102:報告会
「リュージ君、おつかれさま」
「学院長、いつも留守ばかりで申し訳ありません」
「ガレリアさまも、何時も忙しくしているからのぉ」
職員がお茶を持ってきてくれたので、セルヴィスはサリアル・ワァダ・アンジェラを呼んでもらうように頼んだ。
五人はそれぞれ、帰還の挨拶と労いの言葉をかけると、自分とウォルフに道中の様子を聞いてきた。
「何もなくて平和だったなぁ」
「ウォルフ、何もないって結構あったじゃん」
「結構って、最初に四人組の傭兵崩れが襲ってきて、ゴブリンが集落の近くにいるからって討伐して、猪がふもとまで降りてくるって言うから山狩りに同行して……」
「待って待って。ウォルフ、アキラ君。段々巻き込まれる形から、首を突っ込んできてないかい?」
「父さま、無茶はしてないよ。傭兵崩れが襲ってきた時は不可抗力だったし、護衛もつけてもらったから」
セルヴィスとリュージは苦笑いをしていた。
スチュアートも、この世界での旅を楽観視していないし、多少の危険を乗り越える実力はあると送り出した側だ。
しかし、この二人にはまだまだ刺激が足りなかったようだ。
結局、ウォルフが日々の訓練と称して、毎日のようにアキラを剣と魔法の模擬戦に巻き込んでいた。
剣が上手いのも魔法が使えるのも、それはその本人の実力だ。
最初はウォルフに付き合って剣だけで戦っていたアキラも、ウォルフからの希望で魔法を混ぜながら戦うようになった。
魔法と言っても、圧縮していないウォーターボールや、それより少し威力が強いウォーターランスだ。
最近のウォルフは、前まであまり使っていなかった円形の盾をよく使っている。
ウォルフの変化に気がついたのは、この旅の後半だった。
その時は模擬戦で、最初は自分の剣術の訓練も兼ねて物理のみで戦っていた。
ウォルフの剣術はどんどん磨きがかかり、単純な実力では全然敵う気がしない。
偏にレベルかステータスの補正のおかげで、互角の戦いをしていた。
同門の模擬戦では、度々申し合わせのような戦いになる。
数合木剣を重ねると、次のウォルフの木剣がいつもと違う力強さをみせた。
打ち合った木剣が不自然な程の力で弾かれると、ウォルフは間合いを詰めて喉元に剣を突きつけた。
「アキラ、俺を立ててくれてるのかもしれないけど、それじゃあ訓練にならないぞ」
「ウォルフ、そんなつもりはないよ。それより今、何か特別な事をした?」
「特別なことって、魔法か? 俺には使えないぞ」
その後も、ウォルフとの戦いでは突然力が増す事があった。
問題は、何時どのタイミングでその現象があるか分からない事で、ウォルフにもコントロールする事が出来ていなかった。
それからは魔法を交えて戦うと、しばらくの間は自分の優位な状況が続いていた。
そして、つい最近の模擬戦でウォルフに信じられない事が起こった。
ウォルフを足止めする為にウォーターボールを放つと、右手首にあるリストバンドに吸収されたのだ。
そして、ウォルフは次々に放たれた小さいウォーターボールを、あるものは吸収しあるものは弾きだした。
明らかにウォルフの意思で選別していて、ウォーターランスを混ぜると剣で逸らしていた。
通常、圧縮していないウォーターランスやウォーターボールは、剣をぶつけるとバシャっと水に帰ってしまう。
もしかすると剣に魔力を纏わせて、魔法の形を崩さないまま逸らしたのかもしれない。
「ウォルフ君はアキラ君を相手にする時、圧倒的なアドバンテージを得たんだね」
「アキラ、手加減してたんじゃないのか?」
「だから言ってるでしょ、ウォルフには敵わないって」
「二人は良いライバルになると思うよ」
報告が終わると、サリアル・ワァダ・アンジェラがやってきた。
リュージと自分達の帰還の挨拶をすると、三人による約半年分の報告となった。
ワァダの後ろには宮廷魔術師団があるし、アンジェラの後ろには協会がある。
それぞれにしか知りえない、裏話的な内容も話にあがった。
「へぇぇ、あの『聖火台』にそんな機能がねぇ」
「リュージさん。それでですね、やっぱり再現が出来ないようです」
