表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/369

107:飴と無恥

 ローランドとセレーネが揃ったので、まずは子供達の教育係りの話になった。

建前は教育係りなんだけど、剣術を教えて遊び相手になってくれという依頼だった。


「アキラ、まずは受けるか受けないか教えてくれないか?」

「はい。家族で相談しましたが、自分もウォルフも大丈夫です」

「ありがとう、アキラ君。迷惑をかけるわね」

「いえいえ、セレーネさま。義父や義母も、昔を懐かしんでいました」


 前回アーノルド一家が帰る間際に、ミーシャとロロンと遊んだのが随分楽しかったようだ。

将来の王候補に媚を売ろうという貴族は多い。子供一人につき侍女が一人はつくので、その侍女への扱いが悪いとか、接し方が気持ち悪いなど、子供の敏感さで生理的に無理な相手が多いのだという。

その点、ミーシャはロロンをよく相手にしていたので、マイペースで二人の子供を引きずり込んだようだ。

一番下の子はまだ小さいので、遊び相手は主に二人になるらしい。


「ただ、ローラさまからの依頼で、ダンスホールに通っています。学院のことを考えると、週に一回のペースになると思いますが」

「セレーネ、それでも良いよな」

「はい、もちろん。でも、アキラ君は最近よく名前を聞くけど大丈夫なの?」

「それについては自分がサポートしますよ。彼は色々面白いですから」


 収納からデジカメを取り出したリュージが、パシャリとシャッターを押す。

当然のように「それは何だ?」と、ローランドから質問が上がった。

リュージは自分の出自を報告しており、同郷として同じような可能性を秘めていると伝えているらしい。

デジカメの中で二人並んで微笑む姿に、セレーネが興味を持ったようだ。


 リュージはもう一台デジカメを取り出すと、ローランドへ献上した。

二人に説明をして、セレーネが使い方を確認していると、リュージからの指示で複合機を取り出すことになった。

この複合機はコピー・スキャナーの機能があり、FAXは電話回線の都合で使えない。

それでも、最近アーノルド家を中心に広がっている、紙による交流にローランドもセレーネも興味を持っていた。

秘密を守れるならこれも献上できると、リュージは試すように真剣な目でローランドを見た。


「そんな目で見なくても分かっている。大体、盗賊ギルドだって王家に隠している事はあるだろう」

「ええ、私達は王国の短剣でありたいと思います。盾(近衛)・剣(騎士)・杖(宮廷魔術師団)・聖杯(協会)は揃っているでしょうから」

「どれも農業王国に似つかわしくないものだな」

「そういう貴方ですから、私達も仕え甲斐があるというものです」


 リュージはさっきガレリア達を写した文章をコピーした。原本と遜色ない品質が、フルカラーでコピーされる。

すると、どんな図柄でもコピーできるか、セレーネが質問をしてきた。

セレーネもレイシアのお手紙グループに属しているようで、きれいな図柄の紙でも好みがあるようだ。

後で試しても良いか、ローランドに確認していた。


 それからは夏祭りの話になった。

王国から許可は出すようで、商業ギルド協賛の出店と、騎士団による警備を予定しているらしい。

今回は収穫祭を予定通り行うようなので、協会への奉納は受け付けるが、神事としては行わないそうだ。

「時期的には八月の後半が良いのでは?」と意見が出ていて、王国としては問題ないようだった。


「では、あれを進めますか?」

「あぁ、今回は前回の反省を含めて許可を出そう」

「リュージさん、あれって何ですか?」

「夏祭りならやっぱり、キンキンに冷えたエールを飲みたいよね」


 以前から申請をしていたが、許可が出なかった魔道具作りに今回はOKが出た。

特別な魔力を付与出来るのがリュージしかいなく、あまりに利益が集中しすぎると目をつけられる為、ローランドが止めていたようだ。ただ長期間留守にしている間、国外で名声を上げているリュージの噂は、思った程王国に届いていなかった。

