105:ランクアップ
長期間の旅から帰ったということで、大きなパーティーは週末にすることになった。
食事が終わり家族でお茶を楽しんでいると、ミーシャとロロンから旅の話をせがまれた。
「こら。ミーシャもロロンも、その話は後にしなさい」
「「はーい」」
「うん。じゃあ二人は、しばらくは領内で大人しくすること。後、少しお説教があるんだけど……」
「お父さま、私達は先に部屋に戻ります。ロロン、いくわよ」
「はーい。ウォルフ兄さま・アキラ兄さま、おやすみなさい」
スチュアートが上手く二人を部屋に誘導したので、ここには下の二人を除いた家族とソルトしかいない。
まず大人三人から無事帰宅した事を労われ、リュージとの話が何だったのか聞かれた。
スチュアート達と別れてからの話なので、王家の子供達に『剣術の訓練や、遊び相手をして欲しい』という依頼があったと話した。
これはゲートの魔法が使える自分だからの依頼で、ウォルフと一緒にお兄ちゃんとして指導して欲しいということだった。
「王子の子供も、もうそういう年齢になったんだね」
「お兄さまは随分過保護のようね。セレーネの方がしっかりしているわ」
「でも、あの時代はマイクロさんにヘルツさんだったから。王子の方が騎士団の訓練所に通っていたと聞いたよ」
「それで、お兄さまばかり城を抜け出して遊んでたのよ。そういえば、スチュアートも一緒だったんじゃ?」
「うん、そういう時もあったね」
思いの外自由な王家で、リュージが王都に来た時も抜け駆けして、一人で会おうとしたとかレイシアから苦情の嵐だった。
二人とも昔を懐かしんでいたので、「ウォルフは興味ある?」と聞いてみた。
ちなみにこれもアルバイト扱いらしく、信用ある者にお願いしたいので、お金の過多に限らず受けて欲しいと言っていた。
ウォルフは下の子の面倒見も良いので、「アキラが行くなら一緒に行くよ」と言ってくれた。
「二人とも、秘密を極力守ってくれるなら問題ないよ。ただ、きちんとやるべき事はやること」
「「はい」」
「特にウォルフは、これから忙しくなるからね」
「え? そうなんですか?」
「ああ、まずは君の希望を叶える為、引き続き試練を出すよ。二人の冒険者のランクは?」
「自分はEです」
「俺はFです」
「最低限、Dランクにならないと許可は出せないからね」
ウォルフは収穫祭まで忙しくなるので、それに備えてスチュアートの仕事を手伝いながら、ランクを上げる為に依頼をいっぱい受けて消化することを条件とされた。本来のEやFランクは、薬草などの採取や荷物持ちなどをメインとしており、街の何でも屋みたいな依頼も積極的に消化しないといけない。
ところが、ゴブリン退治や害獣駆除など、本来は上のランクの実績ばかり作ってしまった。
明日は領内の冒険者ギルドに行って、査定をしてもらうように言われた。
それとは別に、ナーゲル男爵家とリッセル子爵家から、この家宛に共通の使者がやってきようだ。
王都で三人が聞いた内容が報告され、二家の先代が亡くなって代替わりをしたので、今度収穫祭の時に挨拶に来るようだった。
二家共、領内の統治の為忙しくなるようで、ナーゲル男爵家は代替わりの挨拶で王都に行っているらしい。
遠まわしに「しばらく来ないように」と言われたようなので、アーノルド家としては収穫祭まで動かない事にしたのだ。
「アキラ君、学院はこれから夏休みに入るんだよね?」
「はい、後少し出たら休みになると思います」
「ミーシャとロロンが寂しがっているようだから、少し家にいる時間を増やして貰えないかな?」
「リュージさんは忙しそうでしたけど、こちらにはあまり回ってこないと思うので、多分大丈夫です」
大体のお願いが終わると、お土産の話になった。
あちらの世界のお土産も喜んだけど、旅の間の特産品や名産品を広げたらみんな喜んでくれた。
あの時の食事は美味しかったとか、これはひどかったとか、ウォルフと二人で盛り上がって話すと、価格や価値の有無は置いといてとても喜んでくれた。義祖母さまに同じように届けた時も、同じような優しい目をしていたように思う。
