112:通信
午後は樽への付与をやろうという事で、農場へ戻ることにした。
戻る途中にタブレットからのお知らせで、電球のようなアイコンが現れたので、確認をすると発注したものが届いたようだ。
最近のおっさんの仕事は速い。やっぱり、お得意さまがいるとやる気が出るんだろう。
昼食を取りリュージと二人でルームの中に入ると、複合機が1台増えていて、またもやため息をもらした。
予定を変更して、リュージの私室に追加分の二台のパソコンを設置することにした。
延長コードや分配器などもあり、設置はリュージ一人でどうにかなるらしい。
その間に少し部屋を片付けることにする。作業場所さえあれば、オルトに見てもらう事も出来るだろう。
まずはタブレットを取り出して、外から部屋割りを変更することにした。
現在の時空間魔法は4レベルで、魔法の素質の分で1レベル相当が上乗せされる。
1レベルにつき1.5畳相当の拡張があり、1部屋増えていく。
つまり5レベル×1.5畳×5部屋で、37.5畳相当の部屋が使えることになる。
6畳の私室を確保して、残りは倉庫に使っていたので、倉庫から8畳相当の部屋を切り離した。
改めてルームと唱え、木工作業場と名付けた部屋へ入っていった。
ルームの空間は、切り離していても同一空間扱いになっている。
収納に入れたものもここに入り、以前はリュージに人が入れる謎について相談したこともある。
時間停止機能がついていて、収納に生物を入れることは出来ない。でも、ルームには人が入ることが出来る。
考えても答えが出る訳ではないので、そういうものだと理解することにしている。
『オスローの杖』の間取りを思い出しながら、召喚魔法を使いながら必要な設備を設置していく。
重量物を動かすには、やはり多くの魔力量を必要とする。
作業スペースに必要そうな作業台や椅子等、足りないものを書き出していき、全ての設置を終えるとリュージの私室に戻った。
今日はガレリアが作業をしており、丁度ブラウンがキーボードの加工が終わったところだった。
既にフォントはインストールが終わっているみたいで、動作確認も終わったようだ。
「アキラ君、おつかれさま。それでちょっと相談なんだけど」
「リュージさん、何でしょうか?」
「もう1台の複合機なんだけど、スチュアートさんのところに置かない?」
「自分は構いませんが、良いんですか?」
オーバーテクノロジーな複合機は、どこに設置しても問題がある。
ただ、リュージが管理しているGR農場と、王子の私室なら秘密が漏れることはない。
たとえ漏れたとしても問題なく、対処出来る力は持っていた。
アーノルド領は、そもそもあまり他領と交流する土地ではないので、設置しても問題ないことには変わりがなかった。
「多分だけど、このコードを使えばFAX機能も使えるようになると思うんだ」
「それは凄いですね。ただ、通信の独り占めってって大丈夫なんですか?」
「まあ、それはスパイが飛び交うこの世界だからね。情報は武器だから、スチュアートさんにも有利になると思うよ」
まずはローランドの所に行って、接続と新しい機能の説明をしないといけないらしい。
ローラからのお願いで、レイルドとミーアが金曜日に来る事も伝えたいようだ。
「一度この場所を記憶して」とリュージが言うと、ガレリアに後をお願いして移動することにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふむ、そういうことか」
「ローランドさま。如何なさいますか?」
「ああ、宜しく頼む」
あっさり許可が出たので、自分にあの魔法をとコードを渡してきた。
リュージが複合機のFAXに短縮登録をする。アーノルド領の設置が終わったら、追加登録をする予定らしい。
農場にゲートを開くと、あちらの機械の設定をして、すぐに戻ってきた。
少しすると、テストとガレリアのサインが書かれたFAXが受信された。
ローランドは、『無事届いた』と書いた物をサインと共に送信した。
「それで、金曜日の件ですが」
「なんだ? リュージも来るのか?」
「ええ、そこでお願いがあります」
「あぁ、それはセレーネに任せているが、大抵の我侭は聞けるぞ」
リュージから子供達の件で提案をしていた。
ローラからの依頼でレイルドとミーアも参加をしたいと告げると、追加で別のお願いもしていた。
ローランドは、「関係者全員に報告しなければ」と笑みをこぼしていた。
それとは別件で、夏祭り用の衣装も作っているので、その説明は現物を持って金曜日に来ると報告をしていた。
早々とローランドに別れを告げると、今度はゲートでアーノルド領へ向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
屋敷に戻ると、スチュアートを探そうとまずは近くの侍女に聞くことにした。
この領も代官が有能なので、スチュアートが公務のため毎日出勤する必要はないらしい。
屋敷の外では稽古をする時間があって、運が良いとスチュアートに稽古をつけて貰えるようだ。
若手の中でも率先して指導をする者がいるので、アーノルド領の剣術は良い具合に回っていた。
リュージと一緒に庭へ行き、みんなが訓練する姿を影から見ていた。
ロロンが年少チームに混ざり、ミーシャは女性チームに混ざり、それぞれ限界を超えるくらいまで汗をかいて頑張っていた。
子供だからとか女性だからとか、ここに参加している者には関係ないらしい。
そろそろ稽古が終わりかける頃、リュージが一秒にも満たない時間殺気を出した。
気がついた者は数名、スチュアートは笑い出すと、「いらっしゃい」とこちらに向かって声をかけた。
「邪魔しちゃって、すみません」
「リュージさんでしたか。アキラ君もおかえり」
「ただいま戻りました」
「スチュアートさん、お時間が取れましたら少しいいですか?」