使節団からリュージを排除すると聞いた貴族達は、今までの実績を引き継げば、成功は間違いなしだと思っているだろう。

ほぼ雑談のような感じで進むトップ会談も、次々と不足しているピースが埋まっていく。


 セレーネは小声で、「今度、建設中の施設へ一緒に行きましょう」と言ってきた。

ダンスホールはローラが中心で関わっているし、男爵家が多く通っているので、なかなか行ける施設ではなかったようだ。

今回の施設をセレーネが援助するということは、王家の援助であり公爵家の援助でもあった。

週末に子供達との顔合わせが出来ればとセレーネが言い、その後にでも見学に行こうという話になった。


 ローランドとリュージの話は、精霊さまに対する感謝の施設の話になった。

これは自分発案という事になっているようで、女神さまを奉る協会はこの件についてもノータッチだった。

女神さまの意思を具現化するとも言われている精霊さまは、直接奉る対象にはないのが一般的で、全てを含めて女神さまへ感謝するのが通常である。


 現在、豊作が続いているこの王国は、政治的にも経済的にも良い状態を保っていた。

ポライト男爵とリュージによる使節団も、周辺国家への支援が認められ良好な関係を保っていた。

通常なら軍備の増強や各地のインフラ整備など、景気が良い時に一気に推し進める傾向がある。

ところが農業王国だけあって、『豊作な時にこそ、女神さまに多くの感謝を捧げるべきだ』という考えもあった。


 王国と宮廷魔術師団が共同声明という形で、武官・文官・貴族へ通達すると、あっさりするほど認められる事になった。

そして、今回関係者が集められることになったようだ。王子の手足として働いているクレストという人がやってきて、会議メンバーが集まったと報告に来た。リュージと一緒に退席しようと申し出ると、今日は二人とも関係者として来るようにと言われてしまった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「今回の会議は、クレストが進めるように」

「はっ。まずは、本日の会議の出席者を報告させて頂きます」


 大会議室に移動をすると王子とセレーネが並んで座り、自分とリュージは末席に座った。

今回の関係者は、宮廷魔術師団からメフィーとワァダ。侯爵家当主・伯爵家(軍閥/開戦派)・子爵家(開戦派)・男爵家(開戦派)・男爵家(中立派)で、伯爵家以下は当主か次期当主と代官が1名ずつ揃って参加していた。

会議の記録は文官が、さりげなく大学ノートにボールペンで書いている。


 事前に誰が来てどんな立場かと聞いており、名前が分からなくても座る場所で分かると言っていた。

リュージの紹介の時に少し場に緊張感が生まれ、自分の紹介で誰だコイツという空気を感じていた。

その後すぐにローランドが、「今回の発案者だから参加して貰った」と言うと、それ以上口を開く者はいなかった。


「今回、皆様に集まって頂いたのは新しい施設の件です。これは当初王都に作る予定でしたが、諸々の理由でその案は中止となりました」

「ふむ、クレスト君。ちょっと良いかな?」

「はっ、侯爵殿」

「もうちょっとざっくばらんに進めてみないか? 皆が困惑している」


 侯爵が一時的に進行を引き継いだ。この件に関しては高位貴族家には十分に説明がされており、明らかに開戦派が多く集められているが、その誤解をまず解くべきと婉曲に説明をする。

まずは精霊さまに対する感謝の施設とは、何をするかから話す必要があった。

侯爵はGR農場を引き合いに出し、現在の豊作及び経済の上向きは、あの農場の特異性にあると説明した。


 豊作とは精霊さまに愛されるという事。特に新種の野菜や果物などが多いと言うことは、土や水の良さを第一に掲げる者が多い。

植物の精霊さまと言えばエルフとの結びつきが強く、火(陽)に関しては戦いを連想させるからだ。

一箇所に精霊さまの恵みを独占させるのは得策ではないと話し合いがあり、王都からほど良い距離の貴族領で、精霊さまに感謝の意を示しつつ、国の恵みに繋がる施設を作ろうという話になったようだ。