スチュアートとレイシアに、それぞれダンボール箱であちらの世界のお土産を渡した。
リュージ経由で、レターセットなどを配ってもらうようにお願いをしたとレイシアに話すと、「返事が楽しみね」とワクワクしていた。
次回ダンスホールに行く時に、また手紙を届けて欲しいとも言われている。
その時にサンプルの化粧品の感想を教えてくれるそうだ。
初めておっさんから送られた化粧品をレイシアに見せた時、「何でこんなに小さくて少ないの?」と言われたのだ。
サンプルによる営業の概念を説明すると、無料だから量を少なくしていて、感想等を営業に言ってあげると喜ぶと伝えたら、丁寧にメーカーのロゴと商品名を絵にして感想を書き始めたのだった。
そんなサンプルをレイシアは身内に配っていた。その結果がそろそろ出る時期だろうと言っていた。
また、レイシアは最近絵に凝っているらしい。
この世界でも紙はなくはないらしいが、一般的に使われるのは羊皮紙が多い。
何故か大小様々な黒板は普及しているので、書くということには抵抗はないが、文字を残すという事は一般家庭には難しい。
その点、おっさんに頼んだ文具類や自由帳・らくがき帳・スケッチブックをはじめ、紙製品をふんだんに使えるので、主に子供達用の勉強道具として使われるようになっていた。
スチュアートから「今日はゆっくり休むように」と言われ、明日からは稽古を再開すると言っていた。
ウォルフと自分の旅の成果が楽しみだと言うと、今日は早めの就寝となった。
翌日は宣言の通り、早朝から剣の稽古が始まった。何故かミーシャまでいて、ウォームアップの体操も参加している。
いざ剣の稽古になると、ミーシャの相手はソルトが担当していた。王家に連なる者は狙われやすいので、近衛が守りきれない場合も一撃だけは回避出来る手段があればと、レイシアとソルトが相談して決めたとスチュアートが言っていた。
今日はウォームアップだからか、そんなに激しい稽古はなかった。
ウォルフの相手をスチュアートが担当し、自分は約束通りロロンと一緒に稽古をしていた。
年齢の割に、本格的に勝とうと考える姿勢は見習う点がかなりある。
でも、地力を上げる為なのか、今日は小細工なしにアーノルドらしい戦い方をロロンは魅せていた。
「よし、今日の訓練はここまで。ミーシャとロロンはこの後お勉強だ」
「「はーい」」
「ウォルフとアキラ君は冒険者ギルドに行き、その後は自由行動だよ。ウォルフは明日から仕事を手伝うように」
「「はい」」
「あぁ後、ウォルフは今後領内の稽古で、家族以外とは組んではダメだよ。少し戦い方に癖が出てきているから、相手を怪我させちゃまずいしね。ソルトとラトリまでなら良いけど」
「父さま、それは直した方が良いですか?」
「今は思うように頑張りなさい。もしかしたら僕より、化けるかもしれないからね」
スチュアートの褒め言葉ともとれる発言に、ウォルフは少し微妙な顔をしていた。
目指す剣術はやはりスチュアートのようで、さっきの稽古でも本人に違和感があったと聞いていた。
ただ、スチュアートは事前に聞いていて良かったと言っていて、ウォルフの変化に喜んでいるようだった。
濡れたタオルで汗を拭うと、朝食を取りウォルフと二人で冒険者ギルドへ向かった。
お披露目をしたのでギルドに自分達の事が知れ渡っていて、ギルド長までやってきて困ってしまった。
主に受付の人に今日来た理由を話すと、査定が終わるまで応接室で待つように言われてしまう。
「今日、俺達は冒険者として来たんだ。特別扱いはしないで欲しいんだけど」
「まあ、そう堅苦しく考えるな。これから忙しくなるから、とりあえず今日はお客さんとして部屋に入っとけ」
「どうする? アキラ」
「うーん、ここ見られていても邪魔そうだし行こうか」
今日だけと断りを入れて応接室に入った。
査定は思いの外時間がかからず、スチュアートからの話をギルド長に話すと、ランクの話になった。
「まずはすぐに済むアキラ君の話といこう」、ギルド長からの話ではDランクの認定は即決だった。
