表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/369

103:バージョンアップ

「ヴァイス。公爵さまからの依頼なら、そこそこの名声は必要だよね」

「あぁ。だからと言って、一男爵領の傷害事件だからな。ここが難しくさせてるんだよ」

「久しぶりに四人で出るって事も考えたけど……」

「リュージ、それって俺とレンも含まれてる?」

「ザクスは、アンジェラと離れるのはきついか」


 ほぼ全員貴族のような地位の、豪華メンバーで出るというリュージの案は、ガレリアの忠告によりあっさり却下された。

王国では法衣男爵クラスの扱いである博士は、ある意味十把一絡げな男爵より上位にあった。

レンやザクスに何かあったら、ミレイユに掛かる負担は大きいだろう。

結局、学院に通うグループから募るか、GR農場が支援する冒険者からお願いをすることにしたようだ。

そこに何人か、サポートメンバーをつければ大丈夫という話になった。


「リュージさん、こちらからは何時もの依頼とお願いです」

「ナディアさん、先に依頼を聞いてもいいかな?」

「はい。商業ギルドを通してなんですが、また夏祭りを開催したいという話なんです」


 通常、この国では収穫祭という名目で、秋祭りを行っている。

ところが、王家のローランドと公爵家のセレーネが結婚する際、収穫祭と重なっては女神さまへの感謝が薄れると、収穫祭を夏祭りと称して前倒しをした。

その時の祭りは色々あったが、噴水が公開された時期でもあり、とても盛り上がっていたと毎年話題に出る程だった。


「うん、その辺はユーシスさんとナディアさんで進めていいよ。トルテさんも協力してくれると思うし、ワインバーの方も要請があったら手伝ってもいいんじゃないかな?」

「はい、お爺ちゃんも乗り気なんです」

「そっか、先代会とはなかなか会わないからなぁ。グレイヴさんは元気?」

「もう、私達より元気で……。それで、お願いなんですが、王都での独立の話なんです」


 毎年祭りに出店していると、一般の人が気軽に食べられるように、きちんとした店を出して欲しいと要望があがる。

ところが、飲食関係の店が初年度に、「うちらの店が一掃されてしまうので、GR農場は王都で飲食店を出して欲しくない」と言われてしまったのだ。もともとリュージは、農場と食品加工としての仕事を考えていたので、飲食店を出す事は考えていなかった。

セルヴィスからの依頼で作ったワインバーは毛色が違うし、そのお願いをされる前の事だったので苦情は出ていなかった。


 ところが十年も経つと、それぞれの立場も変わってくる。

頑なに出店しない幻の店として評価が上がり、飲食店は新しい食材や調理法により経験と自信をつけていた。

そしてGR農場には、貴族家や王家で勤める料理人が修行に来ることがあった。今ではエルフまで調理場で修行をしている。

そんな状況の変化と自信をつけた調理スタッフ、後援者により調理班から飲食店への独立を熱望されていた。


「うーん……。個人的には勧めることは出来ないなぁ。もし本人が本気で独立を考えているんだったら、支援はやぶさかではないし、その時はきちんとお金を返す形にした方がいいね」

「外部からの支援は断った方がいいですか?」

「それは相手によるとしか言えないね。まだ、貴族家に雇われた方がいいと思うけどね」

「そうですね。そういう依頼も多いですが、独立を考えている人は大衆向けにやりたいそうなんです」

「トルテさんは調理方法を公開しているから、今更新しい料理人が上手く行くとは思えないけど……」


 リュージは、どちらにせよ通すべき筋を通さなければいけないと言い、最終的な許可はガレリアにお願いすることにした。

何かと不在にすることが多いリュージは、盗賊ギルドの仕事もしないといけない。

また、若干融通が利かないことを理解しているらしい。

その点ガレリアは多くの相談をされることが多いので、上手く着地点を見出しながらきちんと仕事に繋げていた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「アキラ君、申し訳ない。旅に出ると、どうしても情報が不足してね」

「リュージさん、大忙しですね」

「それでも、今は自分が動かなくて済んでいるからね」

「そうなんですか? それにしては、さっきから宿題をいっぱい貰っているようですけど」


 場所を移動して、リュージの私室で話をすることになった。

旅の間も気にかけてくれたようで、タップから手押し車の話を聞いて、色々力になって欲しいと言われたのだ。

リュージの見立てでは、ウォルフは何かの大きなきっかけがない限り、魔法には目覚めないタイプだったそうだ。

この世界の人は魔法の素質がある。それが表に出るかどうかは運次第のようだけど、少なくとも可能性という点では0ではない。


 それでも属性の判明からきっかけ作りを短期間で行った事から、リュージは瞑想という魔法に目を付けようだ。

サリアルが開発した着火の魔法は、火を作り出す魔法ではなく、魔力の発生元に干渉して魔道具を使えるようにする魔法だ。

これは繊細な魔力操作を必要として、火をつける感覚を覚えさせるという難しさがある。

ところが自分の瞑想の魔法は、魔法使いが魔法を覚える前提の技術を、強制的に体験させるというものだ。

魔法使いの階段があるとするならば、その階段を本人に上らせることになる。


 それからは新しい魔法や時計の事、何か思い出した事はないか質問をされた。

ソバット診療所で体験した、メディカルサーチについてリュージに報告すると、知らない魔法だと言っていた。

この世界は医学や医療は進んでいない。その分ポーションや魔法があるので問題はないと思うけど、前世の一般的な医学知識や薬があるならば、少しはこの世界に役立てるのではないかと思った。