 ある一部の者は、GR農場が土・水・植物の三つの恵みを受けている事を理解している。

その中でも特出するのは『精霊の園』であり、植物の精霊の加護によるところが大きかった。

そこで侯爵がクレストに進行を戻した。


 現在、協会と一部の商会で進めている建設中の施設では、GR農場も協力体制を取ることを約束している。

主に風呂か温泉の建設で、食材の提供から調理人の派遣まで考えているようだ。

これが上手く行ったら、その流れで温泉地の建設を考えているようだ。

まだ構想段階なので、プールになるかもしれないし、砂風呂になるかもわからない。

今の段階では、水の精霊さまが喜ぶような施設を考えていた。


「全ての土地で同じ事は出来ない。皆にも通達したと思うが、リュージによる使節団は廃止し、新たな使節団を作る予定だから、これが最後の事業になると思って欲しい」

「しばらく本業に集中しますので、ご理解の程お願い致します」

ローランドの説明に続き、リュージが謝罪をすると、列席したメンバーは表情を変えはしない。

今回集められたメンバーの領地で共通するのは『交通の拠点』であり、何もしなくてもそこそこ儲かる土地だったからだ。


クレストから出された条件はこんな感じだった。

○王都から自領までの街道の整備及び治安維持

○貴族と庶民向けの施設用土地の確保

○商業ギルド及び関連団体の受け入れ

○不当な値上げをしない


 十年以上、GR農場を含むガレリア資金が関わっている施設に外れはない。

そして、今回は主に土地の提供と治安維持がメインになり、成功が約束されたような事業に皆が興味を示していた。

まずクレストが条件で不明な点がないか確認すると、辞退者がいないか確認をした。


「ローランドさま、今回うちは綿事業を進めておりますので辞退致します」

「そうか、そちらも期待している。頼んだぞ」

「はっ、恐れながら我が領以外からも協力を募りたいと思うのですが……」

「今この場で言うという事は、この中で目ぼしい者がいるのだな」


 侯爵が中立派の男爵家へ打診をすると、男爵は感動しながら「是非、微力ながら……」と協力を申し出た。

その男爵家は当主が即決した為、今回の事業には手を上げる事はなかった。

通常なら上位の家が手を上げたら、下の方には仕事が回ってこない。

今回は残った三家が、家格は関係なく競う形で勝負をすることになった。

勝敗が決するのは夏祭りの後。隣領と協力体制を取っても良いが、事業が成功するように協力して欲しいと締められた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「くっ、あはは。奴等の顔を見たか?」

「ローランドさま、悪い顔をしていますよ」

「案を出したリュージに言われたくはないな。侯爵も芝居が上手かったぞ」

「私は正直に現状をお話したまでです。これであの三家は、良くも悪くも忙しくなりますね」

「あぁ、どちらにせよ領内の治安は良くなるだろう。真の黒幕は出て来ないだろうがな」


 文官とセレーネは既に退出していて、貴族家と代官達は熱意を秘めながら帰って行った。

ローランドによると、開戦派の代官はいずれも凡人だが、最低限の管理は出来ていると評していた。

雇い主である貴族は戦闘狂だし、農業王国で農業を中心に生活している者が多い土地では、やれる事も少なかっただろう。

トップ会談に侯爵まで加わって、いかに愚かな事に力を使っているのか話していると、それでもこの事業を成功に導けるかどうかは半信半疑だとローランドは零した。有り余るパワーが、変な方向に行かないのを祈るばかりだ。

何故この話を自分も聞いているんだろうと思いつつ、この後もまだリュージと行動するので帰る訳にもいかなかった。


 貴族家を派閥で言うならば、公爵・侯爵とその他近くの伯爵家が中心になる。

今回はセレーネが公爵家側で監視し、侯爵家当主が仕事を譲った形になる。

開戦派は実績が発揮し辛いので、武力による隣国の併合を望んでいる。

今の武力と体力なら、それも出来なくはないので、ローランドも困っていた。


 実際に少し離れた国では、武力により大小様々な国々が併合したり分裂したりしている。

しかし、この王国では近々に動く必要はなかった。

女神さまに愛される・精霊さまに愛される土地とは、同じ信仰の同士により守られるという事と同意であるからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