114:初めてのこと
「ソアラさん、チリさん。確認をお願いします」
「「はい」」
みんなが見ている前で、腰に下げている擬装用ポーチからゴムボールを取り出す。
ボールの張りは、ボヨーンというよりかは、バイーンといった感じだ。
一回地面に落として跳ね具合を確認した後、ソアラとチリに安全性の確認をお願いした。
「これをどう使うのですか?」
「これからは遊びです。このボールで少し練習した後、ゲームをします」
練習という言葉に、ロメロの表情に変化が生まれる。
ただ、ここで反論を言う訳にもいかないと思ったのか、ボールに意識を向けることで練習という言葉を忘れるようだった。
次から次へと取り出したボールに、他のメンバーも興味津々である。
遠くにいたはずのマイクロとヘルツもやってきて、ボールの感触を確かめた後ソアラとチリに戻していた。
「練習といっても難しいことはしないよ」
「アキラ、このボールってどうなってるんだ?」
「ウォルフ、そういうのは後で。まずは二人一組になって、ボールを相手に投げてね。出来れば取りやすく、上から投げる時は相手の胸を目掛けて投げて」
近くにいたレイルドに向けて、ゴロでボールを転がす。
レイルドがボールを拾うと、ボールの感触を確かめた後、同じようにボールをゴロで転がしてきた。
すぐに同じように距離を取り、それぞれが二人一組になって同じようにボールを扱い始める。
山なりに下手投げをすると、相手も下手投げで返してくる。
暇そうにしていたマイクロとヘルツにも、一個ボールを渡しておいた。
多少ボールがあっちこっちに行っても、子犬のようにボールを追いかける。
小さい子には多少硬いかなとは思ったけれど、段々と上達していき上手投げでもいけるようになっていた。
投げる相手を変え、ボールをちょっとずつ減らし、最終的にランダムな2チームになった。
その間に騎士にお願いをして、適当な大きさのコートを作ってもらった。
「よーっし。じゃあ、ゲームをしよう」
「アキラお兄ちゃん。ここでカードゲーム?」
「レイルド、それはまた今度ね。今日はドッチボールをしようと思う」
「「「「「ドッチボール?」」」」」
マイクロとヘルツ他、騎士達も説明を聞いてくれる。
今回のプレイヤーは各チーム5名で、外野は騎士が二人ずつに分かれて内野に入れてくれるようだ。
今日は外野から内野への攻撃はなしで、本来はあるもんだよと補足を入れる。
チームを全滅させたら勝ちで、顔面セーフ・きちんと小さい子に配慮すると約束をした。
後は普通のドッチボールのルールを説明し、きちんと理解出来ているか確認をした。
1戦目はランダムに組んだチームだったので、ルールを確認しながら進める事になった。
ウォルフは真っ先にロロンを本気で狙いに行く、ロロンは縦横無尽に避け、その分周りの被弾が増していた。
ライマードにはチリが、ロメロにはソアラが立ちはだかり、ボールをキャッチするというより、壁になることを選んでいた。
「ライマードさま。今回はゲームですが、これは殲滅戦です。今のでチリさんは死んでしまいました」
「アキラ、これはゲームではないのか?」
「ええ、ゲームです。ただ、ゲームからでも学ぶ物もあるのです」
「なるほど。チリ、前に立つのはなしだ。今のは取れるボールだった
「ライマードさま、ですが……」
「ここに危険はない。これは命令だ」
ゲームが止まっている間に、ロメロは兄の事を見ていて、同じ命令をソアラにしていた。
根は素直なのか、ロメロは兄のすることに全幅の信頼を寄せていた。
ソアラとチリが一言二言打ち合わせをすると、ゲームが再開した。
「よーし、じゃあ練習は終わりね」
「お、じゃあこれが今日の最後か」
「「「「ええぇぇ」」」」
「ライマードさま、ロメロさま。では、勝負と参りましょう」
二人ともドッチボールは気に入ったようで、最後という言葉に声は出さなかったが、少しがっかりしたようだった。
そんな二人にチームリーダーになって、交互にチームメンバーを選出してもらった。
ライマードがまずチリを選ぶ、するとロメロがソアラを選ぶ。
その後はロロン・ミーシャ・ウォルフがライマードチームに選ばれ、残りのメンバーがロメロチームに選ばれた。
選ぶ基準が同じような相手なのは、ロメロの気遣いかもしれない。
そして、自分とウォルフが最後なのは、まだ壁を感じているのかもしれないかった。
「ローランドさま、ここまでどうでしょうか?」
「あぁ、リュージ。大分気に入られているな」
「あれでですか? 多分、アキラ君はまだ隠し玉を持ってますよ」
「じゃあ、完全にやられるな。悪い所が出なければいいが……」
マイクロとヘルツの審判でゲームは開始した。
ジャンプボールではウォルフに負ける気がしない。分かっているのか、ウォルフの撤退は早かった。
レイルドが果敢に拾って大将であるライマードに投げる、ライマードは簡単にキャッチしてレイルドを仕留めた。
これが接待かどうかは、レイルドの巧さというか下手さでよくは分からなかった。
ボールがコートに残ったので、ミーアが拾って前面にいるライマードに向かって投げると、チリが立ちふさがりライマードを守って退場となった。