「そういえばアキラ君、色々購入出来ているようだね」

「リュージさんも、何か必要なものがあれば、用意出来ると思いますよ」

「お金ならあるからね。うーん、インターネットがあれば情報は良いと思うけど、パソコン関係一式って無理かな?」

「えーっと、やるだけやってみましょうか」


 メモ帳とボールペンを出すと、タブレットを自分の胸の前に水平に固定した。

メモ帳に『パソコン・スキャナー・プリンター・交換用カートリッジ他、必要そうなもの』と書くとリュージに見せた。

「これでいいですか?」

「うーん、アキラ君はパソコン使える?」

「メールとインターネットくらいなら。入力は出来ますよ」

「じゃあ、『×2』っと。表計算ソフトと文章作成ソフトもね」


 リュージから戻されたメモをビリッと破ると、タブレットに落とした。

「金額はどのくらいですかね?」

「とりあえず、このくらいでいいかな?」

リュージが収納から、お金が入っているだろう袋ごとタブレットの上に落とす。

魔力で大体の位置は把握しているようで、タブレットの上に落とされた袋は問題なく入金されたようだ。


 すると、いきなり豆電球のアイコンのようなものが、タブレットから出てきた。

不思議に思ったので、そのアイコンに意識を向けるとタブレットが起き上がり、その向こう側からおっさんがゆっくり歩いてきた。

何時ものごとく、到着と同時にタバコをくわえ、深い息を吐き出す。


『はぁぁ、なあアキラ。最近金遣いが荒くないか?』

「いや、今日は必要なものがあっての入金です」

「ん? アキラ君。誰と喋ってるんだい?」

「リュージさん。前にも説明した、この世界でのサポートをしてくれている人です」


『結構信用している人も出来たんだな。それは良い事だ。でも、騙されるなよ』

「それは分かっています。でも、全てを疑う事は出来ません」

「会話が出来ない相手って厳しいな。魔法的何かってのは分かってるから……。アキラ君、その人に出てきて貰えるか、聞くだけ聞いて貰えないかな?」

「はい。えーっと、シュージさん。リュージさんが話をしたいと言っていますが」


 おっさんの出した回答はノーだった。あくまで自分の為のサポートで、そんな機能はこのタブレットにはないらしい。

『まあ、バージョンアップ出来れば可能かもしれないがな』とおっさんが言うと、ケツポケから手帳を取り出していた。

「何かありましたか?」

『あぁ、一千万あれば可能らしい』

「一千万?」

『いまどき、そんな出来るか分からない機能に……ブフッ。即入金とはどういう相手だ』


 リュージは新しい袋を取り出すと、魔力の波動を追ってその場所に縦方向に落とした。

何故か入金されてしまったので、おっさんはその反応の速さに思わず噴出したようだ。


「アキラ君、これで大丈夫か聞いてみて。お金の事は必要経費で気にしなくていいよ」

「はい。では、入金も確認出来たようですし、どうですか?」

『分かった分かった。俺も何がどうなるか分からないが、色々特典もつくらしいぞ』


 おっさんはそう言うと、先にタバコを消して片付けを始めた。

データなんだから、そこから火事になる訳でもないし、毎回毎回律儀なおっさんだと思う。

画面の左隅から丁寧に掃いていく。次々と掃いていくと、画面はブラックアウトした。

故障かな? と思ったタブレットは、いきなり光に包まれて15インチくらいのディスプレイに変化した。


「タブレットが少し大きくなった」

「へぇぇ、それでどうなったの?」

「それが、画面が真っ暗に……。あ、再起動したようです」

またまた水平になったタブレットは、相変わらずリュージには見えてないようだった。

ところがその画面から、ムニーっとおっさんの上半身が3Dで競りあがってきた。


「初めまして、シュージです。女神さまからの依頼により、こいつをサポートしています」

「こちらこそ初めまして。多分、この世界初の転移者のリュージです。女神さまにはお世話になっております」

「自分にはぞんざいな扱いなのに、リュージさんには丁寧なんですね」

「当たり前だろ。お前は色々ミスってるんだからな」


 記憶のない前世のことを言われても、自分にはどうしようもなかった。

リュージはシュージに色々質問をすると、どうやらこの世界の女神さまは、転生者か転移者にサポートをつけてくれているようだった。リュージには土の精霊さまがサポートをしていて、今では精霊さまに恩返しをしている立場のようだった。

女神さまはリュージに、「自由に生きて欲しい」と言っているようで、新しい人生を魔法や前世の知識を使って楽しんでいるようだ。


「注文は了解した。でも、それを出せるのはアキラだけだが」

「その辺は理解しています。それと、出来ればこの世界用にカスタマイズしたいんだけど」

「あぁ、フォントの問題か。これを挿せば何とかなるはずだ。後は色々カスタマイズしたから、アキラにタブレットをたまには確認するように言ってくれ」

「二人で話が終わったみたい……か。まあ、後でリュージさんに聞いてみるか」


 リュージはおっさんから何か小さい物を貰っていた。

一千万も出したんだから、もっと良さそうなものを渡せば良いのにと思う。

その前の入金も、いくら入れたかは知らないけれど、リュージは結構な金持ちだと思った。

最後におっさんからの伝言をリュージから聞くと、今まで送った物がルームの中に結構たまっているようだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ふぅ、随分太っ腹なパトロンがついているようだな」

おっさんことシュージは、考えるようにタバコの煙を細く吐き出した。

まさか、一億円を二回も振り込んでくるとは思わなかった。ちなみに価値が十倍になるとは言ってはいない。

そして、バージョンアップにお金が掛かるのは仕様なのも本当だ。


 ただ、何段階かに分けてバージョンアップ出来る金額分を、どうせ払えないだろうと提示して諦めさせるのが目的だった。

急激な変化は本人の為にはならないし、この世界に来てそれほど日も経っていない。

多くの人と出会い、徐々にお金を貯めながらこの世界に馴染んでいけばと考えていた。

まあ、先輩がいるなら良い助けになってくれるだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