スチュアートは残りのメンバーに、「整理運動をした後で解散」と言うと、一緒にスチュアートの部屋に行くことになった。
まずは今日来た理由を話したリュージに、スチュアートはレイシアとソルトを呼び出した。
その間、スチュアートの了承を得て、複合機の設置を始める。
そして簡単な説明を終える頃、レイシアとソルトがやってきた。
「みなさん、今回はローランドさまの子供の件、受けていただいてありがとうございます」
「リュージさん、頭を上げてください。うちの子供達を選んでいただいて光栄です」
「兄もセレーネ義姉さんも、喜んでくれるなら良いと思うわ」
金曜日に顔合わせをして、今後どういう感じで進めるか現地での話し合いになるらしい。
当日はローラの家族も来るので、いっそ「アーノルド一家も来ませんか?」というお誘いの話だった。
スチュアートは前回の王都での収穫祭の時、子供達に「高名な魔法使いによって来る事が出来た」と説明していた。
義祖父母と一緒に収穫祭を見学出来たのはとても楽しかったので、ミーシャもロロンもまた行きたいと話していたようだ。
今回はその「高名な魔法使い」としてリュージが名乗りを上げて、木曜日に移動して金曜日に集合してはどうかという打診だった。
今のところ、時間には余裕があったようだが、スチュアート個人としては辞退した。
ただ、引率者が必要ならレイシアとソルトが同席出来るようで、きちんと騙せるならミーシャとロロンを連れて行っても良いそうだ。
「多分、ロロンは気がついていますよ」とスチュアートに報告すると、「あの子が、気がついていない振りをしてるならいいさ」と、随分軽い調子で流していた。
別件で夏祭り用の衣装についても説明があった。
メンバーと極内輪だけでこういう衣装を作っていると説明をすると、レイシアが興味を持ったようだった。
レイシアが持つ衣装は一般的な物が多く、ミーシャが着る物も華美なものは少ない。
ダンスホールに来る生徒達の方が、よっぽど衣装にお金をかけているようだ。
ただ、これにはアーノルド男爵領と服を頼む商会との距離に問題があり、王都で長期滞在をしながら頼むのが普通の為、仕方がないことだった。弾ける時には大いに騒ぐが、元々勤勉実直な土地柄のせいか、あまり洋服にお金をかける事が少ないらしい。
レイシアは美に対してセンスがあり、それは洋服だけに限らず、人の生き生きした姿や農作物を通した生命の素晴らしさに、感銘を受けることが多かった。多くの身内とも言えるメンバーが集まるので、レイシアは是非参加したいと言っていた。
ミーシャとロロンにはスチュアートから説明するらしい。
その後は複合機の説明になった。リュージも三回目なので、慣れたように説明している姿が凄かった。
テストは明日迎えに来た時にするらしく、FAX以外の機能はすぐに使える事を説明した。
「この後はセルヴィスさんの所にも行く予定ですが」
「あぁ、アキラ君。私も一緒に行っていいかな?」
「はい、是非」
スチュアートとリュージと一緒にセルヴィスの所へ行くと、金曜日の説明になった。
セルヴィス夫妻はノリノリで、是非出席したいと言っていた。ただ、今回大人達は少し離れた場所で見学予定だ。
メインは自分とウォルフによる剣術教室で、つかみが弱かったら遊びメインになると思う。
ゲートでスチュアートを送り、リュージの付与魔法教室に参加しながら水曜と木曜を過ごした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「みんな、高名な魔法使いであり、GR農場のトップのリュージさんだよ」
「今日はお願いします」
「うん、みんな忘れ物はないかな? 今日は特別にセルヴィスさんの所へ門を開くよ」
リュージの説明によると、魔法を使っている姿は極力見せないようにしているので、みんなは後ろを向いていて欲しいと言っていた。念の為、ソルトがロロンの目を隠して、レイシアがミーシャの目を隠す。
準備が整ったのを確認すると、リュージの派手な動作のすぐ隣でゲートを唱えた。
今日、スチュアートはいないが、久しぶりの孫との対面にお婆さまは喜んでいた。
やっぱりミーシャやロロンは甘え方を知っているので、特にお婆さまがデレデレらしい。
セルヴィスからは、明日の剣術の訓練について質問があるか聞いてきた。
あまりに高度な事をやっても、小さい子には理解が追いつかないと思う。
その為の自分達だし、専門的な技術についてはウォルフが担当してくれるようだ。
今日はかなり繊細な魔力操作を頑張った。
リュージのOKが出たものはたった3つ。冷蔵と冷凍の中間なのか、かなり冷たい温度で付与となった。
樽への取り付けを担当したリュージは、自分への訓練の為なのか、温度の付与には関与しなかった。
20個もある樽の付与だけど、急ぐ事はないらしい。それでも、出来た物から納品されるようだ。
休憩時間にはクーラーボックスを5個くらい頼み、これも後で魔力付与を予定している。
1個は自分用に確保して良いようで、残りはリュージ買い取りとなった。
GR農場とリュージが個人的に目をかけている冒険者に依頼して、隣国のダンジョンに通ってもらうようだ。
その前に一度、リュージと一緒に現地に確認に行く必要があると言っていた。
久しぶりにブレスにも会ってみたく、リュージは醤油の感想を聞きたいと言っていた。
味噌は国内でもそこそこ流通されているようで、醤油は今一つウケが良くない。
これは今までの味に慣れているからという問題もある。
ミーシャとロロンは、最近剣術を通して体を鍛えているとお婆さまに自慢をしていた。
セルヴィスは孫娘の体が良くなった事を喜び、お婆さまはまだ小さいのにとか、女の子なのにと心配していた。
とりあえず、明日はみんなで楽しむ事を目標にしたいと思う。




