いで早くロロンを捕まえようと思っていた。


「あーもー、魔法使うからな」

「スーパーイーはー、魔法使いだー」

「だから俺はスパイじゃないって」


 Zは走りながらも周囲を確認し、一粒の種を指で弾くと【いばら姫】と呟いた。

ロロンは何か魔法を使われた事がすぐに分かったけれど、とりあえず回避行動をする為にわざとヘッドスライディングした。

「おい、大丈夫か?」

「スーパーイー、こーわーいー。お兄ちゃん、たーす……」

種から急成長した茨は、その棘の先をロロンに触れると役目を終えたのかすぐに消えた。

ロロンは攻撃魔法を避けられたのだと安心しただろう。実際はただの睡眠を誘発する魔法だった。


「ふー、まあいいか」

「おい、そこの賊。そこから動くな」

「はぁ、次はこっちか。ウォルフ、少し俺の話を聞いてくれないか?」

Zがそう言うと、後ろからVが姿を現していく。


「V、お前までこっち来たらダメだろう」

「Z、仕方がないだろう? こっちが長男なんだから」

「ZだVだ、どうでも良い事だ。すぐにロロンから離れろ、そうすればこの場は見逃してやる」

「ウォルフ、大きくなったな」

「何だお前は。俺達家族の事を調べてどうするつもりだ」


 木剣を構えるウォルフは、まずは正面の戦いが苦手そうな男を目標に据える。

大振りで踏み込むと、Zは大きく避ける。

その隙にロロンのすぐ傍に行くと、ウォルフは足で軽く揺さぶった。


「ウォルフ、ここで稽古をつけてやる時間はないぞ。セルヴィスさんとこ行くんだろ?」

「何故、お前がお爺さまの名前を?」

「だーかーら、俺達はその護衛だって言ってるんだよ。ミーシャを一人にするのは心配だ。戻るぞ」


 ZとVが自己紹介すると、ロロンはZが抱える事にした。

結構な時間が過ぎていた、ミーシャが家に戻ってくれると安心だけど、その望みは薄そうだなとウォルフは思った。


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