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104:戦利品

「さてと、それでアキラ君。そのタブレットで何か変わった所あった?」

「あ、今見てみます」

さっさと帰ったおっさんのアドバイスをリュージから聞くと、まずは変更点を確認する。

ぱっと見、アイコンがいくつか増えていた。そして、ヘルプの場所が点滅している。

そこに意識を集中すると、メッセージが表示された。


『このメッセージを見ているという事は、変化に気がついたようだな。言っておくが現実世界の俺が全ての情報を知っている訳ではないぞ。俺の知識とこのタブレットのAIが、混ざって説明しているにすぎない。まあ、お前にとっては、どっちも変わらないだろうけどな』


「へぇぇ」

「アキラ君、何か面白いことでもあった?」

「さっきのシュージさんは、魔法的AIのようです」

「人工知能か……。でも、彼が何かを集めて、送ってくれることには変わらないんだろ?」

「そうですね」


 説明には続きがあって、その時必要だと思ったときに、アイコンがアクティブ化されるようだ。

グレーで表示されているアイコンは、『家庭の医学』『メイク講座』『マッサージ』等で、拡張子がAIになっている。

それから魔法やスキルを確認したら、いくつか増えていた。多分、傭兵崩れを縛った時のロープワークとか、義祖父に稽古をつけてもらった時の危険感知など、あの時かと分かりやすい所が上がったみたいだった。


 魔法は時空間魔法のレベルが4に上がったようだ。

覚えた魔法は『ホール』と『レコード』で、日本語にすると穴と記録だと思う。

水属性魔法はレベル2になっていて、水系の魔法3つに氷系魔法1つを覚えていた。

神聖魔法はグレーの反転で、『メディカルサーチ』が表示されていた。

これは覚えている途中なのか、それとも条件が足りないのだと思う。

ここまでの情報を報告すると、リュージは考え込んだ。


「ねえ、アキラ君。時空間魔法はあまり詳しくないから、後で教えて欲しいな」

「はい、大丈夫です」

「それで、気になったのはメディカルサーチなんだ」

「これはまだ使えないようですが、やっぱりソバット先生に聞いた方が良いと思うんです」

「もし覚える気なら、紹介状を書こうか?」


 手押し車の件で、ソバット診療所と協会には、後で顔を出す必要があった。

あれから長期間旅に出ていたので、関わった以上最後まで見届ける必要があると思う。

リュージは魔法使いの先輩として、「魔法使いとして、手数は増やしたほうが良いよ」と言っていた。


 一般的に神聖魔法には回復系と聖光系があり、片方が使えると片方は使えないようだ。

リュージは聖光系の神聖魔法が使え、主に浄化や闇の魔物に対して効果を上げている。

そして、属性魔法による回復手段がある者は、神聖魔法で回復系を覚える事はないようだ。

逆もまた然りのようで、自分は回復系の神聖魔法が使えるので、属性由来の回復魔法は使えないそうだ。


「そうですね……。今度ソバットさんに会うので、時間があったら手伝ってみます」

「その時には是非誘って欲しいな。どんな魔法か結構興味があるし」

「はい、少し落ち着いたら行くので、その前に連絡します」

「あぁ、そうか。そういえば、ローランドさまからも、お願いが来てたんだ」

「自分に関わる事ですか?」

「うん……。まだダンスホールも行ってるんだよね」

「はい、段々慣れてきたと思います」

「ローラの子供の、レイルドとミーアも懐いているようだしなぁ」


 言い辛そうにしているので、「何でも手伝いますよ」と言うと、どうやらローランドの息子達の教育係りを探しているようだ。

勉強に関しては専門の者がいるのだが、剣術などは少し年上で身分の上下を気にしない者が良いらしい。

出来ればウォルフと一緒に、「週に一回くらい遊んであげて貰えないか?」と言われた。

ちなみにローランドは、マイクロやヘルツに色々な遊びを教えて貰ったようだ。


「何か忙しいですね。普通、異世界に行ったらチートで敵を殲滅して、ハーレムって感じだと思うんですが……」

「アキラ君はそうなりたいの?」

「いえ、体が11歳だからか、好意を寄せられても困ってしまうと言うか……」

「その割には女性を救ってばかりだね。一応聞くけど、ノーマルだよね?」

「はい、その辺は断言出来ます」


「リュージさんは、レンさん一人だけですよね?」

「うちは学生時代寮生活で、いきなり同棲みたいなもんだったからね」

「そこではハーレムでした?」

「いや、今と変わらず忙しかったよ」


 異世界に行ったらマヨネーズとプリンを作って、ハーレムでチート無双ってリュージにイメージを伝えたら、「ありもので再現出来る物が少なかったんだよ」と苦笑されてしまった。

そして「『~インフェルノ』とか『メテオ~』とかいう魔法が使えたとして、アキラ君は使いたい?」と質問されると、戦争もなく平和なこの王国で使える場所はないなと思った。多分、危険な魔物がいる場所なども存在すると思うけど、今知っている危険な場所は隣国のダンジョンで、そんな場所でメテオなど使えるはずもないと思う。


「地道に生活するしかないんですね」

「そうだね。アキラ君はまだ若いから、今を楽しむくらいで丁度いいと思うよ」

「ありがとうございます。ああ、そうだ。旅の間に荷物が貯まっているから、一緒に見に行きませんか?」

「あの部屋だね。興味あるから行くよ」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ルームの魔法を唱えると、二人してドアを潜った。