「あれは魔力量だけでなく、バランスやそれを統率出来る実力者が必要なようです」
属性魔法を覚える上で、適正とはかなりのアドバンテージを占める。
現に水属性魔法の適正を見出した者は、農場でのきっかけ作りで全員魔法を覚える事が出来た。
そういう意味では、火属性魔法の適正を持ったウォルフとコロナも、きっかけ作りには成功している。
ウォルフに関して言えば、魔法の作用が何らかの形で具現化しつつあった。
あの時のメンバーと言えば、付与側でガレリア・エント・サリアル・リュージだった。
そして、属性魔法に魔力を吹き込んだのが、フレア・ワァダ・メフィー・リュージで、その魔力を纏め上げたのが中央の宝石を担当したマザーだった。多くの助言者により、システムとしては完成していると言っても良いと思う。
「宮廷魔術師団では、材料を揃えてあります。現在ある『聖火台』は王家の所有物として保管してありますが、これは王家・宮廷魔術師団・協会の共有物という位置付けです」
「なるほど。それで、後何台必要なの?」
「リュージ君、三校分は揃えて貰えると嬉しい。貴族の学園はあまり魔法使いに関わりはないが、それでも等しく学ぶ機会があればな」
セルヴィスからの発言は、卒業した後に入る可能性がある、官僚や宮廷魔術師団にも関わってくる。
そして王国や個人的に支援をしている、貴族家や冒険者ギルドにも益があることだった。
問題を解決するならば、あの時と同じことをすれば良い。
ただ、マザーはラース村に帰ってしまったし、前回の場所で行うには問題があると思った。
結果、この課題は持ち帰りとなり、少し時間が欲しいと言ったリュージに一任されることになった。
それからは、きっかけ作りの話になった。
火の属性について、エルフからの指導はやはり問題があり、手段を確認するのは良いが、学生に教える手段としては相応しくないという結論に至った。善意による事なのでエルフを糾弾することはせず、フレア以外の然るべき指導者が育った場合には、相談に行こうという形になった。
水の属性を含め土の属性も、農場は作物を育てたり加工したりする場なので、精霊さまに請えば教えて貰える状況でも相応しくない場所だと、リュージはワァダに向けて話した。
そういえば、この世界は女神さまを敬う協会の部門があるのに、精霊さまを敬う施設がない事に気がついた。
「あの、リュージさん」
「なんだい? アキラ君」
「何で女神さまを敬う部門や施設があるのに、精霊さまを奉る場所はないんですか?」
この問いに対する答えは、それぞれの精霊さまは自然に寄与しているからだと言っていた。
土の精霊さまは大地に恵みを与える。その場所は一定ではない。
水の精霊さまや風の精霊さまは、一箇所に留まらず流れたり移動したりする。
火の精霊さまは瞬間的火力により、いつの間にか発火し、いつのまにか鎮火する。
つまり、そこに留めようとする事自体が不遜であり、精霊さまに相応しくないと考えられていたようだ。
「あれ? でも、水の精霊さまは、植物の精霊さまを羨ましがっていましたよ」
「実は土の精霊さまもなんだ」
「じゃあ、そういう場所って作れないですか?」
「うーん、こういう話になるなら……。ワァダさん、メフィーさんに相談して貰えませんか?」
「はい、分かりました」
やっぱりこういう話だと、火の属性を持つフレアは蚊帳の外らしい。
その後にアンジェラから、コロナについて話を聞かせてもらった。
やっぱり火の属性について怖いものがあり、『浄化の炎』は神聖魔法にも関わりがありそうなので、正式にアンジェラが後見人として見守ることを決めた。これにより、アンデットに関わる部門が、直々に手を出すことが出来なくなった。
リュージは、フレアに妹がいたのかと関心し、一回会ってみたいと言っていた。
自分とウォルフの魔法の状況は、簡単にサリアルに説明すると、これもリュージ預かりとなった。
少なくともウォルフは、『自分の意思で魔法を発動する』ということは出来ていないはずだ。
自分が使える時空間魔法については謎が多く、徐々に公開出来る範囲で研究はされると思う。
