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113:兄と弟

 スチュアート以外の家族で移動すると、挨拶もそこそこに自分達兄弟は騎士団の訓練場所へ通された。

訓練場所は数多くあるが、ここは見学スペースもあり、王家も含めた来賓も見学や訓練に来ることもあった。

今訓練場所にいるのは王家からライマードとロメロ、その護衛兼侍女で双子のソアラとチリだ。

伯爵家からはレイルドとミーアで、残りはウォルフ・ミーシャ・ロロンと自分だった。


 騎士は五名いて、その他にリュージとヘルツがいた。

今の所、保護者は王妃・セレーネ・レイシア・ローラで、騎士とソルトは周囲の警戒をしている。

自分達、義兄弟が合流すると、まずはソアラとチリによるボディーチェックを受けている……途中で、ローランドが見学席に行き、ボディーチェックは必要ないと二人に指示を出した。


「私が王家長子のライマードだ。訓練につき、敬語や礼儀は考えなくて良い」

「ロメロだ。兄さまは優しいからこう言っておられる。くれぐれも敬意だけは忘れないように」

「「訓練では最善の注意を払って指導するように」」


 ハモるような言葉に、「ほぉ」と感心をする。双子なのに、第一印象は北風と太陽だった。

長男ライマードに少し無表情気味なチリが付き添っていて、次男ロメロには少し笑みを浮かべているソアラがついていた。

レイルドとミーアも改めて自己紹介をして、こちらの順番となった。

自分とウォルフは今回教官のような立場で、全てはこちらに任されている。

この時間中は、自分達の言うことを聞くことが約束となり、その約束にはソアラとチリも含まれていた。


「ヘルツ。随分懐かしい光景だな」

「あぁ、マイクロ。あの時のローランドさまも、随分可愛く指示を出していたよな」

「おいおい、二人とも。私はあんなだったか?」

「「ええぇ、そっくりです」」


 王家では、剣術の稽古をするのに専門の教師が存在する。

しかし、それだけでは剣術を嫌いになる場合があるので、今回のように少し上の年齢の『遊び相手』というべき相手を宛がうこともある。ローランドの時はマイクロとヘルツであり、その仲間としてスチュアートが参加していたようだ。