色々試行錯誤した結果、今の部屋割りは6畳の部屋と倉庫だけだった。

そして今回入ったのはその倉庫の部屋で、結構大きめなダンボールが点在していた。

ある箱には化粧品と書いてあり、ある箱には文具類と書いてあった。


「これは、引越しの後って感じだね」

「荷解きが大変そうなんで、少し持って行きますか?」

「いいのかい? とは言っても、何があるかは……。アキラ君、選んでくれないかな?」

「では、義母から頼まれていた、この辺からかな?」


 レイシアからは二通りのお願いがあった。

一つはおっさんがサンプルとして混ぜてきた化粧品関係で、関連して美容やファッション関係のものだった。

これは聞いた話によると、義姉のセレーネ・妹のローラ・レン・アデリア等にも配ったらしい。

その事をリュージに伝えたが、長期間留守にしてたので、レンの変化に気がつかなかったそうだ。

妻の変化に気がつかないと家庭不和の元なので、気に留めるようだ。


 もう一つは文通の為の文房具一式だった。キレイな便箋やレターセットなどが大量に入っていた。

色とりどりのペンやクレパス、糊やハサミにコピー用紙からスケッチブックなど、毎回楽しみにしているようだった。

特に便箋やレターセットも同じメンバーに配っているようで、ダンスホールへ行く時は配達をよく頼まれていた。

リュージに適当に配って貰えるようにお願いすると、快く引き受けてもらった。


 その後は分担して確認したところ、リュージが食料品を探し当てていた。

適当にお願いしたものだから、何が入っているかはいまいち確認出来ていない。

今手元にある箱には、業務用のパスタやマカロニと、缶詰が何種類か入っていた。

ファルファッレとか言われてもよく分からないし、普通はスパゲティーを茹でて、ミートソースをドバーっとかけるくらいだ。


 リュージは箱を開けて固まっていた。

震えているようにも見える、会いたくて会いたくて、仕方ないものでも入っていたのだろうか?

「あ、アキラ君」

「リュージさん、何ですか?」

「この二箱買い取る事出来ないかな? そうだ、さっきの残金使ってもいいから」

「え……。どんなに使っても数百万余りますよ。何が入っていたんですか?」


 リュージの近くへ行くと、カレールーの詰め合わせが入っていた。

何種類かのメーカーで辛さも何種類かあり、それがダンボールにびっしり詰まっていた。

そして、もう一つのダンボール箱は袋麺だった。

北海道の地名がついたものとか、夜鳴きの銘柄とか、シンプルなお湯をかけるだけのものもあった。


「まだまだあると思うので持っていっていいですよ。でも、トルテさんやギレンさんが美味しい料理作れるのに、インスタントって必要なんですか?」

「アキラ君は分かってないなぁ。たまに、ジャンクなものを食べたくなる時はない?」

「それは……、食べるものがない時に作ったりはしますが……」


「こっちにはホットケーキミックスもあるね。こういうのを市場に流したら大変なことになるな」

「義父にも言われています。広めるつもりはありませんので」

「うんうん、それがいいよ。今度定期的にお願いしたいものがあるかもしれないけど、お願いしてもいいかな?」

「はい、大丈夫です」


 田舎というか漁師町に住んでいたので、どちらかと言うと今の生活では魚が欲しくなる。

GR農場に行かなければ米は出ないし、この世界は全体的に洋風な食事が普通だった。

アーノルド家でもセルヴィス家でも、きちんと食事は出してもらっている。

それ自体が贅沢なので、今はインスタント食品の必要性はなかった。


「ふと思ったんですが……」

「何か気がついた事でも?」

「多分、この空間って収納に似ていると思うんですよね。マジックバックもルームも時空間魔法だし」

「アキラ君の収納は、時間停止がついていたよね」

「はい、温かい物はずっと仕舞っていても温かいままでした」

「ふむ……」


 リュージとアキラの収納は、両方とも高性能で収納スペースは広く、時間停止までついてある優れものだ。

そして、その収納の中には生物を入れる事は出来ない。

ところが、同じ空間のように感じた自分は、ルームという魔法でこの場所に存在する事が出来る。

一度トイレに行った事もあるということは、自分の中で時間は進んでいるということだった。


「アキラ君の収納は魔法で、自分のは精霊さま達からの贈り物なんだけど、多分理屈は同じだと思うんだ」

「そうなると、このルーム自体が特殊なんでしょうか?」

「推測の域を出ないけど、物の時間は止まるっていう前提は問題ないと思う」

「そうなると、物とは何かになりますね」


「うん。例えば、生物を絞めて熟成させるとして。死んだ地点で物なのか、熟成が進み全ての菌が……って、大抵倒して死んだ生物は仕舞えるね」

「自分とリュージさんの時間は進んでいると思います」

「うん、それも正しいと思う。じゃあ、仮死状態とか気になるな……」

「そういう状況にならないように、その場で治せたら良いですね」

「そうだね。あ、随分長いこと引き止めちゃったな。早く戻って家族に『ただいま』って言わないとね」


 リュージも帰宅したばかりなのに、仕事の話ばかりしている。

また落ち着いたら農場に会いに来てと言われ、王家の遊び相手の件は、よく家族と話し合って欲しいと言われた。

最初は剣の相手とか言っていたのに、いつの間にか遊び相手に変わっていた。

二人で元の部屋に出ると、しばらく残金はそのままにしておいてと言われた。まだまだ欲しいものはあるようだった。


 スチュアートが帰宅する頃、仕事の手伝いを終えたウォルフと一緒に、懐かしい屋敷へ三人で帰った。

ロロンがウォルフに抱きつくと、ミーシャが淑女らしい姿勢で、「おかえりなさい、お兄さま・アキラ君」と言ってくれた。

たった数ヶ月会えなかっただけで、ミーシャも貴族の子女らしい振る舞いをするようになったなと思った。

「あぁ、何であと少し我慢できないかなぁ」、ウォルフがポツリと零す。

訂正、駆け寄ってきたミーシャに抱きつかれた。


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