少なくとも魔法の種類として存在し、隣国のダンジョンにあった転送システムはこの技術が使われているからだ。
今度は農場でガレリアと打ち合わせをしたいようなので、リュージはスチュアートの時間を確認した。
まだ職務の途中だったので、スチュアートは用事が済んだので戻ると言うと、ウォルフを連れて帰るようだ。
ゲートを開く前に記憶した、スチュアートの執務室まで二人を送ると、リュージと一緒に農場へ移動した。
GR農場では応接室で、またまた大人数が集まっていた。
責任者としてのガレリア、専門の部門を担当するレンとザクスに、特区の管理者であるヴァイス、それとユーシスとナディアだ。
特に留守中を含め、大部分の運営ではユーシスとナディア夫妻に頑張ってもらっていて、今はそこにブラウニーのブラウンが様々なサポートをしてくれている。リュージと自分が席につくと、まずは帰還の挨拶となった。
「まずはおかえり、リュージ君。それとアキラ君は色々と活躍しているようだね」
「みんな、長い間留守にしてごめんね。しばらくは王都にいれると思う」
「あー、リュージ。それについてだが……」
ヴァイスから、ナーゲル男爵家の騒動についてリュージに確認が入った。
それによると、一部の貴族家が改善活動により、利益の差が生まれている事に難色を示していた。
そして、車椅子によるカエラへの仕打ちが問題視されたようだ。
ナーゲル男爵家の公式コメントとして、代が変わった事により、カエラへの仕打ちはなかった事にされている。
「結論を言うと、リュージが主導する改善活動は終了となった。後は王国主導で、今までのノウハウと人材を使って、進めることになるだろうな」
「リュージ君、お疲れさま」
「ありがとうございます、ガレリアさま」
「これで子供達に、『今度は何時帰ってくるの?』って言われなくて済むな」
悲しい単身赴任者のような言葉に、みんなは大きく笑った。
「それで、早速だが色々な依頼が届いておる」
「はぁ、休めないのですね」
「まずは公爵家からの依頼だ。これはリュージ君にというか、アキラ君が関わることかな?」
話はミレイユとお見合い相手の、公爵の縁者の話だった。二人は順調に距離を近付け、無事婚約となったようだ。
公爵家と男爵家と言えば、貴族家で言えば最上位と最下位であるが、片方は当主で片方は縁者なので一般人だ。
婚前旅行と言うことで、二人は公爵領に旅に出たらしい。ところが、その後すぐに、ミレイユの男爵領で事件が起きたのだ。
女性を狙った通り魔のようで、死者はまだ出ていないらしい。
背後から近付き肩口から背中にかけて、鋭利な何かで切りつけられるという事件が起きているようだ。
領内の衛兵をあざ笑うかのように広範囲で起きていて、冒険者を雇ってもその現場には到着出来なかった。
幅広い情報網を持つ公爵は、ミレイユの為に何か出来ないかと、リュージ不在の為ガレリアに相談したようだ。
「それはこちらに相談されても……。冒険者としてなら行きますが」
「いや、リュージ。お前が動くのはまずいだろう」
「え? ヴァイス何で?」
「杖職人であり法衣男爵であった、オスローさんの話は聞いていないのか?」
「さっき聞いたけど、それが何か問題でもあるの?」
「あぁ、開戦派はきな臭い噂が絶えないんだ。その一つとして、他国と結びつきたい貴族家があるって事だ」
ヴァイスの説明によると、開戦派は軍務の貴族家が多く、最近の豊かさにある種の危機感を覚えているそうだ。
それは平和ボケと取っている貴族家と、争いがなくなったら価値がなくなってしまうと思っている貴族家があるようで、程よい緊張状態が続かないと国が堕落すると思っているようだ。
そして、何故か他国と結びついて、小競り合いを起こそうとしている者さえいるらしい。
最近の豊かさの象徴と言えば、GR農場であり、リュージだ。
ところが他国の情報をピンポイントで押さえている者は少なく、別の見方をすれば豊かな農作物に魔法だった。
杖職人がターゲットにされたのは、こういう理由もあったのかもしれない。
だからヴァイスは、しばらくリュージの外出をしばらく止めようと思っていた。