マイクロとヘルツは一時期冒険者となり、その後は騎士として復職したり、別の部署に回されたりしていた。


 前日にウォルフと打ち合わせをしており、最初は準備運動をすることになった。

二人一組でしっかり柔軟体操をすると、まずは走ることにした。

ルールはこの敷地を五周走る事。女性と運動が苦手そうなレイルドは三周を目標とした。


「あまり運動をされていないようなら、全員三周でも良いですよ」

「あ、ロロン。お前は五周な」

「うん、そのくらい大丈夫だよ。でも、あれやるんでしょ?」

「「あれとは?」」


 まずは遊びの要素もいれようと、以前ロロンも交えてやったランニングをすることにした。

この三周ないし五周の間に、ウォルフが半周のハンデで自分が一周のハンデをつけて、鬼として周回遅れにタッチをしていく。

タッチされた人は半周の追加で、二人にタッチされたら一周の追加になる。

追い越したら戻ってのタッチはなしで、走り終わるまでそのルールは続く。勿論、途中で文句を言う事も投げ出す事もなしだ。


 最年少のロロンが五周を走ると言ったので、年長であるライマードと同じ年のロメロも五周を走ることにしたようだ。

レイルドは自分の体力を知っているのか、ミーシャとミーアと同じ三周にしていた。

ルールのあるゲームには審判が必要だろうと、マイクロとヘルツがやってくる。

ソアラとチリは、二人の王子と一緒に走るようだ。


「それじゃあ、始めようか」

「アキラ、本当に俺は半周でいいのか?」

「あ、ちょっと待って。ウォルフ兄さまとアキラ兄さまはちょっと離れて」


 ロロンのお願いに、ウォルフと一緒に少し距離を取った。

そういえば、自分達がいない時に一緒に遊んだって聞いているから、何か作戦会議でもあるのかもしれない。

ウォルフと二人で、こちらも作戦を練る。準備運動なので、本気で頑張って走っている子には極力タッチをしないと決めていた。

無理をしない程度でやる気を出させるのは、偏に指導者のやり方次第だと思う。


「みんな、聞いて欲しい。兄さま達は本気で走ってくるよ」

「ロロン、そんなの当たり前ではないか。私は二歳年が離れてはいるが、それでも周回遅れにはならんだろう」

「そうですね。ライマードさまは日頃から鍛えておられますので」

「うーん、そういうのじゃなくて。……ほら、うちの家は特殊だから」

「そこまで心配するなら、ソアラとチリ。年少の子を守ってくれないか」

「なんと御優しい。でも、私達は王家に仕えております。ローランドさまより危険はないと伺っております」


 何となく察したレイルドとミーアは、三周を頑張れる速度で頑張れば良いと思っている。

まずは半周しかハンデを取っていない、ウォルフを注意するしかなかった。

それぞれ位置につくと、祖父母達が姿を現した。一斉に礼をするが、今日は外野に一切気を使わないようにと言われている。

そのまま続けるように言われたので、マイクロの号令のもとランニングが始まった。


 小学校が走るトラックのような、ラインが引かれた場所を、ロロンがまず全速力を出して走った。

イメージは短距離走と中距離走の中間くらいのスピードで、二人の王子と並走するソアラとチリは驚いていた。

自分は最初そのスピードに合わせて走り、「来るなぁぁぁ」とロロンの叫ぶ声が聞こえた頃、ウォルフも走り始める。


「ロメロ、スピードを上げよう」

「お兄さま、時機にスピードも落ちましょう。無理をしても走りきれなくなるだけです」

「「私達がお守りしますので、走りぬく事を第一にお考えください」」


 ウォルフの半周のハンデは、あっという間に最終組へ追いついた。

レイルドとミーアは双子だからか、同じような走り方をしていて、ミーシャは二人を励ましながら走っていた。

「ミーシャはまだ元気そうだな」

「はい。でも捕まるなら、アキラお兄さまが良いです」

「じゃあ、今回は二人に免じて見逃してやるよ」


 ウォルフが速度のギアを上げると、次はライマードとロメロのところに到達する。

そして、若干余裕のあるソアラとチリが立ちはだかった。

徒手空拳なので、二対一では圧倒的にウォルフが不利だった。

足を止めて立ちはだかるソアラとチリに、ウォルフがスピードで抜かしにかかる。


「「行かせません」」、二人の間を潜り抜けるウォルフは、軽く二人の腕と肩に触れた。

「ソアラとチリ、半周追加。それ以上の妨害行為はしないって約束だよな」

「「くっ……」」

「はぁ、結構距離を稼がれてるなぁ」


 ロロンはレイルドチームと合流すると、スピードを若干緩めた。

その少し前を先行していた自分は、ミーシャの「もう少し走りたいです」の言葉に、頭をポンポンとして半周追加し、ライマードとロメロを追いかけるべく猛ダッシュした。結果、ライマードとロメロは七周し、ソアラとチリも同じ距離を走った。

