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115:あまーい話

「アキラ君、まだぁ?」

「ミーシャ、素が出てるぞ」


 ライマードがコテを二本持ち、ロメロがお玉を持っている。

一つ目のホットプレートに魔力を点し、残り二つはウォルフが点火した。

大分魔力の使い方が分かってきたのか、訓練でも少しずつ体の動かし方に転化出来ていると聞いている。

少しモッタリした緩さのホットケーキミックスが、ホットプレートの上で存在感を示していた。

あまーい香りが、広い空間の端まで埋めるかのように、ワクワク感が周りに伝わっていた。


「ライマードさま、心配ですか?」

「あぁ、初めての調理だ。今まで難しい事はなかったが、ここで失敗はしたくない」

「お兄さまなら、きっと大丈夫です」

「初めてなので、失敗してもいいですよ」

「「えっ?」」


 失敗しても良いという言葉に、初めてホットケーキから目を離した二人。

いくら簡単に調理出来るからといって、多少コゲたりひっくり返した時に崩れたりするものだ。

だからと言って、それが味に影響する訳ではない。

待っているワクワク感や、ひっくり返した時の達成感や消失感など、それも含めてのホットケーキだと思う。


 表面の泡が目立って来たので、そろそろひっくり返す為に、コテで動かせるか確認してもらった。

少しだけ、ホットケーキの端を持ち上げるライマード。こちらを見たので、大きく頷いて見せる。

二本のコテを使い手前にひっくり返す。その動作を教えると、お玉で投入した時から繰り返し行っていた。

ライマードは中央よりやや奥方面にコテを入れ、「ハッ」っと気合を入れてひっくり返した。


「「お見事です」」

「うん、きれいに出来たね」

「アキラ、こっちも準備が出来てるぞ」

「じゃあ、みんな。いっぱい焼こうか」


 最初のホットケーキは練習の為、ホットプレートの中央に一枚だけだった。

ただ、このペースでは人数分を焼くのに、とても時間がかかってしまう。

一つのホットプレートに互い違いに三枚くらい並べると、それぞれが担当するホットケーキを観察した。


「ライマードさま・ロメロさま。もう大丈夫ですよ」

「「わぁぁぁ」」

「では、どちらのお皿に取り分けますか?」

「アキラ……、お父さまとお母さまにも見せたい」


 ロメロがそう言うと、ライマードが頷いた。

それを察したのか、近くにいるマイクロが合図を送ると、保護者達が一斉に集まってきた。

今回はなるべく子供達に任せるため、少しすると保護者達は距離を取ろうとしていた。

マイクロとヘルツは少し心配なのか、こちらと保護者の中間に位置取っている。


「「お父さま、お母さま。私達だけで作りました」」

「よく出来たわね」

「あぁ、ちゃんと見てたぞ」

「「これは二人に食べて欲しいです」」


 事前に打ち合わせをしていたのか、ライマードとロメロは心配そうに両親を見た。

ソアラとチリは、最初に毒見をするべきかと小さく相談していたが、自分はわざと聞いていない振りをしていた。

それが侍女に渡ったとしても、二人を甘やかしてくれる存在に対するお礼と思えば良いかなと思っていたからだ。

リュージがそんな家族の前にやってきて、バターと蜂蜜が入った小瓶を差し出すと、セレーネがバターを塗り、ローランドが蜂蜜をかける。ソアラが一本のナイフと四本のフォークを持ってくると、セレーネが切り分け四人で味わっていた。


「「あまーい」」

「懐かしい味だな」

「ええ、とても美味しいわ」


 懐かしいと言ったローランドに、リュージが「本物は違うでしょう?」と聞くと、「比べ物にならないな」と答えた。

あの頃にはなかった材料や技術は確かにあった。だが、愛情に勝るものはない。

ここでは毒見も必要はなく、熱々のものを食べる事が出来る。そして、これは喜んで貰えるものだと分かった他の子供達も、まずは両親・祖父母に食べて欲しいと、出来上がったホットケーキをもって殺到した。