元々、ウォルフが領内で義父の仕事を手伝っている頃、地道に依頼を受けて消化していた。
EランクとFランクの差は、上位ランカーから見れば然程変わりはないが、それでも冒険者としての心構えという点では違うらしい。
今回の旅でのゴブリン退治に害獣駆除、王都での依頼による隣国のダンジョンへの参加、王都のダンジョンは見学というポジションなのでポイントがついているかは微妙だった。
協会への奉仕活動も何故かついているようで、魔法が使える事と戦闘がある一定レベルに達している事から、Dランク相当という結果になった。本来は試験があり、それに合格すればDランクとなるようだけど、騎士団に所属しているアンルートをデュエルで倒したので免除となったようだ。早速カードを渡して、Dランクへの更新を進める事になった。
「問題はこっちか。ウォルフ君」
「はい、何か問題でも?」
「結論を言うと、君はまだFランクだね」
ギルド長だけあって、ウォルフの強さは把握しているようだ。
ウォルフも自分と共に行動した部分があるので、ポイントは同じようについているはずだった。
ところが下積みがないまま、『戦闘特化型』の冒険者となってしまった。一般的に荒くれ者がこのパターンに陥りやすく、依頼者とのトラブルになりやすい為、誰でもなれる冒険者だが信用信頼という面ではランクを上げないようにしているらしい。
ポイント自体は残っているようなので、きちんとしたFランクらしい依頼を受けて完遂すれば、すぐにランクの再評価をしてくれるようだ。ここで問題なのは、自分が手伝うとランク差によりウォルフのポイントになり難いという点だった。
「さて、このような結果になったけど、二人ともどうするかな?」
「アキラ、俺はまず薬草を集めることから始めるよ」
「ウォルフ、一人で大丈夫?」
「アキラにもやれたんだから、俺一人でもやるさ。困ったら同じようなランクの人を探してみる」
ウォルフの模範的回答に、ギルド長は喜んでいた。
カードを持ってきてくれた受付に、ウォルフは早速薬草採取の依頼を申し込んでいた。
他にも細々した依頼はあるし、ウォルフならすぐに追いついてくると思う。
ギルドでウォルフと別れると、残りの時間は屋敷で過ごすことにした。
翌日からは、何時も通りの生活を取り戻す事になる。
午前に稽古をしてから、ミーシャとロロンの勉強に付き合う。時間が出来たなら魔法の訓練をして、午後は学院へ向かった。
サリアルとワァダに「またお世話になります」と告げると、夏休みの日程と宿題を言い渡され、この世界でも宿題があるのかと少しげんなりした。
週末にはウォルフとダンスホールへアルバイトに行くと、今日は多くの関係者が待っていた。
ローラとアデリアとレンに手紙の配達をすると、「レイシアに宜しくね」と返事の手紙を預かる。
それとは別に、大量な手紙を自分に渡してきた。
どうやらサンプルが一通り確認出来たようで、感想と欲しい量が書いてあった。
レイルドとミーアも段々ダンスホールの顔になっていて、「今度、伯爵家に遊びに来て欲しい」と言っていた。
ローラも是非来て欲しいと言うので、ウォルフと計画して行くことになった。
夜には屋敷でちょっと豪華な食事をとり、ミーシャとロロンのリクエストにより旅の話で大いに盛り上がった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「コロナさん、本当に良いの?」
「はい、アンジェラ先生。ワァダ先生からも許可をもらっています」
「お兄さんには……。まあ、良いでしょう。それならば私が付き添います」
公爵家からの依頼は、リュージを経て学院へ打診が来ていた。
上層部で相談した結果、該当者がいない為、最近燻っているコロナに白羽の矢が刺さった。
学園の特待生であるグレファスとシーンが護衛をすれば、コロナの安全も確保が出来る。
そして、アンジェラの申し出により癒し手の確保まで出来た。
更に監督官としてタップが参加することになったので、今回の男爵領の事件はこの五人で当たることになった。