ロロンは追えば逃げて、避けられたのも合わせて六周した。ミーシャは四周して、レイルドとミーアは三周で終了した。


 ただの準備運動なのに、倒れこんでゼェハァ言っている者もいた。

みんなが復活する間に、木剣を用意しようとしたら、騎士の方々が手伝ってくれた。

今日は実力を測る為、素振り・型・打ち込みと、剣術の基本からおさらいをしていく。

ライマードとロメロ以外、それぞれの理由で復活は早かった。

時間を稼ぐ為なのか、ソアラが自分とウォルフの実力を知りたいと言ってきた。


「えーっと、手加減してね」

「アキラ、それ本気で言ってるの?」

「だって、ここじゃ魔法は使えないんだよ」

「アキラは俺より強いから大丈夫さ」


 やっぱり、ウォルフの誤解は早々に解いておく必要があると思う。

保護者は……、リュージに集まっているので浴衣の話か何かだろう。

ローランドはマイクロとヘルツと仲良く観戦している。後、セルヴィスはなにやら声援を送ってくれているようだ。

ウォルフとの型を交えたデモンストレーションは、二人がそれぞれを仕留める場所に、相打ちの寸止めで終わった。

決着がついた瞬間はシーンとなったが、レイルドの大きな拍手から全員が賞賛してくれた。


 チリが「次は、私がお手合わせを」と申し出たが、今日はあくまで年少組みへの訓練が目的だった。

マイクロに発言権があるのか、指摘をされたチリはすごすごと下がる事になった。

派手なパフォーマンスの割には、地味な訓練が開始する。

剣術に限らず、何かを成し遂げようとする場合には、地道な訓練が必要になる。

そして、誰が教えても、このような訓練がなくなることはなかった。


 ミーシャとミーアが程よい時点で休憩に入る。

レイルドは必死にくらいついているみたいで、年下のロロンが応援をしていた。

ソアラとチリも二人の王子を一生懸命応援している。しかし、地味な訓練の途中で、ロメロが木剣を落とした。


「このような訓練が何になる。今までの講師と変わらないではないか」

「ロメロさま。今日は陛下やローランドさまが見えております」

「ソアラはウォルフとアキラの味方をするのか?」

「ロメロ、言いたい事は分かるぞ。ただ、文句を言うのは、やりきった後だ」

「兄上……」


 初回からハードにやりすぎたのか、ウォルフに目配せをする。

多分、同じように感じたのか、ウォルフが頷いたので、プランを変更することにした。

最初からご機嫌をとり、遊ぶのは簡単だった。ただ、あくまで剣術の強さと身を守る術を教えないといけない。

近衛が駆けつける一秒、相手の気を引く一秒、誰かを助ける一秒が稼げれば、物事の成否の確率は跳ね上がる。


 同じ三兄弟でも、男性が一人だったローランドと比べ、三人とも男性の王子達の方が、王位継承権的にも危険は少ない。

だからと言って、危険に対する備えをしないのは問題だった。

これはローランドが過保護と取るか、従兄弟への愛の鞭と取るかは、ライマードとロメロ次第だ。


「この訓練が先々どう役に立つかは、訓練している人次第です」

「レイルドやミーアには悪いが、二人は体力作りと割り切って頑張って欲しい」

「「うん、分かった」」

「じゃあ、役に立たない事を教えたって認めるんだな」


 若干小さく、子供達にしか届かない声で喋っているだろうロメロの言葉は、きちんとマイクロとヘルツにも届いていた。

そして、きちんとローランドの元に届いているのか、二人はローランドをみながら楽しそうにしていた。

訓練が止まれば、保護者達は『何が起きたのだろう?』とこちらを注目する。

ソアラがロメロをなだめようとすると、遮ってウォルフが言葉を発した。


「途中で投げ出さないって言ったよな。……俺は、家族を守る為に強くなると決めたんだ」

「突然何を?」

「チリ、静かに」

「王家には近衛がつくだろう。時には理不尽と思える指示が来た時、その者に命を預けられるのか?」

「「……当たり前だ」」


 たった少しの我慢も出来ない。それは年齢のせいだとしても、一つの判断を間違えれば命を落とす可能性がある。

この二人は、次世代のトップとナンバー2になる可能性が高い。

喩え全てが正しい事をしていても、事情により飲み込まなければならないこともあった。

そして、剣術の訓練が堅実な積み重ねの上にあるということは、ソアラとチリの実力なら知っていたことだ。


「それでも辞めるというなら、この話はここまでにしようか」

「ウォルフ、ちょっと言いすぎだよ」

「アキラ。ライマードとロメロには、きちんと叱ってくれる相手が必要だよ。それが理解出来るなら、厳しい事も言うけれど楽しい事も教えてあげられる」

「とりあえず、今日の訓練はここまでにしようか。二人とも、最後まで終わった事にするから、続けるか解雇するか教えて欲しい」


 ロメロは決まりの悪い顔をしている。動きで言えば、この兄弟は体を使うのを苦にしていないはずだ。

ライマードはロメロを見る、それは兄として弟を気遣う目だ。

「楽しいこと……」、小さな声でロメロが呟いた。その一言だけで、彼がまだ未練があることが分かった。

まだ時間は余っているので、訓練の終了からレクリエーションの開始となった。


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