 そこには学院長やその妻・王や王妃といった肩書きは存在しない。

祖父母達は、素直な愛情をしっかり受け止め、娘や息子達の子供の育て方が間違っていないと確信した。

そして、一緒に作ることで今の立場を忘れ、協力して調理する楽しみを覚えていた。

レイルドとミーアは息を合わせて二人でひっくり返し、ロロンは勢い余ってホットケーキをひし形に変えてしまう。

ソルトやソアラ・チリにも届けられ、騎士達もご相伴に預かった。


「ライマードにロメロ、楽しかったか?」

「「はい!」」

「アキラも優しいばかりじゃないぞ。でも、一緒にいると楽しいことの方が多いな」

「うん、アキラお兄さま達は一緒にいると楽しいよ」

「ミーアも賛成」


「ほら、ライマード・ロメロ。言いたい事があるんでしょ?」

「「お母さま」」

「さて、次回は厳しい厳しい稽古が待っているけど、どうするかな?」

「稽古の講師の件、引き続き頼む」

「ロメロ、もう良いだろう。アキラ、私からもお願いする」


 ライマードとロメロが頭を下げると、ローランドがやってきた。

「我侭な二人だが、面倒をみてやってくれないか? 後、二人とも外では良いが、今後は『先生・君・お兄ちゃん』と敬意を持って言うようにな」

「「はい!」」

「あら、お兄さま。じゃあみんなの呼び方を、『君』と『ちゃん』で統一しましょうか?」

「賛成ですわ、お姉さま」


 こうして、公式の場以外での親戚の呼び名は、『君』と『ちゃん』で統一することになった。

ソアラとチリは、こちらのことを『さん』付けに変更になる。

それぞれの家にゴムボールを一個ずつ渡すと、出所は秘密でとお願いをした。

ホットプレートはそれぞれの保護者に渡され、保護者同伴ではないと使ってはいけないと約束した。

まさか、これほどみんなが欲しがるとは思っていなかったので、自分用のホットプレートは後で貰えるよう約束をする。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 微妙な時間にオヤツとなってしまったので、お昼は少し遅めの軽食を用意してもらうことになった。

その間、リュージが連絡をつけていた衣装さんがやってきて、「是非、利益度外視でやらせて貰えませんか?」と言ってきたようだ。

売る先さえきちんとすれば技術は漏れることはないし、その後の独占契約を結べば回収はできるらしい。

ただ、優先順位としてブルーロ-ズを一番に考えないといけないようだ。


 リュージは、王家を最優先で仕上げて貰えるようにお願いをし、その他は催促なしの納品という形になった。

今日は採寸が出来るらしく、人数分の生地の手配もしないといけないようだ。

衣装さんはグループで来ていて、条件が合致したので数人に分かれて採寸を開始した。


「ねえ、ソルト。リュージさんから見せてもらった浴衣は出来そうよね」

「はい、レイシアさま。設計図もあるようなので、縫うだけなら問題ないかと」


 普通に考えれば、男爵家の納品は一番最後になる。

夏祭りに間に合わせる為にも、レイシアは最終工程を自分達で頑張る決断をした。

裁断された生地の納品と、スチュアート用に裁断されていない生地の注文をした。

すると、セルヴィスの妻も同じようにしたいとお願いをする。


「はい、私共は構いませんが……」

「販売目的じゃないし、完成品と同じ金額は支払いますよ。後々の事も考えて、なるべく対応をお願いします」

「はい、もちろんです。では柄の相談と参りましょうか」


 今は七月の初めだし、祭りは八月の後半だ。

ソルトが出来ると言った以上、不出来な物が仕上がる姿は想像出来ない。

王と王妃はこっそり着るようで、ローランド家族が大々的に着るかどうかが焦点になると思う。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 午後は女性陣を中心に、衣装さんの店で生地選びとなった。

ライマードとロメロは勉強の時間らしく、ミーシャとロロンがレイシアに捕まり、レイルドとミーアもローラに捕まっていた。

生地選びに行くと思っていたセレーネは、約束を覚えていたのか、自分達と一緒に『さくら院』へ向かうことになった。

リュージとウォルフと自分の四人は馬車で向かうと、かなりの見学者が興味深そうに見ていた。


「セレーネさま、メルナールさまがいらっしゃいますよ」

「リュージさん、挨拶に行きましょう」

「二人とも、何か意見とかあったら何でも聞くから教えてね」

「「はい」」


 なかなか会う事が出来ない王家と聖者、しかし誰よりお互いを尊敬しあっていた。

メルナールに挨拶をすると、建物の概観を見て建設の速さを実感する。

間もなく左側のリハビリ施設が終わり、右側の作業場所が一時中止となり、リハビリ施設での作業となる。

順番に作っている間にも、手押し車は爆裂的な勢いで生産に入っている。


 何箇所か作業の邪魔にならないように見学出来るようで、メルナールの案内で回ると見知った顔があった。

手押し車の場所ではオスローが作業しており、リュージが下駄を渡して何か打ち合わせをしていた。

オスローが働き出すのはまだ先で良いが、出向者が多い為頻繁に見に来ているようだ。

今までやっていた作業との違いもあり、現場仕事も積極的に関わっているらしい。


 次に中央の建物を見ることになった。

ここはまだ骨組み状態だけど、中にはトルテと調理班の何人かが見学に来ていた。

その中で先頭に立って、色々検討しているのがブリュレだった。

最後尾で静かに後をついているトルテは、リュージを見つけると挨拶に来た。


「みなさん、こんにちは。GR農場のトルテです」

「お世話になります、トルテさん」

「今日は一度現場を見ようと思いまして、もしかするとリュージさんに会えるかなと」

「いつも農場にいるじゃないですか」

「はい、それをブリュレが、気がつけるかどうか……」


 GR農場の調理班は、時々技術に走る者が出る。

この世界で最先端の調理法に、次から次へと新素材が出てくる。

調理長であるトルテは、貴族が雇っている料理人から王都の料理人まで、身分の差をつけずに教えている。

そんな環境にどっぷり嵌っていれば、一旗上げようと名声を求める者や、自分の実力を見せ付けようと思う者も出てくる。


 ブリュレはその傾向は薄いが、実直ゆえに周りが見えなくなるタイプだった。

仕事のやりやすさ・キャパシティーなどは副次的な事でしかない。

問題は誰がこの施設を使い、どんな物が喜ばれるかだった。

リュージとトルテの会話に、ブリュレ達は念入りに現場の確認をしているのだった。


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