跳ね返ったボールでミーアがミーシャを仕留める。仕返しとばかりにロロンがボールを拾うと、ミーア・ソアラと続けて仕留めた。
ライマード・ウォルフ・ロロンに対し、こちらは自分とロメロだ。
ボールはこちらにあり、まずはまだボールに慣れきっていない、ウォルフの足を狙って全力で撃ち取る。
「頑張れ、ライマード・ロメロ」
「「お父さま……」」
「ロメロさま、勝ちましょう」
「兄さまにか……?」
「先程はああ言いましたが、今回はただのゲームです。ただ、ゲームでも本気を出さないと、面白くはありません」
「それは剣術でもか?」
「それはどうでしょう? やる前からつまらないと言うよりも、とりあえずやってみる勇気もありますよ」
ボールはライマードが持っている。ライマードがロメロの胸目掛けて本気で投げた。
ロメロはそれを練習のように、本気で正面から受け止める。
きちんと受け止めたかに思われたボールだったがファンブルし、胸元から逃げるように零れ落ちようとした。
これは落ちる前に必ず取らないといけない。倒れながらも辛うじて拾うとロメロにボールをパスして、ライマードが前にいるうちに、ロメロはライマードの胸元目掛けて全力で投げた。
ボールが持っている方は勢いをつけて、コートの前方ギリギリで相手を狙う。
ボールを持たない方はコートの後方にへばりついて、ギリギリで避けたり受け止めたりする。
しばらくライマードとロメロの一騎打ちになった。
二人ともお互いのことしか見えていないのか、コートの最前線でロロンと無駄話をしていても気がついていないようだ。
「ロロン、今日はどうだった?」
「アキラ兄さま、楽しかったよ。あのボール欲しいなぁ」
「うん、一個くらいならいいよ。男爵領の中で使うんだよ」
「はーい。あ、そろそろ決まりそう」
やはり年齢差というか、兄は偉大なのかもしれない。
それでも少しずつ前に出て、取ろうとしていたロメロの頑張りに賞賛を送りたかった。
撃ち取られたロメロは、楽しさ半分・悔しさ半分といったところだ。
そして、何故かロロンの前にボールが転がり、ニヤァっと笑ったこの子が悪魔のように思えた。
至近距離で投げるので、思わず身構えたところに、ふんわりボールを投げてキャッチ出来ずに自分も退場となった。
「勝者、ライマードチーム!」
「「「「やったー」」」」
多分、これが正解なんだけど、全力を出したので接待とは少し違うと思う。
その証拠に勝った方も負けた方も楽しそうだった。
「ライマード・ロメロ。随分楽しそうだったな」
「「お父さま、頑張りました」」
「そうね。ウォルフ君とアキラ君となら楽しく出来る?」
「「はい、お母さま」」
昼にはもうちょっと時間がある。ちなみに今日のスケジュール管理をしているのはリュージだった。
「リュージさん、あれやってもいいですか?」
「うん、アキラ君の好きにしたらいいよ」
「じゃあ、少し早いですがお茶にしましょうか」
ソアラとチリがヘルプを呼び、騎士達も協力してここに簡易テーブルセットを用意してもらう。
お茶は少し準備がかかるようで、その間に準備をすることにした。杖を取り出して、ウォーターボールを唱える。
魔法を使える事に驚いている人も、その水で手を洗わせている事に驚いている人もいた。
すぐにタオルが差し出されるのは、やっぱりサポートしてくれる侍女達の質が高いからだ。
材料を取り出すと、道具もこちらで準備をする。
とは言っても、提供のほとんどはリュージ他農場からで、ホットプレートは使用後貰えることになっている。
今日の調理担当は、ライマード・ロメロチームとレイルド・ミーアチームだった。
その事を告げると、ソアラとチリが難色を示した。こんな小さい子に調理をさせるのかと。
多分、王家に調理させるのかと言いたかったのだが、今日の流れを見て言い換えたのだろう。
「アキラ兄さまは、出来ない事をやれとは言わないよ」
「そうよね、ロロン」
「うん、剣術もライマードさまとロメロさまが、出来ると思ったからやったと思う」
「よし、ロメロ。出来ない事は俺がやろう」
「はい、お兄さま」
レイルドとミーアは、初めての事に興味津々だ。
結構な人数がいるので、ミーシャとロロンにも手伝ってもらうことにした。
そして材料を全部出すと、最後にホットケーキミックスを取り出した。
「粉の袋を開けてボウルに静かに入れて、卵一個を割って入れます。牛乳で溶いてモッタリするくらいにします」
「アキラ……。説明簡単すぎないか?」
「だって、そのくらいで出来るんだよ。牛乳入れるところは、ちゃんと見るから大丈夫だよ」
最初にライマードとロメロが、デモンストレーションとして調理を担当する。
これがお手本となる為、二人は緊張していたが、やる事は簡単な事だった。
調理をする時は遊ばない、危険な物を持っている時、危険な場所にいる時もそうだ。
どんな時でもどんな事でも、学ぶ姿勢は忘れてはいけない。
卵を割る時、ソアラとチリが手を出そうとしたけれど、母であるセレーネが止めた。
卵の真ん中に軽くヒビを入れ、別の器に入れて殻が入っていない事・悪くなってない事を確認して、粉が入ったボウルに入れる。
卵を溶きながら牛乳をゆったり入れて、菜箸を使いゆっくり混ぜていった。




